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インタビュー

2022.3.10

ウクライナ侵攻から考える、日本の難民受け入れの課題とは?

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2022.3.10

インタビュー #ウクライナ #難民 #安田菜津紀

2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始して以来、多くの日常が奪われてきた。3月8日時点で、ウクライナから国外に避難した人は200万人を超えたとされている。3月2日、岸田文雄首相はウクライナから避難する人々を日本に受け入れる考えを表明。3月8日までに8人が受け入れられたとされている。
 

ウクライナ北東部の都市、首都キーウ近郊のイルピンから逃れる人々(3月7日、クレ・カオル氏撮影)

2020年末時点で、全世界で紛争や迫害などから家を追われた人々の数は約8,240万人*1。全世界人口の約100人に1人がそれまでの生活を追われ、避難生活を送っていることになる。今回の侵攻は、さらに多くの人々を故郷から引きはがしている。

ウクライナから逃れてくる人々に対して、迅速な対応を求める声があがる一方で、日本の難民受け入れはかねてから多くの課題を抱えてきた。2020年に日本で難民認定を受けた人数は47人、その認定率は0.5%に留まっている*2

今後あるべき受け入れのあり方について、認定NPO法人 難民支援協会(JAR)代表理事の石川えりさんに伺った。
 

石川えりさん(難民支援協会提供)

「避難を余儀なくされている人たち」を守る

――ウクライナへの侵攻と人道危機が起きたこと、どのように受け止めているでしょうか?

国際法に違反して武力で他国に侵攻し、攻撃するというあってはならないことが起きてしまいました。空爆や民間人への攻撃は人命の危機や深刻な人権侵害であり、その結果多くの人々が住み慣れた土地を離れて逃れざるを得ない状況が生まれていることに憤りを感じています。
 

――ウクライナから避難する人々の受け入れに関しての、日本政府の動きをどのように受け止めていますか?

侵攻から1週間で、避難民を受け入れるという迅速な表明があったことを心強く思っています。すでに8人が入国していることも報告されており、今後日本語教育や具体的な定住支援策が政府から出されることを期待したいと思っています。
 

――まずは短期滞在での受け入れとなりましたが、今後、就労が可能になるのかなどについては、具体的な目途は示されていません。

早く逃れる手段として、まずは90日間の短期滞在ビザを出していくというのは合理的な判断だと思います。ただ、その後をすぐ示していかなければ、安心して見通しを持って暮らしていくことができません。

例え停戦合意がなされたとしても、あれだけ破壊された場所には簡単にすぐ戻れる状況ではないと思います。逃れる方々が、中長期的に自分が自立して生きていけるのか、そのためのサポートを得られるのかを考えることは当然だと思います。

例え受け入れられたとしても、言葉や文化の違いになじみ、働いて生活を成り立たせるのはとても厳しい道のりです。それを前提とした定住支援策を考えることが重要だと思います。

このような議論を分断するかのように「避難民」と「難民」は違うと強調し、ウクライナからの避難民だけを「受け入れに値する」「支援する」というような論調は違うと感じています。
 

――難民条約上の難民は「人種、宗教、国籍などを理由に迫害を受ける恐れがある」人たちであると定義されているため、日本ではあくまでも「避難民」としての受け入れが進められています。

「武力紛争および暴力の発生する状況から避難した者」も、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のガイドラインなどで難民として定義しうるとされており、現在では各国で難民として認定されています。本質は、「避難を余儀なくされている人たち」を守っていこうということだと思います。その理念に沿って、国際社会では難民条約の解釈を広げてきました。

加えてEU諸国などでは、「補完的保護」という形で、難民条約上の定義に当てはまらなかったとしても、拷問等禁止条約や自由権規約など、国際人権法上の規範に基づいた保護を行い、紛争や無差別暴力から逃れてきた人たちを受け入れ、社会統合のための支援や家族呼び寄せを認めています。そうした措置が日本では十分にできていません。
 

難民支援協会(JAR)作成

安定した在留資格の必要性

――古川法務大臣は3月8日、入管法政府案(2021年に廃案)に、迫害を受けている外国人を難民に準じて保護する「補完的保護」について定めた項目があったことを強調していましたが、これは国際基準でいう「補完的保護」とは異なると指摘されてきました。

日本では「迫害」という概念自体が非常に狭く扱われていている上に、法案にあった「補完的保護」の対象に紛争は明示されていませんでした。あの法案のままでは、今のウクライナで起きていることには対応できなかったのではないかと思います。

EUにおける補完的保護  
重大な危害を被る現実の危険からの保護。「重大な危害」とは次のものから成る。
・死刑若しくは死刑執行
・出身国における申請者への拷問若しくは非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い,又は刑罰
・国際又は国内武力紛争の状況における無差別暴力による文民の生命又は身体に対する重大かつ個別の脅威
日本における補完的保護  
2021年入管法改正案(閣法)における、補完的保護の定義(第2条3の2)には「紛争」や「無差別暴力」からの保護であることが明示されておらず、全国難民弁護団連絡会議によるシミュレーション(公開資料)では、現行制度における「人道配慮による在留許可」よりも保護対象が狭まることが懸念されている。

――ウクライナへの侵攻以前から、日本では多くの人が難民としての保護を求めてきました。

世界に避難を余儀なくされている人はウクライナ危機の前から8,200万人に上り、日本へもコロナ禍前は毎年1万人が難民申請していました。さらにこの1年間だけでミャンマーやアフガニスタンなど、避難を余儀なくされている人を「緊急避難措置」という形などで受け入れてきました。

これまでに日本に逃れてきた多様な国からの難民申請者、アフガニスタン退避者への対応についても入国後の生活や在留資格について多くの課題を抱えている状況です。ウクライナの避難民にだけ特別なことをするのではなく、紛争や迫害から日本へ逃れてきた人全員に必要なこととして、標準化されていくことを期待したいと思います。
 

――困難を抱えた人々が日本に逃れてきた後、どのような支援が必要になってくるのでしょうか?

まずは安定した在留資格が与えられること、母国への送還や収容への恐怖なく安心して暮らせる状態にすることが必要です。その上で、長期的な見通しをもって日本で安心して暮らしていけるよう、衣食住の確保や医療へのアクセスをはじめ、日本語学習・子どもの就学などの生活支援、安心して働けるための就労支援等、包括的な定住支援を行うことが必要になってきます。

国民健康保険や就労も、在留資格によってその可否が変わってきます。特に日本に家族がいない、所縁(ゆかり)のない人は、枠組みをつくるだけでなく、ケースワークが重要です。そのためのケースワーカーの存在も欠かせません。
 

――そもそもなぜ、日本の難民認定率はこんなにも低いのでしょうか?

誰が難民かという定義、審査の基準、手続きの基準が、どれをとっても非常に厳しいのが現状です。たとえば、難民の定義が国際基準と違って狭められていたり、証明を厳しく求めたり、また手続きの中で代理人が同席できないなどという課題があります。包括的な難民政策が不在で、政治的リーダーシップも非常に弱い状況です。

また、法務省の出入国管理の中に難民保護の実務が置かれてしまっているために、難民を「管理」する視点が強いことも問題です。
 

ウクライナ北東部の都市、首都キーウ近郊のイルピンから逃れる人々(3月7日、クレ・カオル氏撮影)

人の命は線引きできない

――ウクライナ国内や国境では、人種や国籍などによって救済の「優先度」に違いが生じていることが報じられています。そのような「線引き」をしないために、日本で必要なことはなんでしょうか?

人の命は線引きできません。一人ひとりの命の重さは同じです。人種や国籍などの属性によって救済の「優先度」に違いがあってはならないと思います。

では、ウクライナから離れた日本にいる私たちはどうか。ウクライナと他の国で、人権侵害により命の危険がある人を選別していることにはならないでしょうか。

そうならないためには本質を見ること、その人がなぜ逃れたのかを考えることが大切です。その国にいられない状況があり、命の危険があり、重大な人権侵害があり逃げている――これが難民の本質で、ウクライナでも、ミャンマーでも他の国籍でも変わりはありません。

メディアの発信する内容には偏りがあり、ウクライナのことは報じられても、他の国の攻撃の様子、深刻な人権侵害の様子が報道されることはとても少ないと感じます。それでも、世界の様々なところで難民が逃れざるを得ない場所、事件があるのだということを知っていくこと、知らせていくことが大切だと考えます。
 

――新型コロナウイルスの感染が広まってから2年が経ちます。この間、難民の人々の生活にはどのような影響が出ているでしょうか?

感染拡大は、難民の方の生活にも大きな影響を及ぼしました。もともと不安定な生活を送っていた方々が、一層困窮に追い込まれています。

来日後、難民申請をしながら日本語を勉強して、やっとの思いで就労していた人も、勤め先が休業となってしまったり、これまで支えてくれていた知人たちがコロナの影響で失職し、周囲に援助を求めることができなくなったなど、生活がより厳しくなったという相談が増えています。また、最低限の生活は維持できていても、紛争や軍事政権による抑圧が続く母国に残した家族を想い、不安を募らせる方からの相談も増えています。

他方、コロナ禍でも難民認定の審査は進みます。難民申請が棄却されると在留資格を失ってしまいます。公的に頼れるものもなくなり、収容のリスクがあり、危険な母国への強制送還を恐れるなど、途方に暮れてしまう方もいます。
 

――適切な保護のため、どのような法制度や仕組みが今後求められてくるでしょうか?

包括的な庇護制度が必要です。具体的には、難民や難民申請者の権利などを明確に規定すること、難民法の制定、難民を専門的に扱う部局の設立などです。難民を国籍や人種に関わらず公平に認定すること、その仕組みと生活を支えていくことが重要です。
 

――私たち一人ひとりにできることは何でしょうか?

知り、考え、知らせることだと思います。今回、心強いのは、民間からも企業や学校での受け入れが迅速に表明されており、これまでにない支援の広がりを感じています。SNSでは、「ウクライナをきっかけに、これまでも他の国や地域で同様の状況があったことをあらためて認識した」という声も高まっています。今後、日本社会が避難を余儀なくされるすべての人に対してよりよい受け入れを実現できることを望みたいと思います。

(2022.3.10/聞き手 安田菜津紀)

 

*1 数字で見る難民情勢(2020年)[国連難民高等弁務官事務所 UNHCR]
https://www.unhcr.org/jp/global_trends_2020
*2 日本の難民認定はなぜ少ないか?-制度面の課題から[認定NPO法人難民支援協会 JAR]
https://www.refugee.or.jp/refugee/japan_recog/


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