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「選挙は大切なものだから大丈夫だよ」とまた言える社会に―標的となった「外国人」「生活保護」

デイサービスで出会った103歳のハルモニの手。(安田菜津紀撮影)
※本記事では差別文言を記載している箇所がありますのでご注意ください。

「在日1世たちに介護保険制度について説明して回っても、『お前たちだまされてる、俺たちが使えるはずはない』『あれは日本人のものやろ』って言い切るんです」

在日コリアンの高齢者にデイサービスを提供する京都の施設を取材したとき、「国籍条項がなく介護保険制度が始まったことを当初はなかなか信じてもらえなかった」と、職員たちは振り返った。



社会保障からはじき出された人々

日本でこの制度が始まったのは2000年のことだ。これまでの歴史的な経緯を振り返れば、「使えるはずがない」と思い込む高齢者たちがいるのも無理のないことだった。公的福祉からはじき出され、「自力で何とかする」ことが当たり前だと思ってきた世代だ。

戦中、植民地支配下にあった朝鮮半島の出身者は、1952年に発効したサンフランシスコ講和条約により、日本国籍を剥奪された。ただこれには前段がある。1947年5月2日に外国人登録令が、翌5月3日には日本国憲法が施行され、この時点で在日コリアンたちはすでに「外国人」扱いされていた。法の下の平等などを定めた憲法の「国民」から除外されたことにより、様々な日本の社会保障制度からはじき出されていく。

日本政府は長らく「在日外国人」を、国民年金制度の対象外としてきた。国民年金法が制定された1959年当時、日本政府が把握していた「外国籍者」のうち、9割以上は在日コリアンだ。日本の植民地支配や戦争に翻弄され続けてきた人々に対し、その責任と向き合うどころか、むしろ生きる権利を蔑ろにするような扱いを続けてきたことになる。

難民条約批准に伴い、制度における「国籍条項」が1982年に撤廃されてもなお、法的措置からこぼれ落ち、無年金のまま放置されてしまった障害者や高齢者たちがいる。



根拠なき外国人生活保護利用の「厳格化」

2025年7月の参院選で、一部政党が「外国人への生活保護支給廃止」などを訴え、ネット上には「外国人が生活保護で優遇されている」というデマが飛び交った。同月15日、福岡資麿厚生労働大臣は閣議後記者会見で「生活保護受給の扱いで外国人を優先することはない」と述べている。

「生活保護目当てで外国人が来日している」という根拠不明の言説も飛び交ったが、生活保護が準用されるのは「永住者」「永住者の配偶者」「日本人の配偶者」「特別永住者」「定住者」や、難民認定を受けた外国人などに限られており、保護利用のために短期で滞在することは考えられない。

2025年5月、生活保護基準大幅引下げの違法性を問う「いのちのとりで裁判」最高裁判決前の院内集会で。(安田菜津紀撮影)

ところが政府は2026年1月23日、外国人の生活保護受給の「対象となる者の見直し」を検討する方針を示したのだ。しかもそれは、「権利としての生活保護をより広く届ける」ための見直しではなく、より今の措置を狭めようとする「見直し」だ。

しかしその「根拠」は判然としない。2025年4月時点で生活保護利用世帯は全国164万3444世帯、このうち外国人が世帯主の家庭は4万7206世帯と2.9%にとどまり、10年ほどの推移を見ても、割合に大きな変化はない。在留外国人の保護率は1.93%(2023年度の1ヵ月平均)と、日本人を含む全体の保護率は1.62%をやや上回るのは、先述の通り、在日コリアンたちが長らく社会保障の外に置かれてきた事情がある。

生活保護問題対策全国会議も、「厳格化」する政府方針に反対する緊急声明を出している。



「選挙だから大丈夫だよ」と言えない現状

在日コリアンはじめ、多様なルーツの人々が共に暮らす神奈川県川崎市・桜本で、多文化共生施設「ふれあい館」は地域の重要な拠点となっている。「差別をなくす」などの目的を掲げ、条例に基づき設置されており、運営も公金によって行われている。

私は度々、地域のハルモニ(おばあさん)たちが集まる「ウリマダン」の取り組みを取材してきた。「ウリマダン」は直訳すると、「私たちの広場」という意味だ。教育の機会を逸して働き、日本語の読み書きができないことで地域から孤立しがちだった、在日1世のハルモニたちのために開かれていた識字学習の場がその前身だ。今では高齢化した在日2世、戦後に韓国から渡ってきた人々、南米にルーツがある高齢者、あるいは日本の社会福祉になじめない日本人も含め、様々なバックグラウンドを持つ人々の集いの場となってきた。

なんとか自助、共助で生きてきたハルモニたちが、福祉サービスにつながれることで、やっと人間らしい暮らしが送れるようになった姿を、ふれあい館の館長、崔江以子(ちぇ かんいぢゃ)さんも見てきた。

「福祉サービスは“施し”ではなく、一人ひとりの尊厳が守られて生活できるためのセーフティーネットですよね。国籍による線引きでさらに排除が強まることに危機感を抱いています」

川崎市・桜本にある多文化共生施設ふれあい館。(安田菜津紀撮影)

2026年2月3日の夕方、ふれあい館を訪れると、自転車が駐車場いっぱいに停まり、子どもたちのにぎやかな声が館内のあちらこちらから響いていた。こうして多様な子どもたちの居場所でもあるふれあい館だが、悪質なヘイトクライムが、その安心、安全を度々揺るがしてきた。

2020年1月、ふれあい館宛に「在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう」などと書かれた年賀ハガキが届き、その月末には、川崎市の事務所に「ふれあい館を爆破する、在日韓国人をこの世から抹殺しよう」などと書かれたハガキが送られてきた。その後も脅迫の手紙や電話などが続く。

さらに2025年は参院選のみならず、川崎市長選も行われ、立候補者の一人が、市のヘイトスピーチ禁止条例廃止と、ふれあい館の「中立化」を主張し、差別を扇動した。当時ふれあい館に届いた中傷、ヘイトを含むメールは約5500件に及んだ。職員が電話に出ると「あなたは何人?」「答えないというのは外国人か」から始まり、排外主義的な「主張」を話し続けられることもあったという。今回(2026年)の衆院選でも変わらず緊張している、と崔さんは語る。

「“日本人のためにならない要因”として外国人を的にするような主張をスピーカーで流す――そんな選挙カーがいつ来るか分からないという不安は、選挙を重ねる度に強くなってきています」

2015年から16年にかけて、ヘイトデモがこの桜本を標的にし、大音量でヘイトスピーチを繰り返す集団が、ふれあい館のすぐそばまで迫った。「差別の被害は、直接その言葉をぶつけられた時だけに生じるものではないんです」と、崔さんは振り返る。

「2017年10月、衆院選と川崎市長選が行われたとき、選挙カーが地域に入ってきて、スピーカーから声が響いてくると、ふれあい館に来ていた子どもたちが、『またヘイトが来たの?』と体をこわばらせて不安そうにしていたことがありました。私はその時、『大丈夫だよ』と説明したんです。『これは選挙っていってね、社会をよくするために大切なことなんだよ。心配しないでね』と。あれから10年近くが経って、『選挙だから大丈夫だよ』という、私の説明の土壌が揺らいでしまっています」



植民地といじめの言葉

2026年2月4日、神奈川県川崎区桜本にあるさくら小学校の6年生が、朝鮮料理のひとつ、キムチ漬けを体験した。その「先生」として子どもたちにアドバイスをしたのが、ふれあい館のウリマダンなどで活動するハルモニたちだ。

子どもたちにキムチの漬け方を教えるハルモニたち。(安田菜津紀撮影)

95歳になる石日分(そく いるぶん)さんは、ハルモニたちを代表し、目を細めながらこう語った。

「昔のことを考えると、みなさんと一緒にキムチを作るのが、夢のようです。朝鮮半島がまだ植民地だった頃、日本の学校に行くと、“キムチ”はいじめの言葉でした。『キムチ臭い』『汚い』『帰れ』って」

戦時中の厳しい時代を振り返り、「差別をしない、平和を守っていくことが一番大事」と語りかけた。

さくら小学校の子どもたちに語りかける石日分さん(左から二番目)。(安田菜津紀撮影)

キムチ漬け体験が終わって感想を求められると、次々と子どもたちから手があがり、「作りながら、早く食べたくなった」と待ちきれない様子の児童もいれば、「1日1時間でもこういう交流を持てるといいと思った」と、ハルモニたちとのふれあいに対する声もあった。

崔さんは改めて思いを語る。

「投じられる票の行方に救われる人がいれば、傷つく人もいます。投票する権利がなくても、誰にとっても優しい豊かな社会を望んでいる人たちがいることを、置いてきぼりにしないでほしいと、心から願っています。『選挙だから大丈夫だよ』と言えていた社会を取り戻したいです」

Writerこの記事を書いたのは
Writer
フォトジャーナリスト安田菜津紀Natsuki Yasuda

1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『国籍と遺書、兄への手紙 ルーツを巡る旅の先に』(ヘウレーカ)、他。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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