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2022.2.7

「リスクに見合った感染症対応加算を」――訪問ヘルパーへの適切な手当てを求めて

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2022.2.7

連載 #医療・ケア #政治・社会 #安田菜津紀

新型コロナウイルス「オミクロン株」の感染拡大は続き、1月26日、自宅療養者が全国で26万人を超えたことが明らかとなった。暮らしを支える関係者たちの奔走が続く中、感染者に対応する高齢者・障害者の介護職への「手当」を求め、訪問介護事業者の有志がオンライン署名を通して声をあげた。

《厳しい対応をつづける訪問介護ヘルパーに加算手当がない、理不尽で不公平な状態がこれ以上続かないことを強く望みます》

オンライン署名「コロナ陽性者対応をおこなう訪問介護ヘルパーに加算を」の呼びかけ人である、訪問介護事業所「でぃぐにてぃ」代表の吉田真一さんは、サイトにこう綴っている。
 

でぃぐにてぃ代表の吉田さん(撮影:近藤浩紀)

自宅や宿泊施設などで療養する感染者に対して、訪問診療、訪問看護にあたる医師・看護師は、診療報酬による加算ができる制度がある一方で、介護報酬には同様の制度が整えられていない。

吉田さんは、同じく署名の呼びかけ人である特定非営利活動法人グレースケア機構の柳本文貴さんと情報交換をする中で、こうした事態に問題意識を強めていた矢先の1月、自身も濃厚接触者となった。

吉田さんは、自身も四肢麻痺の障がいがあり、「でぃぐにてぃ」や他の事業所からの福祉サービスを受けながら生活を続けてきた。息苦しい防護服に身を包みながらも、嫌な顔を見せずケアにあたる訪問介護ヘルパーたちを前に、「より早く、より簡易な方法で、リスクに見合った感染症対応加算をつける必要があるのではないか」と、介護報酬、障害福祉サービス等報酬に加算するための呼びかけに踏み切った。
 

利用者のケアにあたる「でぃぐにてぃ」スタッフ(吉田さん提供)

訪問介護の現場が直面しているのは、手当の問題だけに留まらない。2021年に新型コロナウイルスのワクチン接種が始まった当初、政府は特別養護老人ホームなど、施設系の従事者は優先接種の対象としてものの、訪問介護など、在宅系の従事者は対象外とされてしまったのだ。当時、厚生労働省は、「施設ではクラスターの恐れがあり、感染が広がっても事業を続ける必要がある。一方、訪問介護は、介護者が感染しても、人を変えることで対応できる」などとしていた。

「他のヘルパーや事業所がカバーすればいい、というのは、論理上は成り立つかもしれませんが、どこも代替の人員が出せるような状況ではないのは厚生労働省も知っているはずです。ヘルパー自身も濃厚接触者になって現場から抜けざるをえなかったり、事業所内でカバーできるだけの人員がいなかったり、もしも他の事業所に頼めたとしても、知らない人が来ることに抵抗感のある利用者さんもいます」

その後厚生労働省は、2021年3月に、一定の条件の元、優先接種の対象とするか判断するよう通知を出したものの、いまだ運用には自治体間で格差がある。
 

自宅で理学療法士のケアを受ける吉田さん(2015年10月、筆者撮影)

加えて深刻なのが、メンタルケアのあり方だ。

「介護職が一番気にするのは、訪問する家にウイルスを持ち込んでしまうことですよね。うちは呼吸器をつけている利用者さんも多いですし、そこに感染源を持ち込んでしまうと、命に関わる危険があることも分かっています。感染リスクを意識して、常に気持ちを張り詰めながら業務にあたらなければならない状況が、この間ずっと続いています。かといって、友達と気軽に会ったり、旅行に行ったりすることもはばかられる空気感がありますよね。ストレスの行き場がないんです」

医療者差別があったように、たとえば保育園などで他の保護者らと話をするときにも、「介護が仕事だと周囲に言いづらい」という声も届くという。

「でぃぐにてぃ」では、「小規模事業場産業医活動助成金」を利用し、職員が保健師に相談できる仕組みを導入しているが、大切なのはこうした助成が受けられることをどのように周知していくかだ。「経営者は日々の事業所をまわすのに必死です。行政側から“こういう支援があります”という周知の働きかけが、もっとあってもいいのではないかと思います」
 

利用者のケアにあたる「でぃぐにてぃ」職員(吉田さん提供)

コロナ禍以前から、介護業界は待遇改善の問題を抱えていた。介護職員の2020年の平均賃金は、全産業の平均よりも約6万円低かった。今月分から実施される「収入3%の賃上げ」も、全職員が対象というわけではなく、その追加費用が公費で負担されるのも9月までの予定だ。10月以降は利用者負担増や介護保険料の引き上げで賄われることになる。

国から不当な扱いを受けていることを訴えようにも、介護業界の声を集約して国に届ける仕組みも整っておらず、「叫んでも伝わらない」というもどかしさを吉田さんは感じているという。今回の加算の要望を実現することはもちろん、こうした業界の問題をあぶり出したいという思いもあるという。集まった署名は今後、首相・厚労大臣に提出する意向だ。

一人ひとりの暮らしを支えてきた介護職の人々を蔑ろにし続けていては、命を安全につなぐ社会は築けないはずだ。人命と真摯に向き合う公的資金の使途が求められている。

(2022年2月7日/文 安田菜津紀)

追記:2022年3月4日、厚生労働省は感染者の介助を行うヘルパーへの手当を、公費で全額助成する方針を示し、都道府県を通じて全国の事業所に通知しました。


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2022.2.7

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