For a better world, beyond any borders.境界線を越えた、平和な世界を目指して

Top>News>【インタビュー】命の水を守るために ウォーターエイドジャパン事務局長 高橋郁さん インタビュー

News

Interview

2020.7.21

【インタビュー】命の水を守るために ウォーターエイドジャパン事務局長 高橋郁さん インタビュー

安田 菜津紀 Natsuki Yasuda

安田 菜津紀Natsuki Yasuda

佐藤 慧 Kei Sato

佐藤 慧Kei Sato

2020.7.21

Interview #Sato

蛇口をひねるといつでも清潔な水が流れる。あまりにもあたりまえの光景に、それがいかに凄いことか忘れそうになる。毎日トイレの水を流し、風呂に入り、シャワーを浴びる。味噌汁をつくるために湯を沸かし、喉が渇けば水道水をそのまま口にできる。今の日本の生活では、災害などで断水したりしない限り、「水が貴重なもの」だという事実は中々意識に上らないのではないだろうか。

この惑星のいたるところで無数の生命を育んでいる水。

今から約10年前、アフリカ大陸南部のザンビア共和国というところで生活をしていた。首都のルサカはそれなりの都会ではあるが、よほど良い住宅地やホテルに泊まらない限りは、停電・断水は当たり前だった。首都でその状況なので、田舎に行くと水へのアクセスはより脆弱なものとなる。首都から700キロほど離れた農村で暮らしていたとき、「水」は当然のごとく「限られた資源」だった。集落ごとにある公共の水道は、毎朝1~2時間ほどしか通水しないため、近所の人々が大きなタンクを持って列をつくる。水道から水が出ない日もある。そんなときは、少し離れた井戸まで行き、手押しポンプで水を汲む。水不足の季節には、井戸ですら水が枯渇し、利用を禁じられることがある。幸い、僕の住んでいた地域には大きな湖があったため、その水を利用することができた。

しかし井戸水、湖の水などはもちろんのこと、水道水もそのまま飲料水としては利用できない。地元のマーケットには、「クロリン」と呼ばれる青いボトルの塩素が売られていて、それを水に混ぜることで消毒する。「クロリン」が手に入らない場合はどうするか。透明のペットボトルやガラスのボトルに水を入れて、晴れた日に日光に晒すのだ。約6時間陽光に晒せば、ほとんどのバクテリアが死滅する。しかしこれはあくまで非常手段であり、すべての水がそれで飲用可能な清潔な水になるとは限らない。
 

▶ 水の太陽光殺菌(SODIS -Solar water disinfection-)
容器や天候による日照時間など、注意点なども含めた方法詳細は下記をご参照下さい。
SODIS(Safe drinking water for all) manual – updated version (英語)

 

ザンビアの村の近所の人々。早朝、水を入れる容器を持って水道に集まる。

世界には現在、7億8千5百万の、清潔な水を使うことができない人がいるという。「BLACK LIVES MATTER」に見られるように、世界的に「人権」というものに対する議論が過熱している今、改めて「水へのアクセス」という権利について考えてみたい。「すべての人々が清潔な水と衛生を利用できる世界」をビジョンに掲げて活動する水・衛生専門の国際NGO「ウォーターエイドジャパン」事務局長の高橋郁さんにお話を伺った。
 
 

他の課題解決のためにも大切な問題

―現在の世界の水事情についてお聞かせください。

世界には今も7億8千5百万人もの、清潔な水を使うことのできない人たちがいます。これは世界人口のだいたい10人に1人にあたります。年々その数は減ってきてはいるのですが、このままのペースでいくと、「2030年までに全ての人が清潔な水を」というSDGsの目標は達成できないと見込まれています。

▶ SDGs
Sustainable Development Goalsの略。2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)に続き、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。清潔な水へのアクセスに関するものは、6番の「安全な水とトイレを世界中に」にあたる。

参考:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ

 
清潔な水へのアクセスが限られている背景には、様々な事情があります。地球規模の気候変動により、そもそも使用可能な水の量が少ないという地域もあれば、都市部から離れた農村のためインフラが整っていない、紛争地帯・危険地域のために水へアクセスできない、カーストの慣習や民族に対する差別、障がいがあるため給水設備を利用できないなど、それぞれ違った理由で、水へのアクセスから取り残されているのです。それぞれの人々が抱える「困難」を解決するためのアプローチが求められています。

また、水へのアクセスという問題を解決することが、他の問題の解決に繋がることもあります。例えば農村部では、水汲みは女性の仕事とされている地域が多くありますが、そうした女性たちが水汲みから解放されることで、他の可能性が拡がります。ウォーターエイドでは、そうした女性たちが水道管の配管工事の技術を身に付けたり、石鹸づくりの仕事を立ち上げたりする機会を提供したりすることで、女性の社会進出を支援してきました。こうして女性が自信をつけて社会に出ていくことで、コミュニティにも変化が生まれます。男性が家庭や地域のことを考えていないというわけではないのですが、女性が収入を得ることで、家庭の健康や栄養、教育といった環境の改善に繋がるということを実感しています。そういう意味でも、水の問題というのは、他の課題解決のためにも大切な問題だということが言えるでしょう。
 

南アフリカのアパルトヘイトの問題を知り、人間の命にかかわる分野で働きたいという思いを強くしたという高橋さん。インドにて。(写真:ウォーターエイドジャパン提供)

―清潔な水へのアクセスに関するデータを国別にみると、サハラ砂漠以南のアフリカの国々が深刻な状況に置かれているように思えますが、どのような状況なのでしょうか?
 

▶ 世界地図で見る清潔な水へのアクセス(WHO・UNICEF)
WHO/UNICEF Joint Monitoring Programme for Water Supply, Sanitation and Hygiene (JMP)

 
地域ごとに状況が違うので一概には言えませんが、数字で言うと少しずつ改善されてきてはいます。しかし都市部と比べると、農村部はまだまだインフラが脆弱な地域が多いのが現状です。都市部に関しても、近年の人口増加、都市部への人口流入などにより水の需要が増え、水道設備が追い付いていません。

また、都市部に出てくる人は貧困層の方々が多く、まともな水道設備のある住居に住めず、川辺や湿地帯など、それまで人が住んでいなかった地域で生活することが多くあります。しかしそうした場所は災害に弱く、たとえば激しい雨が降り水嵩が増すと浸水し、生ごみや排泄物が漂ってきたりと、あっという間に病気が拡がってしまいます。マラウイなどでは定期的にコレラが蔓延することが問題となっていますが、その背景にはこのような劣悪な衛生環境があります。

また、モザンビークの首都マプト近郊の町では、人口増加もさることながら、海水が地下水に流入することにより、使用可能な真水が減少しているということも問題となっています。
 

コンゴ民主共和国、川の下流に位置する村。大量のゴミや汚物も流れてくる。


 

「清潔な水へのアクセス」は「人権」

―利用できる水資源の減少や気候変動による影響も大きな問題ですが、水へのアクセスが「人権」であるということも世界的にも議論が続いていますね。

「水資源」そのものが足りていないという問題も深刻ですが、たとえば先進国では、多少雨が降らなくても、きちんと水を供給できる仕組みが整っています。そのような「水を供給する仕組みが欠けていることでアクセスが限られている」という社会システムの問題にも、きちんと目を向けていく必要があります。

他にも、水道料金の設定によっては、貧困層の人々の水へのアクセスが限られてしまうという事態も起こりえます。実際、途上国の都市のスラムで生活する人のなかには、水道にアクセスできず、水売り人から水を買うしかなく、日々の収入の半分近くを水の購入に費やしている、というケースもあります。本来「清潔な水へのアクセス」は「人権」ですので、例えば水道料金の値上げ等によって、貧困層が水にアクセスすることが困難になるのであれば、きちんと声を上げていく必要があるでしょう。

「誰もが水がなければ生きられない」ということに異論のある人はいないと思いますが、誰もが「安全な水のアクセスは重要」ということを知っているからこそ、なかなか注目されにくいことがあると感じています。ただ、今現在世界で猛威を振るっている新型コロナウイルスの感染拡大は、公衆衛生に対する意識を大きく変えたのではないかと思います。水や公衆衛生の問題がこれほど世界的に注目されることはこれまでありませんでした。私たちウォーターエイドとしても、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためにも、その重要性を伝えていきたいと思います。
 
 
―日本にいる私たちには何ができるのでしょうか?

よく、「ここで節水してもアフリカの水は増えないよね?」と聞かれることがありますが、水というものは世界で循環しているのだという視点を持つことも必要だと思います。地球は「水の惑星」とも呼ばれていますが、実際に人間が使用できる水は地球全体の水の0.01%に過ぎません。河川を流れる水が海へと到達し、それが蒸発し雲となって世界をめぐっていることを考えると、私たちの身近にある水も決して世界の水問題と無関係ではありません。こうした意識を持つことがまずは必要なのではないでしょうか。
 

▶ 限られた水をめぐる争い
国際河川をめぐる国家間の摩擦は世界各地で起きている。上流にダムをつくることで、下流の国はその水資源の利用を制限されてしまう。たとえば中東地域では、シリア・レバノン・ヨルダン・イスラエル・パレスチナを流れる国際河川ヨルダン川をめぐって紛争が起きている。なかでもパレスチナのヨルダン川西岸地区は、イスラエルの国際法違反にあたる侵略、占領により、現在進行形で水資源が奪われ続けている。

日照りが続き、魚の養殖を行っていた池が干上がってしまったザンビアの村。ここ数年水不足が深刻だという。

(インタビュー・文章・写真 佐藤慧/2020年6月)

▶︎ 参考リンク
高橋郁さんが事務局長を務める「ウォーターエイドジャパン」のウェブサイトはこちら


あわせて読みたい
【取材レポート】「私たちはここにいる!」―PALESTINIAN LIVES MATTER―(パレスチナ) [2020.7.16/佐藤慧]

【取材レポート】どこかもっと、温かな場所へ ―ストリートチルドレンたちの明日(ザンビア [2020.6.1/佐藤慧]

支援を必要とする人がいる限り、僕らは現場を離れない  ―ウガンダで直面する紛争や格差、そして新型コロナウイルス感染拡大 [2020.5.18/安田菜津紀]

世界各地での取材活動は皆様のご寄付によって成り立っております。世界の「無関心」を「関心」に変える、伝える活動へのご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。

2020.7.21

Interview #Sato