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取材レポート

2021.5.7

「“他人が生きていてよいかを、入管は自由に決められる”というお墨付き」―入管法が変えられると、何が起きてしまうのか

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2021.5.7

取材レポート #難民 #法律(改正) #安田菜津紀

人道上の問題が多数指摘され続けてきた法案の審議が進められている。

2021年2月19日に閣議決定され、国会に提出された「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下、入管法改定案)が4月16日に衆議院で審議入りし、拙速な採決がなされてしまうのではないかとの懸念が高まっている。

法務省側は入管収容施設での「収容長期化の解消」を名目に、改定を推し進めようとしているが、実態はどうなのか。
 

高校生のヨハナさんが4月30日に呼びかけた参議院議員会館前のアクションには、多くの人が集った。掲げられていたプラカード。

例えば、仕事を失う、生活に困難を抱えて学校に行けなくなる、パートナーと離婚するなど、様々な理由で外国籍の人が日本に暮らすための在留資格を失ってしまうことがある。空港で難民申請をした人の中には、最初から在留資格がない人もいる。「収容」とは本来、在留資格を失うなどの理由で、退去強制令書を受けた外国人が、国籍国に送還されるまでの「準備」としての措置という「建前」だ。

ところが、収容や解放の判断に司法の介在がなく、期間も無期限で、何年もの間、施設に閉じ込められたまま、いつ出られるのかも定かではない人たちもいる。昨年、国連人権理事会の「恣意的拘禁作業部会」が、こうした実態を「国際法違反」と指摘した。

ところが審議入りした法案は、こうした国際法違反の状態を改善することなく、さらに入管の権限を強めるものになっている。
 

東京・品川にある「東京出入国在留管理局」。ここにも多くの人々が収容されている。

現状、退去強制令書が出された人々の9割以上は、送還に応じている。それでも帰国をできない人々は、「命の危険がある」「家族が日本にいる」「生活の基盤の全てが日本にある」など、帰れない事情を抱える人たちなのだ。改定法案によると、その帰れない事情を抱えた人たちが国外退去の命令に従わない(従えない)場合、保護したり在留資格を付与したりするのではなく、1年間の懲役または20万円以下の罰金となる可能性があるというのだ。

法務省は、改定法案に盛り込まれた「監理措置制度」によって、そうした人々を収容から解放できると謳う。入管が「監理人」を選定し、その「監理人」が、収容から解放された人を監督する仕組みだ。「監督」し状況を届け出ることを怠った場合、「監理人」に罰金が課される。そんな立場の「監理人」に誰が進んでなるだろうか。結局「監理人」を選ぶ権限も、解放の判断も、入管に権限がある。そして、「監理人」が見つからない限り、その人の解放の目途は立たなくなってしまう。

5月6日、この法案の廃案を求め、弁護士、支援団体、賛同する小説家や著名人、学生が、人道上の問題を訴え会見を開いた。
 

5月6日、記者会見に登壇したメンバー

高橋済弁護士は法案について、「端的に言って、よくなる点は一点もありません。よくなるかのように言われている点も、実は現状より悪くなることが巧妙に隠されています」と指摘する。法案では、法務省が「難民と認めない決定」を2回下せば、以降は強制送還が可能になってしまう仕組みとなっている。つまり、何らかの事情を抱え3回以上難民申請をしている外国人が、迫害の恐れのある国に帰されてしまう可能性があるということだ。

高橋弁護士は「難民申請を三回繰り返すのは“乱用”だと政府は言いますが、何回繰り返しても、政府の難民認定はゼロに等しいのが現状です」とし、法案の段階でありながら国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が問題点を指摘していることについて、一顧だにしない政府の姿勢を批判した。「迫害から逃れてきた人を死に追いやる改悪だ。難民条約から離脱するのにほぼ等しい」
 

この会見の呼びかけ人である高橋済弁護士、指宿昭一弁護士、駒井知会弁護

今年3月6日、スリランカ出身のラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリさんが、名古屋出入国在留管理局(以下、名古屋入管)の収容施設で亡くなった。英語講師を夢見て来日後、困難を抱えて学校に通えなくなり、昨年8月に施設に収容された。亡くなる直前には歩けないほど衰弱し、嘔吐してしまうため、面会中もバケツを持っていたと支援団体などが指摘している。そんな状態であっても、点滴などの措置は最後まで受けられなかった。
 

生前のウィシュマさん(ご遺族提供)

入管側はウィシュマさんが亡くなったことについての「中間報告」を発表しているが、診察した医師が収容からの解放を進言していたことや、死亡直後の血液検査に多数の異常値があったことなど、報告に反映されていない事実が報道によって次々明るみとなってきた。

5月1日に来日し、現在コロナ禍による自主隔離期間中のウィシュマさんの妹、ワヨミさんとポールニマさんも、この日の会見にオンラインで参加した。二人は「父を亡くした私たちにとって、母と同じような存在だった」と、ウィシュマさんのことを語る。ウィシュマさんの映っている記録映像を入管が開示しないことについても疑問を呈した。
 

オンラインで声を届けたワヨミさん(左)とポールニマさん

代理人をつとめる指宿昭一弁護士は、「中間報告書でも、入管の責任は一切明らかにされていません。そもそも、責任を問われる側であるはずの入管が作成する報告書に、何の意味があるのでしょうか。これについて回答がない限り、法案の審議には入れないはずです。それなのになぜ、採択の話が出てくるのでしょうか」と指摘する。2007年以降、入管施設では17人の方が亡くなり、そのうちの5人は自殺という現状についても、「一度も真相は解明されず、責任も明らかにされていません。だからこそ繰り返されているんです」と、実態を追及すべきと語った。

同じく代理人の駒井知会弁護士は、「法務省が、入管庁が、国際人権法さえ守っていたら、ウィシュマさんは今日も生きて明るい笑顔を見せてくれていたかもしれません。この法案は史上最悪の改悪です。外国籍、無国籍の人を人間扱いできない政府は、日本国民も人間扱いできないはずです。根本が国際法に反している法案は、ちょっとした修正でどうにかなるものではなく、廃案一択です」と、改めて訴えかけた。

この日、呼びかけに応じて参加した小説家の中島京子さんは、非正規滞在のスリランカ人男性と日本人女性の恋愛、結婚を描いた小説『やさしい猫」を書き上げたばかりだ。連載の最終話を書いている最中に、ウィシュマさんが亡くなったニュースに触れた。収容施設で相次いで収容者が亡くなっていることについて、「こうした事態を止めることができる法律だったら急ぐのも分かります。けれども、難民申請者を強制送還できる法律にすれば、亡くなる方が増える危険性がさらに高くなるわけですよね。日本から追い出してしまえば死んだって知るもんかというのは、あまりに酷い。長期収容についても、6ヵ月までしか収容できないとする法律があれば、ウィシュマさんは救われたかもしれないんです」と、現状の入管行政や法案の問題点を問う。
 

左から、中島京子さん、星野智幸さん、温又柔さん、高校生のヨハナさん、Voice Up Japanの福井周さん

小説家の星野智幸さんは、「この法案は、“他人が生きていてよいかを、入管は自由に決められる”というお墨付きを与える法であって、法というものの趣旨を逸脱しているように感じます。“俺がルールブックだ”ならぬ、“法は、私の気分だ”という制度です。法治主義と民主主義を信用している私には、とうてい受け入れられるものではありません。この法案が可決されることは、“望まれない人物は排除してよい”という社会の合意に道を開くものです」と語った。

小説家の温又柔さんは33歳で永住権を取得しているが、それ以前は「家族滞在」という資格で、台湾人の両親と共に3歳の時から日本に暮らしてきた。「入管という場所にいる“偉い人たち”が自分たちの運命を握っている、という感覚は子どもの頃からずっとありました。なぜ他の子どもたちは、この国、この街、この家で暮らしていくのに許可をとる必要がないのに、自分たちはそうではないのか、ということが心の片隅にありました」と振り返る。法案については「私以上に過酷な目にさらされている子どもたちやその家族、帰る場所がない人たちが、余計に危険な目に遭うもの。心から反対します」と危機感を伝えた。
 

温又柔さんの『「国語」から旅立って』(新曜社)は、台湾で生まれ、2歳で日本に移り住んだ温さん自身の半生を、「言葉」という軸で綴った一冊

LGBTアクティビストの松中権さんは、セクシャルマイノリティーに対する入管での人権問題を指摘する。トランスジェンダー女性であるというだけで、他の収容者から隔離、自由時間も制限され、さらに医学的に必要とされているホルモン治療も中断せざるをえなかったケースなどに触れ、「自身がLGBTの当事者であること、また、当事者であることで受けた被害を語るということが非常に難しいことを考えると、こうしたことは氷山の一角では」と指摘した。そうした日本での現状に加え、世界では同性愛者であるために死刑になる国、有罪になる国もあり、ヘイトクライムも相次いでいることから、法案によって迫害の恐れのある場所に送還されてしまう可能性を危惧した。
 

松中権さん(右)、BONDメンバーの菊川奎介さん、STARTメンバーの千種朋恵さん

BOND~外国人労働者・難民と共に歩む会~メンバーで大学生の菊川奎介さんは、週に一度、東京・品川にある「東京出入国在留管理局」の収容施設での面会活動を続けている。「アクリル板ごしの、30分というわずかな時間での面会ではありますが、民族、宗教上の理由などで、帰れない事情を訴えてくれた人たちにも出会いました」と経験を語り、難民を難民として認め、帰れない事情を抱える人には在留特別許可を与えてほしいということを訴えた。

名古屋入管での面会活動などを続けるSTART学生メンバーの千種朋恵さんは、今年2月に二度、ウィシュマさんと面会している。「一度目の面会で、すでにウィシュマさんは嘔吐を繰り返していました。吐くものがもうなくても何度も嘔吐して、発作のような状態。次の面会では、目の焦点があっていないほど衰弱していました」と振り返る。再三点滴の必要性を訴えても措置をしなかった入管について、「放置して、救えた命を見殺しにしました」と、その責任を強く指摘する。
 

生前、ウィシュマさんが着ていた遺品のシャツ

ウィシュマさんが亡くなる2日前に彼女を診察した医師が、その「診療情報提供書」に、「支援者から『病気になれば仮釈放(仮放免)してもらえる』と言われ、詐病の可能性もある」などと書いたことについては、「そうしたことは一切言っていない」とした。医師と支援者は直接つながっておらず、入管側からこうした誤った情報が伝えられ、医師の判断に影響を与えた可能性がある。「被収容者を人間扱いせず、体調不良者を詐病だと判断するような入管、法務省に、基本的な人権を守れるまともな法律を作れるとは思えません」。名古屋入管ではウィシュマさんが亡くなった後もなお、深刻な人権侵害が続いていることも強く訴えた。
 

診断書の記載について指摘する千種さん

大学生で一般社団法人Voice Up Japanの福井周さんは、新型コロナ災害緊急アクションなどが主催する「ゴールデンウイーク大人食堂」にボランティアとして参加し、国籍、問わず、困難を抱えた人が訪れていたことを語った。仮放免中(※)の外国人の方が、医療ブースでの医師の診察を待つ間、「最近ご飯を食べていないのでここで食べていいですか」と福井さんに問いかけてきたことにも触れ、あまりの窮状に、「一瞬目の前が真っ暗になってしまった」という。
 

イグナチオ教会(東京・千代田区)が開催された「ゴールデンウイーク大人食堂」には、多くの外国人もお弁当の列に並んでいた。

すでに多様なルーツの人々が暮らすこの社会で、様々な違いを乗り越える試行錯誤が市民の間で進められる中、「本来、その試行錯誤に率先して取り組むのが、政治の役割ではないかと思います。現に存在している一人の人間であるのに、“人間として扱ってほしい”と言わせてしまう社会であっていいはずがない」と投げかけた。

※仮放免:在留資格がないなどの事情を抱える外国人を、入管施設に収容するのではなく、その外での生活を認めたもの

 

困窮者支援の現場での経験を語る福井周さん(中央)

今年1月、アフリカのカメルーン出身で、当時42歳のレリンディス・マイさんが、全身に癌が転移し亡くなった。2度にわたり入管施設に収容され、仮放免されたものの、生活の術がなく一時はホームレス状態となっていた。最後に在留資格を認められたのは、亡くなった3時間後だった。都内の高校に通うヨハナさんは、父が2009年から面会ボランティアを重ね、マイさんの仮放免の際の身元保証人にもなっていたため、中学生の頃、家でマイさんに英語を教えてもらっていたという。「とてもやさしく穏やかな方でした。彼女は収容施設内で何度も胸が痛いと訴えていたにも関わらず、適切な治療を受けられませんでした。入管問題について知れば知るほど、数えきれない問題があることに気づきます。現在の問題を解決せず、さらに入管法が改悪されることは、絶対に許されるべきではありません」と語り、「この問題に当事者意識を持ち、声をあげることを勇気づけられたら」と、この会見を見る人々にもメッセージを送った。
 

今年1月に亡くなったマイさんについて語るヨハナさん

最後にラサール石井さんは、「東京五輪招致のとき、“おもてなし”、来て下さいと笑顔で呼んでおきながら、技能実習生などの外国人には非常に過酷なことをしている。片方の顔では、“おもてなし”。もう片方の顔では“人でなし”。なぜ、同じ外国人を一方では差別し、虫けらのように扱うのか」と訴えた。
 

差別の問題を訴えたラサール石井さん

私がとりわけ印象に残ったのは、中島京子さんが語った「私たち」のあり方だった。「コンビニや工事現場など、外国ルーツの方を見ない日はないですよね。私たち日本の作家、と言った時に、温さんも入っていますよね。“私たち”という言葉の中身が変わってきていることに、気づきつつある段階だと思うんです」。

「外国人のことだから」「収容施設の中は見えないから」と背を向け続け、恣意的に命の線引きがなされる社会に、果たして“私たち”は暮らしていきたいだろうか。「人権」という軸でこの法案と向き合えるかが今、強く問われている。

          

弁護士で反貧困ネットワーク代表世話人の宇都宮けんじさんは、会場に来ることは叶わなかったが、代わりにビデオメッセージを寄せた。その中で、反貧困ネットワーク全国集会に寄せられた声として、収入がなくて路上生活を余儀なくされた外国人の方が公園で寝ていた際、何者かに襲撃をされ病院に搬送されたものの、“医療費が支払えない”ということがわかったとたんに、もといた公園に運ばれ放置された事例に触れた。「私は民主主義国家でこのようなことが、こういう非人道的なことが行われてはならないと思って、大変憤りを感じましたけど、これが日本の社会の現状。この法案に反対する運動の輪を広げる必要がある」と語った。

いとうせいこうさん、中島岳志さん、テコンドーオリンピアンの高橋美穂さんも下記のようなメッセージを寄せた。

          

孤立している人を助けないことで、私たちが世界から孤立する。これは難民の方々を助ける『国境なき医師団』を世界中で取材した上での切実な実感です。

入管法改悪に反対します。

いとうせいこう

          

3月にスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが収容中に亡くなった事案で国際基準からかけ離れた日本の入管行政、さらには難民認定率の低さを知りました。

今の日本に必要なのは人間の尊厳です。

日本に希望を持って入国し庇護を求めている人々に対し、国際水準に沿った難民審査の適正化を求めます。また、この度の入管法改定について根本からの見直しを求めます。

テコンドーオリンピアン 高橋美穂

          

日本政府の政治難民に対する冷淡な態度は、自由民主主義に対する冷淡な態度とつながっています。各国における自由な言論を担保しているのは、国内の自由主義に基づく制度とともに、国際社会が「亡命」を保証していることです。国内における言論の自由が許されない国では、「亡命」という政治的外部の存在こそが、最後のよりどころになります。当該国との友好関係の維持と、当該国からの政治難民の受け入れは、両立されるべきものです。日本政府は、自由主義国としての基本的態度が確立できていません。入管法「改正」は、この状況を悪化させます。反対です。

中島岳志(東京工業大学・政治学)

          

 
▼記者会見の全編はこちらから

( 文・写真 安田菜津紀/2021年5月7日)

■ 6月20日は世界難民の日

6月20日は「世界難民の日」。紛争や人権侵害から故郷を追われる難民は約8,000万人、年々増加傾向にあります。より安全な場所を求める中、日本にも辿り着く方々もいます。なぜ故郷を逃れなければなかったのか?いのちと人権が守られ、安心して暮らせるためにできることは?それを阻んでいるものは?—— 少しずつ知ることから、そして、誰かと話すことからはじめてみませんか。関心を寄せ続けることは、大きな力になります。

 


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