7月から皆様にお伝えしてまいりました中東音楽交流事業「ババガヌージュプロジェクト」の2019年の現地での活動が、いよいよ来週に迫りました。「ババガヌージュ(BABAGANOUJ)」は、遡ること2016年、ヨルダンの難民キャンプで避難生活を続けるシリアの人々をSUGIZOさんが訪れた際に発足し、これまでにヨルダン、パレスチナなどで音楽による文化交流を実施してきました。
本プロジェクトは、調整や広報を協力してくれる協力者、クラウドファンディングなどでご寄付をいただいた方を含め、たくさんの方々の支えの中で運営されています。それぞれにどのような思いを持って携わってくださっているのか、シリーズでメッセージをお届けしております。
▶︎第1弾の特定非営利活動法人JIM-NET斉藤亮平さんのメッセージはこちら
▶︎第2弾の認定NPO法人国境なき子どもたちの松永晴子さんのメッセージはこちら
今回は渡航を目前に控えるババガヌージュメンバーのSUGIZOさんにお話を伺いました。インタビュー形式でお送りします。
佐藤:中東音楽交流プロジェクトで、こうしてクラウドファンディングを募るのは初めての試みでしたが、みなさまのサポートのおかげで無事目標金額も達成しました。あとは渡航に向けて細かな準備を進めている段階ですが、実際にクラウドファンディングに挑戦されてみてどのように感じられましたか?
SUGIZOさん(※以下敬称略):結果的には、寄付をしてくれたみなさんから「参加できてうれしい」という声を頂くことがほとんどで、こちらとしても嬉しい限りです。みなさんと一緒にプロジェクトを推進しているという感覚が過去には経験したことのないもので、とても心地良く感じています。これはミュージシャンとして仕事をしている中でも実感していることなのですが、これまでは受け手であったファンの方々との関係性がインタラクティヴになってきています。こうやって「一緒に活動する」という感覚が、とても現代的な気がしますね。
佐藤:これまでも2016年にヨルダン、2018年にパレスチナと、ババガヌージュでの中東音楽交流を行っていますが、それらと比べて今回、こうしてクラウドファンディングという形をとったことで、何かご自身の中で心構えや意識などに変化はありましたか?
SUGIZO:キックオフイベントでもお伝えさせて頂いたのですが、「みんなの気持ちを届けに行く」という思い、使命を強く感じています。今までは正直、ファンの方々とは関係のないところでこの活動を行っていたので、そもそも音楽と結びつけるつもりも、ミュージシャンとして関わるつもりもありませんでした。当時自分の考えていた難民の方々との関わり方とは、全然違った方向に変わってきた。ただそれは、もちろん全然嫌な気持ちではなくて、何も考えてなかっただけになるようになってきていて、「導かれている」という気持ちがあります。今回初めて、ファンのみなさんと一緒に活動しているという実感があるので、それは素敵なことなんじゃないでしょうか。
佐藤:僕自身、こうして多くの方と関わらせて頂くことで、ときに絶望的に思えるような世界の様々な問題にも、希望を感じることができています。SUGIZOさんご自身は、世界のどのような状況に問題を感じ、また同時に、希望を信じることができているのでしょうか?
SUGIZO:ご承知のように今の世の中は一触即発で、非常に危険な状態じゃないですか。思うにその、ほぼ全ての原因というか、根幹にあるのは「恐怖」だと思うんですよね。相手から「攻撃されるんじゃないか」、「襲われるんじゃないか」、「叩かれるんじゃないか」という恐怖。「自分の存在を脅かされるんじゃないか」という恐怖。結局そういった「恐怖」ゆえに、力を持とうとする。恐怖ゆえに力を望むというのは、ある意味とても人間的だし、でも同時にとても古い考え方だとも思うので、どこかのタイミングで「どうすればお互いを赦し合えるのか」、「どうすればお互いの違いを認め合えるのか」と考えていかなければと思います。自分と同じ考えかた、自分と同じ主義主張、自分と同じ信仰、そうではないものを認め合う必要がある。自分と「違う」人を攻撃の対象にするという思考を、我々は卒業しなければならないと強く思います。まだまだそうじゃない。自分と違うもの、主義主張の違うものを「敵」と見做す感覚の人々はまだしばらくはいるでしょうから、それをどうすれば卒業できるのだろうか、というところに今の世界の問題を感じますね。
佐藤:そんな状況の中、それでも希望を感じるところというのはどんなところでしょうか?
SUGIZO:そもそも音楽自体が希望を感じさせるものですよね。昨日もちょうど「SONGS OF TOKYO」という、NHKの海外向けの番組の収録をしていたのですが、本当に色んな国のお客さんが来ていました。そこでも感じたことなのですが、世界が、政治が、経済が、こういう非常に緊張感を持った状態なんだけれど、だからこそ、音楽や、音楽をはじめとしたポップカルチャーというのは、人々を凄くひとつにできる。今ね、日本と韓国は政府同士ではすごいやり合ってて、酷い状況。中国に関しても。でも、韓国の音楽を好きな日本人はたくさんいるし、日本の音楽やポップカルチャーを好きな韓国や中国の人もたくさんいます。我々が生きているこの、表現や芸術、エンターテイメントといった世界では、既に人間はひとつになれるんですよね。今だからこそ、我々ミュージシャンは、この一触即発の世界をむしろリードするべきだと思う。そのリードする時に、攻撃や抑止力といった力、そういうベクトルではなく、赦しや愛情、信頼、相互理解、そういうベクトルをもちろん優先するべきです。
佐藤:その音楽の担う希望というものは、長年音楽をされている中で、初めから感じていたものでしょうか?
SUGIZO:気が付いたらこうなっていた。だって、ね、攻撃的なロックをやっていた20代前半のころに、これで世界平和なんてひとことも自分の頭の中に浮かばなかったし、少しずつ変わってきました。
佐藤:世界の中でも音楽の果たす役割は変わってきたと感じますか?
SUGIZO:いや、むしろ、それは(世界に希望を与えるというのは)音楽の最も根本的な在り方じゃないですかね。それはベートーヴェンの頃から変わっていない。20世紀だとジョン・レノンやボブ・ディランや、ボブ・マーリーがいて、18世紀だとベートーヴェンが友愛をうたい、19世紀はワーグナーが体制からの自由を叫び、それ以降多くの作曲家たちが社会の動きと関わってきています。
佐藤:(ベートーヴェンは)ナポレオンにも頭を下げず、毅然とした姿がかっこいいですよね。
SUGIZO:そうそう。ナポレオンを最初応援し、でもその自由を求めた戦士が皇帝になってしまったら、今度は中指を突き立てるという、そんなベートーヴェンの生き方が僕は好きです。そういった社会的な役割を担うというのは、音楽の根本的な在り方なんだと思いますね。
佐藤:最後の質問になりますが、この争いを繰り返す人間という生き物は、今後どのように進化をしていけると思いますか?
SUGIZO:随分な質問ですね(笑)。まあ、理想を言うと、まずはお互いを攻撃し合う、殺めるっていうことはもう、早いうちに卒業してもらいたい。そうじゃないと、自滅するしかないからね。できれば自滅の道じゃなくて、人類の至らない点に気づいて、覚醒し、次の段階に進んでもらいたい。そしてたぶん、その次の段階で本当に人類が争うことを止めたときに次の進化が来ると思う。例えば恒星間航行とか。我々の認識での物理の常識を超えるという。そうなると地球外生命との交流も普通になっているかもしれない。そこに行くにはまず今の我々を卒業しなければいけない。まずはお互いの“共食い”を止めないと、人類は自滅しかないと思いますね。でもまあ、そうなったらなったでいいんじゃないですか(笑)。そんな阿呆な種族は生きる価値がないのかもしれない。
佐藤:そんな中でもSUGIZOさんは希望を持っていらっしゃる。
SUGIZO:うん、希望を持っているし、自分が生きているうちに何か大きく変わるとは正直思ってないけれど、次の世代、またはその次の世代に、何か礎を遺すことができれば本望ですね。
佐藤:ありがとうございます。いよいよ渡航も間近となりましたが、このプロジェクトを応援してくださっているみなさんに何かひとことお願い致します。
SUGIZO:こういう気持ち(みんなで一緒にプロジェクトを推進している)で行くのは初めてなのですが、今は「機材をちゃんと現地に持っていけるかな」、「あの機材を持って入国できるかな」と、不安の方が大きいですね(笑)。でもやっぱり現地の人たちと触れ合うことは凄く楽しみ。特に個人的には、クルドの人たちと初めて会えるのが嬉しい。安彦良和先生(※)の読者としては、やっぱりエルビルに行くのがすごく楽しみだし、同時にその後にアンマン(ヨルダンの首都)にまた戻って、当時(2016年)会ったみなさんと再会できたら凄く嬉しい。そういった、楽しみにと不安がごちゃ混ぜの感じです。
佐藤:ありがとうございます。その不安も払拭できるように準備を進めていきましょう!
(2019.9.13/インタビュー 佐藤慧)
※安彦良和さん・・・アニメ『機動戦士ガンダム』などの作品でキャラクターデザイン、作画監督などを務め、漫画家としても数々の作品を手掛ける。SUGIZOさんがここで話題にしているのは、クルドの人々を題材とした漫画『クルドの星』。