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コロンビア大統領選・トランプ支持の右派候補が勝利―なぜ左派政権は敗北したのか(柴田大輔さん寄稿)

南米コロンビアで行われた大統領選挙。長年伝統的な右派政権が続いてきたコロンビアで、2022年に初めて成立した左派政権の存続が問われましたが、トランプ米大統領が支持する新興の右派候補が勝利し、衝撃が広がっています。
武装組織との対話による紛争終結を目指し、社会的包摂や気候変動対策などの政策が国際的にも評価されてきた左派政権はなぜ敗北したのか。現地で取材を続けてきたフォトジャーナリストの柴田大輔さんに寄稿いただきました。
コロンビアで6月21日、大統領選の決選投票が行われ、無所属で右派のアルベルト・デラエスプリエジャ氏が得票率49.6%で、現在の左派政権継承を掲げたイバン・セペダ氏の48.7%を僅差で上回り、当選確実となった。結果は選挙当局の速報集計によるもので、法的な確定結果は今後の公式集計を経て確定する。5月31日の第1回投票ではいずれの候補も過半数を獲得できず、上位2候補による決選投票となっていた。
2022年に誕生したコロンビア史上初の左派政権であるグスタボ・ペトロ政権への評価を問う選挙だった。コロンビアでは武力紛争が60年以上続いているが、紛争の影響を強く受ける周辺地域と、治安悪化や経済停滞への不満が募る都市・内陸部とでは、政権に向ける視線も異なる。投票率は1991年に導入された現選挙制度で最も高い約63%で、ほぼ互角の得票となった今回の選挙は、二極化が進むコロンビア社会の分断を浮き彫りにする結果となった。
本記事では、大統領選の結果から見えるこの国の現状を、現地の人々の声と共に伝えたい。

Contents 目次
終わらない戦争の中、「消去法」で選んだ
「もうあんな時代には戻りたくない」
第1回投票直前の5月30日、コロンビア南西部ナリーニョ県の山岳地帯に暮らす住民リーダーのホセ・チンガルさんは電話でこう話した。現地では今も複数の武装組織が対立を繰り返している。2016年の和平合意から10年がたったが、戦争は終わっていない。
コロンビアでは2016年、半世紀を超えて対立してきた当時最大の反政府ゲリラFARCと政府が和平合意を結んだ。翌年には約1万3000人いたゲリラ構成員の武装解除が完了し、市民社会に復帰するためのプログラムも始まった。しかし、一時は国土の3分の1におよんだFARC支配地域を政府は統治しきれず、その後、残存する違法武装組織が流れ込み、違法鉱山や麻薬産業などの権益をめぐる争いが激化したまま、今に至っている。

大統領に就任したペトロ氏がまず掲げたのが、国内に10以上ある違法武装組織と個別に交渉を重ねて社会統合を目指す「完全な和平(Paz Total)」だった。だが、平和への期待が寄せられた彼も戦争を終わらせることはできず、むしろ治安は悪化していった。
ただ、左派政権期にホセさんが暮らす土地で変わったことがある。政府軍が突然現れ、住民に危害を加える場面が減ったことだ。かつて軍は、反政府ゲリラの拠点とされた農村の住民を「ゲリラ協力者」とみなし迫害し、命を奪うこともあった。武装組織との対話を重視する左派政権の下では、住民が政府軍から直接銃を向けられる機会は減っていた。失った土地の返還など紛争被害者への補償も、以前より増えた。
ホセさんは第1回投票で左派のセペダ氏に投票した。「決選投票でもセペダ氏に投票する。ペトロで戦争は終わらなかった。だが、どちらがより私たちを見て政治を行い、自分たちから命の危険を遠ざけられるのかと考えた」と、投票に向けた複雑な気持ちを語る。
しかし6月21日の決選投票は、ホセさんの選択とは異なる結果となった。勝利した右派のデラエスプリエジャ氏は、武力による紛争終結を掲げ、武装組織との交渉を打ち切るとしている。
「また自分たちが敵視されるかもしれない」とホセさんは語る。
トランプ大統領が支持した「極右」候補が大統領に
第1回投票で首位に立ったのは、無所属で出馬した47歳の弁護士で実業家のデラエスプリエジャ氏だった。公職経験はない。各種世論調査は、決選投票はセペダ氏と既存右派政党の候補の争いになると予想した。しかし、既存政治の打破を掲げ、SNSを駆使した選挙戦で若者や都市部の有権者を引きつけたデラエスプリエジャ氏が、選挙戦終盤に支持を急拡大させた。得票率は43.7%だった。第1回投票では、デラエスプリエジャ氏と、40.9%を集めたセペダ氏を合わせて全体の85%近くを占め、既存の伝統政党や中道勢力は壊滅的な結果となった。

「極右」ともいわれるデラエスプリエジャ氏は、なぜここまで支持を広げられたのか。
彼の政策は「武力による治安回復、政府の縮小、市場重視、保守的価値観に基づく政治」に集約される。対話と協調、再分配を重視するペトロ政権とは対照的だ。ペトロ政権下で悪化した米国との関係を修復し、軍事協力を強化するとも訴えた。
コロンビア・米国・イタリアの三重国籍保持者でもあるデラエスプリエジャ氏は、米国では共和党員でトランプ氏支持を公言するなど、トランプ氏との近さを強調している。コロンビアの調査報道メディア「La Silla Vacía」によると、同氏は2018年以降、米共和党に累計9万5000ドルを献金してきたとされる。また第1回投票の直後には、トランプ氏はデラエスプリエジャ氏への「全面的支持」を表明した。
選挙戦では、サッカーコロンビア代表ユニフォームをまとい、派手な演出で愛国心に訴え、無党派層への浸透を図った。過激な発言も目立った。左派政権を「ならずもの」と批判し、国際機関からの脱退を示唆し、武装組織との交渉を打ち切り、90日で武力紛争を終わらせると訴えた。
対立をあおり、既成政治への不満を取り込む手法は、トランプ氏や、中米エルサルバドルのブケレ氏、アルゼンチンのミレイ氏ら、デラエスプリエジャ氏が称賛する各国の右派大統領と重なる。
※ラテンアメリカでは、格差の拡大や既存政治への反発から、2000年以降、「ピンクタイド」と呼ばれる左派政権の台頭が2度訪れた。ペトロ政権はその第2波に当たる。一方、2023年以降は左派政権下での治安悪化や経済停滞への不満を背景に、アルゼンチンやエクアドルで右派政権が誕生するなど、地域全体で右派への揺り戻しが進んでいる。
左派・ペトロ政権が掲げた「完全な平和」の失敗
ペトロ政権は、先住民族やアフリカ系住民、都市部の貧困層などコロンビア社会から歴史的に疎外されてきた人々を包摂する社会改革を訴えてきた。政権にあった4年間の主な成果としてあげられるのが、高所得者や大企業への増税、最低賃金の引き上げ、土地の再分配の加速だ。教育への支出は就任から4年で44%増加させた。
一方で、統治は不安定だった。3年間で19省庁に約60人の大臣が就き、平均19日に一人が交代した。政権内の汚職も問題化した。医療制度改革の失敗は医薬品・治療の不足として市民生活に影響し、純債務はGDPの58.5%に達して、パンデミック期を除けば過去最高水準となった。

今回の大統領選で最大の争点となったのは、ペトロ氏の看板政策である「完全な平和」だ。国内各地で活動する、複数あるすべての武装組織に対して、対話による和平交渉を同時に進める政策だが、結果的に、著しい治安の悪化を招いた。
赤十字国際委員会は、2025年にコロンビアは過去10年で最悪の武力紛争による人道的被害を受けたと報告した。爆発物による死傷者965人(大半が民間人)、強制失踪308件、個人避難約23万5000人、集団避難約8万7000人。前年比で個人避難が100%、集団避難が111%増加した。武装組織の構成員は総計で2万7000人に及び、2024年から約5000人増加した。2026年1月から6月9日までの間に、3人以上の無抵抗な住民が同時に殺害される「虐殺」が65件発生し、261人が犠牲になったとコロンビアのNGO「Indepaz」は記録している。
「ベネズエラ化」への恐れ、都市部住民の疎外感
ペトロ政権への失望は、都市部で特に強く現れた。近年、農村部ほど直接的な紛争の影響を受けずにきた都市部にとって、治安悪化の衝撃は大きかった。もう一つ、特に中流層に「自分たちが政治から見捨てられている」という感覚もある。
国内第3の都市カリ市では、決選投票でもセペダ氏が過半数を維持した。しかし、テロや治安悪化の影響を強く受けた一部の地区では、デラエスプリエジャ氏への支持が広がっていた。同市に暮らす、外資系企業に勤めてきた62歳の男性は筆者の電話取材に応じ、第1回投票・決選投票ともにデラエスプリエジャ氏に投票したと話した。理由として「治安の悪化」と「ベネズエラ化への恐怖」をあげる。

カリ市と周辺地域では、2023年から2025年7月までに少なくとも245件のインフラや治安部隊への攻撃が発生した。2025年8月には70人以上が死傷し、2026年4月には20人が死亡する爆破テロが起きた。
男性は、「『麻薬王』と呼ばれたパブロ・エスコバルによる都市へのテロが頻発していた、90年代に戻ったようだ」と振り返る。
身近に迫る危機と同時に、赤十字国際委員会が報告したような、近隣以外の農村部での被害拡大もニュースを通じて伝わってきた。こうした日常的な情報の蓄積が、「国全体で治安が崩壊しつつある」という感覚を強めていった。
男性が口にしたもう一つの言葉が「ベネズエラのようになっては困る」だった。左派が政権につく隣国のベネズエラでは2026年1月以降、米国による軍事侵攻、外交圧力が続いている。男性はその責任は同国の左派政権にあると考えていた。
ベネズエラは2010年代中期より経済危機が深刻化し、強権的な政権運営と汚職から800万人あまりが国外へ脱出した。その大部分が流れ込んだのがコロンビアだった。社会が破綻していく隣国の姿は、「左派が政治を担うとどうなるか」をコロンビア国民に印象付けた。さらにペトロ政権が中国との関係を強める一方で、南米の国として最も緊密だった米国との摩擦が増していく様子は、コロンビアの「ベネズエラ化」を想起させ、不安を高めた。
もう一つの感情が、「見捨てられている」という感覚だ。ペトロ政権が紛争地域の住民に行う手厚い保護政策は、不況と物価高に苦しむ都市部の中流層には不平等に映る。男性は厳しい経済状況に直面する中で、「支持者だけに目を向けた理想主義だ」と感じると話す。

「いつもの奴ら」への失望
コロンビアでは、「いつもの奴ら」を意味する「ロス・デ・シエンプレ(Los de Siempre)」という言葉が政治の文脈でしばしば聞かれる。政治や経済を長年独占してきた政治家一族、経済エリートへの怒りと諦めが込められた表現だ。植民地時代以来の社会構造の中で格差は縮まらず、地方は置き去りにされてきた。格差や地方軽視の責任は、長年権力を握ってきた「いつもの奴ら」にあるとされてきた。2022年の選挙で、その「いつもの奴ら」を否定して勝利したのがペトロ大統領だった。
しかし今回の選挙では、既存政党だけでなく、変革を掲げたペトロ政権にも「結局変わらなかった」という不信が向けられた。「結局変わらなかった」という思いが、「左派でもダメだ」という諦めを生み、新たな指導者への期待へとつながった。
よみがえる「虐殺の記憶」――ゲリラ殲滅を掲げた右派政権による民間人虐殺
都市部で「左派への反発」が広がる一方、農村部では、デラエスプリエジャ氏の掲げる強硬な軍事路線が過去の「虐殺の記憶」を呼び起こしていた。政府軍による民間人への超法規的処刑だ。
2002年から2008年にかけて、ゲリラ殲滅を掲げる右派政権は米国の軍事支援の下、農村部で激しい軍事作戦を展開した。その中で起きたのが、約6年間に6400人以上の民間人を軍が超法規的に殺害した「偽陽性(falsos positivos)」と呼ばれる事件だ。農村の若者たちを殺害し「ゲリラ戦闘員」として発表した。組織的に行われた、軍による戦果水増し事件だ。
同時に、ゲリラが拠点を置く山間部では住民がゲリラ協力者とみなされ、軍や、軍と協力関係にあった右派民兵組織から迫害され、虐殺の対象とされてきた。ゲリラと繋がるとどうなるかを知らしめるために、あまりにも多くの人々が簡単に命を奪われた。

冒頭でホセさんが語った「もうあんな時代には戻りたくない」の「あんな時代」とは、この時代を指している。だからこそ、ペトロ政権下で治安が悪化したとしても、農村の住民にとってこの4年間は、以前ほどの絶望ではなかった。農村へ向けられた支援とともに、その感覚が、セペダ氏への支持を支えていた。
対話を排除し、就任90日以内に武力で紛争を終わらせるとするデラエスプリエジャ氏の政策は、米国との関係を含めて、偽装殺害が横行した時代を想起させる。「また自分たちが敵視されるかもしれない」というホセさんの警戒は、ここに根ざしている。
2016年に行われた、政府とFARCの和平合意の賛否を問う国民投票で、賛成票が多かったのは、長年戦争の暴力にさらされてきた南部・太平洋岸の農村地帯だった。反対票が多かったのは大都市で、和平協定による「ゲリラへの過大な恩赦」への反発も背景にあった。戦争を経験した地域が和平を支持し、戦争から距離のあった地域が反対した。この構図は、2026年の大統領選でも変わらなかった。
ペトロ政権への不満があっても、デラエスプリエジャ氏の治安政策が過去の問題を繰り返す可能性を警戒した農村部の有権者は、セペダ氏を支持した。しかし決選投票では、保守の地盤が強い都市部の左派への恐れと憤りがそれを僅かに上回った。

「反左派」が生んだ極右政権は、構造的問題にどう向き合うのか
既成政治への不信が深まり、中道勢力が後退し、対立が先鋭化する。穏健な改革を訴える政治家が支持を集めにくくなり、過激な言説で台頭する候補者が現れるといった特徴は、コロンビアに限ったことではない。
ラテンアメリカ政治を専門とするドイツ人政治学者ヘニング・ズール氏は、ラテンアメリカで右派ポピュリスト候補が若者に強い支持基盤を持つ背景をこう指摘している。
「若い世代は20世紀後半に各国を覆った右派軍事独裁政権を経験していない。その一方で、変革を期待された近年の左派政権による汚職や経済危機、社会の停滞を目の当たりにしてきた。彼らにとって右派ポピュリストへの支持は『イデオロギー的熱狂』ではなく、期待に応えられなかった左派政権に対する怒りの結果だ」
コロンビアでも、変化を約束した左派政権への失望が、新たな右派ポピュリストへの期待へと転化した。
しかし、「反左派」の票を集めたデラエスプリエジャ政権は、紛争の現実にどう向き合うのか。赤十字国際委員会が「過去10年で最悪」と記録したコロンビアの人道危機は、対話だけでも、武力だけでも解決できない構造的な問題の深刻さを示している。
国家の統治が及ばない農村では、武装組織が暴力の主体であると同時に、紛争調停や秩序維持を担う「統治機関」として機能してきたと、コロンビアの政治学者クリスティナ・デ・ラ・トーレは、コロンビアの全国紙「El Espectador」で述べている。2016年の和平合意後、FARCが去った空白を別の武装組織が埋めたように、武装組織を軍事的に排除するだけでは同様の混乱が繰り返される可能性は高い。

紛争の背景には、土地所有に象徴される深刻な社会格差、農村に広がる国家不在、排除的な政治構造がある。
コロンビアは、軍事作戦で一時的に暴力を抑え込めても、それだけでは永続的な「平和」につながらないことを繰り返してきた。だからこそ紛争地域では、強硬策が再び農村住民の犠牲につながるのではないかという懸念が根強い。
2016年の和平協定は、単に政府とFARCの戦闘終結を定めたものではない。紛争を生み出してきたコロンビア社会の構造そのものを変えようとする総合的で野心的な取り組みであり、数多くの専門家が参加し、作り上げたものだ。平和な状態をコロンビアに定着させるために、政権が変わっても取り組みが継続していけるよう、協定は法制化されてきた。
武力制圧を掲げる新政権は、この平和への積み重ねを継承するのか、それとも転換するのか。暴力を生み出してきた社会構造をどう変えていくのか、次の4年間が試されている。
(2026.6.22 / 執筆・撮影 柴田大輔)
柴田大輔(しばた だいすけ) 1980年茨城県出身。2006年よりニカラグアなど、ラテンアメリカの取材をはじめる。コロンビアにおける紛争、麻薬、和平プロセスを継続取材。国際ニュース情報サイト「ドットワールド」での連載「コロンビア和平から10年 混乱する農村から」など。国内では茨城を拠点に、土地と人の関係、障害福祉等をテーマに取材している。地域メディア「NEWSつくば」で活動中。(公式サイト、公式SNS:X / Instagram)【▶︎記事のはじめに戻る】
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