無関心を関心に—境界線を越えた平和な世界を目指すNPOメディア

Articles記事

これでまともな議論ができるのか? 入管庁の回答―「集計できない」のではなく「集計をとっていない」

本記事は下記記事「追記」部分の再掲+取材中に入管庁への事実確認を行った記録(本記事後半にQ&A形式にて記載)をまとめたものです。背景が複雑なため、下記記事も参照ください。

審査の過程のブラックボックス

2023年4月25日の衆議院法務委員会の質疑では、西山卓爾入国在留管理庁次長が、柳瀬房子氏の対応案件数の多さについて、「特定の難民審査参与員の年間処理件数は集計していないので当方は把握していない」と述べたうえで、あくまでも「一般論」として「常設班に所属し、迅速な審議が可能かつ相当な事件を重点的に配分している臨時班の応援に入る場合などには、書面による審査などで他の難民審査参与員よりも担当する事件処理件数が多くなることがある」と述べた。

同日、齋藤健法務大臣は2021年4月の参考人質疑で柳瀬氏が述べた2000件については、「すべて対面審査まで実施した、いわゆる慎重な審査を行った案件を前提として答弁されたもの」とし、その後の2年間で柳瀬氏が担当したという2000件についての明言はなかった。

しかし先述の通り、西山次長は「特定の難民審査参与員の年間処理件数は集計していないので当方は把握していない」としている。集計・把握していないにも関わらず、柳瀬氏が2005年~2021年4月までに担当した2000件が「すべて対面審査まで実施した慎重な調査」となぜ言い切れるのだろうか。

この点について入管庁に問い合わせたところ、集計や統計を確認したのではなく、あくまでも「2021年4月に柳瀬氏が会って審査したと答弁したことを承知している」からとした。つまり「根拠」として出されているのは今のところ「柳瀬氏がそう言った」ということのみだ。

仮に、2005年から2021年4月までをすべて対面審査まで行ったとしても、年間130件近いインタビューをこなすことになる。

先述の通り、平均的に難民審査参与員は月に2回ほど、1回あたり2件ほどを担当し、年間50件ほどといえる。柳瀬氏はその2.5倍、それも書面審査ではなく、すべて対面審査までこなしているという。

これまで聞き取りをした複数の難民審査参与は、頻度などに多少のばらつきはあるが、1度の対面審査のために、多くの書類を読み込み、さらに自ら下調べをするため、「準備」の段階に相当な時間がかかると皆口をそろえる。通訳などが入り、2時間近く対面審査にかかることもあれば、代理人がついた場合、4時間近くというケースもあり、そうなると年50件でも困難になるという。書類が多くない申請者が混ざっていたとしても、年間130件のインタビュー・慎重な審査には皆、首を傾げる。

さらに「柳瀬氏がそう言った」ことを根拠にするのであれば、2016年1月の日経新聞のインタビューでは「(審査で)500人以上と会った」と語っており、2016年~2021年4月の5年あまりで約1500人と対面審査したことになる。つまり、年間300人となると、平日毎日一人以上と対面審査しなければならない。

件数が急増した点について再度柳瀬氏に問い合わせたが、期限までに回答はなかった。

もしも早期処理を見込まれた「臨時班」としてではなく、「常設班」の一員としてこれだけの量の「通常案件」をこなしていたのであれば、担当した「通常案件」自体はもはや「慎重な審査」とは言えないのではないだろうか。

難民審査参与員の中には、2年間で担当した件数がゼロというケースもあった。一方柳瀬氏は、2021年4月~2023年までの約2年間で2000件を担当しており、非常に極端な偏りがある。

いずれにしても、こうした審査の詳細を明らかにせず、検証もしないまま、「難民をほとんど見つけることができない」と一般化して語ることも、それを入管が資料に引用して法案の「根拠」とすることも不適切であり、まして「集計していない」となれば、なぜ偏りが生じているのか、その手続きは適正なものであったかどうかも検証できず、立法事実そのものがさらに歪む。

「集計には膨大な時間がかかる」と入管側は後ろ向きの見解を示したが、法案の根幹をなすのであれば、その時間をかけ、その間の審議は止めるべきだろう。ブラックボックスの上に、法は成り立たない。

入管庁への事実確認

(※)本質疑は2023年4月26日に電話で問い合わせたものに対し、翌27日に入管庁審判課の担当職員から返答のあったものです。回答は読みやすく整理していますが、証言内容に変更はありません。

――先日25日の法務大臣会見、そして同日の法務委員会にて質疑のあった件に関することなのですが、難民審査参与員の柳瀬房子さんの審査に関する質問です。柳瀬さんは2021年の法務委員会の参考人質疑にて、「難民審査参与員として審査した2000件、すべて直接申請者と会い」、つまり――”すべて口頭意見陳述実施”――ということを述べており、先日25日の大臣会見、および同日の法務委員会でも大臣、および西山入国在留管理庁次長がその発言内容を肯定されました。こちらは集計データを確認したのか、それとも本人の答弁だけを根拠にしているのか、お答えください。

(入管庁審判課職員:以下略)柳瀬氏が21年の法務委員会の参考人質疑で「平成17年から17年間で2000件の案件を3対1で対面審査をした」という発言があったことは大臣も入管庁西山次長も承知していますが、個別の参与員の対面審査回数などのデータ等については、集計をとっておらず数値は答えられません。

――「集計できない」のではなく「集計をとっていない」?

とっていない。難民審査参与員ごとの数値については統計はとっていません。

――個別の記録はもちろんありますよね?

事件記録に関しては、すべてあるかはちょっと……

――すべて記録する必要があるのでは?

事件記録ごとでは保管していますが、参与員ごとに、この事件をどの参与員が担当したかというようなことは集計していません。

――つまり先日の大臣・次官の発言というものは、「柳瀬氏の法務委員会の質疑の発言は確認している」というだけであり、根拠となる数値はない、とっていないと。「柳瀬氏はそう発言した」と答えただけであり、数値の根拠はないということでしょうか?

統計をとっていないので。(柳瀬氏の)発言は承知していますが、集計はとっていません。実際に柳瀬氏が述べた17年間に2000件という処理件数自体も、確認できないというか、把握はしてないということですね。

――1件あたりのインタビュー(対面審査)にかかる時間は?

集計して統計のようなものをとっているかというと、とっていません。案件ごとの差もあり、参与員3人もそれぞれかかる時間が異なります。長ければ何時間とかかかるでしょうが、最速で何分といった記録もありません。すみません、本当にちょっとわからないですね。

――集計をとれるかどうかも不透明ということですが、根拠となる数値を見て判断しなければいけない事態が生じています。そうした集計を行うつもりはありますか?

個人記録があるので、まったく不可能というわけではないと思うのですが、やはり作業自体が膨大になるのでちょっと厳しいかなというのが……。

――必要性で判断されていると。今のところその「必要性」よりも、様々な時間や労力がかかってしまうということで集計は行っていないということですね。

1件1件見ていくとなると、そこから集計・確認するというのは膨大な作業となるので現実的には厳しいと思います。

――参与員の方々が適切な審査をしているということを、定期的にチェックをしたり、第三者が監査に入ったりというような、そのような検証作業と言うのは行われているのでしょうか?

なにをもって「適切」かというのがちょっと難しいので、その部分についてはお答えを差し控えさせていただきます。

――なにをもって「適切」かがわからないと?

私の立場からはお答えできません。

――個人的にお答えできないというのはわかりますが、入管の内部では、何が「適切」な審査かということに関する基準はあるのでしょうか?とくに柳瀬参与員はほかの参与員の方々と比べるとかなり件数が多いのですが、その件数が偏っている理由であったり、実際に難民該当性があるという意見書を提出するにしても、たとえば参与員ごとに1年や2年に1度だけでも振り返りの機会があったりということはないのでしょうか?

その部分については私の立場からはお答えできません。集計などおこなっていないので、お答えできません。

入管法の審議が続くが、なかなか「生身の人間」の姿が見えてこない。

(2023.4.27 / 写真・文 安田菜津紀、佐藤慧)

あわせて読みたい

うめくウィシュマさんの前で談笑――監視カメラには何が映っていたのか[2023.2.20/安田菜津紀]

入管法はどう変えられようとしているのか?その問題点は?[2023.1.19/安田菜津紀]

《人間に生まれてきて、よかったです》――ウィシュマ・サンダマリさんが生前綴った言葉[2022.3.4/安田菜津紀]

入管はなぜ、「排除」に力を注ぐのか 入管発表資料へのQ&A[2021.12.21/安田菜津紀]

D4Pの活動は皆様からのご寄付に支えられています

認定NPO法人Dialogue for Peopleの取材・発信活動は、みなさまからのご寄付に支えられています。ご支援・ご協力、どうぞよろしくお願いいたします。

Dialogue for Peopleは「認定NPO法人」です。ご寄付は税控除の対象となります。例えば個人の方なら確定申告で、最大で寄付額の約50%が戻ってきます。


認定NPO法人Dialogue for Peopleのメールマガジンに登録しませんか?
新着コンテンツやイベント情報、メルマガ限定の取材ルポなどをお届けしています。

この記事をシェアする