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取材レポート

2022.11.7

国連が日本に創設を求める「人権機関」とは? なぜ法制化が進まないのか?

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2022.11.7

取材レポート #人権 #収容問題 #法律(改正) #安田菜津紀

各国の人権状況を審査している「国連自由権規約委員会」は11月3日、10月に行われた定期審査を踏まえた日本への勧告を公表し、出入国在留管理庁の収容施設の改善や、国際基準に基く、独立した人権救済機関を創設するよう求めた。

勧告では、2017年から2021年までの5年間で、入管に収容された3人が亡くなったことを受け、「国際基準に沿った改善計画の策定を含む、あらゆる適切な措置をとること」を求めている。3人のうちのひとりが、2021年3月6日、名古屋入管で亡くなった、スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんだ。

2021年10月、スリランカの実家に掲げられたウィシュマさんの写真

ウィシュマさんは2017年6月、「日本の子どもたちに英語を教えたい」と、英語教師を夢見てスリランカから来日した。けれどもその後、学校に通えなくなり、在留資格を失ってしまうことになる。2020年8月に名古屋入管の施設に収容されたが、同居していたパートナーからのDVと、その男性から収容施設に届いた手紙に、《帰国したら罰を与える》など身の危険を感じるような脅しがあったことで、帰国ができないと訴えていた。体調不良を訴え、最後には呼びかけにほとんど反応できないほど衰弱していたにも関わらず、点滴や入院などの措置が受けられることはなかった。

遺族は、ウィシュマさんが最後に収容されていた居室の監視カメラの映像開示を求め、「多くの人の目で検証してほしい」と訴えてきたが、国側は一貫して消極的な態度をとってきた。遺族が原告となり、現在国賠訴訟が続いているほか、名古屋入管側の関係者が不起訴となったことを受け、検察審査会に審査を申し立てをしている。

今回の勧告を受け、ウィシュマさんの妹で、次女のワヨミさんと弁護団は、同委員会にレターを送付した。

その中で弁護団は、そもそもの日本の収容体制の問題を改めて指摘している。無期限の収容自体が ICCPR(自由権規約)の条文に違反しており、「この苦しみに耐えられないので日本を離れたい」と言わせる道具―いわば拷問―として収容を用いてはならないことを訴えている。

また、ワヨミさんはレターに、下記のような思いを綴っている。

まず、この人権侵害に対する関心を喚起していただき、ありがとうございます。私たちは日本政府から何の救済も受けておらず、彼らは残酷に殺害された私の姉が映る監視カメラの映像の開示を拒否し続けています。私たちはこれまで、日本政府から何の支援も受けていません。彼らは姉の死に対するいかなる責任も、明確に認めていません。これからも関心を寄せて頂き、最後まで正義を貫くため、私たちをサポートしてください。ウィシュマ・サンダマリ・ラスナヤケの遺族より。

 

都内で行われた、ウィシュマさんのビデオ開示などを求めるデモ

ウィシュマさん遺族は、顔と名前を公表し、自らの言葉で日本社会に訴え続けてきた。遺族の姿が報道されたことで、初めて入管の収容問題を知った、という声も耳にする。こうした問題に詳しい弁護団が伴走しているとはいえ、ある日突然、遺族にされた人々が、国家という巨大な権力に向き合うことの負担は計り知れない。

もちろん今後、収容体制を抜本的に変えていくことが不可欠だが、もしもこうした不当な人権侵害が起きてしまった場合、迅速に対応していくためには、やはり政府から独立した国内人権機関の設立が不可欠だろう。

国内人権機関とは、裁判所とは別に、人権侵害からの救済や人権保障を担う国家機関だ。原則として人事や業務などの権限は政府から独立し、実際に人権侵害が起きた際、迅速な調査、救済をするほか、立法、行政の活動への提言、市民や裁判官らへの教育・啓発活動などを軸としている。

国連で採択された国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)に適合した機関は、世界で80以上にのぼるとされる。入管問題に留まらない外国人差別の問題や、性的マイノリティ、子ども、障がい者の権利の観点からも早急に設置が求められる機関だ。

これまで日本国内でも、設立の動きがなかったわけではない。2002年3月の国会には、十分な内容とは言えないながらに、人権委員会の設置を含めた人権擁護法案が提出されたが、結局その後の国会を経ても成立には至らなかった。

民主党政権時代の2012年2月21日、当時の小川敏夫法相が衆院予算委員会で、人権救済機関設置法案の国会提出について触れたことに対し、自民党の柴山昌彦衆院議員(その後、18年10月から19年9月まで文部科学相)は「人権の解釈が多義的になっている以上、私は、極めて逆の危険性、つまり逆差別の危険性というものが出てくるのではないかということを強く申し上げたい」と述べた。この「逆差別」を盾にした否定論には既視感があるが、それはマジョリティ側の特権性や優位性に対してあまりに無自覚だろう。

結局今にいたるまで、独立性のある人権機関の設置は実現されていない。

2021年9月、都内で行われた、ウィシュマさんのビデオ開示などを求めるデモで掲げられていたプラカード

今回の勧告を受け、葉梨法務大臣は、「現段階では、個別法によるきめ細かな人権救済に対応していきたい」と述べるに留まり、消極的な姿勢を見せている。「不断の検討をしている段階」としているが、自由権規約の最初の勧告が出されたのは1998年だ。つまり、すでに20年以上「検討」で足踏みをし続けているのが現状だ。

実際に現行法でできる対処は、裁判など限られた手段であり、それには費用、時間、弁護士への依頼など、高いハードルがつきものだ。かつ、裁判所は人権救済のための政策提言まではできない。

ここで二の足を踏み続けることは、泣き寝入りせざるをえない人々の存在に背を向け続けることでもある。待ったなしの具体的な法制化が求められている。

(2022.11.7 / 写真・文 安田菜津紀)

 


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