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Interview

2020.4.20

「小さな主語」を共有していく Dialogue for People理事 堀潤インタビュー

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2020.4.20

Interview #Sato

2019年10月よりNPOとして活動を発足させたDialogue for People。さまざまな分野で「伝える」活動に取り組む人々が参画しています。それぞれにどのような思いを持って活動しているのか、不定期でインタビューをお届けします。

自身2本目となるドキュメンタリー映画、『わたしは分断を許さない』を公開し、「大きな主語」と「小さな主語」という視点、それによって生じる「分断」について世に問いかけるジャーナリストの堀潤。大手メディアから飛び出し、独自の切り口で報道を続ける理由とは何か。これからのジャーナリズムには何が求められているのか。そしてメディアNPOとしてのDialogue for People(D4P)の可能性などについて語りました。

スーダンの南コルドファン州カドグリで取材中の堀潤。(JVCの職員、今中航さん撮影)

NPO法人のメディアだからできること

-D4Pを立ち上げた理由のひとつに、既存のメディアにはまだまだ足りない部分があるのではないかということが挙げられます。「8bit News」*でも、新たな市民の発信の場を作り出していますが、このようにNPO法人のメディアだからこそできること、というのはどのようなことがあると思いますか?
*堀潤が2012年に設立した、「市民記者が最新情報を投稿するニュース[報道]サイト」

そうですね、やはりニュースメディアを株式会社のような形で、利益をあげながら継続していくということは、そもそも難しいことなのではないかなと思っています。僕はNHKにいたこともあって余計にそういう感覚もあるのかもしれません。例えばネットメディアが出てきた当初というのは、すごく自由で民主的なイメージがありましたが、ふたを開けてみると結局“維持するためにいかに収益をあげるか”ということが問題になってくる。そうすると、扱うテーマや問題に限らず、見出しのつけかたひとつとっても変わっていってしまうんですね。読者に対してある程度議論を“ふっかける”ような形に変質していかざるを得ないというような。僕は元々テレビ業界にいたので、そういった姿勢とは決別したいという思いがあり、それでもう少し商業的ではないニュースの在り方というものを考える中で、フリーランスでやりたいと思うようになりました。だからNPO法人という形で、ご寄付を募りながら“ビジネスとして成り立つかどうか”といったものとは一線を画した形で、現場をきちんと伝えていくということの価値はとても高いと思っています。

本当は既存のメディアでもできることなのかもしれませんが、はっきり言うと「センスが無い」んでしょうね。いや、本当に。たとえばシリアの内戦の様子とか、クルドのみなさんの様子とか、取材者独自の切り口であったりとか、まなざしであったり。取材手そのものが見える打ち出し方。「この人が行くから、こういった現場を見たいんだ」という、ブランディングみたいなものが、既存のメディアの中ではきちんとできていないんですよね。大衆迎合的な在り方で、かつ、ニュースの取材手の姿も見えにくい。しかも中身を見てみたら、わりと通り一辺倒のことしかできていないという。そういうところはやはり「ウデ」の違いなんじゃないかなあと思います。
 

全ての人間に共通する普遍的な価値

-D4Pは、誰もが発信者となれる今という時代に、たとえば中東やアフリカの社会問題を伝えるという活動も行っています。ですがそれはなにも局所的な問題、特殊な問題を伝えたいということではなく“僕らは無自覚のうちにそういった問題の当事者になっているのではないか”という問いを投げかけたいということもあるんですね。NHKという大きな組織から発信をしていた経験もある中で、今はこうしてより自由な立場で情報発信をされているわけですけれども、その立場や時代の変化の中で、「問題の捉え方」や「報道の仕方」という面で、大きく変わったと感じるところはありますか?

(NHKにいた頃と比べると)今はとてもいいですね。若い世代の海外ニュースへの感度がとても高くなっているのを実感します。

実際に数年前にBBCが日本語版サイトを立ち上げるという選択をしたときに、ジム・イーガン氏という、アジア統括の方にインタビューをしたときのことです。「なぜ今日本でBBCなのでしょうか?」と尋ねたんですね。すると、彼らのマーケティングリサーチによると、日本の若い世代の国際ニュースの感度が上がっており、ひとつの市場として日本にきちんと拠点をつくっておきたいと、そういった明確な理由があったんです。

それは僕自身も実感を持っていることです。SNSのタイムラインを見てみてください。SNSのタイムラインは国境を越えています。武漢の映像も入ってくれば、芸能スキャンダルも入ってくる。自分自身のひとつのタイムラインの中では、様々なニュースが“ひとつのもの”として扱われている。若い世代はこういったものに慣れ親しんでいるので、僕の世代みたいに「世界」と「日本」を切り分けて考えることが、それほど無いのではないでしょうか?そもそも「外国」と「日本」って、なぜ切り分ける必要があるんでしたっけ?何が違うんでしょう?同じ人間ですよね?肌や目の色が違う、言語が違う、それってそんなに大きな違いなんでしたっけ?って。そうした人種、宗教、年齢、イデオロギーなど、そうしたものを全部取っ払っても、同じ人間として共有できる普遍的な価値ってあるでしょって。そういった問いかけ、報道をしやすい時代になったとは思うんですよね。

-デジタルネイティブという言葉があるように、ボーダーレスネイティブという感覚を持った世代が出てきているということなんでしょうか。

うん。なので僕もあまり積極的に「海外」とか「国外」とか、「外国」っていう言葉を使わないようになりました。そういう表現を止めて「同じ空の下」とか、そういう言い方でいいんじゃないかなと。

ジャーナリストの安田純平さんと、(シリアでの拘束から解放されて)無事にご帰国されてからお会いしたことがあります。僕の事務所でシリアの現状について色々伺っていたのですが、シリア人ジャーナリストのエルカシュ・ナジーブさんも横にいらっしゃったんですね。そこで彼はこう言うんです。「いや、堀さん、安田さん。そもそも日本の人々は中東のことに関心がないって言うじゃないですか。それでも伝えるんですか?」と。安田純平さんは一呼吸置いて、「おそらく物理的に遠いから、そこで起きていることに関心が薄いということがあるのかもしれないけれど、そういう方は隣近所で起きていることにも関心が薄いんじゃないでしょうか」と答えたんですね。「でもそれを認めてしまうと人間社会って崩壊しますよね」と。

それを聞いて僕は、やっぱりメディア側のアプローチとしては、“外国の問題を伝える”ということではなく、我々に共通する価値、普遍的な価値がいかに損なわれているかとか、それが苦境に立たされているとか、その状況を知りながらも救援にいかないんだとか、そういったことを思ってもらえるような伝え方をしなければならないと思ったんですね。“外国における特異な状況を見せました”というのは、エンタメ消費をするコンテンツをつくるに過ぎないんじゃないかと、特に最近はそう思うようになりました。

日本に暮らす難民の方々の抱える問題を考えるイベントに登壇する堀。

-人類、世界にとって、何か壊してはいけない普遍的な価値を考えるうえで、その一部としてたとえば中東で今起きていることなどがあるわけですね。

だってあたりまえですよね。ご飯が食べられないとか、毎日怖い思いをしているとか、知らない人に急に罵倒されるとか。そんなこと、誰であってもあっちゃいけないことじゃないですか。でも実際それが起きてしまっている。それについて、「いや、日本のことじゃないし関係ないよね」って言ってしまう“あなたの価値観”って、正しいですか?って、やっぱり言い続けなければいけないですよね。

ただ、とは言っても、それぞれが“悪意”を持って情報を排除しているとは思えないんですよね。やっぱりみんな自分たちの持ち場で精一杯というか、毎日の生活、生業、それを維持するので本当に精一杯だと思うんです。だからこそ、こうしてインターネットを媒体として色々情報を発信することで“情報をアーカイブできる”というのは大きなメリットだと思います。既存のメディア、テレビ、ラジオとか、SNSのタイムラインもそうなのですが、刹那的なものなんですよね。その瞬間に出会わなかったら、後からその情報を引き寄せるには、けっこう労力がいるじゃないですか。でも、「ここにアクセスすれば、きちんと取材したものが映像、写真、テキストとしてアーカイブされています」という、そういう環境をつくっていくことがやっぱり大切だと思うんですよね。

本来はね、テレビ局とか素晴らしいアーカイブを持っているので、特に公共放送のものは「無料で開放してください、公共のものなんですから」って感じはするんですけどね。なにかそこが、やっぱりなかなか物足りなかったりするんですけど、まあ、それはそれで置いておいたりしても、やっぱりこういうふうに中々普通ではタッチできない、入り込めない現場に、僕らが知っている仲間が行って、同じような想いを共有しながら、優しい目線で発信するというのは、すごく大切なアプローチだと思いますね。
 

「大きな主語」と「小さな主語」

-映画『わたしは分断を許さない』にも出てくる印象的な言葉に「小さな主語」と「大きな主語」というものがあります。「小さな主語」に目を向けることで、国境線にとらわれない世代、人々が増えていく一方で、逆に「大きな主語」を掲げて強固な壁を築いてしまう、分断を引き起こしてしまう人もいます。そういった人々への情報のアプローチというのは、どのような可能性があるでしょうか?

まずは“知るところ”からですよね。やっぱり色々なことが知らされていないと思いますよ。自分自身のことですら、すべてを語ろうと思ったら大変ですし、家族でさえも、ましてや友人なんて、本当の本当の生活なんて見たことない。「こうに違いない」とか、「こうに決まってるでしょ」とか、そういうイメージ、固定観念で判断していることって僕らが思っている以上に多いと思うんですね。というか、そればっかりだと思います。なので、どれだけ自分で「本当」だと思っているものでも、それも勝手な自分の思い込みかもしれないということを忘れてはいけないと思います。

僕らにできることというのは、これだけ情報の溢れる社会になって、誰もが映像や写真、テキストにアクセスできる時代になったからこそ、実際にひとりひとりの方と対面して、じっくりと向き合って、「本当の本当は?」というのを取材し伝える、それに尽きると思います。そこにいるひとりひとりの「本当の本当」をないがしろにして、「絶対こうに決まってるだろ」とか、「どうせこうなんでしょ?」とか、そういった発信はすごく乱暴なものですし、今だからこそ、そういったことを諦めずに愚直に行っていく必要があると思います。

食べものとかもそうなりましたよね。今までは「便利、早い、安い」、それが凄く価値のあることだと言われていた大量消費の時代というのがありました。効率をいかに上げていくかっていうね。でも段々成熟してきて、色々なことに気づいていくと、“やっぱり時間をかけてでも、労力をかけてでも、〇〇さんがこんなふうに届けてくれる牛乳がいい”とか、そういう形で接したいというニーズが高まっているじゃないですか。だからこれからの時代こそ、手で握ったり、目の前で、手渡しで、一緒に食べませんかといったりするような、そんな報道のアプローチが僕らの主戦場になっていくと思います。それにまだ気づいていない人も少なからずいると思うので、率先してこういうチームで、様々な現場で、「小さな主語」を拾って、共有していくことができたらいいのではないでしょうか。

2019年11月、香港。デモの現場の最前線に、堀は何度も足を運んだ。

-実際に自分の手で触れる、現場に赴くという行為は、苦労も多いかもしれないし、不安もつきまとうかもしれませんが、本質的にはとても楽しいことでもありますよね。そういった“世界の可能性を感じる”という前向きなエネルギーで、戦争などの様々な社会問題を克服していけたらとも思います。

そうですね。僕は元々テレビマンなので、原点には「誰も見たことのない世界を伝える」ということがあるんですね。それが使命だと感じてました。でもいつの間にかテレビというのは、どっかで誰かがやった成功事例をみんなでコピーするというものが増えてしまった。ニュースに関してもそうですよね。本当は「今日のトップニュース」みたいなものが、各局違ってもいいはずなの。気が付いてみれば、各時間、各ニュース番組、同じ話から入っていったりする。

なので、自分の番組ではなるべくそうじゃないように、たとえば、「トルコとシリアの戦争がはじまりました」というのを朝7時からやるとかね。そういうことをやってるんですよ。「新型コロナウイルスで大変な事態が起こっていますが、コンゴでは、エボラ出血熱と、麻疹の流行で、7,500人以上が死んでいます」とか。先進国が関わるニュースはこれだけやるけれど、誰もコンゴの話しないんですねって。そういうことも伝えていったりとか。

-そういった報道って「現地の状況はこうです」というだけでなく、「僕らの社会ってどうなの?」という問いかけでもありますよね。

うん。だからWHOのニュースの使え方ひとつとっても、「みなさん、WHOが今世界でどのような対応をおこなっているかご存知ですか?」とか、そうやって少し目線を変えることで、「え?知らなかった!」って、なると思うんですけど、そういうことをみんなでやっていきたいですね。
 

意見を言えない時代に風穴を

-メディアNPOとしてのD4Pの可能性とはどのようなものだと思いますか?

D4Pの場合は、それぞれ関わっている現場やアプローチの仕方が多様だっていうのが、一番魅力であり強みなんじゃないかなって思いますね。アーティストがいて、ジャーナリストがいて、カメラマンがいて、アカデミズムの方や市民運動の現場にいる人もいて、活動に関わるインターンやボランティアの方々がいて、音楽のライヴも開催したりとか、そういった多様なアプローチ。

“ジャーナリズム”というものを“ジャーナリスト”が囲っていた時代とは早くさよならしたほうがいいと思います。誰にだってジャーナリズムはあるし、誰だって社会問題について一緒に考えてもいいのに、「素人のくせに入ってくるな」とか、僕も市民メディアを立ち上げたときに散々同業者から馬鹿にされました。でも、もうそんな時代じゃないですよと。現場にいるひとりひとりは、一次情報の発信者たちです。家庭の親だって子育ての専門家だし、商社マンだったら国際的な現場の最前線に常にいるし、町工場で働いている方々は日本経済の本当のコア中のコアだったり、派遣社員の方々の働かれている現場は、「働き方改革」の現場の中心地だったりとか。みんな何かしらのニュースの“専門家”なんですよね。なので、そういった様々な枠組みを越えて手を取り合っていくという、そんな時代だと思うんです。D4Pは元からそういった枠にとらわれない座組になっているから、色々なアプローチができる可能性があると思います。

-最後に、監督されたドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』が公開となりましたが、本作にかける意気込みをお願いします。

『わたしは分断を許さない』には、香港からカンボジア、ガザ地区、ヨルダンのシリア難民キャンプ、それに沖縄、福島と、様々な場所が登場します。ベテランの記者さんから、「全然違う地域の問題なのに、なんで一緒にやるんですか?」と聞かれたことがあるのですが、「何が違うんでしょうか?」というのを逆に問いかけていきたい。

「わたしは~」という主語があることで、「堀さんにしては思い切った断定的なタイトルつけましたね」と言われることもありますが、「わたしはこう思います」と言っているだけなんですよね。「わたしは~」という主語を置くだけでセンセーショナルに聞こえる時代って、大丈夫なのでしょうか?意見を言えない時代に、この映画を通して風穴を開けたいなと、そう思います。

堀潤監督のドキュメンタリー、『わたしは分断を許さない』が2020年3月に公開された。

(聞き手:佐藤慧/2020年2月)

緊急追加質問―コロナウイルスの感染が世界的に拡大する中、「分断」というものがよりくっきりと立ち現れているように思いますが、この事態をどう捉えていますか?

あっという間に「分断」があちらこちらで深まっていると感じます。マスクをしている人、していない人。咳をした人、しなかった人。家にいた人、いなかった人。知識がある人、ない人。稼げる人、稼げない人。そういった「あちら側」「こちら側」といったもので、互いに疑心暗鬼になってしまうようなことが、今凄く膨らんでいると思います。

こういった状況の中で、いったい何をすればいいのでしょうか。僕は「不安を口にすること」だと思うんです。「ウイルスに勝とう」とか、「ウイルスに負けるな」とか、「みんなで乗り越えよう」などという、どちらかというとポジティブで、心をひとつに統合していこうというようなスローガンが唱えられがちかもしれません。でも僕は逆に、不安を口に出すことが必要だと思うんですよね。「不安」というものは、ニーズだと思うんです。「こんなことがして欲しい」「こんなことが不安だ、嫌だ」という声を発信すること。その声は必ず誰かが受け取って、「じゃあこういう方法を考えよう」とか、「こういう言葉で乗り越えよう」とか、その先に繋がっていくはずです。そしてまた、そうやって声を受け取ってくれる人がいるのだと知ることで、「繋がり」を実感できるのではないでしょうか。思っていることを押し殺して、前向きな言葉で統合される必要はありません。今こそ、各々が、それぞれの現場から声を上げていけばいいのではないかと思います。

(追加質問|聞き手:佐藤慧/2020年4月)


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2020.4.20

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