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生活保護や難民をめぐるデマがもたらす被害とは―大澤優真さんインタビュー

2025年6月27日、最高裁前で旗出しをする原告・弁護団。(佐藤慧撮影)

今年6月、生活保護基準の大幅引き下げを違法とする判決が最高裁で出されました。基準引き下げの背景には、政治家による生活保護バッシングがありました。生活保護の利用者や外国籍の人々を率先して叩く姿勢は、どのような被害を生んできたのでしょうか。
一般社団法人つくろい東京ファンド事務局長で、生活困窮者の支援に携わってきた大澤優真さんにお話をうかがいました。

大澤優真さん(本人提供)

生活保護バッシングが生んだ違法な基準引き下げ

――そもそも生活保護とは、どのような制度なのでしょうか?

生活保護は、日本に暮らす人の命や健康を支える重要な制度です。

日本国憲法の第25条では「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定められています。日本に暮らす国民の生存権を国が保障するという意味で、その権利を具体化したものが生活保護です。

生活保護を利用できれば、不十分かもしれませんが、生活費、住居費、医療費などが支給されるという仕組みです。

――2013年から2015年にかけて、生活保護基準の大幅な引き下げがありました。この引き下げの違法性を争った「いのちのとりで裁判」では、2025年6月に最高裁が違法と判断しました。この判決をどのように受け止めていますか?

様々な専門家が指摘しているように、これは正しい判断だったと思います。判決を見てほっとしました。

私自身はこの訴訟に直接関わることはありませんでしたが、原告の方々や支援者の方々の話をずっと聞いていました。バッシングを受けながらも10年以上訴訟を続けた努力が実り、司法の正義が達成されたことはよかったと思います。

――生活保護基準の違法な引き下げの背景には、政治家による生活保護バッシングがありました。政治家が生活保護を率先して叩く姿勢については、どのように考えますか?

実害も出ていますし、支援の現場にいる身として本当にやめてほしいと思います。

2012年のバッシングでは、生活保護を利用することをためらう人がすごく増えたと感じました。それが10年以上経った今も継続しているということを、日々現場で感じています。政治の責任、マスメディアの責任もあるのだろうと思います。

「生活保護を受けるのは恥ずかしい」というような声を、生活相談の場面でよく聞きます。恥ずかしいと思いこまされている状況です。生活保護を利用した後も、「生活保護を受けていいのだろうか」「不遇なこともあるけれども、 生活保護を受けているのだから仕方ない」という声をよく聞きます。

「生活保護を受けることに偏見を持つ社会の目によって、権利である生活保護から遠ざけられてしまっています。この構図は、後ほど話すように、2025年7月の参議院選挙での外国人バッシングにも通じます。

政治家がデマによって不安や憎悪を高め、票を稼いだり政策を押し通したりする。このような構図を、「いのちのとりで裁判全国アクション」共同代表の稲葉剛さんは「モラルパニック」と表現しています。

――自民党はプロジェクトチームを作って生活保護の引き下げを牽引してきました。2012年の衆院選では「生活保護1割削減」を公約とし、 実際にそれに沿う形で引き下げが行われてきました。しかし、最高裁による違法判決後も、引き下げを牽引した自民党議員は責任のあるコメントをしておらず、国も厚労省も謝罪していません *。こうした実情をどのように受け止めますか?

* 本記事の元となった番組配信後の11月7日衆院予算委員会で、高市早苗首相は最高裁判決についての答弁の中で「深く反省し、おわびしたい」と述べたが、原告や被害者への直接謝罪は行っていない。同日、厚労省の専門委員会は、被害の全額補償ではなく水準の再調整という方向性を示した。(参考記事

本当にひどいと思いますし、問題があります。違法ということは、引き下げによって被害を受けた人がいるわけです。被害の回復が最優先されなければなりません。

私は、国は明確な対処をしないのではないかと懸念しています。もし明確な対処をせずに済むという前例ができてしまったら、社会が壊れてしまいます。

今後の生活保護行政、あるいは日本社会のためにも、引き下げをめぐって何が起きたのかをきちんと検証するべきだと思います。

高市早苗首相は以前、生活保護のバッシングを煽るような発言をしていました。(高市内閣で財務大臣に就任した)片山さつき議員も、生活保護のバッシングに大きく加担したひとりです。

こうした政治状況を考えると、引き下げによる被害者への補償や今後の対応がどうなるのか、不安を感じます。改めて関心や大きな声が必要だと思います。

生活保護基準引き下げ判決前、最高裁に入廷していく原告、弁護団ら。(安田菜津紀撮影)

外国籍者への生活保護費支給をめぐるデマ

――2025年7月の参議院選挙では、「生活保護目当てに外国人が殺到している」「生活保護で外国人は優遇されている」といったデマが拡散されました。候補者が率先してデマを煽った場面もありました。こうした実態についてはどう思いますか?

「生活保護目当てに外国人が殺到している」というのがデマだということは、統計を見れば明らかです。厚生労働省の統計によると、2013年度に生活保護を利用している外国籍の方は約7万5千人でしたが、最新の2023年度だと約6万5千人、つまり10年間で1万人ぐらい減っています1

「生活保護で外国人は優遇されている」というデマも、制度の設計や運用を考えれば、むしろ日本国籍の人よりも外国籍の人のほうが、厳しい対応を受けていることがわかります。

こうしたデマは以前の選挙でもよくありましたし、候補者が外国人の生活保護の廃止を主張することもありました。

今回の参議院選挙が過去の場合と違ったのは、生活保護に関するバッシングを選挙期間中に行った参政党の候補者が当選したことです。

参政党は外国人の生活保護への厳しい対応を公約に掲げていました。そういう政党が票を伸ばすことに驚きましたし、怖いとも思います。

――「外国人への生活保護費支給は違法だ」というデマもよくあります。外国籍の方に対する制度運用はどのようになっているのでしょうか?

外国人に生活保護を支給するのは違法だというのは明確なデマです。そのようなデマが出回る背景の一つとして、外国籍の人への生活保護の運用が複雑だということがあります。

大前提として、外国籍の人は、生活保護を受ける権利はありません。その代わり、権利としてではありませんが、一定の外国籍の人には「準用措置」と呼ばれるものが認められています。

準用措置には在留資格による制限があり、日本に暮らす外国籍の人全員が利用できるわけではないという問題があります。今日本に暮らしている人の半分以上は利用できません。準用措置の利用ができない人たちは、いくら困窮しても、最低限の保障も受けられないという状況です。

外国籍の人はまず入国で制限があり、在留資格でも制限されます。さらに日本人の場合と同じような審査があります。準用措置を利用できる在留資格であっても、審査で却下されてしまうことがあります。

日本国籍の人の場合、審査結果に不服があれば申し立てをすることができますが、外国籍の人の場合は不服申し立てをすることができません。

あるアフリカ出身の女性は、準用措置を利用できる在留資格だったにもかかわらず、審査で却下されてしまいました。夫からDVを受けて命の危険を感じて逃げていたのですが、役所で生活保護の担当者から「夫のところに戻りなさい」と言われてしまったのです。

2回却下された後、私が彼女から相談を受けて3回目の申請に同行しました。客観的な情報を示した資料を用意したのですが、それでも却下されました。しかし、不服申し立てはできず、泣き寝入りするしかありません。

排外主義の煽動に反対する記者会見での大澤優真さん(中央)(安田菜津紀撮影)

難民への公的支援制度が機能していない現状

――大澤さんのもとには、難民として日本に逃れてきた方々からの相談も寄せられています。難民申請者についてのデマも横行していますが、これについてはどう考えていますか?

生活保護とはまったく別のものですが、難民申請者の人に保護費が出る制度があります。難民事業本部(RHQ)という国の外郭団体が運用する制度です。保護費が利用できれば、生活費、住居費、医療費の一部が支給されます。

しかしこの制度は、対象が大きく制限されています。2022年の場合、難民申請者のうち保護費を利用できている人は5%に過ぎません2

また、保護費の運用は生活保護よりさらに裁量が大きく、審査に数か月かかることもあります。

難民として日本に来る人は命からがら逃げてきて、路上生活をしている方もいますし、妊婦や子どももいます。そのような人々が困窮したまま、数か月も待たされている現状があります。公的な支援制度が存在しているのに、機能していない状況です。

私たちの支援団体が保護した人たちの話を紹介すると、アフリカから逃げてきたある夫婦で、路上生活をしていた人たちがいました。妻は妊婦で、夫が公園のゴミ箱から食べ物を拾って、どうにか命をつないでいました。

この夫婦は保護費を申請しましたが、却下されてしまいました。理由も教えてもらえないので、対策のしようもありません。

そこで政府に直談判をしたところ、その数か月後に保護費の支給が決定しました。この夫婦の置かれた状況は変わっていないにもかかわらず、です。そういったケースが多発しています。

――「難民申請者は優遇されている」というデマが横行したことによって、RHQには嫌がらせ電話が殺到したそうです。ただでさえ申請結果の判断には何か月もかかるのに、そのような電話が殺到することで業務が停滞し、結果として難民申請者の人たちが被害を受けています。他にはどのような声が大澤さんのところに届いていますか?

衣食住の問題など、生きるか死ぬかに関わるような相談が難民申請者の方たちから毎日寄せられています。

たとえば食べるものがなくて助けてほしいという相談や、病院に行きたいのに行けないという相談が多くあります。

他には、日本語の勉強をしたいという相談もあります。自分の国には戻れない中で、日本で生きていくために日本語を使えるようになる必要があるからです。

――多くの難民申請者が、日本語教育などの公的な定住支援を受けられないのは、そもそも制度設計に欠陥がありそうです。

制度によって生活を保障したうえで日本語教育をして、日本社会で共生できるようにする仕組みが必要ですが、そういった公的な定住支援はありません。

難民申請者の人たちへの支援は民間の人たちが支えていますが、それには限界があります。

そもそも生存を支えきれないということもありますし、就労許可が出るまでどうにか生存できても、就労先を見つけるまでに困難があります。日本語の壁もありますし、職場に行くための交通費や、仕事を探すためのお金もなく、苦労している人が多いです

就職ができた場合でも非正規雇用で、短期間で契約を切られてしまって、また路上生活に戻ってしまうこともあります。

そういう厳しい状況に置かれていても、生きていくために非常に厳しい仕事を淡々とがんばっている、難民申請者の人たちを尊敬します。

つくろい東京ファンドなど複数団体が協力し開かれた「大人食堂」。(安田菜津紀撮影)

尊厳を奪われている人々のために、一人ひとりができること

――難民申請者の方や、生活の変化により在留資格を失ってしまった人たちにとって、仮放免 * は生存権を奪われたまま社会の中に放り出される状態だと思います。そうした方々からはどのような声が寄せられていますか?

* 「仮放免」とは:収容されている外国人の身柄拘束を一時的に停止し、一定条件を付して放免する制度。仮放免中は居住地域外への移動や就労は禁止され、行政サービスの多くも受けることができない。(参考:難民支援協会「難民の報道に関するガイドブック」)

まさに生存権のない世界ですよね。生きる権利を認められない世界だなといつも感じます。

仮放免の人たちは、自営業を含め就労を一切認められません。食費や家賃も払えず、社会保障もないので病院にも行けませんから、まさに生きていけないという状況です。

仮放免の人たちからは、生存に関わるような相談を毎日のように受けます。たとえば、性的な強要と引き換えに家や食べ物を確保できているという女性がいます。

人として尊厳のある生活を送れない状況は、正しくないと思います。仮放免の人たちには、尊厳のある人として生きていけない状況の人が多くいます。

最近では「不法滞在者ゼロプラン * 」が打ち出され、送還される恐怖が高まりました。実際に送還されている人がたくさんいますし、これに関する相談がこの数か月で多く寄せられています。

* 「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」について(出入国在留管理庁):日本では在留資格のない移民を「不法滞在者」と表現することが多くあるが、1975年の国連総会決議に基づいて「非正規(irregular)」や「無登録(undocumented)」と表現することが国際的には一般的である。(参考:移住者と連帯する全国ネットワーク「在留資格のない移民・難民を不法と呼ばず非正規や無登録と呼ぼう!」https://migrants.jp/news/others/230601.html

――難民の方々に対してアクションを起こしたかという質問をした調査結果が公表されています。これによると、世界平均が29%に対し、日本は最下位の8%でした。このような結果についてどう感じますか?

イプソスによる調査「難民に対する世界の意識 2025」

その結果を見たときは、やっぱり日本にいる人は難民に冷たいんだと思いました。

ただ、数年前にウクライナの人たちがたくさん日本に逃げてきて、今も多くのウクライナの人が日本に暮らしています。そのときは国や自治体が支援し、一般市民も多く手を差し伸べました。

そう考えたとき、日本の人たちは難民に冷たいわけではなく、難民の人たちが置かれた実情を知らないからそのような調査結果になったのではないかと思いました。

排外主義的主張をする人もいますが、多くの人はそうではないだろうと信じたいですね。

――困難な状況にある人たちがますます追い込まれていく状況に対し、市民社会や政治は何をしていく必要があるでしょうか?

分断を煽るような、わかりやすい言葉にはすぐに飛びつかないでほしいと思います。ちょっと立ち止まってほしい。

一つひとつを検証することは難しくても、まずは立ち止まり、曖昧なものや複雑なものをそのまま受け止めてほしいと思っています。すぐに正解を出さなくてもいいんだと、多くの人に思ってもらいたいです。

2012年の生活保護バッシングでは、本当はほとんど存在しない不正受給に対するバッシングが高まり、それをマスメディアが後押ししてしまいました。

他方で2025年7月の参議院選挙のときは、マスメディア各社がファクトチェックを行い、事実に基づいた報道をしていました。これはマスメディアにしかできないことだと思いますし、マスメディアの責任だと思います。

政治の責任も大きいです。不安や憎悪を煽れば票を取れるのだとしても、それはやってはいけないことです。現実をふまえて、地道に政策を立案している政治家をもっと評価してほしいと思います。

※本記事は2025年10月22日に配信したRadio Dialogue「困窮者バッシングを考える」を元に編集したものです。

(2025.11.18 / 聞き手 安田菜津紀、 編集 堀川優奈、伏見和子)

  1. 移民政策データバンク「1-2:実際に準用措置を利用している外国籍者はどのくらいいますか?」https://ip-databank.jp/statistics-welfare/ ↩︎
  2.  難民支援協会「難民申請者はどう生きてゆくのか?ー公的支援「保護費」の課題と生存権」https://www.refugee.or.jp/report/refugee/2023/10/hogohi/ ↩︎

【プロフィール】
大澤優真さん(おおさわ ゆうま)

1992年、千葉県生まれ。2013年より生活困窮者支援に携わり、日本国籍者のみならず、難民認定申請者や仮放免者など外国籍の人々の支援にも取り組む。
現在、一般社団法人つくろい東京ファンド事務局長、NPO法人北関東医療相談会理事。社会福祉士。博士(人間福祉)。大学兼任講師。
著書に『生活保護と外国人』、共著に『外国人の生存権保障ガイドブック』などがある。

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