イスラエル軍の攻撃が、飢えた人々の命と手足を奪い続けている(Aysarさん寄稿)

徹底的な殺戮が続くパレスチナ・ガザ地区。国際社会の衆目の中で、すべての命がすり潰されるような民族浄化が続いています。ガザ地区のD4P現地取材パートナー、Aysar(アイサール)さんによる寄稿記事です。
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突然の爆弾で足がずたずたに
「道路で友達と遊んでいたときです。とつぜん砲弾が落ちてきて爆発し、みな怪我をしました。私の怪我が、一番酷いものでした」
悲しみに満ちた目でそう語るのは、ガザ地区北部のベイトラヒアに住む13歳の少女、ヌール・アル・アシュカルさんです。
すぐに病院へ搬送されましたが、足はずたずたに引き裂かれており、切断するしかほかありませんでした。今は松葉杖を使用していますが、瓦礫だらけの街では困難が伴います。できれば「義肢」を装着したいと思っていますが、イスラエル軍は、医療品をふくむあらゆるものの搬入を厳しく制限しているため、その入手は困難です。ヌールさん以外にも、多くの人が義肢を必要としているのです。
松葉杖を携えて、ヌールさんはかつて友人たちと遊んでいた通りに戻りました。大好きだった「ケンケンパ」はもうできません。通りには瓦礫があふれ、彼女の自宅も破壊されていました。現在、ヌールさんと家族は、その壊れた家の壁をシートで覆い、深刻な食料不足の中、日々を生きています。それでも、ヌールさんはこう言います。
「いつか私も整形外科医になり、自分と同じ苦しみを抱える人々を助けたい」
残されたわずかな材料で義肢を作製
ガザ地区内に存在した主要な病院は、イスラエル軍によってその多くが破壊されてしまいました。再稼働に向けた努力は続けられていますが、医療品の搬入も望めないため、暗礁に乗り上げています。歴史上かつてないほどに、多くの子どもたちの手足が切断されているというのに、その義肢を作製できる病院は、ガザ市当局が運営する、たったひとつのセンターだけなのです。
「需要に供給が追いつきません」と、センターの理学療法部門責任者、アマニ・アル・ハダッドさんは言います。

供給がおいつかない義肢を制作する。(Aysarさん撮影)
「軍事侵攻以前から、様々な必要物資が『多目的材料』(※)と主張され、搬入することに困難を伴っていました」
(※)編集者補足:本来は民生品であるにもかかわらず、爆弾やロケット弾の製造、あるいは地下トンネルの建設などに転用できる可能性があるとイスラエル側が判断する物資は、「多目的材料」とされ搬入が困難となる場合がある。その判断は恣意的で、私たちが取材でガザ地区を訪れた際にも、機材の持ち込みが許可されたり、されなかったり、担当官の気分に左右されたことを覚えている。
侵攻後、イスラエル軍の命令により、多くのスタッフがガザ南部に退避せざるを得なかったのですが、スタッフたちはリスクを承知の上で、北部に戻ってきて、医療活動を続けています。限られた医療物資で手術を行い、残されたわずかな材料で義肢を作製し続けています。
多くの子どもたちを含む四肢を失った人々は、義肢を待つ長い「待機リスト」を眺めながら、国際社会がこの不条理な「占領」に終止符を打つことを願っています。

センターも爆撃されるリスクは常にある。(Aysarさん撮影)
少なくとも4500人が片足切断
家族がその人の収入に依存している場合、手足を失うことはさらに困難な状況を生み出します。かつてリヤカーで野菜を売っていた、アブデル・ラフマンさんも同様です。
「体が不自由になり、以前のように働けません」
58歳で、2人の息子と2人の孫を持つ彼は、家に留まり、息子たちの帰りを待つことしかできません。自分で働きたいという気持ちが人一倍強いアブデルさんですが、劣悪な道路状況で、瓦礫だらけの街を松葉杖で歩くことは非常に難しいといいます。再び物資が搬入されることがあれば、義肢の材料も届くかもしれません。けれど、義肢の待機リストは子どもや女性がまず優先されるため、アブデルさん自身は、義肢を手に入れるチャンスはないと承知してます。

アブデル・ラフマンさん。(Aysarさん撮影)
2025年1月、ガザ地区保健省は、少なくとも片足が切断された負傷者が4500人に上り、そのうち800人以上が子ども、540人が女性であると発表しました。イスラエル軍の攻撃が、飢えた人々の命と手足を奪い続けているため、この数は今この瞬間も確実に増加しています。
編集者補足:飢餓の要因ともなりえる戦争犯罪
国際刑事裁判所(ICC)の「ローマ規程」第8条2項b(xxv)は、国際的な武力紛争における戦争犯罪として、民間人を飢餓に陥れる行為を明確に規定している。この条文は、「民間人の生存に不可欠な物の供給を奪い、またはその破壊を目的として、民間人を飢餓の状態に置くことを故意に利用すること」を犯罪としており、「民間人の生存に不可欠な物」には、食料、飲料水、医薬品、医療品、住居、燃料など、人間が生命を維持し、基本的な健康を保つために必要なあらゆる物が含まれている。食料の逼迫だけではなく、四肢の損傷は、多くの人々から生計を立てる手段を奪う。特に肉体労働に依存する社会では、手足の自由な動きが失われることは収入源が途絶えることを意味し、栄養失調や飢餓を引き起こす要因となりえる。
(文 Aysar/翻訳・編集 佐藤慧)
※Aysarさんによる原文の寄稿は2025年5月20日。
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