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家賃高騰を考える―「住まいは人権」を社会に(佐藤和宏さんインタビュー)

2026年3月に開催された「家賃高すぎ。なんとかしろ!デモ」(佐藤和宏さん提供)

都市部を中心に全国的に高騰する家賃。その背景には、どのような住宅政策上の課題があるのでしょうか。入居差別の深刻な課題に直面する人々もいます。

誰もが安心して住み続けられる社会に必要な視点を、高崎経済大学准教授の佐藤和宏さんと考えます。

佐藤和宏さん(本人提供)

増加し続ける住居費負担

――日本の住宅問題には、どのような特徴があるのでしょうか。

これまで日本の住宅政策には、「仕事と家族が安定していれば、住宅は問題ではない」という発想が強かったと思います。

象徴的なこととして、たとえば日本の「住宅手当」(「住居確保給付金」)は、「仕事がない人が仕事を探している間のみ住宅の家賃分を負担する」仕組みになっています。

平山洋介さんが著作1で書かれていますが、仕事と家族が「安定」していることを「普通」と考え、それ以外には支援しないという発想が強かった点が一つの特徴と言えます。

また、後にも触れますが、住宅政策が掛け算のような仕組みになっている側面があります。たとえば、小池百合子都知事が少子化対策として肝入りで整備しようとしている「アフォーダブル住宅」は、子育て世帯向けに市場の2割から3割ほど安い家賃で、今後5年間で数千戸ほど供給する予定です。

しかし、東京では子育て世帯は相対的に所得が高い層になっています。もちろん少子化対策は大事ですし、アフォーダブル住宅も政策の選択肢の1つとしてあっていいと思いますが、相対的に所得が高い層に税金を使って給付をする仕組みになっています。

――現状では、住居費の負担率はどのようになっているのでしょうか。

長期的には住居費の負担率は上がっています。

川田菜穂子さんによると2、可処分所得を分母、住居費を分子として住居費負担の割合を出すと、2つのことが見えてきます。まず、1989年から2019年の30年間で、住居費負担率が9.7%から13.1%に上がっています。

もう1つ、年齢別に住居費負担率を見ると、年齢が若いほど負担は重く、30年間で重くなった程度も大きいことがわかります。65歳以上の方は30年間で8.2%から8.3%(0.1%増)だったのに対して、35歳未満の方は12.1%から17.4%(5.3%増)にもなっています。

家賃高騰の背景と排外主義

――特に東京などの都市部で家賃が急激に上がっている背景として、何が考えられるでしょうか。

短期的には、2023年頃から全国的に都市部で家賃が上がっていると言われています。特に東京都23区では、2023年に43.1%だった住居費負担率が、2025年には52%と、他の大都市に比べても異常なほどの上昇でした。

この背景は、一般的には需要と供給から説明されています。供給面では建築関連の材料費や人件費が上がり、物件自体の価格が高くなる一方、需要面では住宅価格の上昇により、これまでであれば持ち家を買っていた層が賃貸市場に流入し、強気の家賃設定がなされている側面があります。

――佐藤さんたちはこの3月、家賃高騰について記者会見とデモ(「家賃高すぎ。何とかしろ!デモ」)を行いました。本当に困っている人たちから、どんな声が届いているのか、差し支えない範囲で教えていただけるでしょうか。

記者会見の様子は動画が公開されており、一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さんや当事者の方からの発言があるので、ぜひ聞いてみてください。

「家賃高すぎ。なんとかしろ!デモ」開催記者会見

この会見では、生活保護を現在利用している当事者の方もお話されました。生活保護の住宅扶助は地域や世帯人数によって額が決まり、たとえば東京23区では単身の方で53,700円が上限です。家賃が上がっているので物件を探しにくいことに加えて、この方は不動産屋で「うちは生活保護利用者で精神障害をもっている人には貸さない」と門前払いにあったそうです。私は隣で聞いていて、大変胸が苦しかったです。

これがごく一部の方かというと、そうではないだろうと思います。東京借地借家人組合連合会(「東京賃借人ユニオン」)で、「賃料値上げ110番」という電話相談を去年から3回ほど受けたのですが、毎回数十件の相談が来ているとのことでした。東京都も賃貸の相談窓口を作ってはいますが、その電話がつながらないという声も聞きます。

住宅政策が再分配機能を果たしていない

――こうした切実な声が上がり続けている背景として、日本の住宅政策にはどのような課題があるのでしょうか。

まず、これだけの家賃高騰があるのに、政策との関係で議論されず、需給の問題に縮められてしまいがちなこと自体が相当にいびつです。

実際には自己責任ではないものが自己責任とされたり、事実に基づかない主張が排外主義的に政治利用されている現実があると思います。

次に、住宅政策が機能しているだろうかという点です。豊かな人から貧しい人に配る所得再分配の面が、住宅政策にもあります。しかし近年はタワーマンションを建てるのに国交省からの補助金が使われ、その結果、地価上昇が生じ家賃が上がり、低所得層は住めなくなっています。

東京オリンピック・パラリンピックの際には、国立競技場を建て替えるために、隣接する都営霞ヶ丘アパートが撤去されました。再開発が豊かな人をより豊かにし、貧しい人をより不安定にしていくという逆進的な性質を持っているのではないかと思います。

第三に、こうした現状と表裏一体のこととして、これまでの日本の住宅政策が、仕事と家族が「安定」している世帯に持ち家を持たせることを中心にしてきた点があります。

その裏返しで、家賃統制はとうの昔にやめてしまいましたし、公営住宅やUR、地方住宅供給公社など公的賃貸物件の新築は、災害対応を除いて基本的に行われていません。

――海外と比較すると、どのような特徴があるのでしょうか。

まず、OECD諸国の公的な住宅手当の予算を比較してみると、OECD平均が対GDP比で約0.3%なのに対し、G7の中ではイタリアと日本が約0.1%となっていて、住宅政策にお金を使っていないことがわかります。

また、賃金が中央値くらいの世帯が住宅手当を利用できている割合を比較すると、OECD28カ国中で日本は14位くらい、つまりちょうど真ん中です。日本はGDPで見れば今でも世界4位くらいなので、住宅手当を使えている世帯は相対的に多くないことがわかります。

さらに、公営住宅(より一般的には「社会住宅(ソーシャル・ハウジング)」)に住めている割合は、OECD31カ国のうち日本は16番目くらいです。やはり多くの人が住めているわけではないということがわかると思います。

「差別の見本市」のような入居差別

「家賃高すぎ。なんとかしろ!デモ」(佐藤和宏さん提供)

――家賃高騰は今の生活だけでなく、将来設計にも大きな影響を与えてしまうのではないでしょうか。

個人でも世帯でも、将来への透明な見通しが持てるかどうかは、合理的な行動をする上でとても大事なことだと思います。

社会住宅が多いかどうかや住宅手当がどれくらい寛大であるかによって、若者の自立に影響があるということは、世界的に言われています。また、私個人は少子化対策ばかりに焦点が当たることにはやや違和感がありますが、住宅費負担が重い国は出生率が低いという傾向もあります3

負担と負担感には「階層性」、つまり所得や収入によって違いがあります。中央労福協(労働者福祉中央協議会)が、若者3000人を対象に行った住まいに関する調査4では、若者の一人暮らしでは所得が低いほど住居費の負担率が高く、負担感も高くなっています。

所得が低いほど親と同居している若者の割合が高くなることも合わせて考えると、単に住宅費が上がっているだけではなく、日本の住宅政策のデザインが若者の自立あるいは生活を阻害していると考えられます。

――若者の中でも学生だったり、あるいは正規雇用ではない方々が特に影響を受けやすいかと思いますが、その点はいかがでしょうか。

『住む権利とマイノリティ:住まいの不平等を考える』(青弓社編集部(編著)、青弓社、2025年)では、マイノリティの方は不況などの不利益を被りやすいことが指摘されています。

学生については、中長期的に仕送りが減っており、短期的にも物価高や家賃上昇が生じています。アルバイトを長期間せざるを得なかったり、奨学金に頼らざるを得ないといったことが増え、学生の生活に対する外在的な制約が強まったり、選択肢が狭められると考えられます。

非正規労働者の方も、低所得や解雇のリスクから、住まいに制約があります。生活困窮者支援などを行うNPO法人「トイミッケ」代表理事の佐々木大志郎さんも強調されているのが、いわゆるスキマバイト、スポットワークの問題です。

「日銭」を稼ぐことができて、その範囲ではホテルやネットカフェなどで住まいもなんとか得られる一方で、(住所がないことから)アカウントが停止してしまったり、たまたまその日自分ができる仕事がなかったといったアクシデントによって、一挙に住まいの喪失につながってしまうことが指摘されています。

――元々住まいを確保しにくい方々にとっては、家賃高騰によりどのような影響があるのでしょうか。

稲葉剛さんが日本の賃貸市場を「差別の見本市」と称したことがありますが、家賃高騰よりも前に、まず入居差別の問題があります。たとえばアメリカの「フェアハウジングアクト」(公正住宅法)のように、性別や人種などの属性を理由とした入居差別を禁止する国がある一方、日本ではそういった法的理念の水準で入居拒否を禁止していません。

その上での家賃高騰の影響について、一言で言ってしまうと、「絶望感」だろうと思います。親元にとどまらざるを得ず、その結果、親への依存や従属を強めてしまったり、家族が原因でホームレスになってしまうこともあります。

家賃に伴い敷金や礼金などの初期費用が上がることで、より入居のハードルが上がることもあります。東京都が実施したネットカフェ調査によると、ネットカフェで生活せざるを得ない理由では、「初期費用が確保できない」が「安定収入がない」「保証人が確保できない」と並びトップ3となっています5

家賃規制や公営住宅などの取り組み

――家賃高騰に伴うこうした問題を改善するためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。

デモや記者会見などを行うと、「職場から離れたところに引っ越せ」とか「より狭いところに住め」という言葉をSNSでいただくのですが、家賃は今全体的に上がっており、安い地域でも高くなっているので、引っ越すことだけが答えではないと思います。

これまで申し上げてきたように、自己責任に委ねるのでも、これまでの不公平な住宅政策をそのままにするのでもなく、まともな住宅政策をするという方向性をきちんと打ち出すことが大事です。

最近ではスペインで、左派政党連合が家賃凍結を主張し、社会労働党所属の首相がその案を修正した上で受け入れることを決定しました。(ただし、議会で成立はしていません。)

住宅政策に積極的な政党を増やして、消極的な政党を減らせば、政策を実現させていくことは民主主義社会であればできると思います。

ドイツでは、2015年に借家法を改正する形で、築年数や広さなどにより設定する家賃相場の10%までしか家賃を上げてはならないというルール(「家賃ブレーキ」制度)が作られました。州ごとに住宅が逼迫している地域を指定する形で運用され、2029年までの延長も決まっています。

――住宅手当や住居支援などの政策には、どの程度効果が期待できるのでしょうか。

政策効果を議論する前提としては政策の目的や基準が必要ですが、日本の場合には、住居費の負担をこれ以下にするとか、広さがこれ以下ではいけないといった基準がありません。

今のまま住宅手当が導入されたとしても、単に家賃が上がって、家主の実入りが増えてしまうだけになる可能性があります。

アメリカやカナダでは、家賃が所得の3割を超えている場合は住宅手当を使って、3割に収まるようにしています。そうした明確な基準やプロセスがあれば、住居費負担の軽減につなげられると思います。

――公営住宅を増やすことも家賃問題の解決に寄与するのでしょうか。

公営住宅が増えれば、大きく2つの効果があると思います。

1つは直接的な効果です。公営住宅の家賃は市場家賃よりも政策的に安く設定されるので、公営住宅が増えれば安く住める世帯が増えます。政府は公営住宅の家賃算定基礎額の基準について、家賃負担率を15%から18%に設定しようとしているということですから6、それが基準の1つになると思います。

もう1つ、間接的な効果もあります。公営住宅はファミリー世帯向けのものが多いので、安くかつ広い、良質な住まいが賃貸市場の中で増えることになります。その結果、間接的に家賃や住宅の質を規制する力を持つと思います。

誰もが安心して住み続けられる社会のために

――誰もが安心して住み続けられる社会をつくるには、どんな政策や視点が必要なのでしょうか。

冒頭でも触れた東京都による「アフォーダブル住宅」など、現在進んでいる逆進的な政策について、この方向性でよいのか考える必要があります。

国の審議会では、いわゆる「残価設定型住宅ローン」の推進も議論されています。これは住宅の価格のうち、ある部分までを住宅ローンで支払い、残りの部分は支払わない残価として設定するというものです。

月々の返済額は少なくなる一方、総コストが高くなったり、最後に物件を売却することが前提となっている点などに問題があります。選択肢の一つとしてはあるのはよいですが、これをアフォーダビリティ対策とされることには違和感があります。

今ある政策だけでなく、発想の転換が求められています。たとえば公営住宅には確かに税金を使いますが、住宅費負担の緩和になるだけでなく、長期的に良質なストックが社会の中に作られていくメリットがあります。DVや災害時の避難先にもなります。

公営住宅を運営する自治体にとっては、家賃が安定的な収入にもなるはずです。これを長期的な投資と考えれば、公営住宅を増やし、それを軸に住宅政策を展開することは、社会全体にとっても経済合理性にとっても、十分検討する価値があると思います。

――住まいに関する制度設計をする上では、そもそも住まいとは人権であるという発想が必要だと思います。その発想に軸足を置くにはどんなことが大切なのでしょうか。

まずは、「住まいは人権」という発想それ自体を大事にするということです。憲法における生存権や個人の尊厳、法の下の平等などを基軸として、その理念をより豊かなものにしたり具体化していくということが必要だと思います。

もう1つ、なぜこのことが日本社会で広まっていかないのだろうと考えると、今ここにいる人間を人間とみなすこと、つまりそもそも人権や権利を日本社会に根づかせるということが、どうしても必要なのだと思います。

ある研究者の方の言葉ですが、「民主主義とは、人間を馬鹿にしないこと」だと。みなさん自身が誰かに馬鹿にされないように、そして誰かがあなたに馬鹿にされないように、人権と民主主義を軸にした社会を私たち一人ひとりが作り上げていく。そういう決意と行動こそが大事なのではないかと思います。

※本記事は2026年3月25日に配信したRadio Dialogue「『家賃高すぎ』を考える」を元に、その後の状況も踏まえて編集したものです。

(2026.4.21 / 聞き手 安田菜津紀、 編集 伏見和子)

  1. 平山洋介著『住宅政策のどこが問題か』(光文社新書、2009年) ↩︎
  2. 川田菜穂子『新型コロナウイルス感染症の拡大により顕在化する住宅アフォーダビリティの課題』(https://www.jstage.jst.go.jp/article/consumercoopstudies/545/0/545_16/_article/-char/ja/ ↩︎
  3. 川田菜穂子「若者の住まいと住宅政策」宮本みち子編『若者の権利と若者政策』(明石書店、,2023年)p.91-115 ↩︎
  4. 労働者福祉中央協議会「若年層における住宅に関する意識・実態に関する調査」(2026年2月13日公開)https://www.rofuku.net/20260213/ ↩︎
  5. 東京都「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」(平成30年1月26日)https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/seikatsu/netcafe_survey ↩︎
  6. 平山洋介『住宅保障政策を問いなおす』(2017年、岩波書店『世界』2017年7月号掲載)https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/90004666/90004666.pdf ↩︎

【プロフィール】
佐藤和宏(さとう かずひろ)

高崎経済大学地域政策学部准教授。1988年静岡県生まれ。東京大学人文社会系研究科博士課程修了、博士(社会学)。日本学術振興会特別研究員、東京大学社会科学研究所特任研究員などを経て、2023年より現職。

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