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衆院選で考えたい人権課題―人権を選びとるための緊急合同記者会見
2026年2月3日、性的マイノリティ、女性の権利、難民・外国人支援、非正規公務員問題など、多岐にわたる人権課題に取り組む計21団体(当日登壇は10団体)が結集し、緊急合同記者会見が開かれた。投開票を目前に控えた衆議院選挙において、経済政策だけでなく「人権」を重要な争点とし、候補者選びの判断材料にしてほしいと強く訴えた。

緊急合同記者会見の登壇者ら。(佐藤慧撮影)
同性婚への賛否は試金石
「政治や選挙をエンタメとして消費するだけでは、私たちの自由が制限される未来があるという危機感を抱き、呼びかけをさせていただきました」
そう語るのは「LGBT法連合会」代表理事の神谷悠一さんだ。衆院選後、今後約2年半は国政選挙がない可能性が高く、今回の選挙結果は、「向こう数年間の人権政策を決定づける大切な節目になる」と強調した。
合わせて、「LGBT法連合会」が実施した『LGBT(SOGI)をめぐる課題に関する各党の政策と考え方についての調査』について、結果を示しながら「(主要政党は)いずれも同性パートナーの権利保障については事実婚並みに進めるべきという方向性ではあるが、その積極性や内容についてはまだグラデーションがある」と指摘した。
現在、同性婚に関しては、全国各地で6つの訴訟が行われており、地裁判決・高裁判決のほとんどが《同性婚を認めていない現在の法律は憲法に違反する》と判断している。最高裁の判断が待たれるが、早ければ今年度中にも判決が出ると見られている。
「Marriage For All Japan」共同代表の寺原真希子さんは、「(最高裁で違憲判決が確定すれば)国会は法制化を迫られますが、それが具体的にどのような内容になるのか、法改正はどのぐらいのスピードで行われるのかということは、同性婚に賛成する国会議員の数に大きく影響を受ける」と述べ、今回の選挙の票のゆくえの重要性を語った。
「安全保障や経済対策が優先だと考える方もいるかもしれません。しかし、誰もが何かの面でマイノリティです。マイノリティの人権を軽視するということは、すなわち個々人を軽視するということ。同性婚への賛否は、候補者が一人ひとりのことを真剣に考えているかどうかという試金石であると考えています」
「Marriage For All Japan」による『マリフォー国会メーター』では、今回の衆院選候補者の同性婚への賛否を、地域や政党、名前などで簡単に検索できる。

政党別候補者の同性婚への賛否割合などが、視覚的にもわかりやすい「マリフォーメーター」。(佐藤慧撮影)
法的論点は整理済み
「Tnet」共同代表の木本奏太さんは、マイノリティの人権は、「誰か特別な人」の人権ではなく、「誰もが自分らしく生きていい、不当な扱いを受けない」という社会の原則だと語った。
そのうえで、選択的夫婦別姓や同性婚については、「法的論点は整理済み」であり、「実現しようと思えばすぐにできることを、特定の人々がわざわざ問題を複雑化させて無駄な時間を消費している」と、現状の政治状況を厳しく批判した。
選択的夫婦別姓に関しては、約30年前(1996年)に、法務省の法制審議会が「導入すべき」との答申を出しており、改正案の骨子はすでに完成している。また、同性婚についても野党によりすでに法案(婚姻平等法案)が国会に提出されており、法的論点は整理済みだ。
それにもかかわらず、一部の政治家などが「伝統的家族観が壊れる」「社会が分断する」といったイデオロギー論争を持ち込むことで、議論を複雑にし停滞させている現状がある。
「誰かを切り捨てる政治ではなく、違いがあっても共に生きられる社会を選ぶこと――それが私たち一人ひとりの暮らしを守る選択だと考えています」
経済政策の犠牲になる人権
続いて「女性差別撤廃条約実現アクション」共同代表の柚木康子さんから発言があった。
「女性差別撤廃条約が85年に批准されて、86年には男女雇用機会均等法ができて、もう40年経つわけですね。日本の男女平等は実現したのか、ジェンダー平等は実現したのかというと、とてもそんなことは言えない」
条約批准に伴い国内法を整備する必要が生じ施行されたのが、男女雇用機会均等法だ。法律で初めて「募集・採用・昇進などで男女を平等に扱うこと」が求められるようになったが、実態は追いついていない。
「労働者の約4割が非正規雇用となっている」と指摘する柚木さんは、かつて均等法などの人権に根差した法整備が行われながら、経済政策(規制緩和)によって、女性の労働環境が悪化していると指摘した。
「食べることに困る、子どもを育てることができない、ましてや結婚なんかすることもできないという状況を作っている。政府はもっと女性の平等、ジェンダー平等を実現するためにぜひ努力をしてほしいし、(有権者には)そういうところ(政党や候補者)を選んでほしい」
また、「非正規公務員voices」アドバイザーの竹信三恵子さんも、人間を交換可能な部品のように扱う制度について警鐘を鳴らす。
「2020年から『会計年度任用職員』という制度が始まりましたが、法律には『1年限りの職務』と書かれてしまっています。しかし現場の実態は、DV支援や児童相談、保育士など、決して1年限りで終わるはずのない恒常的な仕事ばかりです。ですがこうした理不尽な制度に声をあげようとしても、『法律に書いてある』と言われてしまう」
当事者たちが面前に出て訴えると、報復的な雇い止めにあう可能性もあるという。
「(2024年)名古屋では、1,200人もの保育士が一斉に任用打ち切り(雇い止め)を通告される事態が発生しました」
これについては、あまりに酷い対応であるとして労働組合や世論が強く反発し撤回に至ったが、非正規の「会計年度任用職員」は、常にこうした危険と隣り合わせの状況が続いている。
公による差別扇動
「難民支援協会」代表理事の石川えりさんは、政治家によるフェイク情報の拡散や、排外主義の扇動について、その危険性を語った。
「難民や外国人に関する、フェイク情報や誤解がSNSや政治の場で広がっている状況に、強い危機感を覚えています。たとえば、『飛行機で来る人は難民でない』『日本には偽装難民ばかりがいる』など、事実と異なる情報が政治家からも発信されています。特定の民族やコミュニティの存在を否定し、社会から排除するようなヘイトスピーチも拡散されています」
「難民支援協会」は、今回の選挙にあたり、『難民保護や外国人に関する意識調査アンケート』を実施している。
「難民の方々の中には、自国で自由な言論が保障されず、民主的な選挙も叶えることができず、そういったものを求めて声を上げたことで、命が危険に晒され、やむなく国を離れた人たちも珍しくありません。そのような人々にとって、民主的な社会の象徴である選挙が、誰かを排除するという場ではなく、誰もを包摂する方法を模索する場になることを、私たちは願っています」
「反差別国際運動(IMADR)」事務局長代行の小森恵さんも、人種差別や排外主義が放置されている現状に苦言を呈した。
「日本はこれまで4回にわたって、国連人種差別撤廃委員会の条約審査を受けてきました。そのたびに、人種差別禁止法の制定や国内人権機関の設置をはじめ、差別がもたらす様々な問題に関して勧告を受けてきました。こうした勧告の多くは適切に実施されないまま、差別は今日も続いています」
日本政府が受けた勧告のひとつには、《政治家や公務員による人種差別に適切に対応していない》というものがある。それを放置した結果が、「官製ヘイト」が公然と行われる現状につながっている。
たとえば自民党の杉田水脈氏は、ブログ等でのアイヌ民族や在日コリアンへの侮辱投稿により、法務局から「人権侵犯」の認定を受けた。しかし同氏は「差別とは認定されていない」などと主張し、事実を否定・矮小化する態度をとり続けている。
小森氏は、法務省が認定した差別事実でさえ、政治家が開き直って否定するこの現状こそが、社会に「差別をしても許される」という誤ったメッセージを与えていると厳しく批判した。
ヘイトの行きつく先は戦争
「外国人人権法連絡会」事務局長の師岡康子さんも、「政府などの公人が外国人に対する偏見を煽っていることが大きな問題」だと訴えた。
「(外国人が優遇されているなどのデマがあるが)実際は優遇どころか、同じ税金を払っているのに、選挙権もなく公務員になることも難しい。また、差別を禁止する法律もなく、就職や入居などにおいても差別があります」
差別扇動や排外主義の高まりにより、すでに埼玉県でのクルド人に対するヘイトクライムなど、直接的な暴力も発生している。
「このような外国人ヘイトの行き着く先は、現在のアメリカ・トランプ政権の暴力的な排除や、百年前の(関東大震災時の)朝鮮人・中国人に対する虐殺、そしてさらには、外国人を“敵”とする戦争だと思います」

差別を土台とし、イスラエルによるパレスチナの人々の虐殺が今も続いている。写真はイスラエルにより破壊されたガザの空港。(佐藤慧撮影/2019年)
「ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本」代表の土井香苗さんも、日本の人権状況に対し、「国内人権機関という、人権状況をモニタリングし、政策を提言するような政府の独立した機関が日本にはない」 ことに強い懸念を示した。
「アムネスティ・インターナショナル」日本ユース代表の本谷碧さんは、「(人権とは)ひとりの人間として、誰からも、国家からも、その尊厳を不当に踏みにじられないための概念」と語った。
「誰かを傷つけて支持を集めるような手法、デマに惑わされないでください。あなたの支持する政策や政治家が、本当にあなたやあなたの大切な人を思っているか、利己的な権益のために嘘をついていないか、全ての人に共通する権利を誠実に守ろうとしているかを、一緒に考えましょう」
人権――。これは数えきれないほどの戦争や殺戮、差別や抑圧の歴史から、人類がつむぎだした一粒の希望のような概念だ。それは決して完成された完全無欠の概念ではないが、それを学び、理解し、選びとり、発展させていくことが、「誰しもが尊厳を守られる社会」につながっていくはずだ。それぞれの登壇者が提示したトピック詳細については、各団体のウェブサイトも参照頂きたい。
LGBT法連合会
Marriage For All Japan
Tnet
難民支援協会
反差別国際運動(IMADR)
外国人人権法連絡会
アムネスティ・インターナショナル日本
ヒューマン・ライツ・ウォッチ
非正規公務員voices
女性差別撤廃条約実現アクション
Writerこの記事を書いたのは
Writer

フォトジャーナリスト / ライター佐藤慧Kei Sato
1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞、『10分後に自分の世界が広がる手紙』〔全3巻〕(東洋館出版社)で第8回児童ペン賞ノンフィクション賞など受賞。

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