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取材レポート

2019.2.28

【取材レポート】日常を破壊する戦争(シリア北部“ロジャヴァ”/2019.1)

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

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田中 えり Eri Tanaka

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安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

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佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

田中 えり Eri Tanaka

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2019.2.28

取材レポート #人権 #戦争・紛争 #シリア #佐藤慧

シリア北部、クルド人と呼ばれる人々が大多数を占める地域、“ロジャヴァ”を訪れた。訪問するのは3回目。いずれもシリアでの紛争の現状と、その渦中に生きる人々の姿をこの目で見るための渡航だった。個別の取材の詳細は別の機会に譲るが、取り急ぎ、現場で見聞きしてきたこと、感じたことなどを記しておきたい。

滞在中、シリア北西部のマンビジュで自爆テロと思われる事件が発生した。トルコ国境も近く、軍事的に重要拠点であるといわれるこの地で起きた爆発により、米軍関係者4名を含む、少なくとも16名が死亡(※1)したと伝えられている。IS(いわゆる「イスラム国」)系のメディアは、それを「イスラム国」戦闘員による自爆テロだと発表。反対にトルコのエルドアン大統領は、米軍撤退に危機を覚えるPYD(クルド民主統一党)/YPG(クルド人民防衛隊)による、「イスラム国」を装ったテロの可能性を指摘した(※2)。真相は現状では見えてこないが、昨年末、米国トランプ大統領による「米軍のシリアからの撤退」という発表は、今後も大きな波紋を呼びそうだ。

そういった情勢の中で今回滞在したのは、ロジャヴァ西部のコバニ、ラッカ、そしてカーミシュリー周辺だ。コバニは2014年9月、猛進を続けるISにより包囲され、数カ月に渡る激しい戦闘に晒された。紛争が始まるまでは、ほとんど名前の知られない田舎町であったというコバニだが、アレッポ侵攻を目論むISにとっては、重要な軍事拠点となりえる地だった。クルディスタンのペシュメルガ、米軍の空爆の後押しもあり、多数の犠牲を出しながらもコバニはISを退けることに成功した。その激しい戦闘から4年経ち、復興へ向けての活気が町中に満ちていた。

コバニ内でも激しい爆撃に晒された地区は、戦争の歴史を継承するための「ミュージアム」として保存される意向だという。

コバニの「シャンゼリゼ」と冠される商店街。戦闘により壊滅的な被害を受けたが、徐々にそこには賑わいが戻っている。

ラッカはISの「首都」として、長らくその圧制に支配されていた街だ。2017年にSDF(シリア民主軍)により奪還され、今やっと、少しずつ復興への道を歩み始めている。街中には骨組みだけとなった廃墟が連なるが、早くも活況に満ちているパン屋など、前向きなエネルギーも感じることができた。しかしIS支配下に暮らしていた当時の記憶は暗く影を落としており、市民の処刑に使われていた広場の前に住んでいた男性は、「朝起きて扉を開けるたびに生首が並んでいた光景が忘れられない」と言う。周辺にはISの残した弾薬、爆弾も残っており、数日前にもIS信奉者によると見られる自爆テロが起こったばかりだった。それでも、厳しい生活から解き放たれた人々には自由を喜ぶ笑顔が見られた。カルチャーセンターを訪れると、音楽を楽しむ人々や、演劇の練習に汗を流す若者たちの姿があった。「IS支配下当時は音楽も禁じられていましたから」と言う男性は、伝統楽器のサズを幸せそうに奏でていた。

街のどこを歩いても激しい空爆の跡が残る。有志連合による空爆で命を落とした市民も多い。

IS統治時代は禁じられていた音楽を楽しむ人々。芸術は心の滋養だと感じる。

カーミシュリー周辺では、元IS兵の囚人や、YPJ(クルド女性防衛部隊)の取材を行った。UKからISに加わるためにやってきた若者は、その動機を「シリアでアサド政権の圧制に苦しんでいる人々を放っておけなかった」からだという。同じくチュニジアからやってきた男性も、「シリアの人々のために戦うにはISしかなかった」と口にした。どちらも、今となってはISに参加したことを後悔している。外からは理想的な組織に見えたが、内部で働くうちに多くのほころびが見えてきたという。アメリカのトランプ大統領は「ISを撃破した」と勝利を宣言したが、ISに加わった若者たちの証言を聴いていると、その根は単にISという組織を物理的に壊滅するだけでは絶たれないように思えてくる。元IS兵の囚人たちは、地元の裁判所で裁くこともできず、出身国へ受け入れを打診している状況らしいが、そのプロセスは中々進みそうもない。

YPJには、クルド人だけではなく、アラブ人の女性も兵士として参加していた。まだ幼さの残る顔だが、銃を構えるその眼には厳しい決意が見てとれる。20歳になったばかりのアラブ人女性は「家族を守るために戦う。目標は戦争が終わり平和になること」だと言う。保守的な家庭に育った彼女は、両親の反対を押し切りYPJに参加した。銃を構える姿はまだぎこちないが、すでにRPG(歩兵携行用対戦車擲弾)を扱う訓練も受けている。ロジャヴァではその思想的指導者、アブドゥッラー・オジャラン(※3)の理念を受け継ぎ、男女平等を社会の礎に置いている。訓練兵を教育するYPJの指導官は、「女だって男と同じだけのことをなんでもできる。それを証明するのが私たちの仕事。これはロジャヴァのためだけの戦いではなく、女性全体のための戦いなのです」と話す。男女の平等は世界的にも大きな課題のひとつだが、できることなら彼女らが戦場に立つことのない未来が訪れることを願う。

様々な姿勢での射撃を教わる女性たち。武器は古びたAKが多い。

銃を置けば普通の若者と変わらない。珍しい来客に笑顔で応えてくれた。

ロジャヴァで見たのは何も戦争に関わることだけではなかった。アラブ人、クルド人の境もなく一緒に学業に励む大学生。セルフィーを撮ろうと声をかけてくる人々。厳しい環境でも必ずお茶を進めてくれる難民キャンプの人々。宿を提供してくれた友人家族。一緒に仕事をした仲間たちと飲むアラック(※4)。端的な記事の行間からは零れ落ちてしまう、多くの人々の日常がそこにはあった。この日常が、なんとかけがえのないことか。戦争というものが、いかにあらゆるものを破壊してしまうものか。様々なことを考えさせられた滞在となった。追ってまた、個別の記事を発表していけたらと思っています。

果物を売る少年。人々はオープンで気軽に声をかけてくる。

(※1)調査過程での発表のため、発表機関による犠牲者数の違いがある。
(※2)トルコ政府はロジャヴァを統治するPYDをPKK(クルディスタン労働者党)系列のテロ組織だと認識している。
(※3)PKK(クルディスタン労働者党)の元党首。現在は終身刑を言い渡されイムラル島の刑務所で服役中。2019年1月12日、2年ぶりに家族との面会が許され、その健在が確認された。
(※4)中近東、北アフリカなどで古くから作られている蒸留酒。

(2019.1.22/写真・文 佐藤慧)

 


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取材レポート #人権 #戦争・紛争 #シリア #佐藤慧