「伝える」ことを通した、私たちのつながり ―「D4Pメディア発信者集中講座2024」開催レポート
18〜29歳を対象にした、「伝える」ことについて学び、考える「D4Pメディア発信者集中講座2024」。昨年に引き続き、今年は10月5日と翌6日に開講しました。今年は昨年と異なりオンライン開催、全2日間という短い期間になりましたが、国内外から18名の受講者が集まりました。
本講座の報告を、D4Pインターンの平田乃愛がお伝えします。
Contents 目次
写真を通して発信するという“役割”
1日目は、弊会副代表・フォトジャーナリストの安田菜津紀による講座【取材で大切にしていること】から始まりました。
フォトジャーナリストという仕事を始めたきっかけや、取材で訪れた東北やパレスチナ・ガザ地区で聞いた話。そして、無関心を関心へと一歩近づけてくれる、写真の力のこと。
取材先に行っても、瓦礫をどかしたり、だれかの傷を癒したりすることはできない。しかし、その地で何が起こっているのかを取材し、発信し続けることこそが自身の役割である。できないことは何なのかを自覚しながら、できることを探り、他の人と手を携えていってほしいという話で、締めくくられました。
受講生からは、「全部自分ひとりで背負い込もうとせず、だれかと役割を分担してもいいんだと思うことができた」という声が聞かれました。
メディアの役割と私たちへ与える影響
続いて、評論家・荻上チキさんから【発信前に、メディアの役割を知ろう】という講座を行っていただきました。
メディアの定義や、メディア論とは何かということ、そこから応用して、SNSやマスメディアが私たちに与える影響についても学びました。
流言は、情報が集まりにくい災害時などに広まりやすいこと。自分以外の相手は、特定の利害関係に基づいて行動するものとみなす、シニシズム(冷笑主義)など。
私たちはメディアとどのように付き合っていけばいいのかを、深く考えさせられる時間になりました。
受講生からは、「自分の認識や観点を解きほぐす方法はあるのか」、「SNSやメディアがさらに発展していった場合、どのように世間へ影響するのか」といった質問が出ました。
難民の人々について知る
メディアについて知識を深めた後は、認定NPO法人難民支援協会代表理事・石川えりさんによる講座【難民について発信する】へと移りました。
「難民」と呼ばれる人たちは、どのような状況に置かれているのか。難民支援協会で行っている支援活動の状況。そして、2023年に改定された入管法が、彼ら彼女らの生活へ与える影響についてもお話しくださいました。
難民や、日本社会における支援の実態への知識を丁寧に深め、これまでの講座もふまえたうえで、私たち発信者にできる役割についても考えるきっかけになりました。
受講生から、「支援を呼びかけるための発信と、難民となった人々の尊厳を守ることを、どのように両立すればいいのか」という質問が出たり、「“かわいそうな存在”ではなく、手を差し伸べたら、希望につなげることができると伝えたい」といったコメントが出たのが印象的でした。
差別をなくすための報道のあり方とは
1日目の最後は、弁護士・外国人人権法連絡会事務局長の師岡康子さんから、【ヘイトスピーチと報道】と題して、講座を行っていただきました。
暴言や憎しみを表現し、差別を扇動するヘイトスピーチが、日本ではとりわけ外国ルーツの人々へ向けられてきたこと。また、それが構造的な暴力の一部であると学びました。
そして、報道機関の伝え方が、ヘイトスピーチやヘイトクライムに大きな影響を与えることも教えていただきました。差別のある現状を正しく伝え、差別を批判することが、ヘイトスピーチを減らす力となる一方、偏見を煽るような伝え方をしてしまうと、より深刻なヘイトクライムに直結する危険性もあるといいます。
差別がある現状に対して「中立」はなく、差別をなくす側に立つことが報道機関に求められています。しかし一歩間違えると、マイノリティの人々を傷つけてしまう可能性もあることを、私たち自身も意識することが大切だと学びました。
受講生からは、「まずは差別があるという現状を知り、その問題について関心を持つことから、差別をなくす一歩につながると思う」という感想が聞かれました。
性暴力と二次被害
翌日2日目は、ライター・小川たまかさんから、【性暴力に関する報道 ー報道による二次被害と報道されない被害ー】についてお話ししていただきました。
女性をはじめ、男性や性的マイノリティの人々も被害にあうことがある性暴力。
しかし、性犯罪として裁かれるのは、性暴力のうちのほんの一部だといいます。その多くが、権力勾配が利用されて起こるほか、犯罪だと立証するだけの証拠が揃いにくいことや、そもそも被害当事者が性犯罪だと気がついていない、といった問題があると学びました。
また、被害を打ち明けた人をバッシングする二次加害も、いまだ深刻な課題です。報道機関が、結果的に二次加害を煽ったり、加担してしまう場合もあり、それがまた被害当事者を追い詰めることにつながってしまいます。
一方で、被害当事者と取材する記者が依存関係にならないことも大切だと、小川さんは言います。記者はカウンセラーではないため、あくまでも被害の実態を適切に社会へ伝えることが、性暴力をなくしていくためにできることだと教えていただきました。
受講生からは、「DBSなどの法規定を、具体的に見直すことが重要だと思う」といった意見が出ました。
ドキュメンタリー制作の過程を学ぶ
講座の最終回は、ドキュメンタリー映像作家・久保田徹さんによる【ドキュメンタリーの制作倫理と技術】でした。
いくつかの映像作品を見ながら、ドキュメンタリーの定義や、ご自身の作品についてもご紹介いただきました。
久保田さんは、日本の伝統芸能職人のドキュメンタリー映像を撮影されてきたほか、ミャンマーで少数民族・ロヒンギャの取材もされています。
ご自身がミャンマーで取材・撮影をされてきた経験をもとにして、毎回どのように映像の構成を練っていくのか、その過程も教わりました。
また、たとえ「こういうシーンを撮りたい」と想定していたものと違うものが撮れたとしても、取材対象者の自然体の姿を第一に考え、ただじっと耳を傾けるだけだという言葉も印象的でした。
受講生の中には、自身も映像を作ったことがあるという経験をふまえて、「取材対象者とどのような関係性を築いているのか」といった質問が出ました。
学びや気づきをシェアしてみて
すべての講座が終了した後は、ファシリテーター・徳田太郎さんと一緒に、受講生全員で感想や学んだことを共有する、シェアリングタイムに移りました。
まず、振り返りシートを用いながら、この2日間で考えたことなどを各自でまとめ、それを少人数のグループに分かれて話し合いました。
最後には全員で、それぞれ考えたことや、グループで出た意見、そこから新しく気がついたこと、他の受講生に質問してみたいことなどを、自由に話し合いました。序盤は少し緊張していたり、何を話せばいいのか迷っている様子が伺えましたが、徳田さんのファシリテートもあり、たくさんの意見がシェアされました。
講座の中で教わった発信の仕方から、より受け手に伝わりやすい方法を学んだこと。報道のされ方によっては、人を傷つけてしまう危険性があること。他の受講生の話を聴いて、いろんなバックグラウンドを持つ人が、「伝える」ことにこれだけ真剣に取り組んでいることに力をもらった、という声もありました。
6名の講師陣による講座からはもちろん、受講生どうしの間でも、たくさんの刺激を受け合った様子が伺え、一人ひとりにとって実りのある2日間になったのではないかと思います。
「伝える」ことを通した、私たちのつながり ー「D4Pメディア発信者集中講座2024」に参加して
今回、D4Pのインターン生・運営スタッフとして「メディア発信者集中講座2024」に参加しましたが、私は昨年の「メディア発信者集中講座2023」にも、受講生として参加させていただきました。
今年は、昨年と異なり全2日間のオンライン開催でしたが、新たに学んだことがたくさんありました。
外国人へのヘイトスピーチと、性暴力被害当事者への二次加害の共通点。受益者の方々のために、発信する立場として注意するべきこと。講師の方々が取り組まれている取材・発信・報道は、それぞれ方法は違えど、「この社会問題について人々に伝えたい」、「差別をなくしたい」という思いは同じであることを、改めて感じました。
そして、受講生の方々の感想や意見からも、はっとさせられる瞬間がたくさんありました。
今年は学生の方だけでなく、すでに取材・発信する仕事をされている方のご参加も多く、ご自身の経験をふまえての学びもシェアしていただきました。D4Pのインターン生として活動していくうえで、たくさんの気づきを得ることができたと思います。
また、受講生からの感想にもあったように、自身と近い世代の中で、これほど多くの方が「伝える」ことについて真摯に学び、発信に携わっていることを、非常に心強く思いました。差別や迫害といった暗いニュースは、まだまだたくさんあります。けれど、今回の受講生の方々のように、自分の発信にきちんと責任を持つ人がいるということが、社会問題への認識を広めていく大きな一歩につながるのではないかと思いました。
改めまして、ご参加いただいた18名の受講生のみなさん、本当にありがとうございました。これから発信や報道に携わる方、携わらない方、まだ迷っている方を問わず、この2日間の講座で考えたことを大切にして、ご自身のペースで進んで行っていただければ嬉しいです。
最後になりましたが、いつもDialogue for Peopleの活動を応援してくださるみなさまにも、この場をお借りして、心よりお礼を申し上げます。
私たちの活動に関心を持ち、支援してくださるみなさまのおかげで、2024年も無事に「メディア発信者集中講座」を開催することができました。今後も、このような学びの機会をつくり、つながりを深めていくためにも、引き続きご支援・ご協力いただけますと幸いです。
(2024年10月22日/文 Dialogue for People インターン 平田乃愛)
▼講座情報
「D4Pメディア発信者集中講座2024」
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