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2021.8.28

「戦争」を考えるためのオススメ書籍

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2021.8.28

エッセイ #戦争・紛争 #平和 #カルチャー・スポーツ #安田菜津紀 #佐藤慧

「戦争」――ひとことで言葉にしてみても、その中身は見えてきません。“戦争とは何か”と問われたら、それぞれの時代や立ち位置、考え方から、十人十色の反応が返ってくるのではないでしょうか。だからこそ、そこに絶対唯一の答えを見出そうとするのではなく、色々な人の視点・経験からヒントをもらい、自分自身でその答えを考え続けることが大切なのではないでしょうか。今回は、4つの切り口から2冊ずつ、合計8冊の書籍をご紹介します。興味を惹かれるものがありましたら、是非ページを開いてみてください。


 

●「名もなき人々」の声を聴く

『戦争は女の顔をしていない』(岩波現代文庫)
  著:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ / 訳:三浦みどり

戦争について書かれた本はたくさんありますが、その時代に生きる「名もなき人々」の言葉にフォーカスしたもの、特に女性の声に注目したものに触れる機会は少ないのではないでしょうか。筆者であるスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ氏は、本書の他にもジャーナリストとして数多くの市井の人々の証言、体験談を集めることで、「戦争の英雄神話」を打ちこわし、国が戦争を通じていかに多くの日常を破壊してしまうのかということに警鐘を鳴らし続けています。

ソ連では、第二次世界大戦で百万人をこえる女性が従軍しました。そうした女性たちは、戦後はその経験により世間から白い目で見られ、長い間口をつぐんできたと言います。本書に記されている生々しい言葉から、「戦争」という大きな出来事の細部が浮かび上がってきます。

「私たちは十八歳から二十歳で前線に出て行って、家に戻ったときは二十二歳から二十四歳。初めは喜び、そのあとは恐ろしいことになった。軍隊以外の社会で何ができるっていうの? 平和な日常への不安……同級生たちは大学を終えていた。私たちの時間はどこへ消えてしまったんだろう? 何の技術もないし、何の専門もない。知っているのは戦争だけ、できるのは戦争だけ」

「私の気持ちを分かってほしいんだよ。憎しみもなしに銃を撃つことなんかできないさ。これは戦争なんだ。狩りじゃない。政治教育の時にイリヤ・エレンブルグの「奴を殺せ!」という記事を聞かされたことを覚えている。ドイツ人というドイツ人は片端から殺せ。有名な記事で当時誰もが読んでいた。暗記したものさ。この記事には深く感動した。戦争の間中いつもバッグに入れて、これと父の戦死広報を持ち歩いてた。撃て! 撃て! 私は仇をとるんだ……」

 
『無言館への旅 戦没画学生巡礼記』(白水社)
  著:窪島誠一郎

長野県上田市にある美術館、「無言館」には、太平洋戦争などで、志半ばで戦死した画学生の遺作、遺品が展示されています。若くして命を落とした彼らの作品は、ときに未熟さの残るものもありますが、絵に対するひたむきな情熱や、時代に翻弄される苦悩が画布を通して訴えかけてくるようです。しかしそこに描かれているのは、決して暗いものばかりではありません。家族との団らん、思い出の残る場所、そして愛しい人の姿……それは戦時中であるか否かにかかわらず、ひとつの命の生きた青春の記憶でもあるのです。

本書は「無言館」の館長、窪島誠一郎氏が、全国五十数カ所に及ぶ戦没画学生のご遺族を訪ね、その故人にまつわる話を伺い、遺作や遺品を集め、「無言館」建設に至るまでの道のりを描いています。

真珠湾攻撃があった開戦の年に生まれた窪島さんは、その「旅」を通し、自らの「戦争観」とも向き合っていくこととなります。本書に記されている、決して歴史には記されない無名の画家たちの人生に触れることで、モノクロ写真で伝えられる戦争の歴史が、実は無限の色彩を持った日常の集合体でもあることに気づかされます。

戦没画学生慰霊美術館 無言館 https://mugonkan.jp/

(D4P関連記事)美術展『止まった時代の主人公たち ~1945×2021~』――戦没画学生慰霊美術館「無言館」で、今を生きる自分たちの声を紡ぐ
https://d4p.world/news/6349/

 

●国と個人の関係を考える

『国のために死ぬのはすばらしい? イスラエルからきたユダヤ人家具作家の平和論』(高文研)
  著:ダニー・ネフセタイ

「あの(ナチスの)手口を学んだらどうかね」――これは2013年当時の副総理、麻生太郎氏の発言です。「もしもこのような発言が欧米でなされたら、発言者は即辞任となる暴言であるが、日本では口が滑った程度の『失言』扱いで、当人は公職に就いたままである。もしかすると、日本はあの時代に私たちの想像以上に近づいているのではないか」。そう警鐘を鳴らすのは、本書の著者で、日本に暮らすイスラエル人家具作家のダニー・ネフセタイ氏です。ダニー氏は、自身のイスラエルでの経験から、「国のために死ぬ」ということの意味を問いかけ続けています。

イスラエルの子どもたちは、就学前から、あるふたつの物語を教え込まれるそうです。「マサダ」と「テルハイ」という土地に刻まれた歴史上の物語は、「捕虜になってはいけない、最後まで戦い続ける」「国のために死ぬのはすばらしい」という教訓を強調して伝えているといいます。

また、イスラエルのメディアは、パレスチナの罪なき子どもが何人殺されても、「人道的な戦争」なのだと報道すると、ダニー氏は指摘します。こうしたプロパガンダは、敵に向かって放たれるものではなく、自国民に対し、「自分の国の軍隊は素晴らしいのだ」と認識させるものなのです。

「そう思いこませないと、『国のために死ぬのは素晴らしい』と思う人がいなくなってしまうから」

近隣諸国へのヘイト感情や、自国を無批判に礼賛する態度は、ここ最近の日本でも見られるものではないでしょうか? その感情がどこへと続いていくのか、冷静に考える必要があるでしょう。
 

『短くて恐ろしいフィルの時代』(河出文庫)
  著:ジョージ・ソーンダーズ / 訳:岸本佐知子

これまでご紹介してきた本とはちょっと毛色が変わって、こちらは「おとぎばなし」です。とはいえ大人向けの、ユーモアたっぷりな、けれどとても恐ろしい物語です。舞台となるのは、国民が一度にひとりしか住むことのできない、とても領土の小さい「内ホーナー国」と、その周囲に広大な領土を持つ「外ホーナー国」です。「内ホーナー国」の住民は、あまりに小さいため、国に入りきれない人々は、「外ホーナー国」の「一時滞在ゾーン」に身を寄せ合って暮らしています。ところがある日突然、「内ホーナー国」の領土が縮んでしまい、「内ホーナー国」にいたエルマーの体の3/4が、「外ホーナー国」に飛び出してしまいます。ただちに「侵略行為発生」を知らせる警報がなり……。

奇妙な体を持った人々の、奇妙な国境問題は、まるで現在世界で問題となっている紛争や、安心して暮らせる場所を持たない難民の人々、虐げられているマイノリティの人々を描いているのではと思ってしまいます。

“頭がラックからはずれるたびに”熱狂的な演説をはじめ、急速に権力を拡大していく「外ホーナー人」のフィルや、命令されたことはなんでも忠実にこなす巨大な体躯を持った兄弟、都合の良い熱狂を煽るマスコミ、そして近隣諸国……。それぞれが、いったいどんな役割を持って存在しているのか、ユニークな登場人物と物語に、二度、三度と読み返したくなる作品です。個人の集合体が、狂気へと突き進んでいく物語として、「戦争」について考える際にも、様々な視点を教えてくれます。
 

●戦後世代の“責任”を考える

『ホロコーストを次世代に伝える アウシュビッツ・ミュージアムのガイドとして』(岩波ブックレット)
  著:中谷剛

アウシュビッツ博物館唯一の日本人ガイド、中谷剛さんの著書の一冊です。2017年にアウシュビッツを訪れた時、「ホロコーストはヒトラーが一人で起こしたのではなく、“ユダヤ人は出て行け”といった街角のヘイトスピーチから始まりました」と語りかけてくれたのは中谷さんでした。今の日本はヘイトスピーチとホロコーストの間の、どこに立っているか考えてほしい、と。

本の中には、虐殺を巡る歴史的経緯や、ガイドとしてどのようにホロコーストと向き合ってきたのかが綴られています。収容を生き延び、35年間アウシュビッツ博物館の館長を務めたカジミエシュ・スモレンさんが残した言葉に出会ったのも、この本の中でした。彼は今を生きる若い世代にこう、語りかけていたのだといいます。

「君たちに戦争責任はない。でもそれを繰り返さない責任はある」

(D4P関連記事)二度と、このような歴史が繰り返されないために アウシュビッツ博物館ガイド、中谷剛さんインタビュー
https://d4p.world/news/6349/

 
『ぼくが遺骨を掘る人「ガマフヤー」になったわけ。 サトウキビの島は戦場だった』(合同出版)
  著:具志堅隆松

著者の具志堅隆松さんは、「ガマフヤー」と呼ばれています。沖縄の言葉で「遺骨を掘る人」という意味です。具志堅さんはすでに40年以上も、沖縄戦で亡くなられた方々の遺骨収集ボランティアを続けていますが、いまだに沖縄本島南部では、「どこを掘っても遺骨が出てくる」といいます。

具志堅さんがはじめて遺骨収集に参加したのは、28歳のときでした。戦時中に人々が身を潜めたであろう岩陰の周りを掘り始めると、わずか5cmほど土をどけただけで、人の骨が次々と出てきたといいます。その遺骨は、「殺された」人々の遺骨でした。

戦後世代である具志堅さんは、遺骨収集に参加する子どもたちに、こう語りかけます。

「きみたちが立っているこの場所は、64年前[※本書の表記ママ―筆者注](1945年当時)、アメリカ軍と日本軍が戦争をした場所です。ここではたくさんの人が死にました。いま、みなさんの前に横たわっているのは、そのときの戦争で死んでしまった方の遺骨です。ぼくがきみたちに死んだ人の骨を見せるのは、『なんでこの人はここで死ななければいけなかったのだろう』『どうして戦争なんて起きるのだろう』ということを考えてほしいからです」

「戦後」という言葉を耳にすると、あたかも戦争は過去の出来事なのだと思ってしまいがちですが、今もこうして土の下に眠る遺骨が数えきれないほど存在するのです。今を生きる私たちにも、なぜこうしたことが起きてしまったのか、二度とこうしたことを引き起こさないためにはどうすればいいのか、考え続ける責任があるのではないでしょうか。

(D4P関連記事)遺骨の語る声なき声 ―沖縄戦戦没者遺骨と新基地建設―
https://d4p.world/news/10183/

 

●児童書から想像力を育む

『氷の海を追ってきたクロ』(学研)
  著:井上こみち / 絵:ミヤハラヨウコ

第二次世界大戦のあと、中国などの戦地から日本に帰国することができず、シベリアなど、極寒の地で強制労働に従事させられていた人々がいます。僕(佐藤慧)の祖父も、そうした「シベリア抑留者」のひとりでした。「仲間たちの墓を掘り続ける毎日だった」「寒くてひもじくて、とても辛い経験だった」――そうした話は、僕も様々な本で読みましたが、直接祖父に聞けたわけではありません。祖父はそうしたことを家族に話さないまま、亡くなってしまいました。

この本は、クロという実在した犬の物語を中心に、凍りついた大地の日々を描きます。ある日、収容者のひとりが作業現場で黒い子犬を拾います。生後2、3ヶ月の子犬は、ラーゲル(収容所)内であっという間に人気者に。けれど犬を飼っていることが見張りにばれたら、大変なことになってしまいます。ところが意外なことに、見張りは見て見ぬふりをしてくれたのです。辛い日々の様子だけではなく、仲間との野球や、現場作業で活躍するクロの姿も描かれます。そしてついにやってきた別れのときに……。

歴史の教科書にもわずか数行しか書かれていないシベリア抑留について、そこに生きる人々の表情や息遣いが伝わってくる本書で、触れてみるのはいかがでしょうか?

同著者の『犬やねこが消えた』(学研)もまた、身近な視点から戦時中を描いていてオススメです。

 
『明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち』(福音館書店)
  著:アラン・グラッツ / 訳:さくま ゆみこ

ナチスの手を逃れドイツからキューバへと渡ろうとしたヨーゼフ、自由を求めキューバからアメリカへ海を越えようとしたイザベル、内戦で国を追われシリアからドイツへと旅を続けるマフムード――それぞれの「物語」の主人公たちは、命の危険を回避するため、あるいは大切な誰かを守るため、大人にならざるをえなかった子どもたちでした。

ヨーゼフは一人、拷問の影に怯え続ける父をなだめ、疲れ切った母を励まし、幼い妹の手を引き、逃避行を続けます。まだ年端もいかないはずの妹の記憶が、その後の鍵を握ります。

ホロコーストの時代から現代まで、違う時代を生きるはずの生きている子どもたちの人生が、「明日」というキーワードで、不思議と一本の線でつながっていく物語です。ホロコーストが、現代に生きる難民の人々の問題と地続きであることが伝わってきます。
 

(2021.8.28 / 佐藤慧・安田菜津紀)

 


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2021.8.28

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