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2020.4.22

住まいは権利、まず安心できる「ホーム」を

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2020.4.22

連載 #安田菜津紀


 
4月11日、東京都が出した「休業要請」を受け、営業を取りやめるネットカフェが増える中、そこで寝泊まりしている人々の居場所が失われることが懸念されてきました。緊急事態宣言が全国に拡大したことを受け、今後暮らしの場を失う方々が全国的に増えていく恐れも指摘されています。こうした事態にどのような支援が求められているのか、一般社団法人つくろい東京ファンドの代表理事、稲葉剛さんに伺いました。

つくろい東京ファンド代表理事、稲葉剛さん

昼の居場所も夜の寝場所も失われていく

安田:休業要請を受け、ネットカフェが次々と営業を取りやめています。正確な人数把握は難しいと思いますが、都内では4,000人がネットカフェで寝泊まりをしていたともいわれていますよね。これまで、どんな声が寄せられていますか?

稲葉:私たちの団体では、4月8日からメールフォームによる相談を受け付けています。

ネットカフェにいらっしゃる方はやはりワーキングプアの方が多く、建築土木現場や飲食店等で働いている方が目立ちます。そうした仕事も減ってきていて、所持金が尽きかけているところで、寝場所であるネットカフェまでなくなってしまうという状況です。なので、携帯料金が払えなくて電話が止まっている方ばかりなんですね。Free Wi-Fiがある場所に行けばメールは使えますので、メールでご相談を受けてこちらから駆けつける、というような相談活動を行っています。

これまで、所持金があと数十円しかないという方、もう既に路上生活になってしまった方からも相談が相次いでいます。東京都でも相談窓口を開いていますが、そもそもそこに行く交通費がない、ということですよね。寄せられた相談の中には、女性の方も2、3割はいらっしゃいます。

安田:例えば路上生活になってしまった場合、自粛要請を受けて飲食店が閉まっていれば、残り物で何とか生活をつなぐということもできないですし、図書館が閉まっていれば、そこで日中に身体を温めるということもできないわけですよね。

稲葉:そうですね、以前から路上生活されている方々も、昼間いられる場所を失ってしまったり、公園の一部も封鎖になっているので、前に寝ていた場所を追われてしまうということが起きています。『BIG ISSUE』という雑誌の路上販売をすることで、その売り上げの一部がホームレスの方の収入になるという仕事づくりの事業がありますが、通りを歩いている方が少なくなっているので、皆さん、販売に苦戦されていますね。

安田:こうして安定的な居場所を失うことによって、感染リスクが高まる懸念もあるのでしょうか?

稲葉:新型コロナウイルスの問題に限らず、居場所を転々とせざるをえない状況にある方は、健康を害しやすい環境にあると思います。お金がなくなってきて1日1食という方もいますし、寝る場所が安定しなければ十分に睡眠もとれません。今、石鹸で手を洗うことが推奨されていますが、路上生活になると体を常に清潔に保つことも難しくなります。新型コロナウイルスの感染拡大前から健康リスクを背負ってきた方たちの状況が、さらに悪化しているということになります。

ネットカフェの「ナイトパック」の時間を待つ男性(安田撮影)

個室を用意しながら、劣悪な相部屋に誘導されたケースも

安田:新たに居場所を失いかねない人々に対して、東京都ではどういった具体策を講じているのでしょうか?

稲葉:ネットカフェで生活する人たちの問題が注目されるようになったのが2007年、それを受けて2008年から東京都が「チャレンジネット事業」という相談窓口を設けています。そこで就労支援や住宅の支援も一部行ってきました。元々都が借り上げている部屋が100室あり、それをネットカフェで暮らしている方々の住宅支援で使ってきたのですが、今回の緊急事態宣言でネットカフェが休業になるということで、これを500室まで増やすというのが当初の計画でした。

ただ500室だと、都内4,000人の方に対して8分の1の数でしかありません。その上、宿泊支援を受けて都が借り上げている部屋に入れる条件が、都内に6ヵ月以上いる方、というよく分からないものなんです。つまり、「6ヵ月以上いる」ということを証明しなければならないわけですよね。なので「ネットカフェの領収書を持って来て下さい」と言われることもあるのですが、それも現実的ではないですよね。私たちが都の支援を紹介した方々の中でも、「6ヵ月以上」という条件が壁となって断られてしまう、ということが続出してしまいました。

そのため都側も、6ヵ月未満の方についても受け入れをすることになり、部屋数も4月10日の時点でビジネスホテルの個室を借り上げるなど、2,000室まで増やしたとしています。

4月3日、都内の複数の困窮者支援団体と共同で、住まいを失う可能性のある生活困窮者への支援強化を求め、東京都福祉保健局へ緊急要望書を提出(提供:つくろい東京ファンド)

安田:ただ次の課題は、必要な人をその支援に適切につなげられるか、ですよね。

稲葉:そこがまた、問題となりました。東京都としては、「チャレンジネット事業」が6ヵ月以上都内にいる人のみを対象である、という原則を崩したくない。なので6ヵ月未満の人は別の枠組み扱いで、土日は「チャレンジネット事業」と同じ受入場所、ところが月曜日(4月13日)になったら各区の窓口に行って下さい、と誘導されてしまったんです。こうして区の窓口に行った人が、いわゆる“水際作戦”で跳ね除けられてしまったり、区で生活保護申請した際に相部屋の施設に入れられてしまったり、ということが起きました。

安田:感染拡大が懸念されている最中に、ですか。

稲葉:そうなんです。元々、ホームレス状態にある方が生活保護を申請した際に、非常に環境の悪い、いわゆる“貧困ビジネス”といわれるような民間の施設に入れられてしまうケースがずっと社会問題としてありました。中には非常に良心的なNPO等が運営している個室の施設も一部あります。その一方で、ひどい所ですと、大きなスペースに2段ベッドがずらっと並んでいて、全くプライバシーのない10人、20人部屋に入れられてしまうこともあります。その上、月10万円を超える利用料を求められてしまうケースもあります。生活保護費のほとんどが宿泊費と食費で天引きされ、ご本人の手元にはほとんどお金が残らない、という劣悪な施設も多数存在します。

実は今年度から厚生労働省が、こうした宿泊施設に対する規制を強化したんですね。ただ、原則個室化ということについては、3年間猶予する、と施設側に譲歩してしまった形です。この4月に全て個室化されていれば、今回のような問題は起こらなかったのではないかと思います。

私たちのところにも、せっかくビジネスホテルに土日入れたのに、月曜日、区役所に行ったら相部屋施設に入れられてしまった、という声が寄せられました。周りの人がゴホゴホと咳をしていてマスクもしていない様な状況で、狭い部屋に何人も寝かされている、助けてほしいというSOSでした。再度私たちがその人と一緒に役所に行って交渉し、改めてビジネスホテルの部屋を用意してもらいました。

安田:その後東京都では、何か改善するための措置をとったのでしょうか?

稲葉:私たちをはじめ、様々な立場の方からの働きかけもあって、4月17日(金)、厚生労働省から「やむを得ない場合を除き個室の利用を促すこと」‬という内容の事務連絡が各自治体に発出しました。これによって少なくとも新規の相談者については、個室対応とするという原則が確立しました。

さらに4月22日から更に運用が改善され、「都内6ヶ月以上の人」と「6ヶ月未満の人」の窓口を分けるのではなく、「就労を継続して自立した生活を目指しており、東京都内での生活実態がある方」はチャレンジネットで受付できるようになりました。

ただ、「感染拡大している時に相部屋施設への誘導をやめる」という、議論の余地のないことを認めさせるために、こんなに声をあげなければならないのは、この国の貧困対策において、いかに人権が軽視されてきたのかということの現れではないかと思います。

安田:東京都や自治体が用意した支援の情報、こうして目まぐるしく変わっていき、情報に追いつくのが一苦労ではないかと思います。必要な人に分かりやすく届けるための周知も不十分ではないでしょうか?都のHPを見てみても、「新型コロナウイルス感染症に関する東京都の支援策(個人向け)」というページにずらっと箇条書きに並んだ項目の中から、ようやく「失業等に伴う住居喪失者への一時住宅等の提供」が見つけられるような状態です。

稲葉:ネットカフェの休業に伴う緊急的な支援をするというのは、小池知事が4月6日の記者会見で発表したことですが、都や小池知事のTwitterでは何も発信されていません。私たち民間の支援者や、自主的に協力して下さっている都議会議員の方々から都の支援情報を発信する、という本当に奇妙な状況が続いています。今回の東京都の対応を見てみると、ビジネスホテルの部屋を用意したものの、なるべくなら来てほしくない、という姿勢のようにも見えます。

安田:そういった姿勢自体が“水際作戦”のようなものですよね。

夜回りの様子(提供:つくろい東京ファンド)

家賃が払えない=即出ていかなければならない、ではない

安田:つくろい東京ファンドでは今、どんな支援を進めているのでしょうか?

稲葉:例えば2008年から2009年の「年越し派遣村」の時には、大人数が集まっての大規模な相談会を開くことができました。ただ、今回は感染症リスクを考えると、どうしても難しい、というジレンマがあります。

今はそれぞれのメンバーが自宅に待機して、相談者の方にはメールフォームでSOSを出して頂いています。メールを受けた私や他のスタッフが、その方の最寄りの駅や服装の特徴などを伺った上で待ち合わせ日時、場所を決めます。そしてその地域に待機しているスタッフに会いに行ってもらう、というアウトリーチ型、駆けつけ型の支援を行っています。「東京アンブレラ基金」の緊急宿泊費支援から、一晩6,000円、7泊まで宿泊費を支援出来る仕組みがあるので、夜間に相談を受けた場合、ビジネスホテルに泊まれるぐらいの宿泊費をお渡しした上で、公的な支援につなげていくと、いうことを続けています。

安田:現時点で困っている方だけではなく、今の状況が続くと、今後も住まいを失う方は増えてしまうのではないでしょうか?

稲葉:2008年のリーマンショックの時は、製造業工場などで働いている方々が派遣切りに遭いました。今回はもっと幅広い業種、様々な働き方をしている人たちが、家賃が払えない状態になりつつあります。3月前半の時点では、観光業や飲食店、音楽や芸術関係の方々が仕事を失って困っているというお話、フリーランスや自営業の方が苦しいというお話がありました。その後、緊急事態宣言が発令されて、ほぼ全ての業種に影響が出てきました。労働問題に取り組んでいるNPOや労働組合の元には、派遣切り、雇止め、内定取り消し、解雇などの相談が相次いでいるという状況です。

安田:ただ、家賃が払えないからといって、即、住まいを明け渡さなければならないということではないですよね?

稲葉:はい。日本では民間の賃貸住宅に暮らしている人に「居住権」があるという事自体、あまり知られてないという問題があります。例えばアパートや賃貸住宅の家賃というのは、1、2ヵ月払えないからといって、無理やり大家さんや不動産業者が追い出すことは認められていません。もしも無理やり部屋の荷物を撤去したり、知らないうちに鍵を取り換えてロックアウトしたりするようなことがあれば、それは違法行為です。こうした行為をした大家さんや不動産業者が、民事上の責任だけじゃなく、刑事上の責任を問われることもあります。いわゆる“追い出し屋問題”として、私たちも取り組んできました。

安田:そうなると、大家さんや不動産業者としても、「家賃を払って下さい」とぎりぎりの状況にある入居者さんたちを一方的に責め立てるのではなくて、「家賃に公的な支援が届くように」と政府に求める方向にベクトルを変えていった方が建設的なのではないでしょうか。

稲葉:私たちも「家賃が払えない」という相談に対応するのと同時に、「住まいの貧困に取り組むネットワーク」という団体として、大家さんや不動産業者の方々に対する緊急アピールを出しています。その中で、この緊急時ですから、家賃の取り立てや入居者の方の追い出しを止めてほしい、というお願いをしています。追い出したとしても結局、その部屋は空き家になるだけで、誰も得をしません。家賃を滞納せざるをえない人たちがきちんとした行政からの支援を受けられれば、家賃も再び払えるようになるわけなので、入居者に対しての公的な支援を大家さん側からも政府に求めてほしい、というメッセージを発信しているところです。

夜回りをする稲葉さん(提供:つくろい東京ファンド)

安田:「JAM THE WORLD」リスナーからもメッセージが届いています。「メディアで取り上げられているのはネットカフェの話題が中心ですが、飲食店のバイト代が唯一の収入源だった友人は、賃貸契約の更新が来月に迫っており、このままでは支払いができないと悩んでいます。現在、厚労省が呼びかけている制度(住宅確保給付金)が複雑で、申請から給付までの期間が長くかかりそうです。もっとスピード感のある対策が必要ではないでしょうか?」という質問です。

稲葉:2015年度にできた「生活困窮者自立支援制度」の中のひとつに「住居確保給付金」という仕組みがあります。これは元々、失業した人が再就職のための就職活動をすることを条件に、家賃を補助するという制度になっています。ただ、仕事を完全に辞めないと受けられないということで、非常に使いづらい制度だったんです。今回のように収入が減って苦しんでいる方々が使えないのはおかしい、ということで、4月20日から、この住居確保給付金が完全失業してなくても受けられるようになりました。つまり、失業と同じぐらい収入が減少している人は受けられる、という風に要件が緩和されたんです。それ自体は非常にいいことなのですが、現場の運用で相変わらず、「正社員として就職する」「そのための就職活動をする」ということが条件かのように言われてしまった人もいるようです。

安田:私の周りもフリーランスが多いのですが、「住居確保給付金」を受けたいと窓口で相談しても、「ハローワークに行って就職活動をして下さい」と、つまり組織に就職することが“ゴール”であるかのように言われてしまったというケースがやはりありました。

稲葉:数年前から国は、多様な働き方ということを打ち出して、これからは雇われるだけの働き方ではないんだ、とフリーランスや自営業、個人で起業するというような働き方を推奨してきたわけですよね。一方で、セーフティーネットは相変わらず、仕事がなかったり収入が減少したりしているなら正社員の仕事を目指しなさい、それを目指さないと家賃を補助しませんよ、となってしまっている。これは完全に矛盾した政策だと感じています。

「住居確保給付金」については、厚労省が出したQ&Aに「現在の就業を断念していただくものではない」と明記されています。フリーランスの音楽家、芸術家の方、自営業者の方も安心して活用できるはずなんです。窓口で変なことを言われたら、これを提示するのも有効かと思います。

安田:しばらく、自粛の要請は続きそうですが、今後の支援にどんなことが求められてくるでしょうか?

稲葉:「ステイ・ホーム」ということが言われていますが、大切なのはその「ホーム」を確保することですよね。一つは住まいを失わないための支援、その住まいを維持するための支援、もう一つは既に住まいを失ってしまった方々への緊急的な支援、その両方が必要だと思っています。「ハウジングファースト」、住まいは権利であり、まず安心できる「ホーム」を、ということだと思います。ウイルスから身を守ることも含め、すべての人たちが安心して滞在できる住まいの確保、維持を最優先とする政策が求められていると思います。

(聞き手:安田菜津紀/2020年4月15日)
(インタビュー書き起こし:永瀬恵民子)

▶︎つくろい東京ファンド
▶︎東京アンブレラ基金

※この記事はJ-WAVE「JAM THE WORLD」2020年4月15日放送「UP CLOSE」のコーナーを元にしています。

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2020.4.22

連載 #安田菜津紀