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インタビュー

2024.5.2

購買や不買を通じての意思表示「消費アクティビズム」の可能性とは?(佐久間裕美子さんインタビュー)

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2024.5.2

インタビュー #政治・社会 #安田菜津紀

「消費」を用いたアクション、「消費アクティビズム」は、国内外、様々な形で展開されてきました。不買運動「ボイコット」や、購買によってその売り手を後押しする「バイコット」など、アクションの形態も多岐に渡ります。

兼ねてからイスラエルによるアパルトヘイト政策に対し、BDS《ボイコット(Boycott)、投資撤収(Divestment)、制裁(Sanctions)》が呼びかけられ、とりわけ昨年10月以降、ガザでの虐殺が続く中、イスラエル関連企業や武器製造企業への投資から手を引くことを求める学生の抗議が米国の大学で広がりました。そして日本国内でも、暴力に加担する企業へのボイコットが広がりを見せています。

こうした消費アクティビズムの意義や難しさ、私たちに身近からできることなどを、文筆家の佐久間裕美子さんと考えました。

佐久間裕美子さん(本人提供)

 
――「消費アクティビズム」はなぜ広がっていったのでしょうか?

私がアメリカに拠点を移した90年代から、例えば大手銀行ではなく地域の信用金庫に口座を持とうとか、地元経営のスーパーを使おうという情報は、日常的にやり取りされていました。

今、Amazonなどの影響で、小さな商店の営業が難しくなっていることに加え、貧富の格差も広がっています。大富豪が運営するGAFAや大企業の経営者に富が集中している現状は、パンデミック以降も変わっておらず、ボイコットやバイコット(応援購買)は活発ですが、焼石に水のようになってはいると思います。

こうした中で、「消費アクティビズム」が力になることもあります。例えば、トランプ大統領が就任した時に、イスラム教徒が多数を占める7ヵ国からの入国を制限する大統領令に署名したことがありました。

その後、イスラム教徒率の高いタクシー業界がストライキを発表して、J・F・ケネディ国際空港への乗り入れを中止する中、Uberがディスカウント・キャンペーンを発表したんです。こうした状況にUberが乗っかって、商売しようとしたこと(※Uberは、このタイミングは偶然だと主張)に反感が広まるということもありました。

 
――差別に抗うボイコットが起きてるのに、「商機」と言わんばかりの動きをしている、と。

そこで #DeleteUberというハッシュタグが広がりました。元々Uberは、インディペンデントコントラクターとして、運転手さんは個人経営者扱いで、待遇が悪く、マーケティングが欺瞞的だという問題が指摘されていました。#DeleteUberの広がりは、上場時の評価に影響するような大きなインパクトを残しました。ハッシュタグキャンペーンは世の中にたくさんありますが、実際に影響を与えることもあるんだと思いました。

 
――企業は「利益」を得られるとなれば動くのでしょうか。例えばNIKEはNFL(全米プロフットボールリーグ)のスター、コリン・キャパニック選手を広告に起用し、株価が上昇したことが話題となりました。キャパニック選手はブラック・ライブズ・マター運動に連帯を示すため、試合前に膝をつく抗議をはじめ、その後、フリーエージェントになってから契約ができない状態が続いていました。

企業が利益のために動く存在だということは忘れてはいけないと思います。NIKEもリーグとのライセンス契約を結んでいて、キャパニック選手の件では加害者側ともいえます。ただ、自分たちのオーディエンスが誰かということを、企業はみな、考えていると思うんです。NIKEの広告は、賛同する側、反発する側、どちら側からも突き上げがあったでしょう。

バドワイザーは昨年、トランスジェンダー女性のインフルエンサーを広告起用した時、極右からの恐喝的な抗議に遭いました。ほかにも、アメリカの小売大手ターゲットは、プライド月間になると、関連商品をたくさん出してきましたが、それが標的になり、極右インフルエンサーが店に押しかけて動画配信して、従業員やお客さんが怖い思いするといったこともありました。

結局その圧力に屈する企業(※)もあるので、応援する側、反対する側、どちらもそうした企業への圧力をも「有効な手法」だと思っている傾向はあると思いますね。

(※)2023年、ターゲットは迷惑行為や脅迫を受け、関連商品を一部撤去するに至った。

 
――社会的な責任を果たしていない企業の商品は買わない、というのが本来のボイコット運動だと思いますが、そうした「不売運動」は日本ではネガティブな文脈で捉えられてしまうことも少なくないと思います。

資本主義の中に株式市場があり、「株主に還元すること」が企業の存在目的になってきましたが、「社会的責任」という考え方は、この何十年かの間で出てきたものです。その果たし方も、昔はもっと、「チャリティ」や「慈善活動」のような考え方だったと思いますが、今は気候変動の問題などを、「社会で一緒に生きる仲間」として考えてほしい、という面が強くなっていると思います。

また、国際的に起きてることに対して、国内でできることは限られますよね。例えば、アメリカに住んでいる私たちが、アメリカ政府に議員などを通じて何かを伝えるチャンスはあるかもしれませんが、イスラエルに対して私が思いをダイレクトに伝える方法はとても少ないわけですよね。そういう意味では、「自分のお金をどこに使うか」を選ぶことは、イスラエルに住んでいない人たちにもできる行為だと思います。

パレスチナに連帯する人々を中傷するような報道をしたとして、ドイツ・ベルリンの新聞社ターゲスシュピーゲル前で抗議活動が行われていた。(2024年3月、安田菜津紀撮影)

 
――日本の中では、イスラエルの軍事企業と伊藤忠の子会社が協力の覚書を結んでいることに批判の声があがりました。

伊藤忠は植林活動にも関わっていますし、これではグリーンウォッシュ(※環境に配慮していることを、実態以上に見せかけたり、誤魔化したりすること)ですよね。

今強く痛感しているのは、軍事産業の大きさです。アメリカの中でも、そこに税金が使われているわけですよね。

BDS運動は2005年から続いていますが、そのベースになっているのは、南アフリカのアパルトヘイトに対して起きた不売運動です。短期的には効果が見えなかったとしても、長期的な働きかけを地道にやっていかないといけないということは考えますね。

ドイツ、ベルリンのドーナッツ店の窓に貼られていたステッカー。(2024年3月、安田菜津紀撮影)

 
――伊藤忠へのボイコットは、関連企業であるコンビニにも及びました。

昨年末に日本に帰ってきて本当に難しいなと思ったのは、コンビニなどが、自分たちの生活の中にすごく大きな存在として根付いていることです。実家の側にあったコンビニがちょうど閉店して、これはいい機会だと「脱コンビニ」をやってみたのですが、それなりに大変なんです。商店が開いていない時間に帰宅するみなさんの受け皿となっていたり、パッとご飯を食べるための存在としても、コンビニは私たちの生活の中に深く入り込んでいるんですよね。

自分のお金が完璧にイスラエルの軍事作戦に使われないようにするのはすごく難しいことで、真面目な人ほど、そうした消費活動の中で自分を追い詰めてしまうと思うんです。

ただ、自分が顧客でないと伝わらないこともあると思います。たとえば私は普段Amazonを使いませんが、Amazonを使ってる人たちからも企業側に意思表示をしていかないと、変えていくのは難しいと思います。

日本はインドネシアやバングラデシュなどで石炭火力に投資してきましたが、大手金融機関がそこに関わっているわけですよね。それに対してその銀行に口座を持っている方々が、「そうした行為には賛同できないから口座を閉じることを検討している」と伝えるなど、「顧客」じゃないと伝えられないこともあるんですよね。そうしたことを組み合わせて、それぞれが自分の消費パターンを認識したうえで、総合的に自分ができることを考えることが大切ではないでしょうか。

 
――佐久間さんは2024年3月末、キヤノンの株主総会に出席したとのことですが、どんな目的で参加をしたのでしょうか?

昨年、キヤノングローバル戦略研究所が、日本語のページだけで発信している気候変動懐疑論について懸念を持ち、株主総会に出席してそれについて質問したのですが、その際に、こうした質問を他の株主さんたちの前ですることの意義を感じ、今年も出席しました。キヤノンは、日本を代表するグローバルカンパニーですし、日本政府への影響も大きいので、気候変動対策に力を入れてほしいという思いがあります。

 
――実際にどんな質問をして、どんな反応が返ってきたのでしょうか?

今年は、競合他社が、再生エネルギーへのシフトの目標を高く掲げているのに比べ、目標を掲げていないことについて質問しました。サステナビリティ担当の部長さんからお答えいただき、再生エネルギーへのシフトだけでなく、商品の寿命を伸ばすことやリサイクルにも力を入れていくとの趣旨のお答えをいただきましたが、再生エネルギーへのシフトの優先度は比較的低いのかなという印象を持ちました。

 
――「株主として発言する」もアクティビズムのひとつかと思いますが、その意義についてはどう感じていますか?

かつて、日本語で「アクティビスト」と検索すると、最初に出てくるのは「もの言う株主」という意味でのアクティビストでした。実際、株主総会に出席してみて、経営陣に直接質問をする稀有な機会だということに気がつきました。株を持っている方たちには、積極的に総会に出席し、気候変動だけでなく、ジェンダー平等の遅れなどについても、質問をしていただくと良いのではないかと思っています。

ドイツ、リューネブルクの路上で。(2024年3月、安田菜津紀撮影)

 
――最近では「バイコット」という運動も注目をされています。

最初に私がバイコットという言葉を耳にしたのは、「バイコット」というアプリができた2014年のことでした。商品のバーコードを読み取ると、《その企業がどこに献金してるのか》 《どういう人権方針なのか》 《従業員をどういう風に大切しているのか、あるいはしてないか》、などといった情報が表示されます。私も最初は喜び勇んでダウンロードしたのですが、実際に日々購入する商品をスキャンしてみると、「これでは何も買えない」となったんですよ。

それから約10年経った今、企業側からの意思表示も増えてきていますよね。例えば、「うちの企業は従業員が中絶を必要とした場合、そこにかかる旅費をサポートします」とか。そういうスタンスを明らかにしてる企業にお金を使いたいという人たちもいて、そうした運動に呼応してバイコットという言葉が少しずつ広まってきたのだと思います。

気候変動の問題でも、責任を果たしていない企業への「けしからん」という声の方が大きくなってしまって、例えば容器やゴミの問題で努力している企業があっても、消費者からの反応が薄いと、「維持するのも大変だからやめてしまう」ということも起きてしまうんですよね。

もちろんグリーンウォッシュやピンクウォッシュ(「LGBTQフレンドリー」を打ち出すことで、他の人権侵害を覆い隠してしまうことなど)には気をつけないといけないのですが、「こういう取組は歓迎です」という気持ちも、もっと伝えていかないといけないと思います。

 
――より良い社会を築くために、消費者一人ひとりにできることは何でしょうか。

みんなの声を束にしないと、世の中は絶対に変えられません。急に大きな力は出せないからこそ、小さなアクションの積み重ねが本当に大切なんだと思います。

例えばスーパーなどで、「プラスチックの包装ちょっと多すぎませんか」と丁寧に伝えてみることもできると思うんですよね。「私はここで買い物するのすごく好きだけど、最近こういうことがちょっとしんどいです」と、相手も人間だということをちゃんと頭に入れて、伝えてみる。

こういう問題って、ほとんどが現場の従業員さん個人の責任じゃなかったりするので、「社内で共有して下さい」と伝えてみることも、できることのひとつだと思います。

例えばインターネットのプロバイダー会社を変える際のアンケートで、「対応してくれた人はすごく良かったけれど、反中絶を主張している議員に会社として献金してますよね」と伝えてみたり。日々生きるだけでも、そうしたチャンスは転がっているので、そのひとつひとつをなるべく無駄にしないでやっていきたいと思っています。

※本記事は2024年1月31日に配信したRadio Dialogue「消費アクティビズムとは」を元に編集したものです。

(2024.5.2 / 安田菜津紀)

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