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デマはデマだと何度でも―排外主義に選挙を利用させない

選挙ヘイト――社会の土台を浸食する課題を置き去りにしたまま、衆院選が始まった。

昨年(2025年)7月の参院選では、選挙戦を通じて政党や候補者による排外主義の煽動が行われ、深刻な人権侵害を引き起こした。その状況に危機感を抱いた市民団体らが緊急共同声明を発出し、1,159団体の賛同が寄せられた。

衆院選を通じてさらなる状況の悪化が懸念される中、1月26日、再度市民団体らにより共同声明が発出され、記者会見が行われた。

声明で求めているのは下記の3点だ。

①各政党・候補者は、外国⼈に対する偏⾒を煽るキャンペーンを⾏わず、差別を批判すること
②政府・⾃治体は、選挙運動におけるヘイトスピーチが許されないことを徹底して広報すること
③報道機関は、選挙運動についてファクトチェックを徹底するのみならず、デマやヘイトスピーチもあたかも⼀つの意⾒のように並列的に扱わず、明確に批判すること

大きな問題なのは、そうした排外主義や差別の扇動が、政府による「官製ヘイト」でもあることだ。

「移民のせいにする、というのは、歴史的にみても常套手段なわけですよね」

記者会見に登壇した「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」共同代表の鳥井一平さんは、その欺瞞性を指摘する。

「国民の安全・安心」を大義に、外国人に対する根拠のない不安を植え付ける。共生よりも「秩序」を優先して管理・排除を強化し、「日本人ファースト」のような排外的なナショナリズムを煽る。そして外国人が社会保障を悪用しているかのような「デマに基づいた政策議論」を進める――。

過去に鑑みれば、そうした手法は権力者が市民の不満の矛先をずらしたり、戦争に備えた世論形成を行う際に、度々繰り返されてきたものだ。それらが政府という権力の名のもとに行われることで、現実社会の様々な差別に「お墨付き」を与えている。

とめどない排外主義を前に、昨年の参院選後の11月、全国知事会は《事実やデータに基づかない情報による排他主義・排外主義を強く否定する》との共同声明を出している。

「これは自治体からの悲鳴だなと、私は受け止めました」

「一般社団法人つくろい東京ファンド」事務局長の大澤優真さんは、政府の掲げる『外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策』は、不正の実態や根拠を示さずに、不安を煽る形で「見直し・適正化」を掲げていると指摘する。

外国籍者への生活保護費支給をめぐるデマに関しては、下記、大澤優真さんのインタビューでも触れているのでご覧頂きたい。

「デマはデマであると――。不確かなことは不確かなことであるということを、何度でも言わなければならない。不安や憎悪を煽らない、煽られない、煽らせない」と、大澤さんは強く訴えた。

急速に広がるデマに対するファクトチェックの重要性は、各報道機関でも問われるようになってきたが、「外国人人権法連絡会」事務局長で弁護士の師岡康子さんは、「そもそも差別に加担しない報道が必要」だと語る。

「ちょうど今川口市で選挙が行われていますが、候補者のひとりは、『外国人を追い出さなければ治安を守れません。外国人を全部追い出します』ということを選挙演説で述べています。このような候補者の発言を、もし報道機関が顔写真付きで(他の候補者と)平等に並べて、あたかもひとつの意見かのように取り扱うということをすれば、それは差別への加担であって、報道機関自体が責任を問われると思います」

昨年10月の川崎市長選では、神奈川新聞社は全6候補のうち、差別的言動を繰り返す候補者に対しては、形式的に同等に扱うのではなく、むしろその「選挙ヘイト」の悪質性を批判してきた。その対応に関する事後の自社検証では、《地元紙として地域住民の人格や尊厳、安全を守るということ》を何よりも重視したと述べられている。

また記者会見では、昨年2025年12月に、「国連人種差別撤廃委員会」と「移住労働者権利委員会」が出した『外国人排斥根絶のためのガイドライン』で、世界規模で問題となっている外国人排斥の流れに対して、各国がとるべき指針を示していることも紹介された。

(参照) 反差別国際運動IMADR
人種差別撤廃委員会・移住労働者権利委員会 高まる外国人排斥を根絶するための措置を世界に促す
https://imadr.net/cerdgr3839/

なかでも、選挙における措置については下記を求めている。

①選挙目的で、移住や庇護に関する問題を道具化しないことを候補者や政党が誓約すること
②移民を、問題の原因や危険なものとして(例えば、「違法」外国人という表現)、あるいは非人間化した形で描写しないこと
③政治家による外国人排斥や人種差別的な表現は、徹底的に捜査され、適切に制裁されるようにすること

「このようなことを実現するために、私たち一人ひとりの市民が問われています」と、師岡さんは語る。

「国籍、民族によって差別されず、誰もが人間としての尊厳が保障され、未来に希望を持って平和に生きる共生社会を作っていきたい。そのために私たち一人ひとりが、選挙における差別の煽動を放置せず、声を上げて、差別のない社会を作るために力を尽くすことを訴えます」

記者会見の様子。(佐藤慧撮影)

Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト / ライター佐藤慧Kei Sato

1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞、『10分後に自分の世界が広がる手紙』〔全3巻〕(東洋館出版社)で第8回児童ペン賞ノンフィクション賞など受賞。

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