報道写真の月刊誌「DAYS JAPAN」の元編集長でフォトジャーナリストの広河隆一氏が、性暴力やパワーハラスメントを告発された問題について、昨年12月26日に、外部有識者で構成する「デイズジャパン検証委員会」の報告書が公表されました。
本報告書の内容をうけて、Dialogue for Peopleでは以下の通り声明を発表いたします。
2020年1月21日
「デイズジャパン検証委員会」報告書を受けて
2018年12月、週刊文春の報道を皮切りに、フォトジャーナリストであり、DAYS JAPAN元編集長の広河隆一氏による性暴力やパワーハラスメントの被害を訴える声が相次ぎました。まずは被害に遭われた関係者の皆さんが、少しでも心身ともに回復されることを願います。
2019年12月には、外部有識者で構成する「デイズジャパン検証委員会」の報告書が公表されました。報告書に声を届けた被害者の方々の体験は、その当時だけではなく、長年に渡り生活に影響を及ぼしてきたことを示しています。そして報告された被害の実態を踏まえると、いまだ声をあげることさえできない方々がいることを思わずにはいられません。
検証報告を受け、これは一部の特殊な個人や会社だけで起きるものではないと私たちは考えます。どんなに規模の小さな組織や業界であっても、そこに力関係は存在し、報告書内で指摘されるような構造的な暴力は起きてしまうのです。
私たちに今求められているのは、身近で同様の事件が起きないための具体的な対策ではないでしょうか。弊会では、昨年10月の団体発足に伴い、ハラスメント規定を内規として整備中です。問題を未然に防ぐため、何がハラスメントにあたるのかを示し、万が一起きてしまったときに迅速に被害者が救われるよう、相談窓口を設けていきます。
偏った権力の集中は、写真・ジャーナリズム界全体の問題でもあります。とりわけフォトジャーナリズムに関しては、学ぶ間口が狭く、だからこそ多くの若者が少しでも糸口をつかもうとDAYS JAPANや広河氏の元を訪れたはずです。
検証報告内では実際に、ジャーナリストの夢を絶たれた方もいることが指摘されています。次世代を育てていくための学びの選択肢をどれほど豊かにできるのかということも、この問題から突きつけられた課題です。
その上で気がかりなのは、広河氏個人が500万円を投じて設立した、「財団法人フォトジャーナリズム協会」です。
設立当初と理事や評議員の顔ぶれは変わり、写真家を含め現在のメンバーは広河氏による性暴力、ハラスメントが発覚した後に引き受けているメンバーです。具体的な活動をしている様子は確認できませんが、何か具体的な声明や対応策を発表する方針なのか、あるいは広河氏が投じた資金を、被害自体やその後のPTSDなどに苦しんできた被害者の補償にあてる可能性があるのかを含め、弊会からも問い合わせていきたいと思います。
これまで声をあげてきた被害者の中には、10年以上前のケースも見受けられます。
ただ、刑事法上、強制性交等罪の公訴時効は10年とされており、民事法上も、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は3年とされています(2020年4月1日に施行される改正民法では、生命・身体の侵害に対する損害賠償請求権については消滅時効期間が5年に伸長されますが、被害者が声を上げるのに十分な期間とは言えません)。
「望まない性交」経験者の約2割が、それを本人が被害と認識するまでに10年以上かかっていたとの調査結果を、英オックスフォード大などの研究チームがまとめています*。そこから「声をあげていいんだ」と気づき、実際に相談できるようになるまでには、さらなる年数がかかるはずです。
本件が通常の時効にとらわれることなく、広く被害者が救済される措置がとられることを求めます。また、本件をきっかけとし、性犯罪における時効の見直しや、二次加害の問題、被害者支援の必要性など、社会全体の問題として提起していきます。
NPO法人Dialogue for People
*「望まぬ性交 経験者の2割、被害認識まで10年」(2019.5.28、毎日新聞)
【参考】米国ではフォトジャーナリズム界にも #MeToo の声が広がりました。
「CJR Special Report: Photojournalism’s moment of reckoning」
PDFのダウンロードは以下より可能です。
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