【イベントレポート】「何を伝え、なぜ伝えるのか」 ~ Dialogue for People設立5周年記念オンラインスペシャルトーク ~(2024.7.6)
7月6日(土)、「何を伝え、なぜ伝えるのか」〜Dialogue for People 設立5周年記念オンラインスペシャルトーク〜をオンライン配信にて開催しました。2024年3月に設立から5年を迎えたDialogue for People(以下D4P)。これまで活動を支えてくださった皆様へ、スタッフ一同心から感謝申し上げます。
アーカイブを含め約290名の方にご視聴いただき、様々な発信に携わられている3名のゲストとの対話を通じて「伝えること」を軸に、D4Pの5年間の活動や社会課題、人権について考えました。
マイノリティの視点から取材するということ・海外取材
イベント前半は、D4Pの5年間の活動について安田より報告しました。
海外ではイラク・クルド人自治区、シリア、ウクライナ、韓国、パレスチナ、東ティモールなどを取材。イベントでは安田が2022年のウクライナ取材を振り返り「紛争や軍事侵攻が行われた時、社会的に脆弱な立場にある人々がより厳しい状況に追い込まれる背景をどう見つめるべきか」と語りました。
また2023年10月7日以降、イスラエルによるガザでの熾烈な虐殺が続いていますが、それ以前から激しい弾圧が続くパレスチナでの取材も紹介。「繰り返される不条理な暴力と占領下の生活を引き続き取材したい」と伝えました。 そして、今年の6月には、2024年に立ち上げたプロジェクト「加害の歴史に向き合うために」の取材で東ティモールに渡航。今後、取材の詳細を記事でお届けする予定です。
ヘイトをいかに無くすことができるか・国内取材
続いて、この5年間に行った国内での活動の中でも、特に注力したヘイトスピーチ/ヘイトクライム、沖縄、東北、入管法についての各取材を紹介しました。
2021年、”ウトロ地区が在日コリアンにより不法占拠されている”というネット上のデマを信じた若者による放火事件が起きました。取材した安田からは「言葉の暴力は身体的な暴力に必ずつながる。現在のガザへの攻撃の根底にもあるヘイトを、いかに無くすことができるのか」と話しました。
D4Pの取材先が繋がったのが福島と沖縄です。沖縄戦戦没者の遺骨収集を行う具志堅隆松(ぐしけんたかまつ)さんと、東日本大震災で犠牲になった娘の汐凪(ゆうな)さんの遺骨を探す木村紀夫(きむらのりお)さん。それぞれ継続的に取材をしてきましたが、2022年に具志堅さんが福島県大熊町の木村さんを訪ね遺骨捜索に参加、汐凪さんの大腿骨が見つかりました。そんな具志堅さんと木村さんの交流は今後書籍にまとめていく予定です。
できるタイミングで・できることを・できる形で
取材活動に続いて、D4Pが行った様々な発信についてもご紹介しました。今年7月にリニューアルした公式WEBページ(こちら)や執筆した書籍、フリーマガジン。東北スタディツアーやメディア発信者集中講座など、若者に向けた活動についてもお伝えしました。
D4Pはこれからも、取材や発信、国内外での活動を通し、よりよい社会を築くための役割を持ち寄っていきたいと思います。
イベント中盤からは「伝える」ことに様々な形で携わる3人のゲストと安田が、発信への思いを座談形式で自由に語りました。
何を伝え、なぜ伝えるのか
なぜ「発信」に携わろうと思ったのかというトピックについて、それぞれのご意見を伺いました。
せやろがいおじさん:沖縄で芸人、YouTuberとして活動するなか、2022年の沖縄県知事選を機に玉城知事や佐喜眞氏を応援してほしいというメッセージがSNSで寄せられるようになりました。当時は政治の話に触れるのは怖いと思っていたのですが、玉城知事が当選した直後、『沖縄終わったな』という言説がSNSで広がったことに苛立ちを覚え、政治に関する動画を真っ向から扱うことにしました。
しかし、いざ発信を始めると『政治のことを話すなんてがっかりした』と非難されたといいます。そこから、政治を語る怖さは「政治に対する意見の違いから人間関係が悪化することが怖い」という認識だと考え、お笑いが摩擦の潤滑油になればと現在の発信を始めたそうです。
またアルテイシアさんはーー。
アルテイシア:もともと務めていた広告会社が、セクハラ、パワハラが酷い環境で、無職になってしまいました。そこで当時流行っていたSNSのmixi(ミクシィ)で『もう人生地獄だ』みたいなことを書いたんです。そしたら反響があり、出版社12社からオファーがきて漫画化、ドラマ化され、20代のころから抱いていた「フェミニズムを書きたい」という夢が果たせました。
アルテイシアさんは最近では女性向けファッション誌からフェミニズム特集のインタビューを受けることもあるといい、社会の変化を肌身で感じると話してくれました。
最後に深沢さんはーー。
深沢:書くことが楽しく、沢山の人に読んでもらえることに嬉しさを感じプロの小説家を目指しました。でも、小説を書くための教室に通っていた時、『小説は一番言いたいことは書かない』と指導され、自身の属性を込めた小説は書かないようにしていました。それが、2013年に新大久保で在特会(在日特権を許さない市民の会)のデモを見て『やっぱり在日コリアンのことを書かなきゃ、書きたい』と思うようになりました。その時に書いたのが「緑と赤」という本です。それから私は「直接的に発信していこう」という思いに変わりました。
深沢さんは思いを直接書くことで『思想が強いね』と言われることもあったといいます。しかし、書くことで気持ちが楽になり、今は受け入れられる土壌もあるからこそ発信できると話してくれました。
立場の異なる人とのコミュニケーションの可能性
続いて、立場が異なる人とのコミュニケーションの可能性を発見したことはあるかというトピックについて伺いました。
せやろがいおじさん:経験からネット上ではなく、小規模でもリアルな場所で地道なやり取りに価値を見出していかなければと感じています。だからこそ今はスタンダップコメディでお客さんとのやり取りを大事にしています。
安田:発信をする中で『思想が強いね』と言われることはどう考えていますか。
アルテイシア:私は「思想が強い」といわれたら、『え、あなたは思想が無いの?』という感じでやりとりをしています。日本では政治の話はタブーという風潮がありますが、それで得をするのは権力者ですよね。学校の講演では、日本の現状は上の世代が変えてこなかったことに原因があると伝えながら、長いものに巻かれ続ける現状を考えてもらうようにしています。
安田:従属的な存在になることを拒み、主体的な存在になるためにも「語ること」が本当に重要になりますよね。
さらに、イベント後半からは事前に寄せられた質問にゲストの方々と答えていきました。
質問【私は在日3世で高校卒業時から本名を名乗り、長年抑圧と男尊女卑のトラウマに苦しみました。多重のマイノリティ条件から日本では本音で話ができません。皆さんどのようなきっかけから声をあげる立場を切り開いたのでしょうか。】
アルテイシア:安心感が必要で、仲間を作ることが重要だと思います。一人ではできなくても仲間がいるとできることが多くあるので話せる場を見つけてみると良いと思います。そういう場所でエンパワーメントされると、自分も発信してみようという気持ちになれるかもしれません。
質問【発信することの大切さ・重要性と、家族と自分のプライバシーを守ることは両立できるのか知りたいです。】
深沢:そうですね、何か起こったとき私はいつも2つのことを考えます。一つは、目の前の対処療法、もう一つは、根本的な問題を変えていくことです。対処療法では本当につらいときは考えず距離を置いても良いと思います。でも、発信したいという思いがあるなら、考え続けて仲間を増やすといつか自分の居場所に出会えると思います。
ここで、深沢さんから『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』(帚木蓬生著)という本を紹介していただきました。 ネガティブ・ケイパビリティとは直訳すると、「現時点で解決できない事に耐える力」と訳されます。直ぐに答えを出したいときこそ、根本的に何かを変えていくために、耐えて考えることが重要だと教えていただきました。
発信することへの苦悩を乗り越える
今回参加者の方からは、発信する怖さや難しさに関する声が多く寄せられました。その点について、ゲストの方々に、これまで抱えてきた発信の難しさや、発信での転機とはどのようなものだったのか伺いました。
アルテイシア:私は、「フェミ様のお通りだ」という感じで活動しているんです。相手と対話をするかどうかの権利は自分が持っている、という気持ちでいると、攻撃を上手くかわすことができると思います。また、攻撃の心理を示した「言葉」(たとえば、主張の内容ではなく口調や態度を批判する「トーン・ポリシング」など)を知っておくと、逐一真に受ける必要がなくなりモチベーションを保てます。
深沢:私は小説家の鷺沢萠(さぎさわめぐむ)さんとの出会いが転機となりました。鷺沢さんの言葉に、『そこにいるなら、やれ』という言葉があります。普段は思うような活動ができなくても、できるときにやる、という意識は必要だと思います。応援したい団体に寄付をしたり、本や動画を友達に勧めるなど、自分以外の誰かに思いや活動を「託す」こともできるはずです。
せやろがいおじさん:深沢さんの考えに賛成です。できないときはできる人に託す、という在り方でいいと思います。一方で発信に携わるなかで、思いがけず自身が加害側に回ってしまうということもありました。だからこそ、これから何かを発信したいと考えている方は、むしろ加害に回ってしまったとき、その事実を認める覚悟を持てるかということの方が大事だと思います。
今回のイベントに登壇下さったゲストそれぞれの言葉に、「対話の可能性」や「『私』だからできる発信」とは何かをはじめ、発信時のヒントがあったのではないかと思います。そして、行動したくてもできないもどかしさを1人で抱え込まず、「できるときにできる形で」役割を持ち寄る必要性を改めて伝えられたのではないでしょうか。
ゲストの方々にはRadio Dialogueにもご出演頂いています。ぜひご覧ください。
(2024.8.6/文 Dialogue for People インターン 石川愛理)
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