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松中権さんオススメ、LGBTQ+関連カルチャー作品

毎年6月は「プライド月間」として、世界各地でLGBTQ+(※)の権利や文化を啓発・支持を示すイベントが開かれます。それぞれの存在を尊重し、誰もが自分らしく生きていける社会を育んでいくためには、自分とは違った様々なセクシャリティ・性自認のあり方に触れてみることも大切でしょう。今回はLGBTQ+に関連したカルチャー作品を、ゲイ・アクティビストの松中権さんの紹介でお送りします。最新の作品から、ずっと大切に触れてきたものまで、漫画や絵本、ドラマなど、ご紹介頂きました。

(※)LGBTQ+
〔L〕レズビアン・女性同性愛者、〔G〕ゲイ・男性同性愛者、〔B〕バイセクシュアル・両性愛者、〔T〕トランスジェンダー・性別越境者 、〔Q〕クエスチョニング・クィア、に加え、他の多様な性のあり方を〔+〕で表す用語。本記事ではこちらの用語を用いていますが、性的指向・性自認に関して自らを表現するために使う言葉には様々なものがあり、これ以外の表現を否定する意図はありません。

ゲイ・アクティビスト、NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権さん。


1.『キミのセナカ』(漫画)

僕自身がゲイなので、ご紹介するものもゲイに関連したものが多くなってしまうのが申し訳ないのですが、まずオススメしたいのは『キミのセナカ』という漫画です。元々ゲイ雑誌などでイラストを描かれていた野原くろさんによる作品です。

こちらの作品の興味深いところは、日本ではなく韓国で初めに刊行されたんですね。それが台湾やフランスなど、各地で翻訳され広がっていき、逆輸入の形で日本でも出版されました。

出版元は「サウザンブックス」という、現在の流通の仕組みでは中々出版されない、けれど本当に素晴らしい作品を、クラウドファンディングを通じて世に出していこうという取り組みをされている会社です。僕自身、サウザンブックスの「PRIDE叢書」というプロジェクトによる作品には多くのお気に入りの本があります。

この『キミのセナカ』という作品は、ジャンルでいうと「BL(ボーイズラブ)」なのかもしれないのですが、いわゆるBLとはちょっと違って、なんというか、僕自身の中学・高校時代を思い出すような、甘酸っぱい気持ちが全部詰まっているような作品なんです。

僕は金沢の田舎の出身なので、10代の頃に遊ぶといっても、山に登ったりとか、その程度のことしかないんですけど、そうした体験を思い出すような情景描写もお気に入りです。もちろん、僕のころとは違って、スマホがあったりと、ツールは進化しているわけですが。

主人公は高校生で、自分がゲイだということに気づいてはいるのですが、もちろんそのことは周りに言えない。周りの同級生が、女性アイドルやグラビアの話で盛り上がっていてもついていけない。近所で結婚の話が出るたびに、「自分もいつかそうならなきゃいけないのかな」と悩んだりする、そんな男の子です。

そんなある日、小さな時に幼馴染だった男の子が、転校生として戻ってくるんですね。柔道をやっている、がっしりとした体格の男の子で、主人公はその子に恋心が芽生えていく。その幼馴染から「手を繋がない?」と言われて、それが「友達」だからなのか、もしかしたら自分と同じような思いなのか……「え?どういうこと?」って、悩むんですね。自分がゲイだとばれてはいけないと思いながらも、少しずつ距離が近くなっていく。BLといっても決してセクシャルな漫画ではあく、そんな甘酸っぱい青春時代に、自分の性的指向に悩みつつも、否定できなくなっていくという、そんな物語です。

たとえLGBTQ+当事者ではなかったとしても、「誰かのことを好きになる」という気持ちや切なさ、様々な悩みなどは、性的指向と関係なく、多くの人が感じれるものではないでしょうか。

好きになった人のことを周りに相談できない、自分の性的指向に悩みつつも恋心が芽生ええていく……僕自身の青春時代を思い起こすような作品でもあります。誰もが自分の気持ちに正直になれる社会であればいいなということも、改めて感じさせられます。

2.『LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』(単行本)

同じくサウザンブックスの本なのですが、こちらはアメリカにおけるLGBTQ+関連のできごとをまとめた本です。LGBTQ+の権利獲得の歴史というのは、僕ら当事者でも知らないことがたくさんあるのですが、その歴史を丁寧にひも解いています。

子ども向けとは銘打っていますが、大人が読むにも十分な情報量です。歴史というのは、どの角度から見るかで随分と見える風景が変わりますが、時代を経るごとに「改ざん」されてしまうものもあります。

たとえば1969年にニューヨークで起きた「ストーンウォールの反乱」という有名な事件があります。この事件が契機となり「プライドパレード」が始まったと言われますが、その発端には白人のゲイ男性がいたと言われることがあります。けれど実際には、一番最初にストーンウォールで声をあげたのはふたりのトランス女性だったんですね。Marsha P. JohnsonとSylvia Riveraだったのですが、いつの間にか「白人のゲイ男性の物語」に塗り替えられてしまった。こうしたストーリーを勝手に立ち上げた映画監督らは、今でこそ界隈から厳しいバッシングを受けていますが、そうした歴史の改ざんは他にもあります。

この本で読んだエピソードの中で、個人的に好きなものとしては次のようなものがあります。アメリカで「エイズパニック」と言われるエイズの感染拡大が起こった頃の話なのですが、当時は今と比べてLGBTQ+のコミュニティも、ひとつにまとまっていたわけではないんですね。中でも白人のゲイ男性たちは、「自分たちは他の性的マイノリティとは違うんだ」と、半ば他のセクシュアリティの人々を蔑むようなスタンスで運動を行っていました。

ところが、エイズパニックによりゲイの人々の間に感染が広がっていく。恐ろしい病気であるという偏見もあいまって、医療従事者も中々積極的には関わろうとはしない。そんなとき、「なんとか助けよう」と立ち上がったのがレズビアン・コミュニティの医療従事者たちだったんですね。マイノリティの中でも、蔑まれ、排除されてきたレズビアンの人々の行動について知ったとき、僕自身も震えるような気持ちでした。

日本におけるLGBTQ+関連の歴史というのは、まだきちんとまとめられている状態ではありません。やはり歴史やアーカイブというものは、きちんと伝えていく必要のある大切なものなんだなあと、この本を読んで改めて実感しました。

3.ジュリアンはマーメイド(絵本)

次は絵本の紹介です。『ジュリアンはマーメイド』という絵本なのですが、これがまたいい絵本なんです!僕は「ポット出版」という出版社から出ているLGBTQ+関連の絵本が大好きで、よく友人にもプレゼントしたりするのですが、この『ジュリアンはマーメイド』は、ポット出版以外で初めて「素晴らしい!」と思えた絵本だったんですよね。

本当に絵がきれいで、どのページをひらいても独特の色使いに引き込まれます。やっぱり絵本ってストーリーも大事ですけど、絵の力も大きいですよね。

ある男の子が、「自分は本当は人魚なんだ」って、自分の中でイマジネーションを膨らませていくような物語なのですが、誰かを否定することなく、自分は自分らしくいていいんだということを、ページをめくりながら教わるような、本当にこれは……いい!(笑)

僕自身、子どもがふたり生まれて、絵本の役割についてすごく考えるようになったんですね。もし自分の子どもが性的マイノリティの当事者だったら……とか、もしクラスで当事者の子どもをいじめちゃったりしたら……というようなことを考えたときに、こういう絵本を読んでほしいなと。子どもって、本当に読みたい本じゃないと読まないと思うんですよね。そんなときに、絵でも惹きつけられる絵本って、やっぱり凄いなあと思います。

この絵本は世界中で売れているのですが、やっぱり絵の美しさや、子どもの心を惹きつける何かが際立っているように思います。

★松中権さんオススメの、LGBTQ+をテーマにした絵本の一部は、現在ポット出版のサイトで期間限定で試し読みができます。どの本もとても素敵なのでぜひ見てみてください。詳細はこちらから↓
『タンタンタンゴはパパふたり』などLGBT絵本のためし読みで、全文が読めます(ポット出版)

4.『3人で親になってみた ママとパパ、ときどきゴンちゃん』(エッセイ)

次はエッセイです。こちら、身内(※)の本で恐縮なのですが……3人の親たちの葛藤や衝突などが生々しく描かれています(笑)。「え?そこまで書いちゃうの?」というようなところも、まぁいっかと……。副題は僕が考えました。この3人の関係を一番よく表す言葉はなんだろう、と考えていて、「『ママがいて、パパがいて、ときどきゴンちゃん』がいるってことだよね」と僕が言ったら、そのまま採用になりました(笑)。もし読んでいただけたら嬉しいな、ということでご紹介させていただきました。

(※)身内
トランスジェンダー男性としてLGBTQ+関連の活動を行っている著者の杉山文野さんとパートナーの女性は、共通の友人である松中権さんに精子提供を受けて出産、3人で子育てをしています。

5.『ポラリスが降り注ぐ夜』(小説)

ゲイに関する作品が続いてしまうので、ちょっと違ったものをご紹介させてください。李琴峰さんの『ポラリスが降り注ぐ夜』という小説なのですが、この小説にはレズビアンの登場人物が出てくるんですね。

ゲイやトランスジェンダーの作品というのは割と多いのですが、どうしてもレズビアンの方々の作品というのは、まだまだ世に出にくい風潮があります。特に当事者の目線で描かれたものとなると、どうしてもゲイの作品が多くなる。トランスジェンダー関連のものにしても、トランスジェンダー「女性」の作品が多いです。これは、マイノリティの世界であっても、男性優位社会による差別・格差があるということを示していると思います。

『ポラリスが降り注ぐ夜』ですが、この作品には新宿二丁目のことが出てくるんですね。二丁目のレズビアンバーの様子などがかなり丁寧に描かれています。その描写がとても素敵で、登場人物の一人ひとりが様々な背景を持っているということであったりとか、ちょっとしか出てこない脇役も、とても繊細に描かれている。そうしたそれぞれの人生の物語がキュッと詰まっているような、そんな作品です。実は僕は小説は苦手なほうなのですが、この小説はすんなりと読めました。

新宿二丁目って、やっぱり当事者にとっては凄く大切な場所だと思います。この数十年で形作られてきた街なんですけど、「この街があったから生きてこれた」という人が少なからずいるわけです。そこにいる一人ひとりに違った人生があるわけですが、けれどその街について、ゲイ以外の視点で書かれているものが、本当は存在しているのだけど、なかなか知られていなかったりもするんですよね。そういう意味でも李さんの小説は、とても大切な作品だと思いますし、こうした男性の優位性のようなものは、本当に意識して変えていかなければならないところだと思います。

6.『ファースト・デイ わたしはハナ!』(ドラマ)

最後に映像作品を紹介したいのですが、間違いなくオススメしたい作品として、『ファースト・デイ わたしはハナ!』というドラマがあります。

元々はオーストラリアのテレビドラマだったのですが、現在日本でも放送されています。主人公は男の子として生まれて、小学校卒業まではトーマスという名前で、男の子として学校に通っていたんですね。けれど自分が本当は「女の子」であると、自分では気づいている。それで、中学校にあがり学区が変わるタイミングで、ハナという「女の子」として学校に通い始めます。

お母さんがとてもサポーティブであったり、学校の校長先生が「多様性は大事」と受け入れる姿勢を示しながらも、中々深くは理解していなかったりという描写は、LGBTQ+の「今」を丁寧に描いていると思います。

トイレはどうするのか、昔の友人と出会ったら……。あまりネタバレになるとあれなのですが、いじめっ子にも複雑な背景があったりと、LGBTQ+の話ではあるのですが、色々な子どもの視点が盛り込まれている作品です。

ハナ役の俳優は実際にトランスジェンダーで、LGBTQ+に関して政治家にスピーチをしたりするような子で、等身大のリアルな感情を役としても表現していると思います。色々な場面で勇気をもらえるドラマです。

これがちょうど(この記事の出る)週末の土曜日(6/26)に全4回、まとめて放送されるとのことですので、この機会にご覧になってみてはいかがでしょうか?


以上、松中権さんオススメ、LGBTQ+関連カルチャー作品をご紹介いただきました。ぜひ気になるところからチェックしてみてください!

2018年、台湾LGBTプライドパレード。

(2021.6.24 / インタビュー 佐藤慧)


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