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2019.9.19

【取材レポート】国という枠を越えて(韓国)

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2019.9.19

Report #Sato

9月上旬、韓国はソウルに滞在していた。滅多に上陸しない大型台風がやってくるタイミングとあって、街中では木々が荒々しく揺れていた。韓国は時々訪問する。プルコギやマッコリなど、その食文化が大好きだという理由もあるが、10年来の友人も幾人か住んでおり、海外取材に行く途中でふらりと寄ったり、何か日韓の間で問題が起こると、意見を聞きにいったりと、気軽に訪れてきた国だ。

都会の様子も日本に似ているからか、「外国に来た」感じはあまりしない。

今回訪れたのは、テレビや雑誌、SNS上で繰り返される“嫌韓感情”にとても違和感を感じたからだ。実際に日本での日常に恐怖を覚えることがあるという韓国人の知人もいる。政治や経済、国防のことを慎重に考え、お互いに議論を重ねていくことはもちろん大切なことだが、その過程で「そこに暮らす人々」をひとまとめにして、憎悪や嫌悪の感情を募らせることに危機感を覚えるのだ。もちろんその反対に、大きな主語に対して好感を抱くケースも多々あるだろう。これは日本、韓国に限った話ではなく、「内と外」という構造の中で社会を形成してきた人類全てに見られる現象だと思う。
僕は韓国にも友人がいるし、別に彼ら、彼女らとは「韓国人だから」友人なわけではない。朝鮮半島にルーツを持つ、いわゆる「在日」と呼ばれる友人もいる。70億人を超える人々が暮らすこの惑星で、たまたま同時代を生き、人生のどこかで巡り合ったご縁の中で、その友人の国籍が韓国だったり、コンゴ民主共和国だったり、東ティモールだったりするだけだ。複数の国籍を持つ友人や、新たな国籍を取得しようとする友人もいる。国籍について考えたことのない人もいれば、その区切られた境界線上で苦しむ人もいる。外的な要因でその枠内から追い出され、同じ地球上で暮らしながらも、どこにも属すことのできない人々もいる。国籍というものはその人を構成する要素のひとつでしかなく、それを以てその人の人格や尊厳を否定することなど、誰にもできない。

韓国人の友人と訪れた飲み屋街。入り組んだ路地は歩いているだけでも楽しい。

日本政府観光局(JNTO)の報道発表資料(※1)によると、2019年8月に日本を訪れた外国人数は、前年の同月と比べて-2.2%の252万100人。しかし累計で見れば、2019年1~8月の観光客数は2,200万人を超えており、前年度比+3.9%(※2)である。8月の韓国からの訪日者数は前年度比-48.0%と、その他に下落しているインドネシア(-7.3%)、香港(-4.0%)と比較しても大きく減少している。それでも、韓国から訪れた約31万人という訪日者数は、中国からの約100万人、台湾からの約42万人に次いで3番目に多く、日本と韓国の市民レベルでの交流が、諸外国と比べて決して少ないわけではないことを示している。政府同士の距離感と、実際にそこに暮らす人々との関係性というものを同一視しない冷静な姿勢が、今必要なのではないだろうか。
実際にソウルの街中を歩いてみると、特に今までと極端に違った空気を感じるわけでない。毎週土曜日に大きなデモが行われているという景福宮前の大通りを歩くと、確かにあちらこちらに、それぞれの主張を掲げ、ときにマイクで演説をする人々がいる。「女性に対するセクハラ問題」を訴えるデモや、「政治家の退陣」を求めるデモ、「北朝鮮の脅威に対抗するためにアメリカとより密接に連携すべき」だというデモや、「米軍基地移転(拡大)反対」を掲げるデモ、「朴槿恵元大統領の解放」を求めるデモ…と様々だ。しかし、ひとつ道路を脇にそれると、どこからかプルコギの匂いの漂ってくる、いつもの繁華街の姿がある。

文在寅大統領に対するデモ。あちらこちらで多種多様なデモが繰り広げられている。

日本に対する反応はどうだろうか。日本製品の不買運動や、安倍首相の進める政策に反対するプラカードを掲げるデモなどは確かに存在するが、少なくとも僕が話を聞いた人々の中に、「日本人そのものを憎んでいる」という人はいなかった。在韓国日本大使館前では、毎週水曜日に「慰安婦問題の解決(※3)」を求めるデモが開かれているが、そこに設置されている少女像の傍らで活動を続ける学生に話を聴いても、「日本の文化も、人々も好きですし、連帯して社会を良くしていくことの大切さを信じています」と語ってくれた。過激なデモを行う人々も一部いるかもしれないが、それはデモの中でも極端な例だという。あるデモで出会った高校生は、「日本の文化が大好きです、来年遊びに行きたいので案内してくれますか?」と、携帯電話の翻訳機能を使って熱心に話しかけてきてくれた。
「NO ABE」というプラカードを掲げるデモを企画したことのある活動家にも話を聴いた。安倍首相個人を名指しでの主張だが、あくまでもそれは現在の安倍政権の推し進める政策に対してのことであり、個人を攻撃したいわけではないという。デモの準備を進める中で、「NO JAPAN」というメッセージを掲げようという意見も出たというが、「反対したいのはあくまでも政策であって、日本に暮らす人々ではない」という理由で行わなかったという。今の日韓関係については、「政治やメディアに国民感情が煽られている」と感じている人が多かったというのが現地での実感である。

「慰安婦問題」というものは、本来人間の尊厳や戦争の狂気に関する問題であるはずなのに、いつのまにか両国政府は外交のカードとして利用していないだろうか。

ところで僕は今回、「一緒により良い未来を創りましょう」と、英語と韓国語(朝鮮語)、日本語で書いたボードを持参した。このボードと一緒にポートレートを撮影することで、そこにいる人々が、僕らと同じく顔と名前を持った個人であり、決して対立を望んでいるわけではないと伝えられないかと思ったのだ。幸い、どのデモの現場に行っても、日本語や英語を喋れる人がおり、その人々に通訳してもらいながら、きちんと話をしたうえでポートレートを撮らせてもらうことができた。「そんな一部の人と写真を撮って何になる」という意見もあるかもしれないが、僕の会えた限りの一部の人ではあっても、確かにそこにはこのようにレンズに笑顔を向けてくれた人がいたという事実は伝えられるのではないだろうか。

2泊3日の滞在で、20人程の方々に写真を撮らせて頂いた。そのうちの何人かは連絡先も交換し、またの再会を楽しみにしている。

このポートレートを撮影する中で、自分自身、新たに気づかされたことがある。ある青年は、このメッセージには賛同するけれども、このボードと一緒に写真を撮ることには抵抗があるという。そこに「国旗」が印刷されていたからだ。僕は特に深く考えることなく、同じ地球上に生きるものとして、「日本」も「韓国」も仲良く未来を目指しましょう、という安易な意味で国旗も共に印刷した。写真を見てくれる人も、国旗があるほうがわかりやすいだろうという自己都合な考えが働いたことも否めない。しかし、「国」という概念に括られることそのものが苦手な人々もいるのだ。考えてみたら当たり前のことだ。僕自身、「国というものを越えて、ひとりひとりの存在として、一緒に未来を創っていきましょう」というメッセージを伝えたかったにもかかわらず、「わかりやすさ」を理由に国旗というイメージに人々を閉じ込めていたのだ。「でもそのメッセージには心から賛同するよ」というその青年とは、ボードを持たず、ふたりで写真に収まった。国境を越えに行くつもりで、心の中に無自覚な壁を作っていた僕は、そのときやっと「国境」という概念から一歩踏み出せたのかもしれない。

国内政治に鬱憤が溜まっているとき、どこの国でもよく活用されるのは「隣国に対する敵対感情を煽り、関心を外に向ける」という狡猾な手段だ。程よく近く、でも個々人への想像力が及ばないところというのは、格好の的になるのだろう。それは国に限らず、組織という集団の持つ生存本能なのかもしれない。しかしその扇動の結果が、人類の歴史の中で極端な差別主義や虐殺を生み出してきたことを無視するわけにはいかないだろう。このポートレート撮影や、そこから得た学びは、現在の日韓の摩擦に対しては取るに足らないものかもしれないが、僕にとっては未来に希望を与えてくれるものだった。憎悪や侮辱から、対話は始まらない。「あなた」と「わたし」の繋がりで、世界は出来ているのだから。頭で考えた概念だけで世界を分断するのではなく、体で感じる輪郭も大切にしていけたら、人類はきっと国という境界線を越えて、共に生きる未来を選び取っていけるのだと思う。

(写真・文:佐藤慧/2019.9.18)

 


※1 日本政府観光局(JNTO) 報道発表資料はこちら(2019年9月18日発表)

※2 訪日外客数の動向 日本政府観光局(JNTO)  月別推計値「2019年8月推計値(Excel)」より作成

※3 慰安婦問題の解決
2015年、日本政府は当時の朴槿恵政権と、「最終的かつ不可逆的」な解決という合意を結んだが、日本軍による「強制連行」の事実は認めていない。「ナヌムの家」資料館によると、元慰安婦の方々が求めている要求とは以下の7つであり、それを無視して合意に至った朴槿恵政権に憤りを感じている被害者もいる。文在寅政権は「問題はあるが合意は維持する」姿勢を示したが、2015年の合意で設立された、元慰安婦の方々や遺族に支援金を支払う「和解・癒やし財団」を、その支給が終わる前に解散。日本が拠出した10億円の財源のうち、5億円余りの残余金の使途は明確に示されていない。91年の金学順(キム・ハクスン)さんの告白をきっかけに、200名を越える元慰安婦の方々が被害申告を行ったが、既に戦後74年という月日が経っており、今年8月の時点で生存されている方は20人しか残されていないという。

【7つの要求条件】
1.日本政府は日本軍”慰安婦”強制連行の事実を認めよ!
2.これに対して公式謝罪せよ!
3.蛮行の全貌を明らかにせよ!
4.犠牲者たちのために慰霊碑を建てよ!
5.生存者や遺族に対し補償せよ!
6.このような過去が繰り返されないよう、歴史教育の現場でこの事実を教え続けよ!
7.責任者を処罰せよ!

2019.9.19

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