下記記事で詳細を伝えている性加害、ハラスメント事件について、2024年10月24日に東京地裁で下された判決を受け、滋賀県の社会福祉法人グローが11月28日に滋賀県庁舎にて記者会見を行った。
社会福祉法人グロー元理事長による100を超えるセクハラ・パワハラ―性暴力裁判における「3年の消滅時効」の壁
会見出席者(敬称略)
社会福祉法人グロー 理事長 牛谷正人
社会福祉法人グロー 中村良
法律事務所イオタ 弁護士 塩田大介
(司会)社会福祉法人グロー 法人企画局長 西川賢司
会見の冒頭で謝罪した牛谷氏は、判決・事実認識について下記を述べた。
東京地裁判決にて不法行為と認定された前理事長の各行為は、高い人権意識と倫理が求められる社会福祉法人の理事長として、自覚と責任を欠いたものであり、原告の人権を侵害する断じて許されない行為であったと考えます。
法人は、この前理事長による人権侵害行為を未然に防止できなかったことを重く受け止め、また、東京地裁判決における示唆を真摯に受け入れます。
そのうえで、事案発生の原因として、代表者を名宛人としたハラスメント規定や講習がなかったことや、前理事長に権力が集中することでガバナンスが欠如しており、疑問を口にすることができない雰囲気があった可能性があることなどを説明した。
今後再発防止の取り組みを行った後に、牛谷氏は理事長を辞任、ほかの理事や評議員などの役員体制も見直すという。
【質問】数年に渡る裁判の期間中、「司法の判断を待つ」ということを理由にグローからの積極的な発信をしなかったことは、被害を軽視するばかりか、加害者を擁護する態度・発言を助長していたと思います。たとえば、元滋賀県知事の嘉田由紀子氏とは貴法人も多々関わってこられたと思いますが、嘉田氏は今年4月22日の時点で自身のSNS、および公式ウェブ上にて北岡氏を「障がい者アートの第一人者」として紹介されています。非常に不適切な投稿だと思いますが、その責任を問う私からの質問状には返信頂けていません。こうしたグロー、および北岡氏と関係のある行政や政治家、権力者の振る舞いに対し、グローとして何か提言を行うなどいうことはしないのでしょうか?
(牛谷氏回答)嘉田氏の書いた文面を確認できていないのですが、本件事案が発生し北岡前理事長が当法人との関与を無くして以降は、法人として積極的に政治家などにそうしたアクションを起こしたことはありません。私どもの立ち位置からすると――これは滋賀県の長い伝統だと思いますが――民間の活動や法人を評価頂いて、それが仕組みとして滋賀県、そして全国へという施作の流れにおいてご評価頂くことがあったとしたら、それを拒むものではないと思っています。
【質問】貴法人の評議員でもある水流源彦(つる もとひこ)氏についてですが、本件裁判において、被害者のひとりが北岡氏に泥酔させられホテルに連れ込まれた際に、被害者をホテルに運ぶのを手伝ったのは水流氏であるという証言がありました。氏は当然評議員として、「善管注意義務」が課せられています。水流氏は鹿児島の社会福祉法人ゆうかりの理事長であるほか、NPO法人全国地域生活支援ネットワークの理事長や内閣府の障害者政策委員会の委員なども務めています。本件性加害、ハラスメントの背景には権力勾配の悪用や周囲の黙認といった構造的暴力があることが裁判でも指摘されていますが、水流氏、および他関係者の責任はどのようにお考えでしょうか? この点、グローとしては水流氏に聞き取りなどされたのでしょうか?
(牛谷氏回答)判決が出て以降、特に水流氏とのやりとりは行っていないのが事実です。ただ裁判の判決において、安全配慮義務違反としてとりあげられた内容において、いわゆる北岡前理事長の言動に対して、簡単な口頭注意程度しかできていなかったことは本当に法人として重く受け止めております。そのことは私自身に対する自戒も含めて、大きく反省すべき点だと考えています。水流氏のそうした点に関しては、私の方から、たとえば「反省すべき」などといったやりとりは行っていません。
【質問】今後、水流氏への聞き取りなどを行う予定はありますか?
(牛谷氏回答)それについては(水流氏が)他団体の代表者でもあるので、慎重に判断していきたいと思っております。
【質問】元理事長の北岡氏は原告のひとりの対して控訴をしていますが、こちらについて貴法人はどのようにお考えでしょうか?
(牛谷氏回答)控訴の事実は認識しておりますが、私ども法人とはまったく別の形で審議等が今後進んでいくものだと認識しているところです。
【質問】長期間にわたる人権侵害であったことを考えると、損害賠償金額440万円というのは非常に低い金額だと思いますが、どのように評価していますか? ほかの補償なども考えているのでしょうか?
(牛谷氏回答)この金額が適正なのかと言われると、私自身としても「それが適正な額である」ということは中々申し上げにくい。ただ、ではいくらでもって被害、心の痛みに対して報いることができるのかということについて、具体的な額を申し上げることはできない状況だと思っています。ただ、少なくとも司法の判断として下されたものに対してはすみやかに支払いを済ませています。ほかの補償に関しては今のところお答えすることはできません。
北岡氏、そして氏が理事長を勤めていた社会福祉法人グローは、アメニティフォーラムの開催や公官庁と連携した取り組みなど、社会福祉業界の広範囲に大きな影響力を持っていたという。この事件の背景にある権力勾配の悪用や周囲の黙認といった構造的暴力は、いち法人の問題で済むものではない。
また、現在の日本社会に巣くうジェンダーギャップや差別、そして性暴力・ハラスメントを矮小化する態度は、福祉業界に留まらず、様々な業界にわたって同様の構造を温存し続けていないだろうか。――取材を続けます。
Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト / ライター佐藤慧Kei Sato
1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞、『10分後に自分の世界が広がる手紙』〔全3巻〕(東洋館出版社)で第8回児童ペン賞ノンフィクション賞など受賞。
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