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水深約40メートルの坑内で続く遺骨捜索(長生炭鉱水没事故)

ピーヤ(排気筒)に向かうダイバーを乗せたボート。(佐藤慧撮影)

山口県宇部市で、「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会(以下「刻む会」)」による潜水調査が続いている。長生炭鉱とは戦時増産体制のもと、安全性を無視した作業の続いていた海底炭鉱で、1942年に天盤が崩壊、海水が浸水する事故が発生し、183人もの坑内労働者が命を奪われた。そのうち136人は、当時日本が植民地として支配していた朝鮮半島から強制連行された、あるいは生活苦から日本への渡航を余儀なくされた人々だった。

6月19日の調査では、沖合約300メートルの海面に突き出たピーヤ(排気筒)からダイバーが潜水し、水深約40メートルの坑内を捜索した。いまだ遺骨は発見されていないが、徐々に炭鉱内部の状況が明らかとなってきている。調査は7月、8月にも予定されている。

「刻む会」は日本政府にもその責を問い遺骨の捜索を求めているが、韓国で新たに大統領に就任した李在明(イ・ジェミョン)氏にも近く手紙を送る予定で、日韓合同での遺骨収容・返還を目指したいと述べた。

韓国遺族会会長の楊玄(ヤン・ヒョン)さんも現場を訪れ、犠牲となった叔父の楊壬守(ヤン・イムス)さんの遺骨が眠る可能性のある坑内へと向かうダイバーを見送った。

「戦後80年」と語られる2025年だが、日本という国が主導して引き起こされた人権侵害の多くは、未だ多くが顧みられることなく現在に至っている。長生炭鉱のように、「植民地の人間だから」と、朝鮮の人の命を「物資」のように扱ってきた社会は、人権が軽視される今の社会と地続きのものだ。世界的に武力衝突が続く今、あらためて過去の加害に向き合っていく必要があるだろう。



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フォトジャーナリスト / ライター佐藤慧Kei Sato

1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞、『10分後に自分の世界が広がる手紙』〔全3巻〕(東洋館出版社)で第8回児童ペン賞ノンフィクション賞など受賞。

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