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災害関連死を繰り返さない―遺された声を社会へ(弁護士・在間文康さん寄稿)【前編】

岩手県立高田病院の官舎跡地。(安田菜津紀撮影)

災害による直接的な被害以外の原因によって起こる「災害関連死」。
その実態や支援を受けるための認定プロセスは、広く認知されているとは言い難く、多くの課題があります。

Dialogue for People理事で、弁護士として被災者支援に取り組んでこられた、在間文康さんによる寄稿記事です。

私は東日本大震災の後、岩手県陸前高田市に新規開設された公設の法律事務所に赴任して、弁護士の立場から被災者支援に携わりました。

災害関連死については、ご遺族の相談対応や申請支援、訴訟代理人として活動する一方、行政の災害弔慰金支給審査会の委員も務めてまいりました。

災害関連死の制度的課題について、三つの観点から指摘をしたいと思います。第一に災害関連死の定義とその実態、第二に認定プロセスの課題、第三に事例検証の必要性と現状です。

災害関連死の定義とその実態

災害関連死の公的な定義として、内閣府が平成31年4月に示した、

「当該災害による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、『災害弔慰金の支給等に関する法律』(昭和48年法律第82号)に基づき、災害が原因で死亡したものと認められたもの(実際には災害弔慰金が支給されていないものも含めるが、当該災害が原因で所在が不明なものは除く。)」

というものがあります1

この定義は、認定された件数をカウントする上では意味がありますが、「認められたものが災害関連死である」というトートロジーになってしまっており、災害関連死をどう認定していくかの拠り所になるものではない点で注意が必要です。

一方、法律上、災害関連死は定義されていません。

災害弔慰金の支給等に関する法律2では、「災害により死亡した住民の遺族に対し、災害弔慰金の支給を行うことができる」と規定されているのみで、直接死と関連死を区別していません。

したがって、災害関連死を正確に定義するとすれば、「災害による死」から「直接死」を除いたものが災害関連死ということになるのだと思います。

そして、判例上は、「災害による死」と認められるためには、災害と死亡との間に相当因果関係が必要とされています3

この相当因果関係は法律上の概念ですが、主に二つの要素で判断されます。

一つは条件関係、つまり災害がなければその死亡は生じなかったと言えるか否か。もう一つは相当性、つまり客観的に見て、同種の災害から死亡の原因となった事象が発生する蓋然性があると言えるかどうかです。

もっとも、相当因果関係は、生じた結果の責任を特定人に負わせることを正当化するための要件です。しかし、災害関連死は、特定人の責任を問うものではなく、遺族への支援が主な目的であることから、「災害による死」は相当因果関係よりも広く捉えるべきという考えもあり得るところです。

この定義を前提として、具体的な事例を見ていきましょう。

まず、典型的な例として、避難所での車中泊によるエコノミークラス症候群での死亡例があります。熊本地震では、80代の男性が地震後に避難所で車中泊を続けられ、5日後に肺塞栓症で亡くなられたケースに代表されるように、多くの方がエコノミークラス症候群で命を落とされました4

また、能登半島地震の事例では、避難所で新型コロナウイルスに感染し、その後入院したものの改善せずに亡くなられたケースもあります5

これらは、災害関連死の典型例として多くの方が思い浮かべる事例に近いのではないかと思います。

避難所だけで起こるわけではない

しかし、災害関連死はこのような典型例だけではありません。

例えば、震災後に亡くなられた80代女性のケースです。

この方は災害前から高血圧があったものの、日常生活に支障はありませんでした。震災後、避難所での生活を経て3ヶ月後にマンションに入居されましたが、エレベーターがなく、膝の痛みもあってほとんど外出できない状態となりました。その後仮設住宅に移られましたが、ストレスから精神疾患を発症され、次第に心身ともに衰弱していき、発災から約2年8ヶ月後に仮設住宅で突然倒れ、亡くなられました。避難生活による環境の変化により活動量が低下し、心臓に負担がかかったことが死因に繋がったとして、災害関連死と認定されています6

他にも、震災から6年8ヶ月を経た後に、生活環境の変化に伴う身体的・精神的負担から、災害公営住宅で自死された方について、災害関連死と認定されたケースもあります7

内閣府から公表されている事例集では、127例の認定例が挙げられていますが、そのうち避難所滞在中の事例は6.3%に過ぎません8。また、認定例のうち、発災後6か月以降に亡くなられ方のケースは24.3%に及びます9

これらから分かることは、災害関連死は避難所だけでなく、被災者の状況把握が困難な場所でも発生するということです。また、発災から数ヶ月、数年が経過した後にも発生しているのが現実です。その背景には、時間の経過とともに、被災者の方々の抱える悩みや問題が多様化、複合化していくという実態があります。

災害関連死の防止策として、避難所の環境改善が挙げられることが多いです。それ自体は間違いではありませんが、それだけでは災害関連死を防ぐことはできないわけです。

場所や時間を限定した画一的・物理的な支援だけではなく、「人」に着目した、継続的で多様な視点からの支援が必要不可欠と言えます。

陸前高田市にて(安田菜津紀撮影)

認定プロセスの課題

災害関連死の認定は、まずご遺族からの申請があって初めて審査が開始されます。市町村が認定の可否を審査しますが、通常は学者、弁護士、医師などで構成される審査会で審査を行います。

しかし、この審査会の構成や審査方法は市町村に委ねられているため、判断にばらつきが生じやすい状況にあります。

このような状況を受けて、統一的な認定基準を求める声も多く、実際に独自の認定基準を策定する市町村が増えています。多くは過去の災害で別の自治体が設けた認定基準を踏襲したものですが、これには大きな問題があると考えています。

例えば、平成30年7月豪雨災害での岡山市の認定基準では、既往症が死亡原因となった疾病の場合、「災害により明らかに死期を早めたと医学的に判断できない場合」には相当因果関係がないと判断するとしています10

しかし、「災害によって、明らかに死期が早められた」ということを医学的に判断することは極めて困難で、それをご遺族が証明することは、実質的に不可能に近いと言えます。

労災認定の基準と比較すると、この問題点がより明確になります。労災では、例えば脳血管疾患や心疾患について、業務による強い負荷が加わった事実があり、既往症が自然な経過を超えて悪化したと認められる場合には、その原因が業務によるものであることを厳密に求めることはせずに、相当因果関係を認める判断がなされています11。災害関連死の認定においても、同様に考えられるべきです。

そもそも、災害関連死は前提となる事実関係が千差万別です。

その中で、画一的な方程式のような審査基準を設けることは、今見たように、かえって実態に即さない判断を導く恐れがあります。

「審査基準があること=公平・適正な判断」というわけではなく、事案毎に事実関係を丁寧に収集、評価して、相当因果関係の基本的な考え方に則って審査していくしかないわけです。

私としては、むしろ、基本的な判断枠組みや事実関係の把握方法、資料の収集方法などを定めた審査「指針」を設けることが望ましいと考えています。

認定プロセスの課題は、これ以外にも数多くの問題があるのですが、こういった基本的な審査のあり方についての議論が十分に進んでいないことはもっとも重い課題であると感じています。

陸前高田市にて(安田菜津紀撮影)

続く【後編】では、災害関連死の事例検証の必要性と、その現状についてお伝えします。(→後編を読む

  1. 「災害関連死の定義について(平成31年4月3日付け事務連絡)」(内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(被災者行政担当)) ↩︎
  2. 「災害弔慰金の支給等に関する法律」(昭和48年法律第82号) ↩︎
  3. 「災害弔慰金が支給されるには、災害により死亡したこと、すなわち災害と死亡との間に相当因果関係が認められることが必要であるというべきである。」(大阪高判平成10年4月28日判タ1004号123ページ) ↩︎
  4. 「災害関連死事例集(増補版)」(内閣府・令和3年4月)25頁 ↩︎
  5. 「令和6年能登半島地震に係る災害関連死の認定について」(輪島市ホームページ・令和6年12月24日)https://www.city.wajima.ishikawa.jp/article/2024052300015/file_contents/1224HP2.pdf ↩︎
  6. 「災害関連死事例集(増補版)」(内閣府・令和3年4月)136頁 ↩︎
  7. 「災害関連死事例集(増補版)」(内閣府・令和3年4月)141頁 ↩︎
  8. 「災害関連死事例集(増補版)」(内閣府・令和3年4月)9頁 ↩︎
  9. 「災害関連死事例集(増補版)」(内閣府・令和3年4月)7頁 ↩︎
  10. 「平成30年7月豪雨災害関連死認定基準」(岡山市)https://www.city.okayama.jp/kurashi/cmsfiles/contents/0000020/20508/000400580.pdf ↩︎
  11. 「脳・心臓疾患の労災認定」(厚生労働省)、最二判平成18年3月3日民集219号657頁等 ↩︎

【プロフィール】
在間 文康(ざいま・ふみやす)

弁護士。京都大学法学部・東大法科大学院卒。2009年、弁護士登録。12年、岩手県陸前高田市にいわて三陸ひまわり基金法律事務を開所。16年、陸前高田や奄美をはじめ全国各地の弁護士過疎地に支店を持つ弁護士法人空と海 そらうみ法律事務所を開設し、東京事務所に勤務。

災害関連死を考える会 https://drd-saigonokoe.themedia.jp/

弁護士法人空と海 そらうみ法律事務所 https://soraumi-law.com/

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在間文康さん(本人提供)

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