戦争の記憶の継承や、過ちを二度と繰り返さないためにというメッセージを、今を生きる若者はどのように受け取り、行動を起こしているのでしょうか。8月、Dialogue for People のSNSでは、「#若者から声を上げる」と題し、様々な活動に取り組む若い世代の方々の取り組みをお届けしてきました。本記事では、あらためてそうした取り組みをご紹介していきます。
「誰かがしてくれるだろうと信じないで、1人ひとりが行動を」
被爆者で反核運動家のサーロー節子さんの講演に刺激を受けて創られた、「カクワカ広島〜核政策を知りたい広島若者有権者の会〜」。主に広島に住む高校生や大学生、会社員、カフェ店員たちが主体となって活動をしています。
2017年に国連で122カ国の賛成多数により採択された「核兵器禁止条約」は、今年8月28日時点で44カ国が批准し、発効に必要な50カ国に着々と近づいています。カクワカ広島は、その後押しをする団体です。核兵器のない世界の実現を願って、被爆地・広島選出の国会議員に直接会って核兵器の廃絶、核兵器禁止条約についての考えを聞き、その進捗をウェブサイトとSNSで公開する活動を行なっています。若い人の投票行動にもつなげるためにも、議員の回答を発信しているとのことです。
戦争や平和について皆とともに考え、学ぶ場で活動する若者
沖縄で、県外の学校の修学旅行などへの平和学習プログラムの支援を通じ、参加者とともに学びを深める活動を行なうのは、スマイライフです。主体は沖縄国際大学 総合文化学部社会文化学科の学生たち。「平和学習や基地問題について考えることは決して意識が高いからではなく、日常の自然な話題なのです」。スマイライフで活動していた卒業生の声が、記事で紹介されています。
過去の戦争・紛争の記憶をどのように受け継ぎ次世代に伝えるべきかという問いは、日本以外でも重要なテーマです。アフリカ・ルワンダにある、1994年に始まった虐殺の記憶を伝える記念館Kigali Genocide Memorialでは、学生を始めとする若者が主体となり、記念館の案内や、育成の役割を担うなどしています。
▼Kigali Genocide Memorialの紹介動画
また、中東・イスラエルの退役軍人で構成される Breaking the Silenceという団体は、イスラエル軍がパレスチナを占領している事実を認め、その現状を伝えるために、彼ら自身が占領地のツアーガイドを行っています。この活動は以前佐藤慧が執筆した『【取材レポート】「壁」の中の歌声(前編)-イスラエル-』に詳しいので、あわせてご覧ください。
テクノロジーがつなぐ過去、未来
戦争の体験を次世代へと語り継ぐための画期的なアイディアも生まれています。
あらゆる資料を駆使して原爆投下前の町並みをVRで再現する広島の高校生や、人工知能(AI)の技術や関係者への聞き取りによって、戦前~戦後のモノクロ写真をカラー化する大学生の取り組みなどがその一例として挙げられるでしょう。戦争を身近に捉える最新技術を駆使したツールが増えていくことで、当時を想像するための選択肢も広がっていっています。
「わたしたちの生きたい社会をつくろう」
「きっと誰かが変えてくれる」ではなく、「わたしたちが変えていく」という意識を持つこと。過ちを二度と繰り返さないためには、自分たちの「声」を届け、「語り合う」ための土壌づくりに取り組むことも重要です。
近年、若者の間で政治をはじめさまざまな社会問題を考えるきっかけを与えてくれる存在として注目を浴びているのが「NO YOUTH NO JAPAN」。団体メンバーの8割が大学生で、多くのミレニアル・Z世代を中心に4万人以上から支持を集めています。
公職選挙法の一部改正により、選挙年齢が「満18歳以上」に引き下げられてから4年が経ちます。しかし、10代、20代の若者の投票率は他世代に比べても依然として低いままです。「NO YOUTH NO JAPAN」は、そうした現状への危機感から活動を始めた団体です。
代表である能條桃子さんは、「普段の生活から政治や社会について知って、考えて、対話して伝える機会。そして選挙の時は、自分が生きていく社会の未来を考えた上で投票に行く。そんな環境を作っていきたい」と、選挙ドットコムの記事で語っています。
「戦後75年」という言葉がこの夏、繰り返し使われてきました。戦後76年目からその先の未来に向けて、あのような惨禍が二度と繰り返されることのないよう、その記憶と経験を継承していくために、また、今なお「戦後」を迎えることができない人々のために、私たちには何ができるでしょうか。今回紹介した、若い世代による数々の取り組みを応援するとともに、私たち一人ひとりが歴史に学び、よりよい社会とはどんな社会なのかと考え、実践し、伝えていくことができましたら幸いです。
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