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取材レポート

2022.6.22

「それでも、変化のうねりは止められない」――ウクライナへの軍事侵攻と性的マイノリティの声

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2022.6.22

取材レポート #ウクライナ #戦争・紛争 #女性・ジェンダー #安田菜津紀

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から4ヵ月が経つ。キーウ郊外はじめ、ロシア軍から解放された地にも破壊の爪痕は色濃く残されている。東部では連日激しい戦闘が続き、犠牲者・避難者は後を絶たない。

この軍事侵攻当初から気がかりだったのは、社会的にマイノリティの立場に置かれている人々の状況だった。これまで取材してきた国や地域でも、日頃から脆弱な立場に置かれた人々が、戦禍によりさらに追い込まれてしまう状況を見てきたからだ。今回取材したのは、ウクライナ、そして避難先となる周辺諸国での、性的マイノリティの人々の人権状況だ。
 

破壊の爪痕が色濃く残るキーウ郊外、イルピン。5月17日撮影。

軍事侵攻による「意識の変化」

「ウクライナでは性教育が十分ではなく、“知らないものへの恐れ”が性的少数者への偏見につながっているように思います。教会がいまだ国会議員など、政治に対して影響力を持っており、メディアも“伝統的家族観”から抜け出し切れていないと感じます」

キーウに拠点を置き、人権問題に取り組むNGO、ファルクラムのメンバーでもあるタニア・カジアン氏は、私たちがウクライナ南西部、ザカルパッチャ州を取材中、オンラインでインタビューに応じてくれた。
 

オンラインインタビューに応じてくれたタニア・カジアン氏。写真は本人提供。

ファルクラムではこれまで、性的マイノリティの人々に関わる政策のアドボカシーや、企業の差別に対する取り組み評価などを行ってきた。現在は、軍事侵攻から避難する性的マイノリティの人々を中心に、シェルターを提供する活動を続けている。シェルターには性的マイノリティ以外の人々が滞在することもあり、そうした人々にとっては“初めて”性的マイノリティの人々と向き合う機会にもなっているという。

現在ウクライナでは、原則として18歳から60歳までの男性の出国が禁じられている。そのため例えばトランスジェンダー女性の場合であっても、パスポートなどの公的身分証に記載されている「性」が男性である場合、国境を越えられないという問題があった。ファルクラムでは医師と提携し、心と体の性が一致していないという証明書を発行し、それをウクライナ軍に提出することで、そうした人々の出国を後押ししてきた。
 

国境を越え、多くの避難者がバスや電車でたどり着くワルシャワ西駅には、各所に支援ポイントへの案内板が掲げられている

旧ソ連諸国では、同性愛が犯罪化されていた歴史が長い。ウクライナ国内でも、現時点で婚姻の平等やパートナーシップ制度が法制化されているわけではない。性的マイノリティの人々の権利に関わる唯一の法律は、《職場でバックグラウンドなどによる差別をしてはならない》と規定するもののみだ。

課題は法律の問題に留まらない。米国を拠点とするシンクタンク、ピュー研究所の2019年の調査によると、「同性愛は社会の中で受け入れられるべき」と答えた人たちは、ウクライナで14%に留まった。これは隣国ロシアと変わらない値だ。後述するが、様々な“バックラッシュ(政治的・思想的な激しい反発、反感)”が懸念されているポーランドでは、47%にのぼっている(※)

※The Global Divide on Homosexuality Persists (JUNE 25 2020, Pew Reserch Center)
https://www.pewresearch.org/global/2020/06/25/global-divide-on-homosexuality-persists/

一方、2014年のロシアによる「クリミア併合」や東部での戦闘が始まってから、「よりEU圏に近づこう」「ロシア国家とは違った価値観を」という機運が高まり、それが性的マイノリティに対する意識を変えていくことにもつながるとの指摘もある。
 

旧ソ連時代に設置された、ロシアとの友好を象徴する「人民友好アーチ」は、5月14日、「ウクライナ国民の自由のアーチ」へと名称変更された。

ロシアでは同性婚を事実上禁じる改正憲法が成立し、保守系の政治団体によって、虹色のパッケージのアイスクリームが「LGBTに興味を持つきっかけになる」とやり玉にあげられたこともあった。「それとは違った価値観」を模索しようと人々の意識が働いたこともあり、今年2月24日の軍事侵攻後に行われたNGOなどの意識調査では、明らかにポジティブな変化がみられるとタニア氏は語る。

「これまでメディアはプライド月間にだけ、それも“幸せなストーリー”だけにフォーカスしがちでした。今は、“LGBTQ+もフロントラインにいる”ということがメディアの大きなトピックになっています。同じように命を危険にさらしているのに、なぜ同じ権利を持っていないのか、と」
 

スケープゴートとして利用されるマイノリティ

一方、私は複雑な思いも抱いた。戦争のリスクと“引き換え”に権利を認めようという動きに、果たして持続性はあるだろうか。

「SNS上では、性的マイノリティの兵士たちが、前線からレインボーフラッグなどと共に写真をアップするというアクションも起きています。レインボーフラッグを制服に縫い付けたり、銃などにあしらえる兵士もいました。こうしたウクライナ兵の中には、“私たちはウクライナ軍内でも受け入れられている”と、誇らしげに語る人もいます」

そう語るのは、ポーランドで性的マイノリティの支援を続けてきた市民団体、ラムダワルシャワのスポークスパーソン、イーガ・コスツェーヴァ氏だ。イーガ氏自身は、30年近くに渡ってポーランド国内で活動を続け、2004年と2005年にワルシャワでのプライドパレードが市によって禁じられたときは、最前線で抗議の声をあげてきた当事者でもある。
 

ラムダワルシャワの事務所で取材に応じてくれたイーガ氏

「もちろん、人権は何かの対価として与えられるものではないので、懸念がないわけではありません。ただ、ウクライナはNATO、EU、西側諸国に加わりたがっていますし、ロシアの侵攻に対して支援が必要であることをアピールしなければなりません。つまりはこう言いたいのです。“見てください。ウクライナは西洋諸国の一員です。けれど、それを認めようとしない国(ロシア)があるのです。その脅威と戦うために支援を、武器を下さい”と」

ラムダワルシャワでは、ロシアによる侵攻後、すぐにウクライナからの難民を支援するプロジェクトを立ち上げた。ほぼ24時間オフィスを解放してお茶やコーヒーを提供し、インターネット上に相談フォームも整備した。これまで少なくとも600人以上が、ラムダワルシャワが運営に携わる一時避難施設を訪れてきたという。

「トランスジェンダーの人々の中には、継続的にホルモン投与などを必要とする人々がおり、診断書や処方箋がない、といった問題を抱えている人たちもいました」
 

ラムダワルシャワでは、ウクライナの人々の向けたヘルプラインも運営している

熱心に動く市民たちに活動が支えられている一方で、「ポーランド政府は、残念ながら性的マイノリティの支援に積極的ではありません」とイーガ氏は語る。ラムダワルシャワの活動も政府からの資金援助などはない。

ポーランドでは、アンジェイ・ドゥダ大統領が「LGBTはイデオロギー」と発言するなど差別的態度をとり続け、2019年以降、100以上の自治体が「LGBTのいない地区(排除区域)」を宣言するなど、“バックラッシュ”が深刻化している。こうした背景からも、ポーランドに避難するウクライナ難民の状況を懸念する声が、当初からあがっていた。

「政権は性的マイノリティのことを、スケープゴートに使っているのです。以前はそれが、中東からの難民でした。与党は今、性的マイノリティやジェンダー問題、フェミニストをやり玉にあげています。『そうした連中を野放ししておくと、“家族”が破壊される』と叫ぶのです。この傾向は特に真新しいものではなく、他国でもよく目にする光景です」
 

ラムダワルシャワ事務所外には、ウクライナフラッグも並んでいた

一方、マイノリティの人々の権利向上を訴える動きは、もはや止められるものではないとイーガ氏は語る。2019年には、ポーランド国内で30を超えるプライドパレードが開かれ、ワルシャワでは8万人が参加したという。

今年は戦時下のため、ウクライナのキーウプライドパレードがワルシャワでの開催となり、6月25日にワルシャワプライドパレードと合同で開かれることになっている。2012年にはじまったキーウパレードは、度々極右団体からの暴力的な妨害を受けながらも、昨年には7,000人を超える規模となっていた。

「もちろん6月25日のパレードも、右派政党やメディアの動向が気がかりです。彼らはウクライナをサポートしていますが、性的マイノリティには反対していますから。ただ、パレードの基調は《Love》です。今年はコロナ禍が徐々に落ち着いていることもあり、多くの国から人々が集うでしょう」
 

共同開催予定のキーウーワルシャワパレードロゴ(提供:ラムダワルシャワ)

都市部の次世代を中心に、マイノリティに対する意識が変わり、それが政治に変化をもたらすことになるとイーガ氏は語る。例えば野党が公にパートナーシップ制度などを支持する動きは、これまでにはないものだったという。

「明るい未来があることには疑いを持っていません。それがいつ訪れるのかについてはまだわかりませんが……2023年の議会選挙も大きな試金石となるでしょう」
 

社会変化のうねりは止められない

6月25日に開催される、ポーランド―ウクライナ合同プライドパレードに期待を寄せる、ひとりの男性が話を聞かせてくれた。

「もしかすると今年は、パートナーと参加する初めてのパレードになるかもしれません。ウクライナでもプライドパレードはありましたが、参加したことはありませんでした。反対する人々が石を投げたり、暴力的に妨害することがあったからです」

そう語るスタニスワヴさんは、ロシアによる軍事侵攻以前からワルシャワ市内の大学で学ぶ学生だ。出身は激しい攻撃に見舞われたウクライナ北東部ハルキウ州で、家族はすでにウクライナ国内西部に逃れている。
 

ワルシャワ市内のカフェで取材に応じてくれたスタニスワヴさん

5年前から付き合っているパートナーは、2014年から戦闘が続く東部ドネツク州の出身で、2月24日の侵攻以前から「神経質にはなりすぎたくないが、きっといつか大変な事態になる」と語っていたという。ポーランドに移ってきた動機のひとつは、「安全なところに避難したい」というものだった。

スタニスワヴさんは、今のパートナーとの関係がはじまった20歳の頃、両親や弟に、自身がゲイであることを伝えている。両親は当初驚いていたものの、理解を示しているという。

「ただ、故郷はロシアとも近い小さな街で、とりわけ上の世代には、キーウなどの都会と違ってオープンな人が少なかったように思います。ポーランドは性的マイノリティに対する差別が非常に強いという情報などに接していたので、来る前には不安がありましたが、ワルシャワは安全で開放的であると感じます。例えばここでは、学校の先生にカミングアウトすることもできましたが、ウクライナでは考えられませんでした」
 

ウクライナ、ポーランド国旗の間にレインボーフラッグが掲げられた市内のカフェ

それでも、ポーランド国内で起きている様々な“バックラッシュ”に不安はないのだろうか。

「ポーランド政府はそうしたマイノリティを利用して、他の様々な問題から目を逸らそうとしているだけに思います。ウクライナ政府も似たようなものです。他に何か大きな問題が起きたとき、マイノリティを排除することでそちらに注意を向けようとするのです」

ロシアによる侵攻後、タニア氏が指摘していたような「EUの価値観に近づいていく」ための変化を、スタニスワヴさん自身も感じてはいるという。ただ、気がかりな状況もある。

「例えば雑誌『Vogueポーランド』が最近、男性同士、女性同士がキスをしている写真を全面に使った表紙を作成したんです。ポスターも街中に貼っているのですが、そうしたポスターを塗りつぶして歩き、その様子をSNS上にアップしているアカウントがありました。その投稿には、《こんな人間はいらない》《女性は男性にだけキスをするべきだ》と、ヘイトコメントも大量に並んでいたのです。その投稿をしているのも、コメントを書き込んでいるのも、プロフィールをたどるとウクライナの人々で、中にはポーランドに避難してきている人々もいるということに、大変ショックを受けました。彼ら自身、ポーランドで寛容に受け入れられているのに、と悲しくなります」
 

空港の売店に並ぶ「Vogue」

根深く残る差別、偏見に変化をもたらすことは、決して容易ではない。それでも、世界を見渡せば、婚姻の平等が次々と各国で実現されており、社会が前進していることをスタニスワヴさんは感じているという。「ニュースで見ましたよ。東京でもパートナーシップ制度が始まるんですよね」と嬉しそうに語ってくれた。

日本では同性婚を認めない民法や戸籍法の規定が憲法違反であるとして、同性カップルが国を訴えた裁判で、大阪地裁が「合憲」の判断を下した。国側の主張する婚姻制度の目的は、「一人の男性と一人の女性が子どもを産み、育てながら共同生活を送る関係に法的保護を与えること」であり、同性婚は該当しない、というものだった。改めて思うが、私たちは「生産性」のために生きているのではなく、人権は「生産性」の対価として与えられるものではないはずだ。

日本でも制度の壁はなお分厚く立ちはだかる一方、国を越えた連帯は、イーガ氏が指摘していたように「止められない」うねりともなっている。世界中から人々が集うであろうキーウ・ワルシャワパレードは6月25日の14時より、ワルシャワ市内の文化科学宮殿前からスタートする予定だ。ここで発せられた声は、国境を越え、ウクライナへ、各国で避難生活を送る人々へ、さらには日本にも届くはずだ。
 

パレードの起点になる文化科学宮殿を臨んで

(2022.6.22/写真・文 安田菜津紀)

 


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2022.6.22

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