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「黙っていること、静かにおさまること、それが正しいとずっと思っていた」  赤木雅子さんが語る、真相究明を目指し、声をあげ続ける理由

なぜ国有地が8億円も値引され売却されたのか…この疑問に端を発した「森友学園問題」。追及が続く過程での公文書改ざんまでもが発覚し、2018年6月、財務省が調査報告書をまとめたものの、なお判然としないことが多々ある。そもそもなぜ、ここまで巨額の値引きがなされたのか。売却された土地に開校される予定だった小学校の「名誉校長」に安倍昭恵氏が就任していたことを国会で問われると、首相は「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」と応じた。その言葉が後の改ざんにどのように影響したのか。公文書の改ざんはどういった指示系統でなされ、当時理財局長だった佐川宣寿氏は、そこにどう具体的に関わったのか。不都合を隠していた側である財務省の内輪の調査だけでは、曖昧な結果しか出てこない。(参考:2020年7月19日放送 黒板解説「終わらない森友問題 赤木さん裁判」(TBS NEWS)

改ざんを強要され自ら命を絶った財務省近畿財務局の赤木俊夫さんの妻、赤木雅子さんは、今年3月、俊夫さんが遺した手記の公表と同時に、国と佐川氏に対して真相解明を目指し提訴した。

この問題を取材し続けてきた相澤冬樹氏と共に刊行した著書『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋)には、これまでの歩みと葛藤が凝縮されていた。今どのような思いで裁判に臨み、何を望んでいるのかを改めて伺った。


―ご著書『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』には、生前の俊夫さんの姿がありありと描かれていました。とても趣味が多彩で、書道から(石に印章を彫る)篆刻まで幅広かったのですね。

書道は長く続けていたのですが、それ以外の篆刻などは余裕ができたここ5、6年のことです。まずは展覧会や本を見ることから始まって、実際に彫れたのは5個くらいだったと思います。落語は必ず2枚チケットをとって、私も同行していました。

―お二人が出会われたきっかけも綴られていますが、お会いして2回目でもうプロポーズがあったのですね。

私はあまり迷わないし後悔もしない性格で、夫との結婚もずっと、後悔もなく、何の迷いもなく過ごしてきました。

J-WAVEスタジオでインタビューに答えてくれた赤木雅子さん(右)

―俊夫さんが公務員としてのお仕事に誇りを持っていることは、一緒に過ごされている中で随所に感じられていたのでしょうか?

仕事と真摯に向き合っていることはいつも感じていましたし、亡くなった後に近所の方から、夫が「僕の雇用主は国民」、「国民の皆さんのためにできる国家公務員という仕事に誇りをもっている」と話していたと聞きました。そういうことを言う人だし、その通りだな、と思っています。

―改ざんを強要された後、苦しむ俊夫さんにずっと寄り添ってこられていましたが、亡くなられた後、俊夫さんが遺した手書きのメモやパソコンの中の手記で、改めて問題の根深さを知ることになったのですね。

手記の中には佐川さん以外にも、個人名が何人も書かれていましたし、それだけでも恐ろしいな、という感覚がありました。それから財務局の方々が自宅に来られて、「マスコミには接触しない方がいい」「手記は公表しないほうがいい」という働きかけがありました。その後、実家にいても、たくさんマスコミの人が家の周りを囲んでいて、余計に「これは大きいことになってしまった」、「これは出してはいけないものなのかな」、という気持ちになりました。

―「マスコミには接触しない方がいい」という職員や関係者のアドバイスは最初、「気遣い」だと思っていたのですね。

それももちろん、思いました。守ってくれているんだろうな、という感覚が当時はありましたし、実家の家族にも迷惑をかけたくないと思っていたので、黙っていること、静かにおさまること、それが正しいとずっと思っていました。

―その後、そのアドバイスが本当に「気遣い」に基づいたもとだったのか、疑問を持たざるをえない出来事が続いたと思います。例えば麻生大臣がお墓参りにという話があったにも関わらず、間に入っていた職員さん、しかも俊夫さんが慕っていた方が、雅子さんの意志を捻じ曲げて伝えてしまった。麻生さんはその後記者の前で「遺族が来てほしくないと言っている」と答えています。

麻生さんには今でも、来て頂いて、手を合わせてほしいと思っています。当時「来てほしい」と伝えたにも関わらず、間に入っていたその方に次の日、「マスコミが来ると雅子さん大変だから断っておいたよ」と勝手に断られたときは、裏切られたような気がして、本当に腹が立ち、許せない気持ちでした。信頼していたし、何度もお会いしたことがあった方だったので。でも、我慢しました。黙っておくことが、自分の家族にも迷惑をかけない一番の方法だと思っていたんです。麻生さんのお墓参りの話があったのは6月でしたが、その職員の方に「私はすごく怒っている」と伝えたのは8月、2カ月経ってようやく、でした。それまでは自分の中に押し込めて生きていました。

―俊夫さんが働いていた組織や上司たちが、改ざんを強要するなどということはもちろん、ここまで一人の死の責任をとらない態度を示すことは、当事者になるまで予想もできないことだったのではないでしょうか?

夫の手記には佐川さんが指示したと書かれていましたが、もしそれが本当だとしたら、夫のところまで指示が降りるまでに何人もの人が携わっていると思います。勉強もできて出世したような方々が、どうしてやったらだめなことを、下に降ろして指示してきたのかが不思議でたまらないんです。その経緯を知りたいと思っています。

―そもそも第三者性のある検証が行われ、様々なことが明らかになっていれば、裁判に踏み切る必要はなかったわけですよね。

財務省ではない第三者、誰かが調べてくれないと、都合のいいものしか出てこないと思います。2018年6月の報告書には、夫が亡くなったこと自体も記載されていませんし、夫の手記を見せてほしいとも言われていません。夫が何に苦しんだのかを調べずに報告書を書かれても、それが真実だとは思えません。まやかしというか、ごまかされているような気がします。今でも裁判をやりたいわけではないんです。こうやって取り上げて頂くのは嬉しいけれど、私の本心としては静かに生活したい、と思っているんです。でも、私が今これをやらないと真実は出てこないことが、この間でよく分かったんです。

―直属の上司だった池田靖さん(当時は統括国有財産管理官)は、俊夫さんが文章の改ざんについて整理したファイルを残していたと話されています。そのファイルがどこにいったのか、なぜ報告書に反映されていないのかも明らかになっていません。

こうして謎があるにも関わらず、「調べ尽くしたから再調査はしない」という麻生大臣や安倍首相は何を言っておられるのだろうと、思います。あると分かっているものを出してくれたら、分かっていくはずなんです。夫の公務災害が認定された理由についても、開示された文章の殆どが真っ黒でした。

―そもそも改ざんの強要は「公務」なのか?という疑問もあります。

公務で犯罪のようなことをさせているのであれば、それはパワハラでもあると思いますし、そういったことも明らかにしてほしいと思います。

―手記が公表された際、麻生大臣はそれを読まないうちに「再調査はしない」と記者に答えています。

切り捨てられた、見捨てられた、という思いで、とても悲しい気持ちでした。

俊夫さんが常にスケジュール帳に挟み、擦り切れるほど肌身離さず持っていた国家公務員倫理カード。この通りに皆が行動していれば、こうした事態は起きなかったはずだと雅子さんは語る。

―国家権力と言う大きな力に対して裁判を起こすことは、恐さを伴うものだと思います。

国を相手にこんな大きなことに踏み切るのは、もちろん恐さ、恐怖も感じます。でも私は、亡くなる前の夫が、人が変わったように苦しんでいる姿を1年間見てきました。夫が壊れていく、人格が壊れていくのを見た恐怖に比べれば、大したことはなくて、こんなことはなんともない。あの時の辛さに比べたら、比べ物にならないんです。夫のことを想ったら、平気で進んでいけます。

―メディアに出て下さることも、とても勇気と力のいることだと思いますが、やはり雅子さんを動かしているのはそうした思いなのでしょうか。

人生であんな辛い思いをしたのは、あの時が初めてでした。あんなに楽しくて明るくて元気な人間が、あんなに壊れていってしまった…。それも職場のことで。あの時の夫のことを思うと、元気が出るわけでもなくパワーが出るのでもなく、一生懸命やろうという力になります。

―ご自宅には、改ざんを強いられる前の俊夫さんと、その後の様子、両方の写真を飾っていると伺いました。

1枚は改ざんの2カ月後の写真なのですが、あの時の苦しんでいた夫のことを忘れたくなかったんです。でも元気なときの様子も、どちらも忘れないように、2枚の写真を毎日見ながら生活しています。

相澤冬樹氏と共に刊行した『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋)

―ご著書『私は真実が知りたい』には「嫉妬深い男社会」という言葉もありますが、この本をより女性に読んでほしいそうですね。

夫が亡くなった後に、財務省や財務局の方がたくさんうちに来られましたが、私を組織の人間として扱うというか、「あなたはこの立場なんだから、麻生さんの墓参りを受けるなんておかしいでしょう」、だったり、こうしなさいという圧を感じたんですよね。「男社会」に引きずり込んでいくような。

―まるで組織の「駒」のように見てくる態度、と。

それをすごく感じたので、「男社会」って嫌だな、と。こういうことが公務員の中でも一般の企業でもたくさん起きているんだと思うんですけれど、できたらこの本を女性の方々に読んで頂いて、社会を変えていって頂けたら嬉しいな、と思っています。

―本の刊行前にも、第三者による公正な再調査を求めるオンライン署名が35万筆も集まりましたね。

夫が亡くなった当初は、世間の人にどう思われているんだろう、と心配でしたし、裁判すると決まってからも、それがどんな風に受け止められるのか不安がありました。署名だけではなく、お手紙もたくさん頂いて、後ろから支えて下さっているんだな、ということを実感しています。自分の名前を公表したりインタビューを受けたりすることができるようになったのは、そういう声を頂いたからだと思います。

―ご著書では、政治や国家公務員を動かすのは世論だ、と書いて下さっています。

夫が亡くなるまで追い詰められた改ざんはなぜ起きたのか、私はそれが知りたいだけで、安倍政権を倒したい、安倍批判をしたい、という思いではないんです。一人でも多くの方に、こういうことがあったと知って頂くだけでも、何か変わってくるんではないかと思います。ぜひ、この本も読んで頂きたいと思います。


このインタビューを放送したJ-WAVE「JAM THE WORLD」で、雅子さんは坂本龍一さんたちが組んでいたYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の「Tong Poo」を選曲して下さった。俊夫さんにとって、坂本龍一さんは強烈に影響を受けた音楽家で、「近畿財務時報」に「坂本龍一探究序説」という文章も書き残している。『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』には、こうして生き生きとしていた俊夫さんの姿が記されているからこそ、なぜその日々が理不尽に奪われなければならなかったのか、なぜその真相がうやむやにされたままなのかと、心が震える。雅子さんはその本の中で、「政治や国家公務員を動かすのは世論だ」と綴っている。この事件の真相を解明する追い風を生み出すのは、彼女だけではなく、私たちでもあるはずだ。

(2020.7/インタビュー聞き手 安田菜津紀)

▶よりそいホットライン
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誰でも利用できる悩み相談窓口です。
電話、FAX、チャットやSNSによる相談にも対応しています。

▶︎電話相談システム「#いのちSOS」
https://www.lifelink.or.jp/inochisos/
自殺対策に取り組むNPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」運営(2021年2月開設)。窓口は年中無休で、相談員約70人が12:00~22:00に受け付ける態勢でスタートし、将来的には24時間対応を目指すとのことです。電話番号(0120)061338は、「おもいささえる」で覚えておくと安心です。

※電話が繋がりにくい場合、下記、都道府県別相談窓口一覧(いのち支える 自殺総合対策推進センター)もご参照ください。
https://jssc.ncnp.go.jp/soudan.php

※この記事はJ-WAVE「JAM THE WORLD」2020年8月5日放送「UP CLOSE」のコーナーを元にしています。SPINEARでお聴きになる方はこちらから ⇒リンク

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