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12月14日(日)、「差別に抗う社会のために D4P Report vol.7 年末活動報告会2025」をYouTube Liveにて配信しました。2025年も「人権」や「加害の歴史」をテーマに、国内外各地の問題の取材・発信を行いました。21世紀も四半世紀を迎えますが、世界では差別や戦争、紛争、ジェノサイドが続いています。そうした問題に向き合い、私たち一人ひとりにできることを考えながら、引き続き発信をみなさまにお届けできればと思います。本配信では、国内外の取材発信をはじめとしたDialogue for Peopleの2025年の活動をご報告し、最後に今後の展望として、次年度の活動についてもお話ししました。(本イベントに出演を予定しておりました、弊会副代表の安田菜津紀は、体調不良のため欠席させていただきました。)

より広がりをみせた発信事業

2025年、D4Pでは、82本のWEB記事投稿、54本のYouTube取材動画投稿を行いました(2025年11月末時点)。

また、新しい連載も開始しました。社会学者の田口ローレンス吉孝さんによる「あぎじゃびよ〜通信」です。沖縄の言葉で「大変だ」というような意味の「あぎじゃびよ〜」ですが、こちらは、身近にありながら気づけていない他者の存在について、日常の中から考えていくエッセイとなっています。まだご覧になっていない方は、ぜひお読みください。

そして、YouTube配信の中心となっている、毎週水曜配信の『Radio Dialogue』では、2025年も様々なゲストをお迎えすることができました。本イベントでは2025年の配信の中から、いくつかの回をご紹介させていただきました。

まず、10月1日の配信では、歴史学者の藤原辰史さんをお招きし、『食権力とイスラエル』について取り上げました。人の命を左右する「食」を兵器として、支配のために利用する「食権力」。今もまさに、パレスチナのガザ地区では深刻な飢餓が起きていますが、それらも明らかな政治的な意図の下で、「食権力」が乱用されていることを指摘する回でした。

続いてご紹介したのは、10月29日の配信。『宗教右派とは何か』というテーマを、斉藤正美さんと一緒に考えていきました。政権が変わっても、選択的夫婦別姓をはじめとしたジェンダーに関する政策が進まないのはなぜなのか。そこには、家制度を国家の仕組みのひとつに、一人ひとりの人間を国家の資材として利用したいという思惑があり、それが宗教右派とも関係していることを考えさせられる回となりました。

2026年3月には、『Radio Dialogue』はスタートから5周年を迎える予定です。いつも配信をご視聴いただいているみなさま、誠にありがとうございます。

『Radio Dialogue』以外の動画としては、こちらも新たなシリーズである、「感情と対話の哲学」が始まりました。2024年、D4Pのマンスリーサポーターの座談会の中で、「社会問題について身近な人と話したいが難しい」という意見をいただいたことをきっかけに、「対話」それ自体について考えてみようという意図で制作。大学教授の小手川正二郎さんをメインスピーカーとしてお招きし、たいへん多くの反響をいただきました。動画をご視聴いただいた方々との座談会も開催し、記事も公開しています。また、本シリーズは2026年の公開に向けて第2弾も企画中です。ぜひ楽しみにお待ちください。

他にも、2024年に引き続き、ドキュメンタリー映画『Not Just Your Picture』の上映会と、ミュージシャンの坂本美雨さんをお招きしてのアフタートークも開催しました。

また、2024年の写真展「パレスチナの猫」から続いて、新たに「パレスチナと猫」写真展も、2025年10月より開催中です。2024年の写真展では、9ヶ所で約1万5000人の方々にご覧いただきました。猫を入り口として、パレスチナにも、私たちと変わらない人々の、大切な日常があるんだということを、写真を通して伝えていくことができました。

書籍としては、安田菜津紀が執筆した『遺骨と祈り』を新たに刊行しました。福島、沖縄、パレスチナを通して、遺骨というものを軸に、過去の歴史と今起きている虐殺について問いかける一冊です。ぜひお手にとってご覧ください。

2025年の発信事業は、新しい連載や動画シリーズ、映画上映会の実施など、これまで以上に広がりをみせた1年となりました。

次世代を担う若者に向けたイベントの開催

次世代を担う発信者へ向けた事業として、11月にオンラインで『メディア発信者講座』を開催し、国内外から25名の受講者にご参加いただきました。2025年は新たに、LGBTアクティビストの東小雪さんも講師としてお招きしました。イベントレポートもぜひご覧ください。

また、学生が主な対象の講演会も各地で実施しました。2025年は計11回の開催、およそ2600名にご参加いただきました。D4Pでは、今後も次世代に向けた講演活動を行っていく予定です。

国内における取材事業 ~差別に抗う社会の実現のために~

2025年も様々な地域に取材に赴き、記事をお届けすることができました。

1月には、神奈川県の川崎区桜本の小学校で、生徒たちと在日コリアンのハルモニ(おばあさん)たちによるキムチ漬けの体験を取材しました。かつては「キムチくさい」と言われ、差別やいじめを受けてきたハルモニたちですが、今では生徒やその保護者もキムチ作りを楽しみにしています。そこから、「差別の現状はどうなっているのかな、日本の加害の歴史はどのように振り返られているのかな」と考え、身近な人と話し合う、大切なきっかけとなる授業でした。

また、名古屋入管で起きたウィシュマさん死亡事件の国家賠償請求訴訟や、埼玉県川口市のクルド人に対するヘイトスピーチ、ヘイトクライムの問題なども取材を続けています。近年、SNS上でも急速に拡大するヘイト行為の影響で、家を借りられなかったり、仕事に就くことができなかったり、子どもが学校でいじめられたりするといった被害も起きています。あろうことか、市議会議員などの一部の政治家からも、外国籍の人々への差別的な発言が飛び交っている状況です。

こうした問題を考え、人種差別に抗うために必要不可欠となるのが、「人種差別撤廃法」の制定です。そもそも日本は、人種差別撤廃条約を締結しているにもかかわらず、包括的な「人種差別禁止法」が存在しません。この現状を鑑み、外国人人権法連絡会が「人種差別撤廃法モデル案」を発表しました。

たびたび、差別を禁止しない言い訳として語られがちな、「表現の自由」という言葉があります。しかし当然のことながら、「表現の自由」は「差別する自由」ではありません。だれかが差別されると、その人の人権が侵害されます。「だれであっても、どこにルーツのある人間であっても、その人には人権があるという観点から話をしないと、実際に法律として固めていくところになかなか進まない。まずは法をつくることで、差別はいけないものなんだというメッセージを発することが重要」と、佐藤は話しました。

また、日本の加害の歴史を伝えていくうえで、2025年に集中的に取り組んだのが、熊本県水俣市のチッソに関する取材です。水俣病を引き起こす原因ともなった、工場排水の中に含まれているメチル水銀。それらを垂れ流していた企業であるチッソは、戦中、軍需産業に携わり、朝鮮半島に水力発電所やダムを建設しました。その過程で、多くの朝鮮人労働者が働かされ、人権や命を奪われてきたのです。その後、日本国内では水俣病が発生しますが、チッソは自社の排水が原因だとわかっていながら、その事実を認めず、それが被害の拡大にもつながりました。こうした植民地支配や権力勾配の中で、命や人権を軽視するという態度は、戦時中から続き、いまの社会にも構造として残っていることが、取材を通して明らかになりました。「誰かの優しさや寛容さで人権の問題をどうにかしようということではなく、すでに(社会の中に)埋め込まれている差別に対して、私たちがどう自覚的になり、(現状を)変えていくことができるのか、D4Pも考え続けています」と、佐藤は述べました。

国外における取材事業 ~パレスチナにおけるジェノサイドを中心に~

国内、国外と分けてお伝えしていますが、戦争も差別も、その国や地域に限定される問題ではありません。地理的に遠く離れてはいますが、日本も決して無関係ではないのが、イスラエルによるパレスチナ人の虐殺です。

この問題を考えるうえで、「イスラエルはホロコーストを経験しているのに、なぜこのような虐殺をするのか」という問いかけがされることがあります。しかし、イスラエルという国やその政治体制は、人権という概念に根ざしてつくられたものとは言えません。本来、大量虐殺という行為は、どこであっても、誰に対してであっても、決して起きてはいけないものです。しかし、シオニズム運動が台頭していく中、パレスチナ人に対しては、何十年にもわたって抑圧、迫害、ジェノサイドが続いてしまっています。

パレスチナ西岸の都市ラマッラーに暮らすゼアさんは、イスラエルの入植者による襲撃で、自身が住んでいた集合住宅と外に停めていた車10台ほどが燃やされるという被害に遭いました。ゼアさんは、当時生後まもない赤ちゃんと一緒で、幸い命は助かりました。しかし、全焼した車の支払いを求められたあげく、どこに訴えても取り上げてもらえないと語りました。

ヨルダン川西岸地区南部の街、ヘブロンの平和活動家であるイッサさんは、2023年10月、イスラエルがガザ地区に侵攻した直後に、イスラエル軍に拉致され、凄惨な拷問を受けました。非暴力不服従を訴え続けるイッサさんですが、「国際法の中では、あらゆる平和的手段を尽くし、それでも自身の命が守られない場合に限り、武装闘争も許されます」と言及します。しかし、イッサさんはそれを奨励しているわけではありません。そのように武器を持つことにより、かえってイスラエルや国際社会から、「ほら見ろ、テロリストだ」とますます激しい弾圧に遭う危険性があるためです。むしろ武器を手に取ることで、「テロリスト」として仕立て上げられ、イスラエル軍の攻撃が正当化されるということも、話してくださいました。

大量虐殺が起きてきたのは、パレスチナだけではありません。イラク北部クルド自治区で、1988年、当時のサダム・フセイン政権は、クルド人をターゲットとした大量虐殺「アンファール作戦」を決行しました。10万人から20万人以上のクルド人が犠牲になり、行方不明になった方の数は18万人ほどと言われていますが、未だ多くの遺骨が発見されておらず、真相究明や補償がされていない状況です。犠牲になった方々の中には、ある日村へやって来たトラックにいきなり詰め込まれて連行され、大きな穴の前に立たされ処刑された人が、年齢性別を問わず、大勢いました。こうした虐殺による後遺症が続いている方や、大切な人を失い心のトラウマを抱えている方が、今もなお多くいらっしゃいます。「戦争が終わり、実弾が飛んでくることがなくなっても、そのトラウマや影は社会に残り続ける」と、佐藤は話しました。

また、韓国にも取材に赴きました。2024年12月3日、尹錫悦大統領(当時)により戒厳令が宣布されました。この事件で、1980年代に起きた光州民主化運動を思い起こした方も多くいました。10月には「国家暴力によるトラウマ」を取材テーマに、光州にある施設「5月母の家」へ伺いました。戒厳令の知らせを聞き、光州民主化運動のトラウマを思い出して怖くなったという方もいらっしゃいます。取材では、「いつまたそういうことが起きるかわからないからこそ、声を上げ続けていかなくてはならない」というお話を聞くことができました。

D4P事務局の1年間の取り組み

取材事業の報告後は、事務局内の組織体制やこの1年間に取り組んできたことについても、一部ご紹介いたしました。

まず、夏頃に、広報スタッフとして新しい職員を1名迎え入れることができ、これまで以上に広く情報を届けるための基盤が整いました。

また、発信チームを新たに2チーム制に増やしました。これまでは、弊会代表の佐藤慧、副代表の安田菜津紀を中心として発信活動を行ってきましたが、既存の職員の業務を整理し、より多くの発信を行うため、もう1つ発信チームを作る運びとなりました。

新しく作られたチームでは、D4P外部のライターの方の寄稿記事や、YouTubeでの発信・イベントなどの企画制作も行っています。発信事業にてお伝えした、「あぎじゃびよ〜通信」や「感情と対話の哲学」などは、こちらのチームの企画となります。

そして、D4Pの法人設立後初めて、職員1名が育児休業を取得することもできました。当該職員は管理職でもありますが、育休期間中も問題なく組織を維持し、活動を行うことができたのは、持続可能な組織を目指してきた、弊会のこれまでの取り組みの成果だったと考えています。

最後に、年に一度の産業医によるストレスチェックを導入したこともお伝えしました。

心理的な安全と安心を確保しながら業務を行うことを目的に、全職員を対象に実施しています。

D4Pでは、今後も持続的に活動を続けることができるよう、引き続き組織基盤を整備、アップデートしていく所存です。

質疑応答

今回も、イベント参加者の方々からたくさんの質問をお寄せいただきました。

「社会問題に興味のない人に、どうずれば伝えていくことができるか」というご質問に対し、佐藤は現在開催中の「パレスチナと猫」写真展を例に、「様々なカルチャーから入ってみることで、(問題に)触れやすくなるところがある。そうして地道に間口を広げていくしかないのかなと考えています」と答えました。

また、教育現場で働いている方からは、「様々なルーツの生徒がいる中で、差別について、教育現場でどのように取り上げるとよいか」というご質問もいただきました。佐藤は「自分がどんな人間であっても、相手がどんな人間であっても、そこには人権がある」ことを挙げたうえで、「人間はどうすれば差別や戦争を克服できるのか、考えた果てに存在するのが人権という価値観」だと言及します。人権の概念は、残念ながらまだまだ社会に定着しているとは言えません。それでも、まずは土台として確かなものにして、そこから発展させていく過程で人権について学んでいくことで、差別に対する教育が、単なる“優しさ”の問題ではないことを伝えられるのではないか、という考えを述べました。

2026年の活動について

最後に、次年度の活動計画についても、共有させていただきました。次世代向け事業の中でご紹介した『メディア発信者講座』は、2026年に第6回を開催予定です。また、国内の取材としては、引き続き生活保護などの社会保障や、外国人やマイノリティの人権と制度、差別の問題、加害の歴史について、さらに深掘りしていきたいと考えています。海外取材にも同様に力を入れ、中東、東アジアへの訪問を計画しています。

そして現在、たびたびご紹介してきましたが、「パレスチナと猫」写真展が全国巡回中です。2月、3月と各地の書店で開催予定ですので、お近くの方はぜひお越しください。写真展を開催したい、もしくはD4Pのフリーマガジンを配架したい等のご希望がございましたら、ぜひご連絡いただけますと幸いです。

Dialogue for Peopleは、2025年も、様々な社会問題を通した取材を継続してきました。いつも温かくご支援くださるみなさまのおかげで、D4Pは多くの方に発信を届けることができています。改めて、日々D4Pを支えていただき、本当にありがとうございます。

昨今、排外主義が加速し、人権が蔑ろにされてしまうことも、残念ながら増えてきています。しかし、だからこそ、みなさまと同じ問題意識を共有し、取材・発信を通して社会の課題を引き続き伝えていくことができればと思っております。今後とも温かいご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。

ご視聴いただいたみなさま、誠にありがとうございました。

(2026.1.16/文 Dialogue for People インターン 平田ノエ)

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