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取材レポート

2021.12.21

入管はなぜ、「排除」に力を注ぐのか 入管発表資料へのQ&A

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2021.12.21

取材レポート #収容問題 #安田菜津紀

数々の人道上の問題を指摘されてきた入管法政府案が、再び提出されようとしている。

参考:入管法は今、どう変えられようとしているのか?大橋毅弁護士に聞く、問題のポイントとあるべき姿

ことさら入管側が掲げ続けているのが、在留資格を失ってしまった人々の「排除」だ。

仕事を失った、生活に困難を抱えて学校に行けなくなった、パートナーと離婚した――それはどれも、生活していれば誰しもに起きえてしまう生活の変化だろう。ところが日本に暮らす日本国籍以外の人々は、こうした「変化」によって在留資格そのものを失ってしまうことがある。

在留資格の有無は、時にこうした「紙一重」の違いであることから、米国のバイデン政権はそうした人々に、「illegal alien(不法在留外国人)」などの呼称ではなく、「undocumented(必要な書類を持たない)」といった言葉を使う方針を示したが、日本の入管庁は相変わらず「不法滞在者」という言葉を使い続けている。

「収容」とは本来、在留資格を失うなどの理由で、退去強制令を受けた外国人が、国籍国に送還されるまでの「準備としての措置」という“建前”だ。ところが、収容や解放の判断には司法の介在がなく、期間も無期限で、何年もの間、施設に閉じ込められたまま、いつ出られるのかも定かではない人たちもいるのが現状だ。

2020年、国連人権理事会の「恣意的拘禁作業部会」が、入管のこうした実態を「国際法違反」と指摘した。それ以前から、国連の「拷問禁止委員会」などの条約機関からも、度々勧告を受けてきている。2007年から現在に至るまでの間、収容施設で亡くなった人々は、ウィシュマさんを含め17人、うち5人が自ら命を断っている。

例え収容を解かれたとしても、「仮放免」という立場では、就労の許可は得られず、健康保険にも入れない。まさに、生存権そのものを否定されてしまっているような状態だ。

まるで送還自体が「機能不全」に陥っているかのような報道もあるが、実は退去強制令が出された人々のうち、殆どの人たちが送還に応じている。
 

※100%を超える年があるのは、前年に退去強制命令を受け、次の年に送還された人などがいるため(資料はいずれも、髙橋済弁護士が「入管白書」などを元に作成)

入管庁側がこの12月に公表した「現行入管法上の問題点」と題した資料では、彼らの言うところの「送還忌避者」に「前科」のある人々がいることを強調し、仮放免中に逃亡した人々がいることを問題視する。なぜ帰ることができないのか、なぜ仮放免中に逃げなければならなかったのか、そうした問いに答えるための前提となる、生身の人間の声が聞こえてこない。実態はどうなのか。入管問題に詳しい、髙橋済弁護士に聞いた。
 

都内で開かれた記者会見で発言する髙橋済弁護士

――3,103人が退去強制命令を拒否し、このうち994人が日本で有罪判決を受けていたと報道されていますが、ここに入管難民法違反約420件も含まれています。

実際に退去強制命令を受けた人たちのうち、過去に刑罰法令違反とされたことがあるのは2%ほどです。入管難民法違反の内訳が示されておらず、在留期限を経過してしまった「オーバーステイ」まで“有罪判決を受けた人々”の中に含まれている可能性が極めて高いと思います。
 

        

――既に刑期を終えた人たちであっても、過去にそうした事情があった人々であれば“帰れない事情を考慮しなくていい”かのような姿勢が入管側の発表に見受けられます。

入管が「前科がある」と強調している人たちは、すでに刑期を終えたり、現時点で刑事施設にいたりする人たちではありません。刑事責任は償い、これからどうやって社会に戻るのか、その過程にある人たちですよね。それにも関わらずこうした公表を行うことは、彼らの更生や、家族とやり直していくことなど、社会復帰の過程において、害でしかありません。入管は自分たちの方針を通すために、一部を強調したいのだと思いますが、今後彼らが社会で生きることを妨げることはやめてほしいと思います。
 

――資料では、特定の国籍の“送還忌避者”をことさらに強調するものもあります。

果たしてその人を国籍国に強制送還していいのかどうか、そういった判断が、現行の難民制度含めて機能していない可能性が、極めて高いわけですよね。その状態で強制送還だけを行ったとしても、困難に直面している目の前の人を日本から追い出すだけであって、全く問題の解決にはならないと思います。

また、「特定の国籍の人」「特定のルーツを持つ人」という属性を掲げることで、同様の属性を持つ人々が一様に“犯罪者”、“送還忌避者”として扱われてしまうという、差別煽動にあたるものでもあると思います。
 

――長期収容の原因は「送還を忌避するからだ」という、被収容者の態度に矮小化されていることも気になります。

強制送還に応じさせるために、拷問・制裁の手段として収容を行うことは、まさに恣意的な拘禁の発想そのものです。
 

2021年5月、参議院議員会館前で行われたシットインの場で掲げられたプラカード

――また、資料では送還を拒んでいる人たちの一部が、「凶悪」とされる犯罪を過去に犯したことを強調しています。

“障害のある人”が犯罪を起こした、“女性”が犯罪を起こした、“セクシャルマイノリティーの人”が凶悪犯罪を起こした、“ある特定の県出身者”が凶悪犯罪を起こした等々――これらが犯罪となんの関係があるのでしょうか? 国籍、在留資格と犯罪にはなんの関係もなく、問題なのは「なぜ」その犯罪をおこなってしまったのか? そして次に、「どうやって」立ち直っていくのか? 家族のもとにかえるのか? そうしたことこそが最も重要なことだと考えます。
 

――入管庁の資料では、イギリスでは収容にあたっての司法審査がなく、上限もなしとなっていますが、これは恣意的な表現ではないでしょうか?

イギリスでは、収容後の保釈は裁判所(又は準司法的な審判所)が判断していますし、判例法理によって期間制限がかかっています。また、EU諸国では、EU内のルールによって、身体拘束をするのであれば、期間制限を設けること、理由を示すこと、さらには身体拘束から一定期間後も、それが必要かどうかを、裁判所が判断することになっています。
 

           

――仮放免者の「逃亡」を問題視する発表が入管庁側からなされ、一部メディアもその情報をそのまま報道しています。

仮放免の状態の人々は、家族や自分自身も含めて生活をしていかなければならない状況であっても、就労を認められていないわけですよね。仮放免者は定期的に入管に出頭しなければならないのですが、出頭したタイミングでそのまま無期限に収容されてしまう恐怖もあり、やむにやまれず出頭しなくなってしまうことはあるのだと思います。

逃亡についての原因について調査検証し、その原因を特定した上で解消しない限り、「逃亡があった」ということだけを強調して報道しても、問題の解決には至らないでしょう。
 

――入管側は「難民申請の悪用」をことさら強調していますが、実態はどうなのでしょうか。

難民申請後2カ月以内に、申請者は(A)難民の可能性が高い人、(B)明らかに該当しない人、(C)再申請を繰り返している人、に振り分けられていきますが、入管自身が「濫用」だと言っている(B)のケースは、近年2、3%しか統計上はありません。しかし、入管が難民認定の結果の中から「濫用」であったとする数字を出すのであれば、それはいくらでも自由に操作できます。
 

       

――難民申請者が増えることによって、難民認定制度が機能不全に陥っているかのような書き方もされています。

申請者1万人程度で機能不全を起こす原因は、保護相当の人にも厳密な調査を行うためです。

現在の日本の難民認定では、その人が政府の側に個別にターゲットとして把握されていて、帰ったらすぐに捕まったり、死刑にされたりするかどうかを個別に把握しようとします。そして、そうした具体的な脅威を証明できる人以外は難民ではない、といった日本独自の判断がなされています。

ただ、ミャンマーにしてもシリアにしても、アウンサン・スーチー氏のように有名な人や、政府から個別にターゲットにされている人だけが危険なわけではないですよね。反政府デモに参加するごく普通の市民が活動していても、迫害の恐れはあります。

個別にターゲットにされているかどうかという判断を、ほぼ全件に対しておこなっているため、立証活動の負担が重くなり、認定作業が滞留しています。独立した機関が「保護」を行政目的とすべきです。
 

――資料では、日本だけが他国と比べて難民再申請の制限がないことも強調されています。

同じ人が複数回申請していることを、入管は「濫用」と捉えます。けれども内実を見ていくと、ミャンマー出身者やトルコ出身のクルド人、エチオピア出身者など、帰ったら危険な地域の出身者ほど、再申請者が多いんです。難民認定制度自体が機能していれば、こうした問題は解消されていきます。
 

       

――過去の刑期を終えた人にも難民申請者がいることを資料では示しています。

例えば、ミャンマーが今の情勢のままにもかかわらず、「過去に刑事罰の対象になった」という理由で強制送還されてしまえば、命の危険が迫ってしまうかもしれません。迫害の危険と、過去に刑事罰の対象になったことは、別の話です。それをもってさも「死んでもいい」かのような主張を入管がすること自体が問題だと思います。
 

                            

 

2020年3月6日、名古屋入管で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの妹で、次女のワヨミさんが、こう語ってくれたことがある。

「ビザがないことによって死刑にするのでしょうか?こんなことが世界で起きるのでしょうか?」

「なぜ、国籍国に帰れないのか」という理由の中には、「国に帰ったら命の危険がある」「日本に生活の基盤の全てがあり、国籍国に家族はいない」「子どもが日本語しか話せない」など、様々な事情がある。それを細やかに提示することなく、入管庁側は恣意的な切り取り方によって「危険に見える」面を強調してきた。

「ヘイトスピーチを許さない」責任があるはずの法務省が、一部の数値のみを都合よく提示し、「ほらこんなに危ない“外国人”がいる、追い出したいだろう」と煽る――それはあるべき省庁の姿だろうか。在留資格を失った人には何をしてもいいかのような入管行政の根本的な構造に、切り込んでいく必要があるはずだ。

(2021.12.21 / 写真・文 安田菜津紀)

 


 
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