外国ルーツの人たちを排斥する言葉や、差別をあおる言説が拡散されています。昨年の参院選では、選挙演説で排外主義的な主張やヘイトスピーチが展開され、今回の衆院選でもそうした行為がすでに繰り返されています。また、三重県の県職員採用に国籍要件を復活させる動きなど、選挙とは別の場面でも排外主義が加速しています。「STOP排外主義!近畿弁護士有志の会」のメンバー、弁護士の上林惠理子さん、中井雅人さんと一緒に考えていきます。

上林惠理子さん(左)と中井雅人さん(右)。(本人提供)
三重県「国籍要件」復活の動き
――三重県の一見勝之知事が、一度撤廃した県職員採用の「国籍要件」を復活させる方向で検討を始めました。1999年に撤廃(※)されて以来の大きな方針転換ですが、このニュースを最初に聞いた時の率直な受け止めは?
(※)地方公務員の国籍要件は、高知県を皮切りに全国へ見直しの動きが波及した。三重県は1999年に要件を撤廃。2022年には「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」を施行。同条例では国籍等を理由とする不当な差別の解消を県の責務と規定している。今回の一見知事による「検討」はこうした歴史的経緯に逆行している。
上林 ネット記事で第一報を目にした際、「ついにここまで来たか」という非常に重い、切迫した感覚を抱きました。地方公務員への就任権は、これまで在日コリアンの方々をはじめとする外国籍の住民が、長い年月をかけて闘い、ようやく認めさせてきた歴史的な経緯があります。現在もすべての都道府県で実現しているわけではありませんが、一部の市町村や県で認められるようになってきた権利です。 それを再び剥奪するということは、時計の針を何十年も無理やり巻き戻すような、あってはならない後退です。この問題を放置すれば、三重県から他の地域へこうした動きが波及しかねません。
中井 私は「アンケート」(詳細は後述)という言葉に非常に強い危機感を覚えました。知事の言葉や手法からは、結局のところ、基本的人権の問題を「多数決の原理」によって決めてしまおうという発想が見て取れます。 職業選択の自由や、差別されない権利といったものは憲法上の重要な権利であり、本来、多数決によって脅かされたり、侵されたりしてはならないものです。しかし、知事の姿勢からは「多数決は正しい」「多数決こそが民主主義だ」という論理で、憲法が大切にしている価値を忘れているのではないかという危惧を抱きます。
「アンケート」の構造的問題
――三重県は「県民1万人アンケート」の結果を判断材料にしようとしています。その具体的な中身や、質問の立て方の問題点について、どう思われますか?
上林 この「みえ県民1万人アンケート」というものは、今年で4回目を迎えるそうです。アンケート自体は、住民の方々1万人を対象に、多岐にわたる項目について尋ねる一般的な世論調査のような形式をとっています。しかし、その数ある設問の中の1項目として、「外国人が公務員になることについてどう思うか」という意見を問う質問が組み込まれています。
その質問内容は極めて誘導的です。「法律で自国の情報活動に協力する義務を課す国が現れている中で、外国人を公務員にすることが良いと思うか」といった形式で問うているのです。つまり、最初から「外国人は母国のスパイとして動くリスクがある」という危うい前提を打ち出しています。
問16
現在、三重県は平成11年以降、職員採用における国籍要件を撤廃し、公的な権限を持たない業務*であれば外国籍職員を雇用することを可能としており、これまで医師・看護師などの専門職を中心に外国籍職員を採用した実績があります。
その後、世界の中で国によっては、国内外の自国民に対して、法律で自国の情報活動に協力する義務を課す国があらわれるなど、公的な権限を持たない業務においても個人情報などの重要な情報を取り扱う県の業務において、公務員の守秘義務に抵触する事案が発生することが懸念されています。
一方で、現在、人材不足により公務員の人材確保が難しい状況が続いています。
今後、三重県職員の採用において、引き続き、公的な権限を持たない業務であれば外国籍職員の採用を続けるべきだと思いますか。(〇は1つだけ)
1 続けるべき
2 続けるべきでない
3 わからない
*公的な権限を持たない業務とは、公権力の行使(許認可、徴税等の業務)や公の意思の形成への参画(管理職としての業務)に関わらない業務のことを言います。
一方で、公務員就任権がなぜ重要なのか、多文化共生社会においてどのような意味を持つのかという視点は提供していません。情報の出し方が著しく偏っている中で意見を問えば、一方向に偏った回答になるのは容易に想像できます。さらに、このアンケートは日本国籍を持つ有権者のみに配布されており、権利を奪われる当事者である外国籍住民の意見は、一切反映されません。日本人の意見だけを聞いて外国人の権利をなくしていいか判断するという、極めて非対称で不適切な手法です。
中井 行政側が主張する「情報漏洩への懸念」についても、それを裏付ける客観的な事実は一切示されていません。これまで三重県で、あるいは全国の自治体で、外国人職員が情報を漏洩させたという事件が公表されたことはないと思います。事実に基づかないまま、国籍という属性だけでリスクを語るのは、まさに差別を助長する行為です。
もし本気で情報漏洩を懸念するのであれば、国籍を問わず、地方公務員法や刑法に則った守秘義務の徹底で対処すれば足りるはずです。実際に過去に守秘義務違反で処罰されているのは日本国籍者ばかりです。このアンケートは、マジョリティの「漠然とした不安」を根拠に、マイノリティの「具体的な人権」を制限しようとするものです。こうした事案がまかり通ることで、憲法が大切にしている価値は無視してもよいのだ、多数決でたやすく人権を制限してしまってよいのだという、「不当な規範」を形成してしまわないか恐れています。
排外主義と選挙の結びつき
――昨年の参院選、そして目前の衆院選でも、選挙活動を通じた排外主義的な主張が目立ちます。なぜこれほどまでに排外主義やヘイトスピーチが広がっているのでしょうか?
中井 今の状況は、なるべくしてなってしまったのではないかと感じています。ふたつの大きな要因があります。 ひとつは「アクセル」の部分、つまり入管行政が作り上げてきた土壌です。国は「労働力は欲しいが、労働者(人間)はいらない」という姿勢で、技能実習生や帰還困難な人々を都合よく扱い、時には「国にとって好ましくない外国人はお帰りいただく」というメッセージを連発してきました。こうした行政の蓄積が、差別のアクセルを強めてきたのです。もうひとつは「ブレーキ」の不在です。日本には包括的な差別禁止法がなく、差別はいけないという法的な規範が極めて弱い。ブレーキがないまま、国が差別のアクセルを押し続けてきた結果が、現在の選挙における排外主義の噴出に繋がっていると考えています。
上林 昨年の参院選は、私にとっても非常に衝撃的なものでした。各政党がキャッチフレーズのように排外的な言説を打ち出し、それがネットや街頭に溢れました。非常にたちが悪いと感じるのは、それらが一見「政策論争」の体裁を整えている点です。露骨な侮辱表現は避けていても、事実に基づかない不安を煽ることで、人々の差別意識を巧みに刺激している。メディアも市民も、それが「政策」だと言われると、違法性や不当性を指摘しにくくなってしまう。その結果、選挙後も街頭で「日本は日本人のものだ」と叫ぶようなデモが頻発するようになってしまいました。事実に基づかない、いわゆる「フワッとした雰囲気」による言論が責任を問われないまま発信されてしまった罪は、極めて重いと言わざるを得ません。

2025年7月、東京・新宿でおこなわれた「人権ファーストデモ」にて。(安田菜津紀撮影)
「包括的な差別禁止法」の制定が不可欠
――こうした状況に歯止めをかけるには、今後どのような取り組みが必要でしょうか?
上林 まずは「事実」を徹底的に追求し、提示することです。メディアには、政治家の発言が事実に基づいているのかを厳しくチェックするファクトチェックの役割をさらに強めてほしい。事実に基づかない差別的な発言を行う候補者が、有権者の審判によって落選するという健全な循環を作らなければなりません。また、司法の姿勢も問われています。日本の裁判所は「マクリーン事件判決」(※)の枠組みから脱却できておらず、外国人の人権を国家の裁量の下に置いたままです。行政が暴走し、政治が人権をないがしろにするとき、最後の砦であるはずの司法が現代的な判断を示す必要があります。
(※)マクリーン事件判決(1978年)
外国人の人権の範囲が争われた憲法裁判の最高裁判決。判決は《外国人にも基本的人権は及ぶ》としつつも、それは「在留制度の枠内」での保障にすぎないと結論づけた。最大の問題は、国(法務大臣)に「極めて広範な裁量権」を認めた点にある。これにより、行政が「在留管理」を理由にすれば、外国人の権利を制限しても違憲になりにくい法的土壌が形成された。約半世紀前のこの判断が今も「先例」となっているため、すでに多様な市民で構成されている現代の日本社会においても、外国人の人権は「国の裁量」より制限されている。
中井 中長期的な視点では、やはり「包括的な差別禁止法」の制定が不可欠です。差別を直接的に規制する法律は、短期的な抑止力になるだけでなく、10年、20年と積み重なることで、かつての男女雇用機会均等法のように、新しい社会規範を作っていく役割を果たします。同時に、私たちは「労働力は欲しいが人間はいらない」という思想を根本から見直さなければなりません。日本にはすでに多くの外国籍住民が生活しており、これからも増えていくでしょう。彼らと共に、どのような社会保障やコミュニティを作り上げていくのか。そうした現実的で建設的な議論こそが、民主主義を守るために必要だと考えています。
※本記事は2026年1月28日に配信したRadio Dialogue「排外主義と選挙」を元に編集したものです。
(2026.2.4 / 聞き手 安田菜津紀、 編集 佐藤慧)
【プロフィール】
上林惠理子(うえばやし えりこ)
大阪の弁護士。弁護士法人FAS淀屋橋総合法律事務所に所属。青年法律家協会、全国難民弁護団、大阪労働者弁護団等に所属。主に、行政事件、入管事件、労働事件を扱う。
中井雅人(なかい まさひと)
2015年弁護士登録。主に労働者側労働事件、入管事件、名誉毀損や差別に関する事件等を扱う。日本労働弁護団、大阪労働者弁護団、大阪弁護士会人権擁護委員会国際人権部会(2020年度より部会長)などに所属。大阪入管職員らによるトルコ人に対する暴行事件(2020年9月和解)、同職員らによるペルー人に対する暴行事件(2025年4月一審判決)、ウィシュマさん名古屋入管死亡事件(2022年3月4日提訴)など弁護団で担当。技能実習生をはじめとした外国人労働者の事件にも取り組む。
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フォトジャーナリスト / ライター佐藤慧Kei Sato
1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞、『10分後に自分の世界が広がる手紙』〔全3巻〕(東洋館出版社)で第8回児童ペン賞ノンフィクション賞など受賞。
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