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2020.4.15

命を守ることに分断はない ―日本に逃れてきた難民が直面する新型コロナウイルスの危機

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

田中 えりEri Tanaka

2020.4.15

連載 #難民 #安田菜津紀

Dialogue for Peopleでは、どんな方々の生活がより、新型コロナウイルスの影響を受けているのかを、連載「誰も取り残さないために」を通して伝えていきます。第一回は、日本に逃れてきた難民の方々と、支援者の声です。


やっとの思いで開いたお店が危機に

外出自粛要請と生活の狭間で、多くの店舗が苦境に立たされている。人足が途絶えてしまっては、店の継続は難しい。東京都では4月10日、居酒屋を含む飲食店などへ、営業時間の短縮(午前5時~午後8時)を要請すると共に、全面的に協力する事業者に対して、単独店舗の事業者には50万円、2店舗以上を持つ事業者に100万円の「感染拡大防止協力金」を支給する方針を表明した。ただ、国として同様の協力金を支払う方針はなく、足並みはそろっていない。これまで、日本に逃れてきた難民の方々が経営する飲食店を取材させてもらってきたが、彼らも軒並み苦境に立たされている。

児童書『故郷の味は海をこえて「難民」として日本に生きる』の表紙にも登場頂いたタンスエさんは、民主化運動に携わったことで命を狙われ、1989年にミャンマーから日本へと逃れてきた。来日直後は頼れる人もなく、真冬に路上で夜を過ごしていたこともある。それでも、慣れない日本社会で生き抜き、2012年に妻のタンタンジャインさんと共に、ミャンマー料理店「スィゥミャンマー」を開いた。

お店でお客さんを迎えるタンスエさんとタンタンジャインさん(2018年12月撮影)

「スィゥ」は、ミャンマー語で家族や友達を意味する。新型コロナウイルスのあおりは深刻だ。「前々からテイクアウトもやっているのですが、それでも夜のお客さんは2、3人です」と肩を落とす。都の協力金も「どこまでが対象かまだ分からない」と不安を抱く。

お店の名物の一つ、「お茶の葉サラダ」。お茶の葉の漬物に和えた小エビとナッツの風味が口いっぱいに広がり、食欲をそそる。

14歳でたった一人、木造船に乗り、ベトナムから難民として逃れた南雅和さんは、「本場のベトナムの料理」にこだわったお店「イエローバンブー」を、霞ケ関駅と直結しているレストラン街に開いている。4月は本来、歓迎会などで予約がいっぱいの時期だ。周辺のオフィスは閉まっているところも多く、平時と比べ客数は8割減った。国が打ち出す中小企業への支援も、どこまでが対象になるのか確定していない。決まったとしても、実際に資金を得られるのは先になるだろう。「この状態でお客さんを待ち続けているのが、悲しくて仕方がない。全身全霊、全財産を賭けて作ったお店です。なくなったらもうやっていけなくなってしまう…」と、今の状況を「地獄です」と語った。

イエローバンブーで、ベトナムのお好み焼き「バインセオ」を作って下さった南雅和さん(2019年8月撮影)

ホームレス、無保険状態、日ごろから脆弱だったセーフティーネット

もちろん、厳しい状況にあるのは飲食店を経営する難民の方々だけではない。命の危険から日本に逃れてきている人々が、どのように感染拡大の影響を受けてしまっているのか、認定NPO法人 難民支援協会(JAR)代表理事、石川えりさんにお話を伺った。

(写真提供:難民支援協会)

―日本に逃れてきた難民の方々は今、どんな影響を受けていますか?

難民の人たちが置かれている状況は、元々脆弱です。それは彼らが弱いのではなく、弱い立場に置かれてしまっている、ということだと思います。来日後、なけなしのお金を使い果たしてホームレスになってしまった人たちでも、すぐにシェルターに助けを求められるわけではありません。こうした日本のセーフティーネットの脆さという課題がすでにあり、そこに新型コロナウイルスという新たな危機が追い打ちをかけてしまっています。

安全に暮らす場所がないという状態が、感染リスクをさらに高めてしまう恐れがあります。3月から今までに、ホームレス状態と確認された15人の方々に泊まる場所を手配しました。マスクやアルコール消毒液が手に入らず、不安を感じているという相談も寄せられており、事務所で提供しています。

現状では難民申請後、8カ月経つと就労資格を得て働くことができる方もいるのですが、アルバイトの方も多く、雇用先の受注が減って勤務時間を減らされてしまったという声がありました。就職活動中だった方が採用募集の話自体がなくなってしまったというケースもあり、生活に直結する問題がどんどん出てきています。

事務所での食事提供、食料持ち帰りセットの提供、マスク提供・検温などの各種感染対策を続けている(提供:難民支援協会)

―難民申請者の中には、入管(出入国在留管理庁)施設に収容されてしまっている方もいますが、過密な密室での感染も懸念されています。

収容施設では、ただでさえ本来置かれなければならない常勤医がずっと不在の状態で、医療体制が整っていません。複数の人が同じ部屋に入っているので、隣の人との間隔も狭く、「三密」が起きてくる危険性が高い場所です。そもそも収容は、その人の帰国を確実にするため、というのが前提です。今はほとんどの国際フライトが止まり、日本からの入国を受け入れない国も多くある中で、収容の前提であるはずの帰国自体が叶わない状況になっています。そうであるなら、収容して、できない送還を待たせ続けるよりも、彼らを一度解放し、心身の自由を確保することが重要なのではないかと思います。新たに収容していくのは絶対に避けるべきです。

東京出入国在留管理局(東京都港区)。ここにも多くの外国人が長期に渡り収容されている。

―解放後も仮放免(在留資格がないなどの事情を抱える外国人を、入管施設に収容するのではなく、その外での生活を認めたもの)の方々の状況は不安定ですね。

単に収容施設から解放するだけでは不十分です。仮放免の人たちの在留資格では、働くことも許されず、公的な生活支援にかかることも難しい、つまり一切のセーフティーネットをほぼ受けられない状態です。

無保険状態なので、体調を崩しても我慢してしまう方も多いですし、子どもを病院に連れて行っても、風邪の診療で一回数万円かかったという声もありました。「自分は医療が受けられない」と諦めてしまう方もいます。彼ら一人ひとりの命が大切にされていない状態が、新型コロナウイルスの感染拡大前からありました。

解放後の彼らの生活をどのように可能にしていくのか、単に外に出すという措置をとるのではなく、セーフティーネットを含めて考えるべきです。

的確に伝え、分断を生まない対策を

―国が打ち出した現金給付の措置について、国会議員の中には「給付は日本国籍者に限るべき」と主張する人もいます。

本当に残念だと思います。これだけの命の危機の中で、日本に暮らす全ての人が、この社会で暮らしていけるんだという安心感を持つことが必要です。そういった方向性と「日本国籍者に限るべき」という主張は真逆です。命を守ることに分断はないはずです。守らなければならない命にどこで線を引くかという議論はすべきではありません。

東日本大震災が起きたとき、多くの難民の人たちが、自ら手を挙げボランティアに関わりました。彼らは日本社会の一員としての意識を持っていますし、その社会が危機的な状況にある時は助け合うんだ、と思っているのです。私たちが線を引いて、社会の中にいないことにする、あるいは支援の枠から外してしまえば、彼らを一方的に切り離して分断してしまうことになってしまいます。

岩手県陸前高田市でのボランティア活動の様子(提供:難民支援協会)

―こうした危機を的確に伝える必要があると思います。例えば最近「難民」という言葉が、本来の意味ではないところで多用されがちです。「ランチ難民」というライトな使い方から、「ネットカフェ難民」という深刻な問題にまで、幅広く使われています。

ネットカフェで生活している方、家を失う深刻な事態に直面している方に対して、連携して対策を練っていくのは大切なことです。難民の人たちの中にもホームレスの方がいますし、生活の基盤を失いホームレスになってしまうかもしれない方もいます。細かく分断せず、「困っている」という意味で大きな傘をかけ、そうした状況を生じさせている課題は何なのかを見ていく必要があると思っています。

一方で「〇〇難民」という造語は、多少の不便さやぜいたくな悩み、自分の努力でいかようにも状況を変えられる状況を指して使われることが多いように思います。最近では、「何かを持たない人」、「できない人」という意味でも用いられています。例えば、〆のラーメンからあぶれてしまった人たちを指して、「〆ラーメン難民」という言葉が造られたりしました。難民の人たちを支援していて、彼らが何もできない、持たない人だとは思いません。「できない」という言葉のかわりとして、難民と言う言葉を使うのは、原則やめて頂きたいと思っています。

こうした造語が広まってしまうのは、どれほど難民の人たちが過酷な道のりを経てきたのか、実態への理解不足の裏返しだと思います。それが適切な表現なのか、使う前に考えて頂きたいと思います。

日本から、そして日本の中で私たちにできること

―日本では元々非常に難民認定率が低いですが、各国が国境を閉ざしている今、他国へ逃れようとしている人々の状況は益々厳しくなっているのではないでしょうか。

法務省が3月に発表した、昨年2019年の難民認定数は44人、2018年から2人増えるのみに留まっています。まだまだ少ない、これだけの人数でいいのかということは問い続けたいと思っています。

そして現在日本政府は、73の国・地域からの入国を拒否していて、そこには難民の人たちの出身国も多く含まれています。3月以降に日本に逃れてくることができた人は激減しています。ただそれは、新たな難民を生み出してしまう迫害や命の危機が起きていないということではありません。

世界各地の国境が閉ざされている中、難民の人たちが逃れられない、自分の国を出られないということも起きています。こうした状態に対しても、日本として何ができるのかを考え続けなければならないと思います。

シリア北東部の国内避難民キャンプ、仮設テントで子どもたちの授業が行われている。過密な環境での感染が懸念されている。(2019年12月撮影)

―こうした中でJARとしてはどのような対応をしてこられましたか?

活動の自粛が求められている中ですが、感染の防止策を講じながら、事務所を開けて支援体制を維持することを最優先に考えてきました。私たちが支援活動を停止したら、食料や宿泊場所など、最低限の生活を維持できなくなってしまう方もいるからです。

また、事務所に来られる方々全員に、手をしっかり洗ってもらい、マスクをお渡しして検温した上で中に入って頂くようにしています。事務所内の換気や消毒も徹底し、1時間ごとに全てのドアノブを拭いたりもしています。

面談も、難民の方だけが部屋に座り、通訳、スタッフがパソコンの画面越しに対応するなど、直接お会いできなくても支援を維持するため、できる限りの工夫をしています。

パソコンを使って遠隔で通訳に加わってもらい面談(提供:難民支援協会)

―言葉の壁から、情報が上手く受け取れていない方もいるのではないでしょうか。

難民の方々はそれぞれ自分で海外の情報を収集してはいます。ただ、日本語が第一言語でないために、日本での情報からは取り残されがちなので、メールなどを通し新型コロナウイルスの情報や対策を多言語で伝えています。

―活動そのものにはどのような影響が出ていますか?

私たちの活動はインターンやボランティアの方々に日ごろ支えて頂いています。だからこそスタッフがそれぞれの役割に集中できていました。そうした方々が今活動を停止せざるをえない状況ですが、事務所には毎日20人ほどの方々が相談にいらっしゃいます。今は広報や経理のスタッフも、皆で現場に入って支援にあたっています。

これまでは週4日事務所を開いていたのですが、感染拡大を受け、苦渋の決断で今週(※4月15日現在)からは週2日のみとしています。相談がある人に来てもらい、食事を出して休んで頂くのも私たちの支援です。それを制限しなくてはいけないのは苦しい選択ですが、最低限の生活に関する活動は可能な限り維持し、電話やメールでの相談はこれまで通り続けていく予定です。

事務所に設置された多言語の手洗い指導(提供:難民支援協会)

―以前からあった、必要な人を支え切れていない制度の課題に、新型コロナウイルスという新たな危機が重なった状態。今後、どんな支援が求められてくるでしょうか?

これからセーフティーネットを確保するための様々な政策が、政府から出てくることを期待しています。こうした公的支援の中で、難民申請者や、仮放免中で在留資格が安定しない人たちが排除されないよう、日本に滞在するすべての人にかかるセーフティーネットにして頂きたいと思っています。

私たちとしても、そうした制度の網目から難民の人たちがこぼれ落ちることがないよう、支援を継続していきます。3月にご寄付の呼びかけをした際に「難民の人たちが忘れられた存在にならないよう頑張ってほしい」という言葉や、スタッフへの励ましのメッセージも多数頂きました。こういう時だからこそ支え合いたいという声に励まされています。

寄付や募金を頂くことは、仲間になって頂いて支援の輪に加わって頂くことでもあります。そのご支援しっかり、現場に届けられるようにしていきたいと思います。

(聞き手:安田菜津紀/2020年4月10日)

▶︎ 認定NPO法人難民支援協会

 


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2020.4.15

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