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それは私が、女の子だから?

風が吹き抜ける度に、木の葉たちのささやきが山々から聞こえてくる。時折、鳥たちのさえずりも響き渡り、気づけば静かに目を閉じ、その優しい歌声に聞き入っていた。初めて訪れたグアテマラの農村は、その場にいるだけで清々しい気持ちにさせてくれる場所だった。

2019年7月、国際NGOプラン・インターナショナルの皆さんにご縁を頂いて、首都から車で3時間ほど離れたバハ・ベラパス県を訪れた。

グアテマラといえばコーヒーを思い浮かべる方が日本では多いのではないだろうか。私が伺った村々でも、山の斜面にコーヒーの瑞々しい畑が見渡す限り広がっていた。農業を中心に、人々は静かな生活を営んでいる。

けれども出会った女の子たちが語ってくれた日常は、必ずしも穏やかなものだけではなかった。

「何のために学校に行くんだ?どうせ彼氏を作って妊娠するだけだ」

父や兄からそんな言葉と共に、学校に行くことを反対された女の子は、一人や二人ではなかった。

中米には「マチスモ」と呼ばれる男性優位の価値観が根強く残っているといわれている。女性には教育は必要ない、と考える男性たちが、とりわけ農村部ではいまだ少なくないという。

父や兄たちの言葉通り、10代前半や半ばでの早すぎる妊娠は、この地域内で度々起きていることではある。けれどもそれは、女性がNOと言えない立場にあったり、きちんと避妊などの知識を得るだけの性教育が行われていなかったりということが背景にあるからだ。

実際、生理についての知識さえなく、「血が出ているのが他の子たちにばれてしまう」という理由で学校をやめてしまう女の子たちさえいるのだ。

「“お前は彼女を作るから学校に行くな”と男性は言われないのにね」と、同行してくれたスタッフさんの一人がもどかしそうに語った。

女性たちの権利についての取り組みや支援は、「女性のための活動」としてとらえられがちだ。けれども共に生きる社会である限り、その活動は決して一方通行のものではないはずだ。現地スタッフさんは私にこんなことを語ってくれた。

「例えば道行く女性に、『君、可愛いね!』『こっちおいでよ!』なんて突然ちょっかいを出したりすることはハラスメントですよね。ところがそういった行為をしない男性は、“男らしくないな”、“なんだお前、女に興味ないのか?”と揶揄されてしまうことがあるんです」

「男らしさ」を社会から求められてきた男性たちもまた、無意識に生きづらい環境を作り出してしまっているのかもしれない。そんながんじがらめの「らしさ」を少しずつ紐解き解決していくことで、男性たちも楽になっていく面があるのではないだろうか。

それは遠く離れたグアテマラに限った問題ではない。ここ日本でも、そんな「らしさ」の押しつけに苦しんでいる人々が、決して少なくないはずだ。

(写真・文 安田菜津紀 / 2021年9月)
※本記事はCOMEMOの記事を一部加筆修正し、転載したものです。


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