無関心を関心に—境界線を越えた平和な世界を目指すNPOメディア

Articles記事

私が死んでからでは意味がない―「違憲」とされた強制送還、原告が今伝えたいこと

難民申請を退けられたスリランカ人の男性ふたりが、裁判を起こす時間を与えられないまま強制送還されたのは憲法違反だとして国を相手取り起こしていた裁判で、東京高等裁判所は9月22日、男性たちの裁判を受ける権利を侵害したと指摘し、国に計60万円の支払いを命じた。国は最高裁に上告せず、判決は確定した。

代理人を務める髙橋済弁護士によると、原告の一人であるAさんは、政治的な迫害の恐れから、2011年に難民申請をし、不認定となったため、入管内の手続きである「異議申立て」をしていた。

当時、Aさんは仮放免中(※在留資格がないなどの事情を抱える外国人を、入管施設に収容するのではなく、その外での生活を認めたもの)であったため、定期的に入管に出頭しなければならない状況にあった。2014年12月17日午前10時頃、東京出入国在留管理局に出頭したところ、11時25分頃に再収容され、わずか18時間後の12月18日午前5時43分に、国籍国であるスリランカに送還されたという。

港区にある東京出入国在留管理局

入管職員から、異議申し立ての棄却と強制送還を告げられた時、Aさんは震え、泣きながら「裁判やっている(やる)」「殺される」と訴えた。Aさんが主張するように、本来であれば異議申立て棄却が告知されてから6カ月以内であれば、処分取り消しを求める裁判ができるはずだ。

入管職員らは、約30分間のみ、Aさんが携帯電話から弁護士に電話する時間を持つことを許可した。ところが電話はつながらず、職員らは「あなたにチャンスをあげました」として、携帯の電源をオフにして没収した。裁判の過程で提出された当時の映像を見ると、複数の男性職員が、椅子から崩れ落ち、うなだれてぐったりするAさんを囲み、終始高圧的な態度で送還を告げている様子が映されていた。

裁判の過程では、異議申立て棄却の決定(Aさんを難民不認定とする判断の維持)がなされる前から、Aさんの名前がすでに2014年12月18日のチャーター便での「送還対象者」リストに明記されていたことが明らかになっている。「不認定維持」の決定がなされる前から、その方向性であることが、強制送還を執行する送還部門に伝えられ、送還計画が練られていたのだ。

こうして計画的に準備が進められ、「だまし打ち」のような形で送還がなされたことについて髙橋弁護士は、「難民を保護する役割と、外国人を取り締まり強制送還する役割を、同じ入管が担っていることが問題視されてきました。迫害の危険があるから助けてほしい、という訴えをする人に対して、入管が裏で送還ありきの動きをしていたら、誰も安心して駆けこめないはずです」と指摘する。

都内で、仮放免者の医療の問題について会見する髙橋弁護士(2021年6月)

10月9日から16日まで、私は取材でスリランカを訪れ、現地でAさんとお会いすることができた。Aさんは今なお迫害の脅威を感じており、怯えながらの生活を余儀なくされているという。

「政治活動をしている危険を、日本は理解していません」と語り、Aさんは送還が告げられた日のことを改めて振り返る。

「日本は民主主義が根付いた国だと感じてきましたが、入管に限って言えば、相手がどういう問題を抱え、どういう心の状態なのか、彼らは一切を無視しています。私たちの精神状態を完全に地に落とし、“明日送還ですから”と言い渡された時にはもう、気力はありませんでした」

Aさんは、わずか30分で外部との連絡が遮断されてしまった点についても疑問を呈する。「弁護士に相談するなどの法律上の権利が、私にはあると思っていました。それを与えられなかったのはなぜなのでしょうか。弁護士に話ができていたら、その時の状況を変えることができたのではないかと思います」。

取材に応じてくれた、原告のAさん

実は、異議申立て棄却の判断がなされてから40日間、その事実がAさんに告げられていなかったことも分かっている。この40日間の間に、Aさんは一度入管を訪れているにも関わらず、告知はなされなかった。送還を実行するため、入管側が意図的に伝えなかったということも、裁判の中で認められている点だ。

「入管は司法に対する間違いを犯しました。私が難民として認められないのかどうか、本来は最終的に裁判所が判断するはずのことを、それを飛び越えて入管が判断しています。司法にゆだねる権利を奪ったことは重大です」

その上で、Aさんはこう強調する。「入管はまず、日本国民に対して謝罪するべきです。司法を軽視し、ルールを飛び越えて勝手な行動をしたのは、国民に背くことでもあります。その上で、私に謝罪をするのであれば謝罪してほしい」。

これはAさんの問題に限らない。2014年のスリランカへのチャーター機では、Aさんを含む26名が送還され、2016年の便でも22名が同様の手法で送還されている。検証すべき事案だが、2020年における送還の実態については、入管側は明らかにしていない。

Aさんはこう続ける。「法務大臣がこの問題に関して詳細な調査を行い、状況を改善し、私の権利を保障し、入管の間違った行為を止めさせるために、しっかりした決断をすべきです。私の事件をきっかけに、大臣が行動を開始するための問題への理解を深めることを願っています」。

Aさんは、自身の難民認定について、日本の司法の判断にゆだねる機会を引き続き求めたいとしている。

「私への脅威は今でもあります。私がどこかで殺され、命が亡くなってから解決策が提供されても意味がありません。死んだら何の決断もできなくなります。哀悼の意を表しても意味がないんです。必ず私の命を守るための方法を提示して下さい」

かねてから、入管側の司法軽視は問題視されてきた。過去には難民申請をしたスリランカ出身の男性が、裁判で「難民に該当する」と認められたにも関わらず、その後、入管側が再び不認定にしたケースもある。今回の違憲判決を重く受け止めたうえで、速やかな実態調査と、過度に集中した権限の見直しが今、求められている。

(2021.11.1 / 写真・文 安田菜津紀)


あわせて読みたい

日本はアフガニスタンからの難民にどう向き合ってきたのか [2021.9.10/安田菜津紀]

「“他人が生きていてよいかを、入管は自由に決められる”というお墨付き」―入管法が変えられると、何が起きてしまうのか [2021.5.7/安田菜津紀]

Dialogue for Peopleの取材や情報発信などの活動は、皆さまからのご寄付によって成り立っています。取材先の方々の「声」を伝えることを通じ、よりよい未来に向けて、共に歩むメディアを目指して。ご支援・ご協力をよろしくお願いします。

この記事をシェアする