先日、おかげさまでクラウドファンディングの目標額を達成した中東音楽交流事業「ババガヌージュプロジェクト」。2016年、ヨルダンの難民キャンプで避難生活を続けるシリアの人々をSUGIZO氏が訪れた際に発足した取り組みで、これまでにヨルダン、パレスチナなどで音楽による文化交流を実施し、今秋、9月29日より10月上旬にかけてイラクとヨルダンにて活動を行います。
本プロジェクトは、調整や広報を協力してくれる協力者、寄付をいただいた方を含め、たくさんの方々の支えの中で運営されています。どんな思いを持って携わってくださっているのか?今回はシリーズで、本プロジェクトに関わる方からのメッセージをお届けしております。
(第1弾の斉藤亮平さんのメッセージはこちら)
第2弾は、現地調整でご協力をいただいている認定NPO法人国境なき子どもたちの松永晴子さんより、「音楽と難民キャンプの子どもたち」についてメッセージをいただきました。
学校の教室から歌声が聴こえてくるといつも、どこか懐かしさを感じて、直射日光にじりじり肌が焼けていく夏も、吹きっさらしの冷たい風に身を屈める冬も、学校の敷地内を歩く顔が自然と、ほころんできます。
お世辞にもハーモニーがあるとは言えない歌声なのだけれど、とにかく元気がいいのです。メロディーがわからなくても、歌詞が違っていても、キーボードにのせて歌を歌うこと自体が、楽しい、といった様子です。
教室に入ると、子どもたちが体を思い思いに揺らしながら、歌っています。真剣にホワイトボードの歌詞を追いながら歌う子、ノートに書き記したドレミを指でなぞる子、隣の子の揺れる体と当たって、それがまた面白くてふざけあう子。
キャンプの職員室には、キーボードやギターがあります。ギターは弦が1本足りなくて、指導できる先生もいないので飾りっぱなしになっています。男の子たちは特に、弾いてみたくて真っ先に、部屋に入ってくるとギターのある場所に集まってきますが、弾き方がわかりません。そして、こちらも教えてあげられる教員がいないので、その場面を見るたびに、申し訳なく思っています。
ただ、ギターを格好良く弾くまねをする子がギターを持つと、音程はないけれど、リズムはしっかりあったりします。アラブ人の、独特で小気味いいリズム感は、たとえ小さな子どもにでも、脈々と受け継がれているのだと、感心させられるのです。
ザアタリ難民キャンプは、2012年に開設されて、キャンプ生まれの子たちが小学校に入学するだけの月日が流れました。多くの子どもたちが、随分長い間、もしくは生まれて一度も、キャンプ以外の環境で暮らしていません。
夜は電気が通じるので、テレビを見て過ごしている、と答える子どもたちも多いですが、テレビの中で見聞きするものは、テレビの中だけ。
海を見たことがない、とか、豊かな農地を見たことがない、とか、滔々(とうとう)と流れる川を見たことがない、というのと同じように、何ものかの本物に触れる機会は、極端に少ないのが、彼らの生活です。
それは、音楽も同じです。ギターがどんなものかは知っているけれど、本物の人が演奏する本物の音楽には、触れたことがありません。
もともとは、音楽への感度の高い子どもたちです。そして、限られたものしかない暮らしの中でも、楽しめることは目一杯享受できる子たちでもあります。
彼らが、バイオリンやギターが本来持つ美しさを感じられた時、どんな反応を示すのか、今からとても、楽しみです。
松永晴子(国境なき子どもたち シリア難民支援 現地事業総括)
本文で紹介されている、ザアタリ(ザータリ)難民キャンプは、シリアから逃れてきた約8万人の人々が暮らす難民キャンプです。ヨルダン北部の、シリア国境から15キロほどしか離れていない場所にあります。2012年に建設され、長い人で7年もの間避難生活を送る人もいます。
キャンプ内には、子どもたちが通う学校や、住民たちが自らはじめたお店が集う「シャンゼリゼ通り」とよばれるマーケットがあります。長引く避難生活の中で、避難疲れやストレスを感じる人も少なくありません。
今回の音楽を通じた交流が、その一助となることを願ってやみません。
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ババガヌージュプロジェクトに寄せて-2(プロジェクト協力者・松永晴子さん)
ババガヌージュプロジェクトに寄せて-3(BABAGANOUJメンバー・SUGIZOさん)
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