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写真で伝えるクルドの「新年」ネウロズ

勢いよく黒煙が上がったかと思うと、次々と狼煙のように煙が昇る。クルドの新年、「ネウロズ(クルド語で「新たな日」)」を迎えるための炎が、いたるところで焚かれているのだ。

この辺りの地域では古代から「火」が聖なる象徴となってきた。その起源については所説あるが、紀元前、民衆を苦しめる残虐な支配者を倒した際に、勝利の知らせとして火を焚いたことが始まりともいわれている。ノアの箱舟伝説と結びつける伝承もあり、人類文明最古の地のひとつであるメソポタミアの、豊饒な文化の片鱗がこの祝祭に受け継がれているのかもしれない。

3月の春分の日前後には、新年を祝うこの祭りに人々が集う。これまで現地で取材した「ネウロズ」を、写真と共にお伝えする。(撮影:安田菜津紀/佐藤慧)




2018年3月 イラク北部クルド自治区

2018年3月20日、イラク戦争の開戦から15年という月日が経つこの日、イラクのクルド自治区北部の街アクレは、ネウロズ前夜を迎えていた。

「15年前のこの日は山の上に避難して、お祝いどころではなかった。サダム政権からの攻撃も恐かった」と人々は振り返る。

太陽が雄大な山脈の果てに沈み、空が夕闇に包まれる頃、人々がトーチを手に山を目指す。火を神聖なものとして扱い掲げるのは、ゾロアスター教の影響とも言われている。

過激派勢力「イスラム国」(IS)との激しい戦闘は収まりつつあったものの、当時はまだ家を追われた200万もの人が、故郷を離れ避難生活を送っていた。










2023年3月 シリア北部コバニ

シリアでは2011年から内戦が続き、2024年末には市民への激しい弾圧を続けたアサド政権が崩壊した。シリア北東部などではクルド人主体の勢力、シリア民主軍(SDF)が事実上の支配を続け、米国はIS掃討作戦の中で連携を続けてきた。

「昔は人前で新年を祝うこともできなかった」と語るのは、クルド人女性のサフィアさん(74)だ。1980年代、長らくシリア政府により禁じられてきた「ネウロズ」を初めて公で祝ったときのことを、目を輝かせながら聞かせてくれた。

「それまで家の中でひっそりと祝ってました。カーテンを閉め、明かりが漏れないように火を焚くのです」

ネウロズの日、人々は山や森へと出向き、ピクニックを楽しむのが恒例となっている。2023年の当日、誰もが郊外へと出向き、市街地がほぼ無人になるほどだった。

そんな華やいだ時間もつかの間に、街に戻れば厳しい現実が待っていた。中心地を歩いていても、どれがISとの戦闘の爪痕で、どれがトルコからの攻撃による破壊で、またどれが地震の被害なのか、正直見分けがつかない。

2023年2月6日、トルコ南東部、シリアとの国境付近を震源とする大地震が一帯を襲い、震源地から100キロ以上離れたコバニでも、建物が倒壊した。

2025年3月、シリア暫定政権とSDFの統合の合意が発表され、街の再建や経済の立て直しなど、今後の動向が注目される。








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