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インタビュー

2020.3.8

私には、自分の身体を守る権利がある -シエラレオネ・女性器切除の問題を取材した伊藤詩織さんインタビュー

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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2020.3.8

インタビュー #子ども・教育 #女性・ジェンダー #アフリカ #安田菜津紀

西アフリカに位置し、ギニア、リベリアと国境を接しているシエラレオネ共和国。レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ブラッド・ダイヤモンド」では、この国のダイヤモンドをめぐる紛争が描かれています。一時、世界で最も寿命が短い国として報じられ、いまだ最貧国のひとつとされています。このシエラレオネ国内に根強く残る性暴力や女性器切除の問題について、現地で取材を重ねるジャーナリストの伊藤詩織さんにお話を伺いました。


安田:シエラレオネで起きている女性器切除(FGM:Female Genital Mutilation)の問題、現地で取材するきっかけは何だったのでしょうか?

伊藤:シエラレオネでは2014年からエボラ出血熱が流行して、約2年に渡って現地の学校が閉鎖されていました。その間、子どもたちが性暴力の被害を受けるケースが増えてしまったんです。その取材で初めてシエラレオネを訪れたことがきっかけでした。

安田:学校に行かないことによって、コミュニティに留まるしかなく、外の目が届きにくい中で性暴力に遭ってしまうということでしょうか?

伊藤:そうなんです。その取材を進めていくうちに、そうした少女たちも含め、シエラレオネの女性の9割が女性器切除をしている、強要されているということを知り、それから調べるようになりました。

安田:女性器切除というと、日本では馴染みのない言葉だと思います。なぜこうしたことがシエラレオネで行われてきたのか、現地の伝統や文化などと、どういった関係があるのでしょうか?

伊藤:この問題に宗教はあまり関係していないといわれています。シエラレオネで女性器切除がなくならない理由の一つに、「ボンド・ソサエティー」と呼ばれる、女性たちの「秘密結社」の存在があげられます。女性たちがこの「ボンド・ソサエティー」に入るために、女性器切除を含めた通過儀礼が行われます。それを受けることが、結婚や仕事に就くことなど、社会の中で生きていくための条件になってしまっているんです。

安田:その秘密結社に入れない女性たちは、コミュニティの中で生きていくことが難しくなってしまうのでしょうか?

伊藤:そうなんです。私が取材でずっと同行させてもらっている女の子、アジャイは、女性器切除を受けなかった1人です。ただ、9割の女性が女性器切除を受けている中で、アジャイのように受けていない女性がそのコミュニティから迫害されてしまったり、“不完全な女”と呼ばれ、社会で生きづらくなってしまったりすることもあるんです。孤立せずそのコミュニティで生き延びるために、切除を受ける女性や、娘を受けさせるというお母さんもいます。

安田:実は私が取材をしているイラク北部、クルド自治区にも、女性器切除の問題が根強く残っていることが指摘されています。シエラレオネやその周辺国に限らず、これは世界の至るところで見受けられる問題ということでしょうか?

伊藤:今世界では少なくとも2億人の女性たち、女の子たちが女性器切除を経験しているといわれています。アジアの中ではインドネシアやマレーシア、実はイギリスでも、ケースが報告されています。主に移民の方々が、イギリスに移ってもその習慣を続けていることがあるんです。イギリスでは1985年に、女性器切除を禁止する法律が作られましたが、昨年になって初めて有罪となるケースが報告されています。どうしても目に見えない、外から分かりづらい問題ということもあり、報告されることが少なく、助けを求められる場所も限られているのが現状です。

安田:例えば非常に衛生状態が劣悪な場所や、女性の身体を清潔に保てないような状況でも切除が行われてしまうことがあるのでしょうか?

伊藤:シエラレオネでは、女性器切除は「ボンド・ブッシュ」と呼ばれる、儀式を受けた女性たちだけが入れる聖なる森で行われます。そこでは村一番の権力者である「ソウェイ」と呼ばれる女性たちがカミソリで女性器を切ることが多いんです。最も多いのはクリトリスを切り落とすこと、その他にも外陰部を縫い付けることで、結婚して子どもを産みたいと思うまでは開けないようにしてしまいます。切ることでその後、大変な体の負担になるケースもありますし、後遺症が残ったり命の危険にさらされることもあります。またそれが、心の傷になるということもあります。

安田:性的な快楽を与えないためだったり、結婚するまでは貞操を保たせることだったり、女性たちの行為を制限するようなことにつながっていくわけですよね。ただ、当事者の方々が声を上げづらいからこそ、実態が把握しきれないというところもあるのではないでしょうか。

伊藤:女性器切除が行われるのが秘密の場所なので、その儀式を受けているメンバーしか立ち入れず、外部から取材やレポートは難しいんです。

安田:実態把握ができないことによって対策も立てにくいということになりますよね。例えば女性器切除を受ける当事者の女性や家族が、お金を支払わなくてはならない、ということもあるのでしょうか?

伊藤:女性器切除の儀式は、切った後に合同キャンプのようなものがあるんです。それは傷を癒すため、そして“良妻賢母”になるための教育のようなものがなされるんです。数週間、その森に閉じ込められてキャンプをして、外部には出てはいけないという状態になります。その数週間の儀式を行うために200ドルから300ドルのお金がかかるんですね。シエラレオネの半数以上の方が一日2ドル未満で毎日生活している状況を考えると、現地の方にとっては大金です。なかには娘を学校に送らずにお金を貯めて、女性器切除の儀式をさせるというケースもあります。

安田:例えば儀式に数週間かかるということは、学齢期の子どもたちはその間、学校に行けなくなりますよね。だいたい何歳くらいにこうした儀式を受けているんでしょう?

伊藤:実は今、「切らない儀式」を行おうという動きもあります。切らないけれど秘密結社に入るために儀式だけは行うんです。私も今年の1月、取材のために参加してきました。そこに来ていたのは5歳から18歳くらいの女の子でした。シエラレオネ全体でいうと、5歳から15歳くらいの女の子が受けるケースが多いとされています。

安田:資金的な負担や、身体的なリスクを冒してでも娘に受けさせるという家族がいるということは、やはり孤立するのが恐かったり、結婚できないなど将来にも影響したりするからでしょうか?

伊藤:今回儀式を取材させてもらうための条件が、私もその“切らない儀式”を受ける、ということでした。外部との接触は一切禁止だったので、携帯電話は使えず、外に出ることも許されませんでした。ただ、そこで行われているのは教育というよりも、いかにコミュニティに従える人間になるかを教え込むことのような気がしました。権力を持つおばあさんたちに様々な指示をされて、踊ったり歌ったり、自我をどんどん消されていくんです。65人ほどの女の子たちと1週間ほど共同生活をしましたが、外部から入ってきたにも関わらず、私までおばあさんたちに立ち向かえなくなるんですよね。彼女たちがごはんをくれる人たちだし、そのキャンプで生きていくためには、彼女たちに従わなくてはいけないんです。

安田:女性器切除の問題自体が、貞操を守りなさい、と女性の主体性の一部をある意味否定するようなものだと思います。それに伴う儀式も、服従のようなものを刷り込まれていくようなものであるとすれば、女性の自己決定の問題にも大きく関わってきますよね。今回の取材では、女性器切除を執行する側の女性にもインタビューをしたということでしたが、どういったお話を聞いたのでしょうか?

伊藤:女性器切除を行う組織のリーダーの一人にお話を伺ったのですが、実は彼女の行った切除で、10歳の女の子が亡くなってしまったことがあったんです。

安田:感染症だったり出血多量だったり、そういった身体的な要因があって、ということですよね。

伊藤:彼女が言っていたのは、女性器切除は何もいいことがない、ただこれは、自分たち先祖代々伝えられてきたことで、私たちが経験しなければいけない慣習なんだ、ということでした。それをすることで、女の子たちの将来や、自由の選択の幅が広がる、だから助けてるんだ、というようなお話をされていました。

安田:文化なんだから、伝統だから、仲間になりたいなら、というのはある種の同調圧力ともとらえられると思います。それに抗っていく、NOということは簡単なことではないはずです。詩織さんが取材をされたアジャイさんは、切らないという決断をされたということですが、相当な勇気が必要な選択だったのではないでしょうか?

伊藤:アジャイと出会ったのは、彼女が17歳のときでした。切らないという選択をしたために、友達の輪からはじかれていじめられたり、“不完全な女”と言われたり、大変な経験をしてきました。実は彼女のおばあさんが女性器切除の執行人で、彼女以外の家族は全員切除を受けているなど、家族の中でも様々な問題を抱えています。

今、そんなアジャイと、5歳で女性器切除を受けたファタマタとで、ラジオ番組を作ろうと計画しています。どうやったらもっと、自分には“自分の身体を守る権利がある”ということをポジティブに伝えられるか話しあっているうちに、このアイディアが浮かんだんです。シエラレオネでは識字率もがとても低く、テレビの普及も少ないので、ラジオが一番、農村部まで届く情報のツールなんですよね。ただ、公の場で語ることをタブー視されてきたトピックということもあり、実現にはまだ壁がいくつもある状態です。

(C)Shiori Ito ファタマタ(左)とアジャイ(右)

安田:ラジオ局が受け入れてくれるのか、切除を執行してきたコミュニティの女性たちが反発して、ますます孤立してしまうのではないか、と様々なリスクが考えられるのではないでしょうか。

伊藤:すでに彼女たちは、番組を制作しようという過程で脅迫を受けたりしています。もしラジオが難しければ、通話アプリのグループチャットを活用してメッセージを拡散したり、Bluetoothで音楽などを交換することが流行っているので、自分たちで番組を作ってその音声を交換する、など他にも方法があるのではということは話しています。

安田:詩織さん自身も性暴力に対して声を上げるということの難しさを、誹謗中傷や心無い言葉を受けながら感じていると思います。シオラレオネでその困難に向き合い、闘う女性たちの姿勢に、何を感じましたか?

伊藤:いろいろな放送局に行ってみてNOと言われたり、否定的な言葉をかけられたり、それは私自身が経験したことに重なって見えることがありました。自分の住んでいる国内から、なかなかこうしたテーマを報じることができない、そのもどかしさや恐怖です。ただそういった場面でこそ、外からのメディアにできることがあるというのも、私の経験を通して学んだことです。私たちが取り組んでいるドキュメンタリーを外から発表しつつ、小さくてもローカルで草の根の番組を一緒に作って、中から声をあげるお手伝いをする、それをこの2年間続けてきました。少しずつ外から報道することで、変化が生まれることもあります。例えば海外から、シエラレオネ国内の性暴力についてのレポートが出されたこともあり、大統領が昨年、性暴力をなくそうと大々的に発表をし、法律が変わったりもしました。今一緒に動いている地元の新聞記者さんも「大きな希望だね」と話していました。外の温度から変えていきながら、内側も一緒に動き続ける、声を上げ続ける、ということに取り組んでいます。

安田:内側からの声と外からの声が共鳴しあって、少しずつ変化が生まれるということですよね。法律が変わったところもあるということですが、そもそも女性器切除はシエラレオネ国内で、法的に禁止されていないのでしょうか?

伊藤:エボラ出血熱が発生してから、一応の禁止令は出ていますが、具体的な罰則があるわけではなく、なかなか取り締まられていない現状があります。他のアフリカの国々でも、法律があっても機能していない現状があるようです。もちろん法律を整えていくことも重要ですが、教育からのアプローチや情報共有が必要なのではないかと思います。

安田:教育面での変化を感じるところはありますか?

伊藤:先ほど少しお伝えした“切らない儀式”を行っている村では、お母さんたちが娘に女性器切除を受けさせないことで、娘が学校に無料で通い教育を受けられるという仕組みを取り入れています。“切らない儀式”を行っていることはいいことだと思うのですが、力の構造自体はまだ変わっていないことを私自身も儀式に参加して感じました。例えば病院に行かせてもらえなかったり、儀式から一歩も外に出てはいけなかったり、それをすることで何を守ろうとしているのか、疑問が残るところがありました。

安田:詩織さんは「COMPLETE WOMAN(コンプリート・ウーマン)」というタイトルの10分ほどの映像を制作し、ネット上で公開しています。こうした問題の取材を通し、日本の人々に伝えたいこととはどのようなものでしょうか?

伊藤:女性器切除の問題は、日本では想像さえ難しいことかもしれません。ただ、“女性だからこうでなければいけない”、だったり、女性に限らず“こうあるべき”という根本的な社会からのプレッシャーは、日本にも多く存在すると思うんです。この問題を、遠い国の、シエラレオネの話としてではなく、自分がこの国に生まれたらどうだっただろう、自分が今取り巻かれている社会ではどうなんだろう、と身近に考えていただけるきっかけになったらと思っています。

安田:シエラレオネの問題自体にも向き合いつつ、“女性らしくあるべき”、であったり、性別などによって“こうすべき”という呪縛はないだろうか、それはどんなふうに解きほぐせるだろうかと、自分自身の身に置き換えて、改めて考えてみることが大切ですね。

「JAM THE WORLD」生放送のスタジオにて

(2020.2.19/聞き手 安田菜津紀)
(インタビュー書き起こし 髙橋智恵)

※この記事はJ-WAVE「JAM THE WORLD」2020年2月19日放送「UP CLOSE」のコーナーを元にしています。

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J-WAVE「JAM THE WORLD」
月曜日~木曜日 19:00〜21:00
https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

【2020年3月10日追記】
伊藤詩織さん制作 性的同意に関するアニメーション作品「YesはYes NoはNo」

性犯罪に関する刑法が110年ぶりに大幅改定された2017年。しかし、改正後もなお、「同意のない性行為をした加害者が処罰されない」などの課題が多く残っています。今年2020年はその見直しの年。これによせて、伊藤詩織さんが「性的同意」についてのアニメーションを制作されました。”YesはYes NoはNo”。改正に向けて声をあげていくためにも、まずはぜひ本動画をご覧いただけますと幸いです。


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2020.3.8

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