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あなたと、わたし 詩:サヘル・ローズ 写真:安田菜津紀 2018年12月15日刊行

刊行の12月15日まで
書籍未掲載の詩を毎日ひとつ公開します。

1

11月18日

終わっていく。

終わりは 始まり
始まりは 終わり
そんな言葉を
くりかえして
ひっくりかえして
ひっくり返して
繰り返す
玉結びの始まり。
どこかで
こんがらがっていく。
思考と空想。
ハサミをいれれば、元にはもどる。
ゼロというスタートラインへ。

スタートはいつでも私の目安。

帰っていく。
ただしこの 帰っていくとはなんだろう?

どこへ
どこに
どちらに
どちらへ
答えのない 出入り口が 今日も光っていた。
真っ暗闇の 非常口として 光る。

最後の通り路。

2

11月19日

かげ。

ね、いま足元をみた? 自分の影をさがしたでしょう。
そうね、影があるから、わたし、生きているから。
ちゃんと影を目標として、下をみている。
でもねちがう、その 影じゃない。
わたしは影を求めたことがない。
というより、出会ってしまったから、
もうひとつの じぶんに。かげ にね。
みんなあるのよ、自分のうちにある かげ。
けど、認めるのが怖い。
あいてに
まわりに
どう おもわれてるのか。
わたし、自分が怖い。
気がついたら かげ をけしていた。
いつからだろう
つねに真っ直ぐで、
寄り道しなくなったのは。

3

11月20日

心がいつもチクチクする。
心ってどこにあるの?
だれも答えてはくれない。

いくつになっても、迷子。

何処かでわたしは、
置き去りにした。

ワタシはわたしを捨てた。

それしか知らない。

遠ざける事でしか、
わたしは逃げ道を知らない。

拾われる事を望んで
わたしは今日も自分を、捨てる。

4

11月21日

祈るのをやめた
いつからか
祈るのを放棄した。

人のためには祈るけど、
自分のために祈ることは、
わたしは荒野に、見捨てた。

5

11月22日

死人はすべてをみている。
わたしが隠し事をしても、
死人には何も通用しない。


死人は人間。


死人は生きている。
どこにも行けずに、
死人は彷徨ってる。
人間が荒らしたこの地で。

わたしは死人になった。

6

11月23日

私が探しているのは わたし
わたしを捜させるのはアナタ

けど無理、私ですら探せなくなった わたし。
あなたは知らない。
わたしが存在していないことを。

朝がくるたびに終わりを 叫び
夜がくるたびに始まりを 喜ぶ

日常ほど非日常に感じるのは私だけ?

皮膚が息をする。
体中の皮膚が視線となる。

わたしが欲しいのは 視線。
みていてほしかっただけ。

いきるわたしを。
腐敗を楽しむわたしを。

7

11月24日

嘘つきという花。

綺麗な花ほど 大きな嘘の塊
大きく香り豊かな四季咲きの花
次から次へと開花させる魅惑の花
いっそ枯れてしまえと毒を盛る。

それでも 止められない
落下した雄しべ
次の嘘がひとり旅へ。

最後までひとりっきりの旅路
交わることのない雄しべと雌しべ


摘まれた遺伝子の花。

8

11月25日

いまは、何も無い。
ありそうなのに、ないの。

蜃気楼のように目の前にはある。
けど手を出して掴もうとすれば煙のように消えてゆく。
そして。
羽が生えたかのように、
飛ぼうっと準備をしている。
飛んだらあとは、
真っ逆さまに
堕ちてゆく。
空が高すぎて。

9

11月26日

親をしらない。

知りたい、わたしの全てを。

けどね、知らない。
ずっと、知らずに育ってきた。
いまは、知りたくない。

夢の中でたまに出会う人。
あれが親なのかと、
毎朝、記憶を絞る。

搾りたての記憶は、
甘くはなくて

毎回、にがい。

10

11月27日

瓦礫の中でみた光。

神々しく感じるけれど、

この光は生きてる光?
それとも死後の光?

怖いよ、ずっと。
ずっと怯えてる。

いま、
わたしがいる世界は
ね、どこなの?

11

11月28日


まぼろし

君は幻以外の何ものでもない
私の思考の中だけにいる

12

11月29日

小さい頃は
世界がキラキラしていた。
大人になってからは
世界はギラギラしている。

なんだか、痛みが多い。

13

11月30日

いま、
泣くことを忘れたアナタへ。

わらわなくていい。
笑いたくない時は、笑う事ない。

泣きたいんだよね?

だからさ、泣いてごらん。

思いっきり


泣いていいから。

14

12月1日

苦しいときは、苦い。
楽しいときは、甘い。

苦しみは尾をひく。
喜びはかくれんぼをよくする。


香水のように
その人の肌に馴染んだ感情は、
香り豊か。

感情という、香ばしい痕跡。

15

12月2日

あたし
憎い人がいるんだ。

憎くて仕方がない
消えて欲しいと思うほど。

けど、鏡をのぞきこんだ。

憎む事を覚えたワタシは、
醜い顔をしていた。

憎しみは皮膚をまとう。

寸法の合わない洋服みたく
わたしが憎しみに着られてしまう。

憎しみを汚すのをすてて
ちゃんと抱きしめたら
愛おしさにかわった。

あたし
愛しい人がいるんだ。

16

12月3日

わたしね、
生と死も愛してる。

どちらも経験したから。

生も死も、兄妹。

わたしの大事な、異母きょうだい。

17

12月4日

秋と春。

秋のような静けさを求めて、
春のような陽気さに憧れた。

秋に話しかけると、
秋は弾けていた。

春にも声をかけてみた、
春は洞窟の中でしゃがんでいた。

春は秋であり。
秋は春だった。

想像と中身が相反する事も、ある。

18

12月5日

そよぐ、
空気がそよぐ。

ふと、そよぐを漢字に変換した。
戦ぐ とでた。

戦いは日常の表現にも
変換される。

いやだ、
そよぐ風は国旗を揺らし、
木々を、稲をゆらす。

平和の風。
そよぐ、どこまでも、
風はそよぐ。

19

12月6日

あの世にも、
この世にも、
何処にも行けず。

徘徊している魂。
生きていた時は感じなかった。

笑える事の意味
泣けた事の意味
愚痴をこぼせた事
喚き散らせたこと
感情の遊園地。

生きていたから、
遊べていた人生。

生きられるから、
遊べる人生。

いま、
あの世を考えてしまうアナタへ

鏡の中で自分の目をみて
自分の温もりを感じて

あの世のわたしは、
この世に帰りたい。

20

12月7日

流れゆく時を太陽に変え
沈みゆく太陽を月に変えた。

欠けていく月を歳月に変え
昇りゆく太陽を生命に変えた。

21

12月8日

空が好き。

空は地球の写し鏡。

笑ったり、
泣いたり、
拗ねたり、
怒ったり、

素直なんですよ、地球は。

案外ね、
私たち以上に素直に生きてる。

22

12月9日

生きる地を求めて私たちは、
今日も立ち尽くす。

目の前の自由は遠くに、輝いていた。
あなたの足下の影は、息をしていた。

求めていた地が、ここ。

誰かの、地球じゃない
みんなの、地球。


ここは みんなの家。

23

12月10日

初めて会ったひと、0点。

相手の欠点をわざわざ探さない
相手の個性を認めてる?


加点式という発想で相手と関わる
そんな習慣を身につけていく。

ね、人を嫌いになるよりも
ほら、人が好きになっていかない?

24

12月11日

人生にそよぐ風のように
心やすらぐ種をまいたら

人生がたくさんの花を咲かせて踊り出した。

様々な色で彩られた詩で
愛を歌ったら

人生にたくさんの果実が実り色付いた。

人生への愛を
純潔な手で育んだら

人生という、蝶が舞い始めた。

25

12月12日

砂糖が舞う。

僕ね、
雪は砂糖なんだと
小さい頃、そう思ってた。

甘くて冷たい思い出。

本当に砂糖が地球上に降り注げば
あの子のほろ苦い悲しみが
甘くて幸せな思い出になるに違いない。

砂糖を降り注ごう。
大好きなあの子へ。

大人の僕は、
大好きなあの子には触れられない。
けれど、
今年の雪もあの子の肩に触れられる。

甘くて冷たい雪。

26

12月13日

お父さんてあったかい。

毎朝微糖の缶コーヒーを飲むお父さん。

わたしがどんなに不機嫌でも
抱きしめてくれる。

なかなか面と向かっては、
云えないけれど

あなたのムスメでよかった。

27

12月14日

この大地
この景色

変わらないでと願い
変わっていく姿に戸惑い

それでも

それでも

愛しい我が子の笑顔が
明日への、希望。

当たり前の光景は、
どこにも、なかった。

どこにもない、答え。

今を、生きる。
今と、生きる。

この子のために
この子とともに。

それが、わたしの答え。

28

12月15日

ね、あなたの見ている雪は何色?

刊行の12月15日まで
書籍未掲載の詩を毎日ひとつ公開します。

あなたと、わたし

あなたと、わたし

2018年12月15日刊行

日本写真企画
単行本(ソフトカバー): 124ページ
定価:本体1,500円+税

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プロフィール

サヘル・ローズ

サヘル・ローズphoto by 427FOTO

1985年イラン生まれ。8歳で来日。日本語を小学校の校長先生から学ぶ。舞台『恭しき娼婦』では主演を務め、映画『西北西』や主演映画『冷たい床』はさまざまな国際映画祭で正式出品され、最優秀主演女優賞にノミネートされるなど映画や舞台、女優としても活動の幅を広げている。第9回若者力大賞を受賞。芸能活動以外にも、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めている。

安田菜津紀

安田菜津紀

1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People所属フォトジャーナリスト。東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事−世界の子どもたちと向き合って−』(日本写真企画)他。上智大学卒。TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。