
大統領選を控えた韓国に取材に来ています。
2024年12月3日夜、尹錫悦大統領は突如、一切の政治活動を禁じるなどとした「非常戒厳」を宣布。議員らが国会で速やかに解除要求を決議したものの、「民主化」後の現代にあってもなお、軍が国会へと侵入したことへの衝撃や動揺を、インタビューに応じてくれた人々の多くが語ります。
中でも1980年5月、軍事独裁政権に対する光州での民主化運動で弾圧を受けた女性は、45年前に引き戻されるかのように、自身に刻まれたトラウマが呼び起こされたといいます。
当時の民主化運動に対し、「アカの仕業」「北朝鮮が介入した暴動」とする不当な“レッテル”やデマは、根深く社会に残っていますが、尹前大統領も、「従北勢力を撲滅し憲政秩序守る」と戒厳を正当化しました。
こうした主張は、今回取材した極右集会でも繰り返され、「これまでの選挙は不当に操作されている」という、何ら証拠のない言説を口にする参加者が少なからずいました。さらには、フェミニズムに対するバッシングや性的マイノリティに対するヘイトスピーチとも結びつき、それに抗えるだけの法整備が不可欠となっています。
ただ、日本から取材に赴く私たちが決して忘れてはならないことがあります。力と恐怖で民主化を求める声をねじ伏せようとしてきた軍事政権は、日帝による支配構造が受け継がれてしまったものでもあります。一度植え付けられた構造的暴力を払拭することは容易ではありません。
「従北勢力」等々を持ち出して、権力が自らを生きながらえさせようとする動きも、元をたどれば植民地支配とその後に続く分断の歴史と地続きです。「隣国の政局の問題」と、自分たちと切り離して考えられる問題では決してないでしょう。
今回の取材でどんな声に触れたのか、詳細は改めて報告します。
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フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda
1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。
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