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「三密」が懸念される自然災害時の避難所、今後とるべき対策とは?

5月末、緊急事態宣言が解除されたものの、欧米などで見受けられる感染の「第二波」が起きる可能性が懸念され、移動やイベント開催には慎重な呼びかけが続いています。さらにこれから夏にかけ、台風などの豪雨災害と新型コロナウイルスへの対策が重なっていく時期となります。どんな対策が求められているのか、岩手県陸前高田市で避難所運営役員だった佐藤一男さん、日本赤十字社東京都支部事業部長の高桑大介さんに伺いました。


佐藤一男さん(避難所運営アドバイザー)

米崎小学校体育館避難所での生活後、米崎小学校仮設住宅で暮らし、昨年12月から災害公営住宅での生活が始まった佐藤一男さん(右)ご一家


―佐藤さんは東日本大震災後、米崎小学校体育館の避難所で運営役員を務めていらっしゃいましたが、どんな点に気を使っていましたか?

東日本大震災が起きた3月は、風邪やインフルエンザの流行る時期でもありました。幸いアルコール除菌スプレーは初期の頃に物資として届いたので、入退室の際やトイレの後の手洗い、アルコールによる除菌を呼びかけていたほか、保健室のカーテンで仕切られたベッドを確保し、万が一感染者が出た場合に備えていました。

ただ、米崎小学校体育館には、当初200人もの人が避難をしていました。これだけの人数の避難所を運営するとなると、賄いを担当する人のリスクが高くなります。食器類など、全員が触ったものを、洗う際などに触らざるをえないからです。食器にラップをかけて盛りつけ、食後はサランラップごと捨ててしまうなどの対策をとれば、リスクを減らすことはできるのではないかと思います。

―ただ、アルコール除菌やラップ、紙皿などは、全国的な感染症の流行で物流に影響が及ぼされると、すぐに物資として届くとは限らないですよね。

確かに今は、東日本大震災後のように支援のための人が来ない、物資が来ない、という可能性を考えなければならない恐ろしさがあります。だからこそ、日ごろからある程度の備蓄を複数箇所で行うことが望ましいでしょう。

―インフルエンザだけではなく、新型コロナウイルスの感染を防ぐ必要がある今、避難所運営ではどのような対策が望ましいでしょうか?

今の避難所運営は「三密」を前提としたものが多く見受けられます。ダンボールで敷居を作ったり、寝起きするスペースをカーテンで区切ったりと、既存の運営形態を元に改善することが提案されていますが、スフィア基準(※人道憲章と人道対応に関する最低基準)と照らし合わせると十分ではありません。

2011年4月末の米崎小学校体育館避難所 Photo by Takuya Murata


インフルエンザや新型コロナウイルスの蔓延防止を考えると、複数の体調不良者を、同じ小学校の保健室に隔離するだけでは解決はできません。一言に「体調不良者」といっても、誰がインフルエンザで誰が新型コロナウイルス感染の可能性があるのか分かりません。そうなると個別隔離が必須となります。

感染を防ぐためだからと、元気な人以外を避難所から排除しようとすると、症状はあるけれど排除されたくないから我慢しよう、という人が出てくるかもしれません。結果ウイルスが広がってしまう、という悪循環にもなりかねません。体調不良者の方々にも、しかるべき居場所を作ることが不可欠です。

万が一体調不良者が出てしまった時に、そうした人たちが寝泊まりする選択肢として、「トレーラーハウス」や、熊本地震の際に注目されたテントでの避難場所などがあるだけでも大きな違いです。

また、東日本大震災後、内陸にも観光客が来なくなり、空き室の目立つ宿泊施設が多く見受けられました。そうした宿泊施設を国や自治体が借り上げるなどして、感染症対策、ストレス対策のために活用すれば、被災者もホテルも救えるのではないでしょうか。

―「三密」を懸念して、災害の際に自宅から避難しない方が出てくる可能性もあります

そもそも自分の家のある場所が安全なのか、知っている人がまだまだ少ないのではないでしょうか。ハザードマップなどを確認し、どんな危険性があるのかを知っているだけで、在宅避難にするのか、避難所に行くのか早めに判断ができるはずです。崖の下に家があるのに、「密」が恐いから避難しない、となると本末転倒です。そのためにも避難所環境の改善はやはり必要です。

また、在宅で避難する人々に迅速に物資を届け、誰がどこに避難しているのかを適切に把握・共有するための仕組みを日ごろから整えておくことも大切ではないでしょうか。

佐藤一男(さとう・かずお)
2011年3月、東日本大震災で被災。米崎小学校体育館避難所(岩手県陸前高田市)の運営役員となる。2011年5月、米崎小学校仮設住宅に入居、自治会長となる。現在、避難所運営アドバイザー(防災士)として全国で講演を行う。

高桑大介さん(日本赤十字社東京都支部事業部長)

―日本ではまだまだ、体育館などに人々が並んで寝る、過密な環境の避難所が多くあります。

多くの自治体が地域防災計画で指定している「避難所」は、風水害、地震、津波、火山噴火などの災害別に分けられていません。まず、「避難すべき状態かどうか」を判断し、命を守る行動が必要です。避難場所、避難所は公的機関が指定できる場所であり、どうしても体育館などの雑魚寝状態になります。この点については4月7日付で、内閣府から感染防止と、ホテルなど民間施設との連携についての考え方が示されました*。
*「避難所における新型コロナウイルス感染症への更なる対応について」 (2020/4/7 内閣府)

東日本大震災や熊本地震でも、インフルエンザやノロウイルス対策は医療班の悩むところでありました。各自治体によって対応の差はあると思いますが、やはりソーシャルディスタンスを基本とした運営や、収容人数の制限が必要です。また、床に直接寝ることで、粉塵が舞い上がり、「呼吸器感染症」のリスクが高くなることから、簡易ベッド(キャンバスベッドや段ボールベッド)を使用することが重要です。

―無症状の人が避難所内で他の避難者にウイルスをうつしてしまい、クラスターが発生してしまう恐れもあるのでしょうか?

今回の「新型コロナウイルス感染症」は、「キャリアが無症状」、「症状の急激な重症化」などの特色があります。クラスターの発生は常に念頭に置かなければなりません。症状のない人からの感染の可能性は十分にありますから、避難所としても三密は避けなければなりません。

―医療者の常駐が難しい避難所が多いと思いますが、どのような対策が望ましいでしょうか?

すべての避難所に常駐の医療者を置くことは難しいと思います。「拠点救護所」(例:鈴子広場[岩手県釜石市]や益城町保健センターハピネス[熊本県益城町]など)から医療班を巡回診療させることが重要です。医療班については、ウイルス感染防止に関する知識を十分に教育した上で派遣を考えることが重要です。

―感染拡大を防ぐために、受付の設置の仕方やゾーニングなど、どのようなことに気をつければいいでしょうか?

新型コロナウイルス感染症については、エアロゾル(気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子)の防止として、隔壁の設置や運営係員のPPE(マスク、フェイスシールド、手袋などの個人用防護具)の備蓄は必須です。保管管理が難しいところではありますが、アルコール手指消毒剤も備蓄すべきかと思います。

ゾーニングとしては基礎疾患を持っている方や乳児、妊産婦などは特に気を遣う必要があります。ペット対策も工夫が必要です。

―運営側だけではなく、避難所で生活する一人ひとりが気をつけるべきことは何でしょうか?

プライバシーの保護や精神的ストレスの問題は必ずありますが、避難所という新しいコミュニティーづくりを考え、避難者自らが運営に係ることが必要だと考えます。

熊本地震後、避難所となった益城町総合体育館


―そのほかに、避難所の環境はどのように改善されていくべきでしょうか?

先ほど申し上げた通り、地震や火災の延焼で住家を失った被災者に提供する「避難所」と、河川の氾濫や津波から身を守るための「避難所」では目的が異なります。前者は「一定期間生活を送る場所」であり、後者は防空壕などの一時的な「シェルター」です。

昨年の台風15号や19号でも「在宅避難」が多数見られました。医療班は地域の在宅避難者を巡回しました。新潟県中越地震からは「車中泊」をされる方が多くなりました。これらの方々には基礎疾患や熱中症、栄養不良、深部静脈血栓などの危険があることを念頭に置き、予防に関しての情報提供をすることが重要かと思います。

これだけ日本で災害が多発している状況ですから、避難所運営に必要なパーソナルテントやベッド、トイレ環境などは各自治体がさらに一定量備蓄を強化し、被災された自治体に被災地外から提供するというスキームが必要だと考えます。首都直下地震や南海トラフ地震を想定すると、指定避難所数も備蓄資機材も全く足りていません。災害が起こってからでは遅いので、日頃からの危機管理意識を社会全体で考え直す機会だと考えます。

熊本地震から半年近くが経った、2016年9月末の益城町総合体育館避難所


―岩手県陸前高田市で避難所の運営側だった佐藤一男さんからは、トレーラーハウスやテントの活用という提案がありました。

日本トイレ研究所の加藤篤さんは「トイレトレーラー」の必要性を以前から提唱されています。
被災地にはまず食料、水、医療などが必要と考えるのは当然ですが、寝るためのベッドやトイレは多数備蓄すべきです。同時に、被災地外からいち早く大量に搬送できる体制も重要です。また、住家を失った方の避難はホテルや仮設住宅(空き家活用など)も積極的に考える必要がありますね。

―日ごろからどのような知識を得て、災害時に被災者自らのどのような関りをしていくのか、という視点も欠かせないかと思います。

スフィアプロジェクト(難民や被災者に対する人道援助の最低基準を定める目的で、1997年にNGOグループと赤十字・赤新月運動によって開始された計画)も大勢の方が取り組んでいますが、当支部でもボランティア研修を実施しました。海外に目を向けると、難民キャンプでも、自主的な運営により問題解決に導いているケースもあります。行政の施策と地域コミュニティーを両立させることが、避難所運営には何より大切だと考えます。

高桑大介(たかくわ・だいすけ)
日本赤十字社東京都支部事業部長。大学卒業後、日本赤十字社に就職。血液事業、災害救護事業、病院事業、ボランティア推進、講習普及事業等、国内外での事業を経験。日本DMATインストラクター、日本災害医学会評議員。

(聞き手:安田菜津紀 / 2020年5月)


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