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社会の裏側で誰も犠牲にしない―福島県大熊町、帰還困難区域で考える千年先の未来

河口に花を手向ける木村さん。花は波にさらわれ太平洋へと流れていった。(佐藤慧撮影)

2026年3月11日、福島県大熊町の帰還困難区域内で、木村紀夫さんは各所に花を手向けてまわった。

15年前のあの日、東日本大震災による津波が沿岸一帯を襲った。木村さんの次女で、当時7歳だった汐凪(ゆうな)さんは、津波襲来後に行方不明となり、今でも遺骨は一部しか見つかっていない。

地震が起きたとき、汐凪さんは小学校での授業を終え、隣の児童館で遊んでいた。木村さんの父、王太朗(わたろう)さんが児童館へ駆け付けた。しかし、いったん海のそばの自宅に引き返すという王太朗さんの車に汐凪さんも乗り込み、そのまま行方不明となってしまったのだ。

翌12日には、原発事故により大熊町の人々は「全町避難」を余儀なくされ、木村さんも捜索を断念せざるを得なくなった。その後王太朗さんと木村さんの妻の深雪さんが遺体となって発見されたが、汐凪さんの遺体は見つからなかった。

そんな汐凪さんの遺骨の一部が見つかったのは、2016年12月のことだった。汐凪さんの遺骨捜索は、今も続けられている。

汐凪さんの遺骨捜索が続けられている現場に花を供える。(佐藤慧撮影)

「15年という月日は、『15年経ってしまったなあ』という気がすると同時に、『あっという間だったなあ』という感覚もあります。何年という節目を特に意識したことはないのですが、あらためて振り返ると、多くの出会いがあり、学ぶことが多かったと思います」と、木村さんは語る。

沖縄で遺骨収集をしている具志堅隆松さんとの出会いが、とりわけ大きな経験だったという。2021年、具志堅さんと共に、未だ多くの遺骨が眠る沖縄本島南部の捜索現場を訪れた。旧日本軍の構築壕の入口そばには、薬莢などと共に「乳歯」が落ちていた。「大きな構造の中でないがしろにされる命」に触れた。

その後沖縄だけではなく、広島や水俣など、各地で伝承活動を続ける人々を訪問した。福島の現実がなかなか広く伝わっていないという思いがあったが、それらの地を訪れたことで、「自分がいかに他の地域のことを知らなかったか」を痛感したという。

大熊町・双葉町にまたがる「中間貯蔵施設エリア」には、福島県内の除染土壌(約1400万立方メートル=東京ドーム約11杯分)が一時保管されているが、2045年3月までに、福島県外で最終処分することが法律で義務付けられている。しかし、最終処分場候補地はいまだ決まっていない。

「今、社会や国の政策として『原発回帰』という流れが強くなっていますが、私からするとありえないことです。ただ、それは電力会社だけを批判して終わるのではなく、こうした社会の中で生きている、自分たち一人ひとりが変わらないと、たぶんこのまま同じようなことが続いていくと思います」

木村さんの自宅跡地裏の丘には汐凪さんを見守る地蔵が立っている。(佐藤慧撮影)

木村さんは仲間たちと共に大熊未来塾を立ち上げ、伝承活動や、未来の社会のありかたを考える場をつくる活動を行っている。

「伝えたいことはふたつあります。ひとつは、次の災害時に犠牲者を出さないための防災の話です。『あの時ああしていれば家族は犠牲にならなかったな』と後悔していることを、次に生かしてほしい。もうひとつは、原発事故の教訓として、『自分たちの生き方を少し問い直してみませんか』『それを知った上で次の社会をどう作っていくのか一緒に考えませんか』という問いかけです。このふたつをベースに、次の世代へ、また次の世代へと、千年先まで伝えていくことが目標です」

「世界規模でおかしなことが起きています。大きな声の中で犠牲になるのは、そこで普通に生活している人だったり、社会的に弱い立場の人たちです。それがもやもやするから、私はこういう活動をしているんですよね。社会の裏側で誰も犠牲にしないような、自分がもやもやしなくても済むような世の中を作っていきたい」

「(様々な不条理を)知らないほうが楽だとは思います。こういう感情になるから考えたくないという気持ちもわかります。でも、見なかったことにはできないし、見ないふりを続けても、なおさらもやもやします。だからこそ、ここに来た方々には、そういうしんどい感情も含めて持ち帰ってもらえたらと思っています」

大熊未来塾では活動を支えるマンスリーサポーターを募集しています。
Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト / ライター佐藤慧Kei Sato

1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞、『10分後に自分の世界が広がる手紙』〔全3巻〕(東洋館出版社)で第8回児童ペン賞ノンフィクション賞など受賞。

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