1923年9月1日、関東大震災が起きてから99年の月日が経ちます。亡くなった方々の命を悼むと共に、何度でも現代への警鐘としても刻みつけなければならないことがあります。発災後に起きた、朝鮮半島や中国にルーツを持つ人々に対する殺戮です。
当時、「朝鮮人が暴動を起こしている」「井戸に毒を入れた」「放火した」などのデマが蔓延し、容赦なく暴力の矛先が向けられていきました。わざと濁音が多い言葉を相手に言わせ、それがうまく言えない人々は「朝鮮人だ」と暴行され、その中には方言を話す地方出身者や、聾者もいたとされています。
こうして命を奪われた人々の状況は、「自然災害」による死と大きく異なります。この残酷な連鎖は、警察などの公権力までもが「デマ」に流されてしまったことで引き起こされました。だからこそ現代においても公人たちが、繰り返さないための意思を示し続けることが求められているはずです。
ところが小池都知事は、「大きな災害で犠牲になられた方、それに続いて“様々な事情”で犠牲になられた方、すべての方々に対しての慰霊という気持ちに変わりはない」という曖昧なスタンスで、歴代都知事が続けてきた、虐殺された犠牲者たちへの追悼文の送付を、2017年から取りやめています。
こうした公権力側の沈黙は、市井の差別、ヘイトに「お墨付き」を与える行為にほかなりません。あの99年前の出来事は、決して「過去の遠い出来事」ではありません。
どこかで大きな災害が起きる度、SNSで「朝鮮人が井戸に毒を入れているのをみた」といった、当時のデマの文言が再び拡散され、増産されていきます。安倍元首相に対する銃撃事件後、「犯人は在日」など、根拠のない書き込みも相次ぎました。それを受け、子どもたちの登下校の見回りを強化した学校もありました。こうしたデマの拡散が、身体的な暴力につながることを恐れなければならい社会状況が根強く残っているのです。
昨年8月、在日コリアンが集住する京都・ウトロ地区などを放火した男性は、ネット上のデマを信じ犯行に及んだことを明かしています。様々なルーツの人々が集う施設に対する脅迫行為などもいまだ報告されています。
本来、公権力が率先してこうした問題に声をあげ、取り組むべきですが、その重い腰を動かすのは、市民の声です。
時折、「日本にはもう酷い差別はない」という声を耳にすることがあります。大切なのは「私の周りで差別を見たことがない」=「存在しない」と思考を止めてしまうのではなく、本当は気がついていないだけで自分の周囲や、目の前にある問題なのかもしれない、と想像し続ける姿勢であるはずです。暴力や差別の矛先を向けられた側は、そのさらなる連鎖を恐れ、時に沈黙せざるをえないからです。
「気づいた」人々がどう声を届け、どう態度を変えていくか、それこそが、99年前の凄惨な歴史の繰り返しに対する歯止めです。
(2022.8.31/写真・文 安田菜津紀)
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