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ガザ地区からの報告「爆撃の再開は悪夢だ」―軍事侵攻後に生まれた娘と、せめて素敵な思い出を(Aysarさん寄稿)

徹底的な殺戮が続くパレスチナ・ガザ地区。2023年の軍事侵攻以降、少なくとも1万5千人の子どもが殺されてきました。ガザ地区のD4P現地取材パートナー、Aysar(アイサール)さんによる寄稿記事です。

空爆の続く街の路上マーケット。(Aysarさん撮影)



子どもたちに喜びをもたらすのは困難

毎年ガザの人々は、多くの家族が経済的に厳しい状況に直面しているにもかかわらず、ラマダンの聖なる月の雰囲気と、その後のイード・アル・フィトル(断食明けの祭り)を、家族や友人と共に精一杯楽しもうとしていました。

窓やバルコニーに明かりを灯し、子どもたちは通りで光を手に祝い、人々は喜んでモスクへと、「タラウィー礼拝 (※) 」に赴きました。この祭りは、長い断食と多くの祈りに疲れた後のご褒美のように感じられるため、イスラム教徒にとって特別なものです。人々は、1ヵ月間行った善行に対する褒美のように、この祭りを捉えているのです。

(※)タラウィー礼拝
ラマダン月の間、毎晩イシャー(夜の礼拝)の後に行われる。通常の1日5回の義務の礼拝とは異なり、タラウィー礼拝はスンナ(預言者ムハンマドの慣行)に基づく任意で行う礼拝。

ラマダン最後の週になると、どの家も祭りの準備で忙しくなります。家を掃除し、整頓し、美しく飾り、多くの訪問者が互いに祝福の言葉を交わしに訪れます。親は子どもたちに新しい服を買い、女性は訪問する家族を迎えるために新しいドレスを買うかもしれません。

しかし、今年の祭りは違います。

ガザ侵攻後の「2度目」のイード・アル・フィトルであり、以前とは何もかもが違います。ほとんどの人が家を失い、また多くの人が家族を失いました。親たちは例年のように祭りを祝う気分にはなれませんが、子どもたちは子どもたちです。新しい服や玩具を欲しがり、お祝いをしたいのです。けれど親たちにとって、この状況下で子どもたちに喜びをもたらすのは、非常に困難なことです。



せめて素敵な思い出を

多くの服屋は破壊され、焼き尽くされてしまいました。

アハメドさんは、幸運にも戦争を生き延びた子ども服店のオーナーです。彼は、人々の購買力が非常に弱まっていると語ります。

コミュニティのほとんどは、人道支援団体から受け取る援助に頼っており、その一部を使って子どもたちに服を買い、祭りの雰囲気を少しでも感じさせ、喜ばせようとしています。

アハメドさんは、両親を失った子どものための服を買いにきた女性が、わずかなお金で服の値段を交渉する様子を見ると、心が痛むと言います。今年は例年とは違う、とても悲しい祭りの時期だと、彼は語りました。

アハメドさんの子ども服店。(Aysarさん撮影)

アハメドさんの店で、私はシャイマアさんと出会いました。彼女は、戦争の始まりに生まれた16ヵ月の女の子の母親です。彼女は戦争中に経験した悲しみや苦難にもかかわらず、せめて娘との素敵な思い出を作ろうと、新しい服を買いに来たのです。

シャイマアさんはガザ南部の、とても困難な状況の中で避難生活を送っていましたが、北部に帰還した今、再び生活を立て直したいと願っています。

しかし、軍事侵攻以前と今を比べることはできません。

すべてが破壊され、喜びはありません。爆撃の再開は悪夢だと、彼女は言いました。家を出るたびに、破壊された街の様子や、悲しみに満ちた人々の顔を見て、悲しくなると彼女は語ります。

シャイマアさんと16ヵ月の娘、マイさん。(Aysarさん撮影)

ガザの人々は、占領や軍事侵攻によって引き起こされるあらゆる問題や、数十年にわたって経験してきた様々な苦しみに、強さを示してきました。しかし、今回の戦争によって引き起こされた想像を絶する状況は、新生児から年配者まで、あらゆる人々に精神的、肉体的な苦難をもたらしました。

彼らはすでに多くのものを失いましたが、残されたわずかな希望を失わないように、必死に戦っているのです。

編集者補足:ガザの子どもたちの置かれている状況

ガザ地区では約100万人の子どもたちが脆弱な環境のもと暮らしている。ガザの保健当局によると、2023年10月7日の軍事侵攻以降、少なくとも1万5千人の子どもが殺されたとしている(正確な犠牲者数の把握は困難)。ガザ内の建造物の7割以上が損壊、損傷しており、医療施設も例外ではない。医療機器や医薬品の不足、電力不足などにより医療体制は逼迫しており、特に脆弱な未熟児などが、生命維持に必要なケアを受けることができず、約4,000人の新生児が日々命の危険に晒されているという。この冬には「凍死」した新生児も複数報告されている。国連の調査委員会によると、イスラエル軍は産婦人科の病院など、医療施設を意図的に破壊し、安全な妊娠や出産などを阻止していると指摘している。また、両親や身近な人々が殺されるなど、ガザ地区の子どもたちは、生命の危機だけでなく心にも大きな傷を負っている。国際社会の「傍観」の中、希望を失わずに生きることは非常に困難な状況が続いている。

(文 Aysar/翻訳・編集 佐藤慧)
※Aysarさんによる原文の寄稿は2025年3月29日。

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