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戦没者の尊厳を傷つけることはその人を二度殺すようなもの―沖縄南部戦没者遺骨土砂問題、何ひとつ答えない政府交渉

政府交渉の場で、遺骨の混じった土砂から遺骨の破片を示す具志堅隆松さん。(佐藤慧撮影)

6月17日、参議院議員会館にて沖縄南部戦没者遺骨問題(※)に関する政府交渉が行われた。主催する沖縄戦遺骨収集ボランティア・ガマフヤーの具志堅隆松さんは、遺骨の眠る土砂の一部を会場で広げ、米粒ほどの遺骨の破片を示しながら「遺骨の収容が済んだ土砂なら使用できるという人もいるが、このように細かな遺骨がいくらでも混じっている。すべてを収集することは不可能」だと語った。

(※)沖縄戦の激戦地であった沖縄本島南部地域に残された戦没者遺骨の混じった土砂が、米軍辺野古新基地建設に伴う埋め立て工事の土砂として使われる可能性があり、多くの反対の声があがっている。

これまでにも戦没者遺骨が残る南部土砂使用に関しては、その撤回を求める市民の声が何度も届けられているが、今回も防衛省は「現在の県内・県外の候補地、そのどこからどう調達ということは現段階で決まっていない。状況を踏まえて適切に対処する」と繰り返すのみで、「南部土砂を使用しない」と明言することはなかった。

「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」に基づき、遺骨収集事業を進める責任を担う厚労省は、「細かな骨片であっても収集するべきものである」という認識を示したが、防衛省の計画に反対を示す発言はなかった。

「戦没者遺骨の収容は大切なこと」というのであれば、論理的に考えれば「南部土砂は使わない(使えない)」ということではないのか――という主催者らの声には「先ほど申し上げた通りです」という定型句が返ってくるのみだった。

具志堅さんは「戦没者の尊厳を傷つけることはその人を二度殺すようなもの」と指摘するが、政府側は事実上の「無回答」を貫いた。決まった返答のみを繰り返す政府側の答弁は前回の交渉からも一歩も進まず、「交渉」とはほど遠い、表面上の対応が続いている。

政府への主要な要請は下記の通り

(1)防衛省は辺野古基地建設のための埋め立て土砂の採取候補地から戦没者遺骨が残る本島南部地域を外すこと。並びに埋め立て工事を要する浦添西海岸への那覇軍港移設を断念せよ。

(2)石破総理大臣は6月23日の追悼式に参加するのであれば、戦没者遺骨が残る南部の土砂を辺野古基地建設に使わないことを表明した上で参加すること。

(3)警察庁は6月23日の沖縄全戦没者追悼式の要人警護に当たり、警察官が平和の礎区域内に立ち入り、遺族達の供えた花や線香を警棒でひっくり返す不遜な暴挙をやめさせるよう指導すること。

ほかにも、戦後80年となる今年に、沖縄戦韓国人遺族とのDNA照合を始めることなど、加害の歴史と向き合う必要性を問う要請なども提出された。歴史修正主義や排外主義の蔓延る今こそ、真摯に過去の戦争と向き合うべきだろう。

防衛相ら担当者は実質「無回答」を続けている。(佐藤慧撮影)



Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト / ライター佐藤慧Kei Sato

1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞、『10分後に自分の世界が広がる手紙』〔全3巻〕(東洋館出版社)で第8回児童ペン賞ノンフィクション賞など受賞。

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