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エッセイ

2019.11.12

「写真で伝える」は仕事としてどう成り立っているのか?

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2019.11.12

エッセイ #伝える仕事 #安田菜津紀

『写真で伝える仕事 世界の子どもたちと向き合って』がお陰様で7刷目となりました。多くの方々に手に取って頂き、ありがとうございます。

この仕事を続けていると、「どうやって生計を立てているんですか?」「危険な目に遭ったことはないんですか?」と、メディアの仕事に興味がある学生さんたちや、ジャーナリストを目指す自分よりも若い世代から尋ねられることが多々あります。時折「こんなに辛い仕事をどうして選んだんですか?」という投げかけもあるほど、どの問いもジャーナリストが厳しい仕事だということを前提としているものです。そこで、『写真で伝える仕事』には書ききれなかった日ごろの課題や、逆にこの仕事を続けてきたからこそ分かち合える喜びを、ここに綴りたいと思います。

『写真で伝える仕事』の表紙であるイラクで出会った姉妹。自宅に荷物を取りに戻り、また避難先であるキャンプへと戻る途中だった。

大手メディアに就職せず、伝える仕事を独立してやっていこうとするときに、最初に突き当たるのがやはり経済的な壁でしょう。発表先としていた紙媒体は減る一方で、決して儲けたいからと就ける仕事ではないからです。それにも関わらず危険地での取材には常にリスクがつきまといます。そういった現実を考えると、先ほどの問いのようなネガティブな質問を投げかけたくなるのも無理はないかもしれません。むしろ仕事としてどう成り立っているのか、想像すらできないかもしれません。

今私はこのNPO法人Dialogue for Peopleの副代表理事、そしてフォトジャーナリストとして活動を続けています。同業の先輩たちの多くが、一度新聞社や通信社、出版社などを経てフリーランスとなっていますが、私には大手メディアに所属をした経験はありません。自分が伝えたいと思ったテーマを時間をかけて追いかけ、写真と共に伝える仕事を学生時代から続けてきました。今は東南アジアや中東、アフリカで貧困や災害、難民問題を取材しているほか、東日本大震災以降は東北の被災地での記録も続けています。

時折「どこかから依頼されて取材に行っているの?」と尋ねられることがあります。各地で活動するNGOの方々からの要請を受けて、一緒にプロジェクトの撮影をすることは確かにこれまでありました。ただ活動の軸になるのはやはり、自主的な取材です。他の媒体などの意図を受けて何かを切取るのではなく、自らの意思で現地に赴き、自分なりの視点でシャッターを切り伝えることで、日ごろは光の当たりにくい人々の存在を伝えたいと思っているからです。

昨年取材で訪れた、シリア北部の街、テルタマール

もちろん取材費は持ち出しとなります。実質的な話をすると、安全性を確保しようとすれば、切り詰めたとしても一度の取材で100万円以上かかってしまうことさえあります。もちろんこうした取材費は、新聞や雑誌への掲載などでは到底埋められません。ありがたいことに各地で講演を通して伝える機会を頂いているため、日本で地道な活動を積み、また現場に戻ります。これまでその繰り返しでした。確かに多くの学生さんたちが指摘する通り、決して経済的に裕福になれる仕事ではありません。

こうして書いてみると、まるでこの仕事が、辛いこと、悲しいことばかりに直面するものであるかのように感じてしまうかもしれません。ただ「生まれ変わってもこの仕事がしたいですか?」という質問に、私は即座に「はい」と答えたことがあります。実際には、それを上回るやりがいや喜びを感じさせてもらうことの方が多い。だからこそ、時に落ち込みながらもこの仕事を続けてこられたのだと思います。

写真は絶対に現場に行かなければ撮ることができません。言い換えれば、人に会いに行くということ自体が仕事のようなものなのです。あの2011年、東日本大震災直後に小学校で入学式を撮らせてもらった子どもたちが、2年前の春には卒業式を迎え、その成長に心震えながらシャッターを切りました。泊まらせてもらったシリア人のお家で明け方、娘さんに赤ちゃんが生まれ、「ようこそ、この世界へ」と優しい気持ちを込めて写真に残したこともあります。人との出会いは喜びに満ちていると教えてくれたのは、ほかならぬ取材でお世話になった方々でした。

シリア、アレッポから避難してきた家族に、新たな命が生まれた日

とはいえもどかしさを感じることもしばしばです。私たちが何回シャッターを切っても、被災地の瓦礫を直接減らせるわけではありません。何枚写真を撮っても、目の前の人々の傷が癒えるわけでも、病気が治るわけでもありません。取材に葛藤は常に存在します。けれども大切なのはむしろ、できないことを自覚することなのだとこの仕事を続けてきて気が付いたのです。自分にできないことが多々あるからこそ、その課題に取り組む現場のNGOや専門家の方々と共に手を携えて活動をしていこう、と。これまでも児童労働や人身売買、ジェンダーの問題など、様々な分野で直接課題解決に取り組んでいるNGOの現場を訪れ、支える人を支える、つまり現地の方々を支援するために活動している方々の声も一緒に伝える、という視点からも発信を試みてきました。こうした切り口での活動は今後も、続けていきたいと思っています。

ガーナでは、児童労働の問題に取り組む認定NPO法人ACEの皆さんの活動地を訪れました

以前イラク人の友人から、「あなたが沈黙してしまったら世界はどうなると思う?その“沈黙”が集まったものこそ、今の世界の姿だ」と投げかけられたことがあります。“沈黙”とはつまり、無関心のことです。メディアやジャーナリズム、というとどうしても、何かを批判したり、問題をあぶり出したりというイメージが強いかもしれません。ただ同時に、目指したい社会の姿はどんなものなのか、投げかけ、共に考えていくきっかけを築く仕事でもあるはずです。

ありがたいことに10月にこのDialogue for Peopleを発足してからは、多くの方々がサポーターとしてこのぎりぎりの取材活動を支えて下さっています。ご寄付を頂くようになってから、確実に現場に向かう意識が変わりました。皆さんの支えがあるからこそ、「一人で現場に赴いているのではない」という心強さがあります。「伝えたい」という思いを強くします。そして私たちが持ち帰ってきた写真や映像を通して、皆さんが現地の方々と「出会う」機会を、これからも築いていきたいと思います。

今年10月、イラク北部、クルド自治区の難民キャンプで出会ったシリアの子どもたち

(2019.11.12/写真・文 安田菜津紀)


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Dialogue for Peopleの設立にあたって、代表理事の佐藤が綴ったレポート全2作です。ぜひご覧ください。

対話による未来の創造― Dialogue for People設立にあたって(1)[2019.11.6/佐藤慧]
対話による未来の創造― Dialogue for People設立にあたって(2)[2019.11.6/佐藤慧]

 

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2019.11.12

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