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Interview

2020.5.20

「同調圧力」が強まる社会の中でも、 映画は人生を豊かにしてくれる

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2020.5.20

Interview #Yasuda

5月2日から、想田和弘監督の最新作、観察映画第9弾『精神0』が公開されています。新型コロナウイルスの感染拡大にともない、劇場での公開が難しい状況が続く中で、「仮設の映画館」という新たな仕組みを作っての公開となりました。この「仮設の映画館」とはどんな取り組みなのか、そして今、浮き彫りになっている様々な社会問題をどう観察し、捉えているのか、想田監督に伺いました。

 

:(C)2020 Laboratory X, Inc

 

委縮が委縮を呼ぶ「同調圧力」

安田:新型コロナウイルスの対策が進められている中で、例えば外出している人々に目を光らせたり、ルールを守って営業している店舗にも嫌がらせの貼紙を貼ったり、行き過ぎた監視が起きています。「自粛警察」とも呼ばれていますが、こうした動きをどうとらえていますか?

想田:本来ならば私たちには、経済の自由、移動の自由が当然、認められているわけですよね。今バッシングを受けているような人たちも、決して法を犯しているわけではありません。普段であれば私たち皆がやっているようなことを、悪意なくやっている。過度に監視したり叩いたりすることで、叩かれている人だけでなく、私たちが皆、事実上基本的人権が停止したような状態になってしまっているのではないかと思います。

安田:“社会の反感”を買った人間には、何をやってもいい、というような息苦しい空気感の中で、寄ってたかってのネットリンチも起きていましたね。

想田:GW中に帰省して感染が分かった女性のニュースも見ていますが、あそこまでバッシングされて犯罪者のように扱われてしまうと、皆怖くて帰省もできないしバーベキューもできないですよ。いつのまにか、そうする権利が私たちからなくなってしまったかのように思います。叩けば叩くほど縮んでいってしまう。

安田:委縮が委縮を呼ぶ、ということですよね。こうした動きは日ごろ暮らしているニューヨークでも見受けられるのでしょうか?

想田:「自粛警察」というよりも、例えばソーシャル・ディスタンシングのルールを守らなければ1000ドルの罰金を科される場合があったり、実際に警察が取り締まりをしていますね。市民同士の過度な監視というよりも、社会の不安やストレスが、ヘイトクライムに吸収されている感じもあります。アジア系の人たちが攻撃を受けたり、国に帰れといわれたり、実際の暴力にもつながっているのは由々しき事態ですね。

安田:アメリカだけではなくヨーロッパの国々の中でも、公権力が私権を強く制限していく動きがありました。こうした感染拡大防止と民主主義のせめぎ合いはどうとらえていますか?

想田:ほとんど議論もされないまま、国や州の指導者が、「明日から外出禁止」、「営業禁止」、と我々の基本的人権を制限するようなことを決めてしまって、僕はショックでした。そして市民もそれを支持する。そこに疑問の声をあげたりすると「人が死んでいるのに、命を粗末にするようなことを言うな」と攻撃をされてしまう。特に民主的な価値を推進してきた欧米の社会でもそういうことが起きることには衝撃を受けました。

安田:私権を制限するからこそ、「これはどうなのか?」とその都度投げかけが必要だと思いますが、その指摘さえ許さないような空気感はありますね。

想田:同調圧力と言うと日本社会で強いイメージがありますが、少なくとも僕がいたニューヨークでもそういう空気が強くなっていて、何も日本だけに限らないんですよね。普段はてんでんばらばらに、それぞれがやりたいことをやっているようなニューヨークでもそういう風になってしまう。

安田:これまでの日本政府の対応についてはどう考えていますか?

想田:日本政府はいまだに、布マスクを各世帯2枚配ることも満足にできずにいます。自粛や休業を要請するのであれば、補償がセットでなければならないと思うのですが、制度がそもそも不十分だし、あってもそれが機能していない状況のように思います。

安田:雇用調整助成金は手続きが煩雑でハードルが高く、例えばアップリンクは吉祥寺と渋谷の家賃だけで500万円かかる、と代表の浅井隆さんも声をあげていたので、そうなると到底足りない額ですよね。

提供:東風

 

相次ぐ著名人へのバッシングも、ひとつの政治的現象

安田:今物議をかもしている検察庁法改正案(このインタビュー後、今国会での成立見送りとなった)についても、声をあげられてましたね。

想田:検事長や検察総長の定年延長も、もし機械的になされるのであれば問題ないと思っています。しかしこの検察庁法改正案では、内閣が検察庁要職の誰に定年を認めるのか、あるいは認めないかに差が出てきてしまうような仕組みになっている。そうなれば、これまで以上に検察内で忖度が生じる可能が高いのではないかと思います。今ですら森友学園や加計学園といった問題にも、検察が忖度しているのではという疑念があるわけですよね。今以上に内閣が人事に介入できるようにしてしまうと、検察が内閣の顔色を窺いながら仕事をしているのではないかと我々も見るようになってしまう。そういうことはやるべきではないし、なぜ今、火事場泥棒的にやるのかも疑問です。

安田:こうした動きに対して、様々な著名人の方々も声をあげてきました。ただ、「潰すぞ」「干すぞ」というバッシングも相次ぎました。

想田:芸能人の人たちが声をあげて政治的な発言をしたときに、それが政権の擁護だとあまりバッシングはされないわけです。それが政権批判になると「政治的発言をするな」「残念です」という声が高まる傾向があって、これもひとつの極めて政治的な現象だと思います。

安田:確かに、「政治的な発言をするな」自体が政治的ですよね。

 

ネット上の配信でも、劇場に収益が分配される仕組みを

安田:観察映画『精神0』についても伺いたいと思います。この映画では82歳で精神科医を引退することになった山本昌知さんと、妻の芳子さんとの日々が映し出されています。前作に当たる『精神』も拝見していますが、まさに山本さんの姿勢が、「病ではなく、人を見る」ですよね。山本さんの元に通われている方、地域で暮らす人たちにとって、山本さんと芳子さんはどんな存在でしたか?

想田:一言でいうと「命綱」ですね。崖っぷちで生きるか死ぬかという危機に立たされているときに、なんとか崖から落ちないでいるために存在している方々だと僕の中では思っています。

安田:私は「内助の功」という言葉が実は苦手です。「夫が主役、妻はそれを支える」という構図が見え隠れする使われ方が多いからだと思います。ただ、映画で映し出されているお二人の姿は、山本さんが大事にされてきた「共生」だったのではないかと感じました。

想田:恐らく山本先生も芳子さんも、長い間「内助の功」のような関係性が続いてきたんだと思います。昌知さんが医師として活動して、それを芳子さんが支える構図でずっとやってこられた中で、芳子さんがご病気になり、お二人とも高齢になられて関係が変わりつつあるんですよね。常に芳子さんが山本先生のケアをしてきたわけですけれど、今は山本先生が芳子さんのケアをしている。関係が真逆になりつつあるというところを映させてもらったんだと思います。

(C)2020 Laboratory X, Inc

安田:今、映画を劇場公開するのが難しくなってしまった中で、『精神0』は「仮設の映画館」で公開中です。この「仮設の映画館」はどういった取り組みなのでしょうか?

想田:『精神0』は、ネット上に作った「仮設の映画館」からの配信で見て頂いていますが、通常の配信と違うのは、このサイト上で映画館を選んで頂くところです。この取り組みに全国36館が参加して下さっているので、サイトから地元の映画館を選んで下されば、鑑賞料金がその劇場にも分配されます。つまり休館中の劇場も、収入が確保できます。全国津々浦々の映画館が参加してくれているので、旅をするつもりで見て頂いてもいいかもしれません。しかしこれはあくまでも「仮設の映画館」です。『精神0』は参加しているリアルな劇場でもおいおい上映されますし、映画館が通常に戻れば「仮設の映画館」は使命を終えるので閉じます。

安田:劇場で見ている気分を味わえる工夫の一つとして、「仮設の映画館」オリジナルマナーCMがありますね。CMではこうしたメッセージが伝えられています。

「ご来場、誠にありがとうございます。上映中はできるだけ、携帯電話など、音の出る電子機器をお切り下さい。また、上映作品の撮影、録音、録画などは固くお断り致します。もうひとつ、ご来場の皆様にお願いがございます。状況が改善したら、ぜひ、本物の映画館に足をお運びください。ここは「仮設の映画館」です。それではどうぞ最後まで、ごゆっくりご鑑賞ください」

〔仮設の映画館〕オリジナルマナーCM
 

文化を共に支える、というコンセンサスを

安田:「仮設の映画館」のような取り組みは大切ですが、公的支援をより手厚く届けていくことも大切だと思います。想田さんは「SAVE the CINEMAミニシアターを救え!」の呼びかけ人でもありますが、今の公的支援についてはどうご覧になっていますか?

想田:恐らく日本では、映画館や文化施設に公的支援を行うべきだというコンセンサスが弱いのだと思います。社会の中にコンセンサスがないと、やはり政治家も動かない。ドイツなどで政治家がいち早く文化支援を明言したのは、支援すべきだという認識が市民にあるからだと思います。市民の側にそれがあれば、政治家もそれをやらなければならないというプレッシャーを感じますし、やった方が支持されるという構図になりますよね。残念ながら日本の場合、例えば大阪元市長である橋下徹氏が、文楽協会への助成金をカットしようとした際に拍手喝さいが起きたりしました。文化を支えようというコンセンサスが弱いことによって、政治家もそれを後回しにするし、それを支援すると自分の失点にすらなりうるわけです。

安田:映画や音楽は「娯楽でしょ?優先度高いの?」という声が根強いですよね。

想田:映画や音楽が一切ない世界を想像してほしいです。本当はないと困るものだと思うんですが、それがあまり認識されていないんですよね。本当はこれが必要なんだということを私たち作り手ももっと主張すべきだし、そのコンセンサスを広めるための活動もしていかなければならないと思っています。

安田:今後も文化の灯を絶やさないための活動は不可欠だと思いますが、映画にはどんな力があると思いますか?

想田:映画は他者の経験を共有することが出来るメディアだと思っています。目と耳と時間の感覚を表現できるメディア、それは私たちが実際に世界を体感している仕方に近いと思います。自分の知らない人、遠いと思っていた人がどんな体験をしているのかを、疑似体験することで身近に感じることができます。他者を理解するため、あるいは文化や世代、経済格差をまたいでの相互理解を深めるためにも重要な存在だと思っています。

そういう体験をして初めて、自分とは違う人の立場を理解できるようになる。それは自分の人生を豊かにしますし、少し人に優しくもなれるでしょう。他者に対してただ拒否反応を示すのではなくて、その人たちもこういう事情があるのでは、という想像力を与えてくれるものではないかと思います。

(C)2020 Laboratory X, Inc

(聞き手:安田菜津紀 / 2020年5月13日)

▶︎映画「精神0」 公式HP
▶︎仮設の映画館 

※この記事はJ-WAVE「JAM THE WORLD」2020年5月13日放送「UP CLOSE」のコーナーを元にしています。

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