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慰霊と伝承の場に―福島県大熊町で続けられる遺骨捜索

2025年5月5日、福島県大熊町の帰還困難区域へ取材に行きました。D4Pでも度々発信をしていますが、この地には東日本大震災により犠牲となった木村汐凪さん(当時7歳)の遺骨が眠っています。父の紀夫さんは、汐凪さんの遺骨捜索を通じ、この場所を慰霊と伝承の場として残すため、活動を続けています。

毎年ゴールデンウィークと年末年始には、沖縄で戦没者遺骨を探し続けている具志堅隆松さんも大熊を訪れ、各地から集まったボランティアの人々と一緒に、汐凪さんの遺骨捜索を進めています。

22年の年始、具志堅さんが初めてこの地で捜索を行った際には、わずか20分で汐凪さんの大腿骨を発見しましたが、以降、それから8回目となる今回の捜索でも、新たな遺骨の発見には至りませんでした。それでも具志堅さんは、「捜し続けること、それ自体が慰霊の行為」だと話し、現場を訪れた若者たちの姿に、「震災を直接知らない世代がこうして訪れる様子を見られて頼もしい」と語りました。

5月2日から5日まで行われた捜索活動には、のべ90人以上が参加し、丁寧に土を堀り、ときおり顔をのぞかせる震災当時のがれきや、巨大な樹の根などの隙間から、遺骨を捜し続けました。

「これだけ多くの人々が訪れてくれることで、すでに“次につながっている”という実感があります」

そう語る木村さんですが、「復興」の現状には懸念も示します。

「立派な施設など、目に見える形での復興が進む一方で、あの震災はなんだったのかということをきちんと残しているのだろうか。この地に暮らしてきた人々への敬意もなく、気持ちも置き去りにされたまま、都会的な開発が進んでいるような気がします」

具志堅さんも、「“復興”や“安全のため”という名目で、行方不明の方々が眠っているかもしれない場所が次々と埋められていく」と語り、多くの戦没者遺骨が眠る沖縄でも、「復興や開発の前に(国に)戦争への反省をしてほしい」と、軍事化の進む沖縄の現状にも警鐘を鳴らしました。

実は具志堅さんは、先月沖縄本島南部の糸満市で、日本兵だと思われる遺骨を発見しました。その遺骨はほぼ全身が残っており、「埋葬されたのではないか」と具志堅さんは見ています。身長160センチ前後、20代前半と推測されており、情報提供を呼びかけています。

「戦闘中の埋葬は困難であるため、仲間を埋葬したという事実を知る人がいれば、ぜひ連絡してほしいです」

取材詳細はまた追って報告いたします。

汐凪さんの遺骨捜索を続けるボランティアたち。(安田菜津紀撮影)

【取材報告】福島県大熊町『一人ひとりの命の尊厳』-約10年9ヵ月を経て見つかった娘の遺骨 _Voice of People_Vol.12
(画像をクリックすると動画が再生されます。)

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Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト / ライター佐藤慧Kei Sato

1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞、『10分後に自分の世界が広がる手紙』〔全3巻〕(東洋館出版社)で第8回児童ペン賞ノンフィクション賞など受賞。

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