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インタビュー

2020.9.16

香港のフォトジャーナリストから見た、ベラルーシのデモの姿とは

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2020.9.16

インタビュー #政治・社会 #メディア #安田菜津紀

ベラルーシの首都ミンスクでは、8月の大統領選での不正疑惑をめぐりアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の退陣を求める大規模な抗議デモが5週連続で行われ、毎週約10万人が参加しているとされている。そのベラルーシの首都、ミンスクに今、香港のフォトジャーナリスト、クレ・カオル氏とアレックス氏が取材のために滞在している。なぜ香港のデモを取材してきた2人が、ベラルーシのデモを撮影しようと思い立ったのか、現地とつないで話を伺った。
 

ミンスクに滞在中のクレ・カオル氏(左)とアレックス氏(中央)

―9月の頭からミンスクに滞在しているということですが、なぜベラルーシを取材しようと思ったのでしょうか?

カオル:僕もアレックスも香港のデモに、日本のメディアのフィクサー(取材の調整などを担う役)として初期の頃から携わっていました。お互い写真も昔から撮っていましたし、フィクサーとして活動しながらカメラを持って現場に入っていました。その関係で少しずつ、日本の通信社から写真をお願いされたりするようになり、この1年間ほどデモの様子や警察の暴力を記録してきました。その現場でたくさんの海外メディアの方にも出会い、一生懸命に今、香港で起きていることを世界に伝えてくれる様子に感動したんです。

香港は海外取材をするようなカメラマンが元々少ないこともありますが、なかなか世界に目が向かないことを残念に思うこともありました。世界の他の地域でも、香港人と同じように苦しんでいる人がいるということを香港の人たちにも伝えたかったし、この目で見たかったということもあります。

 
―ベラルーシのデモ参加者は、香港から学んだことを活かしていたり、香港と似ている側面もあると聞きました。

カオル:似ている面は非常に多いですね。例えば、ロシア発のメッセージアプリ「テレグラム」は元々使っている人が多かったようですが、それをデモの情報交換として使うのは、香港から学んでいると参加者からも直接聞きました。

それから、まず一か所にたくさん集まってから行進を始めるというよりも、香港と同じく、最初に中核となる20人、30人くらいが行進を開始して、途中でどんどん道沿いから人が出てきて参加していきます。警察が来たらパッと散って、また別の場所に集まる、というのも、香港の「Be Water」(水になれ)、つまり形にとらわれず臨機応変に動け、ということに似ています。特定のリーダーがいない、というやり方も共通しています。

 
―現地のジャーナリストの人でも、香港の「Be Water」という言葉を広めている方がいるようですが、この言葉の知名度は高いのでしょうか?

カオル:デモを推進している多くの人は知っているようですね。この言葉自体を知らなくても、やり方としては認識しているようです。

 
―デモ参加者の中に、香港の旗を掲げている女性がいましたね。

カオル:女性による大規模デモの際にこの女性を見かけたので声をかけてみたら、彼女はこの旗を自由抗争の象徴としてとらえていました。他にも、自分は香港人だと伝えたときに、「フリーダム・ファイターだね」と現地の人たちに声をかけられたことがありました。世界各国と比べて、香港という地名の認知度が非常に高いように感じます。
 

9月4日、女性たちによる大規模デモで香港の旗を掲げていた参加者
(C)Kaoru Ng

―他にも、国や地域を越えての連帯はあるのでしょうか?

カオル:ベラルーシに暮らすウクライナ人のビデオグラファーの人と話していたのですが、ベラルーシのデモ参加者はウクライナの状況にも意識を向けていて、この前もデモ中に「ウクライナに栄光あれ!」という声があがって、それに人々が応答する、という場面も見受けられました。香港に対するウクライナでの認知度も高いようです。

 
―デモの参加者たちは、女性が多いのでしょうか?

カオル:こちらでは通常のデモと女性によるデモの二つ種類があります。ベラルーシではこれまで、女性はあまり地位が高くなかったようなのですが、最近になってそこに問題を提起する声が広がったのだといいます。元々、家にいなければならなかった女性同士の連帯が、ネットワークとして活動の種となり、デモに発展していったようです。

 
―取材に対する警察のマークはやはり厳しいのでしょうか?

アレックス:9月5日のデモの時、バリケードに民衆が旗を貼ろうとしていたところ、警察が出てきて取り外そうとしました。香港の経験から、警察がバリケードから出てきたら、こちらに突っ込んでくることは分かっていたのですが、僕は短いレンズしかなく、その近くで撮影していたので逃げ遅れ、後頭部を二発殴られて連行されてしまいました。その日は一気に200人ほどが逮捕されたようです。

なぜ、なんのために写真を撮っているのか、ネットメディアに流すのか、など執拗に聴かれましたが、幸い僕は3時間ほどで解放されました。その留置所で一緒になったデモ参加者の女の子は、一週間経った昨日、ようやく「解放された」と連絡がありました。

カオル:とりあえずカメラを持っているところを見られたら、目をつけられると思った方がいいと思います。僕も写真を消すようにと命じられたこともありますし、よく尾行されている、とも感じます。
 

9月5日、約10万人が集まったデモ。厳重な警備や、時折大雨に見舞われるなか、「勝者の大通」を覆い尽くす市民たち。遠くに見える展覧館の周りには政府の建物があり、バリケードが設置され、武装部隊や戦略車輌により厳重に守られていた(C)Kaoru Ng

―デモをよく思っていない人、デモを妨害しようという市民もいるのでしょうか?

カオル:少なくとも取材していて、心から政府を信じている市民の空気感はありません。政府を支持する人がデモ隊を攻撃したり切りつけたりする話も聞きません。参加者が街中に描いたグラフィティーを消すような人はいますが、それも警察に守られて行動している集団なので、市民というよりも、政府の「役員」のように見えてしまいます。

 
―香港にどんなことを持ち帰りたい?

カオル:ベラルーシのデモ参加者たちは、とても平和的に活動していますし、それは昨年の香港の容姿に似ていると思います。僕たちの写真を通して、香港の人たちには初心を思い出してほしいし、世界でも同じように戦っている人がいることに関心を持って欲しいと思っています。ベラルーシのデモ参加者たちは香港に注目をしていますが、香港からベラルーシへの関心は高いとはいえないと思います。世界に「助けて」というのも必要だけれど、世界のことを「知る」のも大切なのではないでしょうか。

(聞き手:安田菜津紀 / 2020年9月16日)


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2020.9.16

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